第70話 今からでも入れる保険が?
Argentavisは、巨大な鳥のことだったのかっ!
大きな鉤爪で鷲掴みされていて、痛いんだけど!
見上げると鷲みたいな鋭い嘴を持った鳥が、大きな翼をはためかせていた。
見下ろすと、目も眩むような高さだ。
すでに、お父さんとお母さんとグレイさんの姿は見えない。
この鳥は、どこへ向かっているのかな?
鳥は、地上何十mを飛ぶのかな?
飛ぶ速度もかなり速くて、寒いくらいだ。
『現在高度87m、時速40km/h』
そんな高いところを、そんな速さで飛んでいるのっ?
もし、この高さから落とされたら死ぬ。
いや、落とされなくても死ぬ。
もうすぐ、この鳥に食べられちゃうんだ。
逃げようにも、鉤爪にガッチリ掴まれていて動けない。
どうにかして、助かる方法はないかな?
アルゲンタヴィスに、天敵はいないのかな?
天敵の声真似で、ビックリさせるとか出来ないかな?
『猛禽類の天敵:人間』
この世界に来てから、人間なんて見たことないよ。
早くなんとかしないと、食べられちゃう。
いや、待てよ?
天敵じゃなくても、アルゲンタヴィスと喋ることが出来れば助かるんじゃないか?
トマークトゥスのグレイさんとだって、友達になれたんだ。
アルゲンタヴィスとも、話くらいは出来るはず。
お願い! 『走査』
ぼくの言葉を通訳して、アルゲンタヴィスに伝えてっ!
「ピヤーピヤー! ピィピィピィッ!」
「食べないでください! 助けてくださいっ!」と叫んだつもりが、ぼくの口から出たのは甲高い鳥の鳴き声だった。
『キェェェェェェ! シャベッタァァァァァァァッ! ナニコレェェェェ、コワァァァァァァイッ!』
ぼくの声を聞いて、アルゲンタヴィスはめちゃくちゃビックリしたらしい。
アルゲンタヴィスはぼくを放り出して、慌てふためきながら飛び去っていった。
良かった、助かった……。
いや、助かってないっ!
空中で投げ出されたから、地面に向かって落ちていく。
今、高度何m?
落下速度は、何m/h?
高さとか速さとか、この際もうどうでも良い。
猫が安全に飛び降りられる高さは、せいぜい約6~7m
それ以上の高さだと、猫でも死ぬ。
落ちながら見れば、下は森だった。
上手く木にしがみ付ければ、助かるかもしれない。
空中で必死に体をひねって、木にしがみ付く体勢を整える。
もし木にしがみ付けなければ、地面に叩き付けられて死ぬ。
数秒の勝負だ。
両手足を大きく広げて、近付いて来る木の枝に向かって爪を立てる。
狙いを付けた枝にしがみ付けた、と思いきや。
重力加速度とぼくの体重に耐え切れなかったのか、枝がボキッと音を立てて折れた。
ギュッと強く目を閉じて、しがみ付いた太い枝を離さなかった。
何も持たずに落ちたら、地面に叩き付けられて死ぬ気がしたから。
死ぬのが怖くて、なんでもいいからすがりつきたかった。
枝に抱き付いたら、ちょっとだけ怖くなくなった気がする。
バキバキと、何本も小枝を折りながら落ちていく。
体のあちこちに枝や葉がぶつかって、めちゃくちゃ痛い。
そしてついに、ドスンと抱き付いた枝ごと地面へ叩き付けられた。
「ミャッ!」
物凄い衝撃が、全身に走った。
強い衝撃で、全身がビリビリと痺れた。
そのまま、地面に倒れた。
痛すぎて、動けない。
逆に、痛くないところがない。
たぶん、骨が何本か折れていると思う。
そのくらい痛い。
それでも、なんとか生きている。
『走査』で、自分の体を調べるのが怖い。
どれだけ酷い重傷を負っているのか、知りたくない。
知ったら、もっと痛くなりそうな気がした。
死にそうな恐怖を味わったから、心臓がバクバクいっている。
今まで2回死んでいるけど、「死ぬ」と思ったのは今回が初めてだった。
過去2回は、気が付いたら死んでいたから。
さすがに3回目は、猫の神様だって怒るに決まっている。
いや、2回目ですでに怒っていたかな?
