第73話 リハビリ
ケガが治るまで、アオキ先生の集落でお世話になることになった。
動けないから、集落のみんなに介護してもらっている。
いつもは看病する側だったから、不思議な感じ。
サビネコのサビーとクラシックタビー(アメリカンショートヘアなどに見られる、うず巻き模様)のタビーは、狩りが得意な猫らしい。
ふたりで狩りへ行き、ぼくに美味しいお肉を食べさせてくれる。
「遠慮しないで、いっぱい食べてにゃあ」
「シロちゃん、早く元気になってニャウ」
サビーとタビーは兄弟で、いつもふたりで狩りへ行くらしい。
傷付き倒れていたぼくを見つけてくれたのも、サビーとタビーだった。
ハチミケもぼくのケガが治るようにと、せっせと薬草集めしている。
アオキ先生も毎日、ぼくの為にお茶を作って飲ませてくれる。
ずっと寝ていることしか出来なくて、申し訳ない気持ちになる。
ケガが治ったら恩返しがしたいけど、この集落でぼくが出来ることは何もないんだよね。
ぼくよりもずっと、腕の良いお医者さんのアオキ先生がいるから。
「ありがとう」と、言うことしか出来ない。
集落の猫たちはみんな優しくて、「気にしないでニャー」と言ってくれる。
ぼくが今まで助けた集落の猫たちも、こんな気持ちだったのかなぁ?
ฅ^•ω•^ฅ
2週間ほどすれば痛みが軽くなってきたので、歩く練習を始めた。
ずっと歩いていなかったので、体力も筋力も落ちてしまった。
地面に立つと、生まれたての仔猫のように足がプルプルしてしまう。
元通り歩けるようにならないと、イチモツの集落へ帰れない。
これから頑張って、リハビリをしないとね。
ケガが治ってリハビリをして、体力も筋力も戻ったとして。
ぼくひとりで、イチモツの集落まで帰れるかな?
ここからイチモツの集落まで、どのくらい離れているんだろう?
教えて、『走査』
『直線距離で、東方向へ32km』
うわぁ、マジか……。
遠すぎて、眩暈がした。
ひとりで帰るには、あまりにも遠すぎる。
そんな距離、どうやって帰ればいいんだ。
サビ―とタビーにお願いすれば、近くの集落まで送ってもらうくらいは出来るかもしれない。
次の集落でも、同じように猫に頼んで近くの集落まで送ってもらう。
集落から集落へ送ってもらいながらだったら、帰れるかもしれない。
上手くいけば、の話だけど。
リハビリをするぼくを、集落の猫たちがあたたかい目で見守ってくれている。
だけど途中で力尽きて、こてんと倒れた。
ちょっと歩いただけなのに、めちゃくちゃ疲れてしまった。
心臓がバクバクして、ゼーハーと荒い息を繰り返す。
手足の関節が、軋むように痛む。
骨にヒビが入った場所が、ズキズキ痛い。
2週間動かなかっただけで、こんなに体力が落ちてしまうものなのか。
いや、2週間も動かなかったからか。
なんだか、物凄く情けない気持ちになる。
ただでさえ弱い仔猫なのに、歩くことも出来ないなんて……。
地面に爪を立てて起き上がろうとするけど、体が動いてくれない。
悔しくて、目に涙が滲む。
地面に這いつくばっていると、誰かにヒョイと持ち上げられた。
「ミャ?」
「シロちゃん、大丈夫ナォン? まだ、無理しちゃダメナォン」
ぼくを抱き起こしてくれたのは、ハチミケだった。
よしよしと、頭を撫でられる。
「お茶を飲んだら、お母さんと一緒に寝ましょうナォン」
抱っこされて、アオキ先生のところへ運ばれた。
ハチミケが、お茶を作っているアオキ先生に声を掛ける。
「アオキ、シロちゃんにお茶を作ってあげてナォン」
「頑張り屋さんなのは偉いけど、やりすぎはダメにゃお。ほら、これを飲みなさいにゃお」
アオキ先生はそう言って、お茶が入った葉っぱのお皿を差し出してくる。
ぼくはしょんぼりしながらも、ムラサキツメクサのお茶を飲んだ。
アオキ先生はぼくの頭をポンポンと軽く叩いて、言い聞かせてくる。
「早く、お父さんとお母さんを探しに行きたい気持ちは、分かるにゃお。でも、無理して動いたら、ケガの治りが遅くなるにゃお。練習はおしまいにして、ゆっくり寝なさいにゃお」
無理しちゃいけないことは、分かっている。
だけど、気持ちばかりが焦ってしまう。
お茶を飲み終わると、ハチミケに巣穴へ運ばれた。
ハチミケは、ぼくを抱きかかえたまま丸くなって目を閉じる。
「おやすみなさいナォン」
「おやすみなさいミャ……」
ハチミケのあったかい猫毛に包まれると、気持ちが良くて眠くなる。
目を閉じると、今までのことを思い出して悲しくなった。
この集落に来て、もう2週間以上も経ってしまった。
骨が完全にくっつくまで、約1ヶ月って言っていたよね。
グレイさんは、元気かな?
