第71話 オッドアイのシロネコ
体のあちこちが痛くて、その痛みで目が覚めた。
ずいぶん長い時間、眠っていたような気がする。
なんだか体が重くて、目を開ける気力すら起きない。
寝ぼけているのか、頭がぼんやりとしている。
何かを考えることも、面倒臭い。
猫団子をしているみたいに猫毛がふわふわと柔らかく、とてもあったかい。
猫毛に顔を埋めて吸うと、焼き立てパンみたいな匂いがした。
猫はどこを嗅いでも、良い匂いがするよね。
猫のおでこは、メイプルシロップやバターみたいな匂い。
おなかは、お日様の匂い。
肉球は、ポップコーンや焼き菓子みたいな香ばしい匂い。
良く日向ぼっこをするから、お日様の匂いは分かるんだけど。
なんで猫は、美味しそうな匂いがするんだろう?
猫は、不思議だ。
うつらうつらしていても、耳だけは聞こえていた。
「ニャーニャー」と猫の鳴き声が聞こえるだけで、喋っている内容までは分からない。
やっぱり、猫の鳴き声は可愛いなぁ。
そんなことを考えているうちに、また眠ってしまった。
ฅ^•ω•^ฅ
再び目覚めると、体の痛みがかなり軽くなっていた。
猫は、自然治癒力が高い。
たっぷり寝たから、回復したんだ。
やっぱり、ケガや病気の時は安静第一だね。
だけど、いったいどれだけ長い時間寝ていたのかな?
ゆっくりと目を開けると、すぐそばにハチワレミケネコがいた。
「ニャニャ? やっと起きたナォン」
「……ッ」
何か喋ろうと口を開けたけど、声が出なかった。
口の中がカラカラで、舌も乾いて痛い。
ずっと寝ていたから、喉が渇いていた。
とにかく、水が飲みたい。
でも、同じ過ちは繰り返さないぞ。
どんなに喉が渇いていても、汚い水は飲んじゃダメ。
ウィルスに汚染された水を飲んで、1回死んでいるからね。
「川の水が飲みたいから、川へ連れて行って欲しい」と、言いたかった。
喋ろうとしたら、口と喉が痛くて激しく咳き込んでしまった。
「大丈夫にゃお? 川から綺麗なお水を汲んできたから、飲みなさいにゃお」
優しい言葉を掛けられて、葉っぱのお皿を差し出された。
お皿には綺麗な水が入っていたから、喜んで飲んだ。
水ってこんなに美味しかったっけって、思うくらい美味しかった。
お皿に顔を突っ込む勢いで水を飲むぼくを見て、誰かが笑う。
「にゃはははっ、足りなかったらまた汲んでくるから、落ち着いて飲みなさいにゃお」
「誰?」と思って顔を上げると、水色と黄色の目を持つシロネコがぼくを見下ろしていた。
わぁ……っ、青目と黄目のシロネコだっ!
この世界で、初めて見た。
人間の頃でも、画像や動画でしか見たことがない。
オッドアイって、めちゃくちゃ珍しいんだよね。
じっと見つめていると、オッドアイのシロネコは困った顔で笑う。
「そんなに、この目が気になるにゃお? ボクは生まれつき、目の色が違うにゃお。気持ち悪いにゃお?」
「いえ、とっても綺麗な目で見惚れてしまいましたミャ」
「そんなことを言われたのは初めてで、照れるにゃお。ボクの名前は、青黄。この集落の医者にゃお」
「あなたが、この集落のお医者さんですミャ? ぼくを助けてくれたのも、アオキ先生ですミャ?」
「そうにゃお。それで、君の名前は?」
「ぼくの名前は、シロですミャ。アオキ先生、助けてくれて、ありがとうございますミャ。腕の良いお医者さんというのは、アオキ先生だったのですミャ?」
「シロちゃんは、親猫と生き別れたと聞いているにゃお……」
アオキ先生は悲しそうな目でぼくを見つめると、そっと抱き寄せてくれた。
ぼくの頭を、優しく撫でながら続ける。
「でも、大丈夫にゃお。今日からボクが、シロちゃんのお父さんになるにゃお」
「ミャッ?」
どうしてそうなったっ?