もしかしたら、次は生き返らせてくれないかもしれない。
死ななくて良かった……、死ぬほど痛いけど。
しばらくじっとしていたら、少しずつ心臓が落ち着いてきた。
落ちた時の痺れも、だんだん収まってきた。
全身の激痛は、変わらないけど。
これからどうしよう?
お父さんとお母さんとグレイさんとも、はぐれてしまった。
みんな今頃、どうしているかな?
きっと、食べられちゃったと思っているよね。
悲しませてしまって、ごめんなさい。
生きていることを伝えたいけど、伝える手段がない。
重傷で1歩も動けないから、天敵に見つかったら逃げられない。
誰にも気付かれないまま、ケガが原因で死んじゃうかもしれない。
せっかく助かったのに、このままだと死んじゃう。
ひとりぼっちだと、何も出来ない。
近くに猫の集落があれば、助けてもらえるかもしれない。
狩りに出た猫が近くを通りがかって、助けてくれないかな?
近くに猫がいないか、探して、『走査』
『対象:食肉目ネコ科ネコ属リビアヤマネコ』
『位置情報:直進20m先』
良かった、近くに猫がいたっ!
「誰か、助けてミャ~ッ!」
気付いてもらおうと、必死に鳴いて助けを求めた。
しばらく鳴き続けていると、足音が近付いて来る。
音の方向を見れば、数匹の猫たちがこちらへ向かってきていた。
良かった! 気付いてくれたっ!
「こっちから、仔猫の鳴き声が聞こえるナォン」
「あ、ここニャウ。お~い、こっちニャウ」
「ボロボロじゃないにゃあっ! 大丈夫にゃあっ?」
3匹の猫たちが、全身傷だらけのぼくを見て驚いている。
自分じゃ分からないけど、たぶんかなり酷い状態なんだと思う。
やっぱり、『走査』に調べてもらっておいた方が良かったかも。
とにかく、気付いてくれて助かった。
ฅ^•ω•^ฅ
ぼくは、3匹の猫たちに軽く事情を説明した。
お父さんとお母さんと友達と一緒に、旅をしていたこと。
大きな鳥に攫われて、ここで落とされてしまったこと。
そのせいで、お父さんとお母さんとはぐれたこと。
猫たちはぼくの話を聞いて「可哀想にニャー」と、同情してくれた。
右半分が黒で、左半分が茶色の模様があるハチワレミケネコが、優しく声を掛けてくる。
「だったら、うちの子になるナォン?」
「お気持ちは嬉しいですけど、お父さんとお母さんがいますミャ。ケガが治るまでの間だけでいいので、皆さんの集落でお世話になってもいいですミャ?」
「もちろん、良いニャウ」
「こんな可哀想な仔猫ちゃんを、放っておけないにゃあ」
サビネコがニッコリと笑って、ぼくを抱っこしてくれた。
触られると、体中の傷がズキズキと痛み始める。
「ミャ……ッ」
「こんなボロボロじゃ、痛いはずにゃあ。でも、ここにいたら危ないからにゃあ。集落に着くまで、我慢してにゃあ」
「うちの集落には、お医者さんがいるから安心してニャウ」
「ミャ? お医者さんがいるんですミャ?」
「とっても腕の良いお医者さんナォン。こんなケガ、きっとすぐに治るナォン。早く、お父さんとお母さんを探しに行けると良いナォン」
ハチワレミケネコが優しい笑顔で、ぼくをそっと撫でてくれた。
お医者さんがいる集落が、近くにあって良かった。
今は、自分で薬を作ることも出来ないから。
お医者さんがいると聞いて安心したら気が抜けて、急に眠くなった。
アルゲンタヴィスに襲われてから、今までずっと緊張し続けていたから疲れちゃったんだ。
本当に、死ぬかと思った。
今思い出しても、ゾッとする。
あとは、この集落のお医者さんに任せよう。
とっても腕の良いお医者さんって、どんなお医者さんなんだろう?
起きたら、お医者さんといっぱいお話ししてみたいな。
【重力加速度とは?】
物を落とした時の速さのこと。
落とす時の高さが高いければ高いほど、重力が大きくなって落ちる速さは速くなる。
落ちる速さが速ければ速いほど、ぶつかった時の衝撃も大きくなる。
【「仏の顔も三度まで」とは?】
「どんな優しい人でも、何度も怒らせるようなことをすればブチキレる」という意味のことわざ。