ぼくが病気で死んだ時、グレイさんは悲しんで泣いてくれた。
Argentavis(巨大な鷹)に攫われた時も、ビックリさせちゃっただろうし泣いたに違いない。
ぼく、グレイさんを泣かせてばっかりだ。
グレイさんに、「ぼくは生きているよ」って伝えられたらいいのに。
ฅ^•ω•^ฅ
この集落に来てから約1ヶ月後には、やっと普通に歩けるようになった。
骨が繋がっても、筋力や体力がなくちゃ歩けない。
少しずつ距離を伸ばしながら、毎日欠かさず歩く練習を続けた。
今まで当たり前に歩いていたけど、歩くってこんなに難しかったのか。
だけど、ちょっと気を抜くと転びそうになる。
走れないと狩りも出来ないし、天敵に狙われたら逃げられない。
元通り動けるようになるには、もう少しかかるかもしれない。
お父さんとお母さんとグレイさんに、早く会いに行きたい。
『走査』すれば、3匹がどこにいるかはすぐ分かる。
今まで通り動けなければ、会いに行けない。
場所が分かっても、そこまで行けなきゃ意味がない。
ひとりじゃ、どこへも行けない。
動けないことが歯痒くて、近くの木でバリバリと爪研ぎをする。
猫は本能的に、「爪を研ぎたいっ!」という欲求があるんだよ。
猫が爪を研ぐ理由は、いろいろある。
①マーキング。
「ここが自分の縄張りだ」と、主張する為、特定の場所で爪研ぎをする。
②爪のお手入れ。
猫の爪は玉ねぎみたいに何重も層になっていて、外側にいくほど古くなる。
この古くなった爪を剥がして、鋭い爪を保つ。
③気分転換
気持ちを落ち着かせたりストレス発散が目的で、爪研ぎをすることもある。
猫にとって、爪研ぎはとても大切なことなんだ。
だから猫が壁や柱で爪研ぎをしても、怒らないでね。
バリバリしたらちょっとスッキリしたし、爪も綺麗になった。
爪が綺麗になると、なんか嬉しい。
爪研ぎをしていると、サビーとタビーが声を掛けてくる。
「そんなにバリバリして、どうしたにゃあ?」
「何か嫌なことでもあったニャウ?」
「思うように体が動かないから、悔しくてミャ……」
「シロちゃんは、まだまだちっちゃいからにゃあ。いっぱい食べて、大きくならないとにゃあ」
「シロちゃんがもっと大きくなったら、お兄ちゃんたちが、狩りに連れて行ってあげるニャウ」
サビ―とタビーはぼくの頭を撫でて、慰めてくれた。
気持ちは嬉しいけど、ぼくはもうこれ以上大きくならないんだよね。
それに、ぼくの方が年上なんだけどな。
年下の猫に仔猫扱いされて、ちょっと悔しくてまたバリバリした。
ฅ^•ω•^ฅ
アオキ先生の集落に来てから、約1ヶ月半後。
いっぱい頑張ったおかげで、ようやく元通り動けるようになった。
これでやっと、お父さんとお母さんとグレイさんを探しに行けるっ!
そうと決まれば、みんなにお別れの挨拶をしよう。
その前にサビーとタビーに、次の集落まで送ってもらえるようにお願いをしないとね。
集落を見回すと、ふたりは仲良くお互いを毛づくろいしていた。
ふたりに近付いて、声を掛ける。
「すみません、サビーさん、タビーさん、お願いがあるんですミャ」
「お願いって、なんにゃお?」
「お兄ちゃんたちに出来ることなら、なんでも任せるニャウ」
ふたりは、得意げな顔でニッコリと笑った。
「ここから一番近い集落まで、連れて行ってもらえませんミャ?」
「一番近い集落にゃお?」
「そんなところへ行って、どうするニャウ?」
ふたり揃って、不思議そうな顔で首を傾げた。
「ぼくのお父さんとお母さんを、探しに行きたいんですミャ」
「シロちゃんのお父さんとお母さんは、アオキ先生とハチミケさんにゃお?」
「それは、この集落にいる間だけですミャ。本当のお父さんとお母さんと、友達に会いに行きたいんですミャ。集落から集落へと旅しながら、探すつもりですミャ」
「送り届けるくらいは、出来るけどにゃお……」
「シロちゃんをひとりで旅させるのは、心配ニャウ……」
サビーとタビーは、困り果てた様子で顔を見合わせた。
ふたりは少し話し合った後、「アオキ先生の許可から出たら」と言った。
アオキ先生やお世話になった猫たちに、挨拶回りをするつもりだったんだ。
さっそく、アオキ先生の元へ向かった。