アオキ先生の話によると「大きな鳥に襲われ、親猫は殺されて仔猫だけ生き残った」と、サビネコから伝えられたそうだ。
伝言ゲーム失敗。
「ぼくのお父さんとお母さんは、生きていますミャ。ケガが治ったら、探しに行きますミャ」
アオキ先生は少し残念そうな顔をした後、にっこりと笑い掛けてくる。
「じゃあ、集落にいる間だけでも、『お父さん』と呼んでにゃお」
アオキ先生は、ぼくに「お父さん」と呼んで欲しいらしい。
助けてもらった恩もあるし、呼ぶくらいは良いかな。
「アオキお父さんミャ」
「シロちゃん!」
アオキ先生は嬉しそうに、ぼくをギュッと抱き締めた。
抱き締められると、体中の傷がズキズキと痛み始める。
「ミャ……ッ!」
「ごめんごめん、痛かったにゃお? すぐに薬を作るから、待っていなさいにゃお」
アオキ先生はぼくを離すと、いそいそとどこかへ歩いて行った。
しばらくすると、アオキ先生は葉っぱのお皿を持って戻って来た。
「さぁ、これを飲みなさいにゃお」
差し出されたお皿の中を見ると、透明な水が入っていた。
水の匂いを嗅いでみると、花の匂いがした。
薬と言っていたから、薬草を持ってくるかと思っていたんだけど。
「これは、なんですミャ?」
「ムラサキツメクサ茶にゃお。これを飲むと、ケガが治るにゃお」
なるほど、ハーブティーか!
ぼくもトケイソウのハーブティーを作って、飲んだことがある。
イヌハッカとムラサキツメクサとシロツメクサのブレンドハーブティーも、作ろうと思ったんだけど。
病気の猫たちの治療が忙しくて、ブレンドハーブティーの花冠のことをすっかり忘れちゃったんだ。
グレイさんに、花冠を預けたんだけど。
「シロちゃんがくれた宝物だから」と、穴を掘って埋めちゃったらしいんだよ。
Question. 花冠を土に埋めたらどうなる?
Answer. 土へ戻る。
グレイさんは良かれと思ってやったことだから、仕方がないよね。
そういう理由で、ブレンドハーブティーは飲めなかったんだ。
ムラサキツメクサのハーブティーは、初めて飲むから楽しみだ。
飲む前に、『走査』してみよう。
『対象:レッドクローバーティー』
『効能:抗酸化作用、抗菌作用、血流改善作用、利尿作用、抗炎症作用、関節痛、精神安定、ガン予防、強壮作用(体を活性化させる)』
凄い! ケガが治るハーブティーだっ!
さっそく飲んでみると、花の甘い香りがして癖がなくて美味しく飲めた。
ムラサキツメクサ茶を飲み終わると、アオキ先生がよしよしと頭を撫でてくれた。
「ちゃんと飲めて、偉いにゃお。これで、ケガが治るにゃお」
「このムラサキツメクサ茶は、アオキお父さんが作ったのですミャ?」
「そうにゃお。ケガや病気に効くお茶を、たくさん作っているにゃお」
アオキ先生は、ニコニコ笑いながら答えた。
なるほど、ハーブティーに詳しいお医者さんだったのか。
ぼくにとって「薬」と言ったら、薬草をそのまま使うものだった。
ハーブティーで、ケガや病気を治すという方法もあるのか。
ハーブティーは乾燥させたり、水出ししたりするのにとても時間が掛かるものなんだけど。
集落に棲んでいる猫だったら、時間なんていくらでもある。
アオキ先生が、「腕の良いお医者さん」と呼ばれている理由が分かった。
【虹彩異色症(odd eye)とは?】
遺伝子的欠陥により、左右の目の色が違う病気。
人間より、犬や猫の方が発症しやすい。
特に、白猫が発症しやすいと言われている。
青い目の方の耳に、聴覚障害を持っている場合がある。
黄色い目の方の耳は、ちゃんと聞こえている。
日本では黄色と青色の目を持つ猫を、「金目銀目」と呼ぶ。
珍しいので、「幸運を運んでくる猫」と大切にされることが多い。
【ハーブティーでケガや病気が治るの?】
症状に合わせたハーブティーを飲むと、痛みや苦しみを和らげたり治りを早くしたりすることが出来る。
ドイツでは、風邪は薬ではなくハーブティーで治すのが一般的。
免疫力を上げるブレンドハーブティーを飲んで、自然治癒力を高めて治す。




