第66話 水出しハーブティー
ナズナの集落へ帰って行くキジシロを見送ってから、時計草のことを思い出した。
次の集落に着く頃には、乾燥しているかな?
トケイソウのハーブティーって、どんな味がするんだろう。
自分で作ったハーブティーを飲むのは初めてだから、楽しみだな。
急ぐ旅じゃないから、お散歩するみたいにのんびりと歩いて行く。
おなかが空いたら狩りをして、喉が渇いたら川で水を飲む。
水たまりの水は、もう絶対飲まないぞ。
ฅ^•ω•^ฅ
ある日、グレイさんが前足で頭を掻いていることに気が付いた。
心配になって、問い掛ける。
「グレイさん、どうしたのミャ? 痒いミャ?」
『なんか急に、痒くなってな』
そう言いながら、グレイさんは耳や首を掻きむしっている。
ぼくは慌てて、掻く足を止める。
「グレイさん、掻いちゃダメミャ!」
きっとナズナの集落から、ノミが付いてきちゃったんだ。
でも、全然違う別の病気かも知れない。
教えて、『走査』
『対象:食肉目イヌ科イヌ属トマークトゥス』
『病名:外耳炎』
『処置:抗炎症剤、抗菌薬、抗真菌薬を塗布。駆虫薬を投与』
どうやら、グレイさんは耳の病気に罹ってしまったようだ。
抗菌薬も、抗炎症剤も、駆虫薬も、どれも見慣れたものばかりだからなんとかなりそうだな。
抗真菌薬は、知らないけど。
「グレイさん、すぐ処置するからミャ」
『すまない、ありがとう』
グレイさんから、トケイソウの花冠を外し、炎症を起こして痒みを訴えている部分にアロエの汁を塗る。
アロエを塗ったら、グレイさんはすぐ痒みがなくなったようで掻くのをやめた。
続いてヨモギとニガヨモギを石で叩いてペースト状にして、グレイさんに飲ませた。
ニガヨモギを飲んで、苦そうな顔をしたグレイさんがちょっと面白かった。
だって、いつもは凛々しくてカッコイイグレイさんが困った顔するんだよ。
「グレイさんもこんな顔するんだな」って、ちょっと得した気持ちになった。
『走査』によると、外耳炎の原因は寄生虫だそうだ。
寄生虫は気付かないうちに、体に棲みつく。
寄生虫がいると、栄養を取られて、栄養失調になっちゃうんだよ。
ฅ^•ω•^ฅ
それから3日後。
頭にかぶっていたトケイソウの花冠が、パリパリに乾いた。
さっそく、これで水出しハーブティーを作ってみよう。
今回は薬としてではなく、お茶として飲んでみたい。
美味しかったら、また作ろう。
トケイソウの茎や葉っぱには青酸配糖体やアルカロイド類の毒が含まれるから、花弁だけを使う。
乾燥させた花弁を、川で軽く洗って汚れを落とす。
大きな葉っぱで作った器に綺麗な水を汲んで、花弁を浸す。
あとは、待つだけ。
水に浸す時間は、どのくらいなの?
『1~2時間程度』
思ったより、短かった。
2時間くらいなら、お昼寝や毛づくろいしている間に過ぎる。
他にも、水出しハーブティーが作れる植物ってあるの?
『ミント、レモングラス、レモンバーム、ローズマリー、ローズヒップ、ペパーミント、カモミールなど』
こんなにたくさんあるんだ?
今度ハーブティーに出来そうな植物を見つけたら、作ってみよう。
でも猫が食べられない植物もあるから、気を付けなきゃね。
時間を計る為に、日時計を作ろう。
日時計の作り方は、とても簡単。
まず、地面に○を描く。
○の上に十を書いて、⊕の真ん中に棒を1本を立てるだけ。
お日様の位置によって棒の影が動いて、どのくらい時間が経ったか分かる。
日時計は、だいたいの時間しか計れないけどね。
このくらいは、理科の授業で習ったから知っている。
3匹でのんびりお昼寝をしたら、棒の影が最後に見た時よりかなり動いていた。
トケイソウを浸した水を見てみると、ほんのり茶色になっていた。
これが、トケイソウのハーブティーか。
「ハーブティーの試作品が出来たから、みんな飲んでみてミャ!」
「ハーブティーって、なんニャー?」
「なんだか良い匂いがするニャ」
『む? なんだこれは?』
お父さんとお母さんとグレイさんは不思議そうな顔をしながら、ハーブティーの匂いを嗅いでいる。
恐る恐る口を付けると、3匹ともビックリしながらも夢中で飲み始める。
「美味しいニャー!」
「初めて飲む味だけど、とっても美味しいニャ」
『おおっ、これは美味しいぞっ!』
みんなが喜んでくれて、良かった。
ぼくも、ハーブティーを飲んでみる。
緑茶のような爽やかな匂いがして、美味しい。
なんだかとっても心が安らいで、癒される感じがした。
これが、トケイソウのハーブティーの効果か。
さっきお昼寝したばっかりなのに、また眠くなっちゃったよ。
『シロちゃん、おかわりはないのか?』
「ごめんミャ。今は、それだけしかないミャ」
『そうか、もうないのか……』
グレイさんはしょぼんとした顔で、からっぽになった器を名残惜しそうに舐めている。
よっぽど、ハーブティーが気に入ったらしい。
「また新しいハーブティーを作るから、楽しみにしててミャ」
ฅ^•ω•^ฅ
次の集落へ向かう途中で、イヌハッカを見つけた。
イヌハッカは別名、「キャットニップ」「キャットミント」「西洋マタタビ」と呼ばれて、猫が好む草として有名なんだよね。
マタタビみたいな中毒性がなくて、猫の体にも安全。
成猫は酔っぱらったように、ゴロニャンになる。
だけど、全体の30%の猫や仔猫には効果がないと言われている。
ぼくも、効果がなくてガッカリしたんだよね。
薬草としては、風邪、胃腸障害、精神安定、頭痛、消化促進などの効果がある。
ついさっきまで、すっかり忘れていた。
イヌハッカにも、精神安定の効果があったじゃないか。
トケイソウにこだわる必要なんて、なかったんだ。
匂いを嗅いでみると、ミント系の爽やかな香りがする。
これが、「キャットミント」と呼ばれる理由。
ミントということは、これもハーブティーに出来るのかな?
『ハーブティーとして、利用可能』
やっぱりそうか。
次は、イヌハッカでハーブティーを作ってみよう。
さっそく、イヌハッカの葉っぱで草冠を作ってみた。
う~む。緑一色だから、なんだかパッとしないな。
寂しいから、花も足してみようかな。
ハーブティーに出来る花って、他にもあるの?
『対象:マメ科シャジクソウ属ムラサキツメクサ』
『薬効:風邪、気管支炎、抗菌、抗炎症作用、鎮静作用、更年期障害、ホルモンバランスの改善』
ムラサキツメクサはシロツメクサと似ているけど、花の色が違う。
シロツメクサは白くて、ムラサキツメクサは紫。
どちらも、猫が食べられる草のひとつなんだよね。
シロツメクサとムラサキツメクサを混ぜて、ブレンドハーブティーにしてみよう。
イヌハッカの草冠に、シロツメクサとムラサキツメクサの花を編み込んでと。
うん、やっぱり花が入ると可愛くなるね。
前と同じように、花冠を4つ作った。
「みんな~、新しい花冠が出来たミャ」
振り向くと、お父さんとお母さんがイヌハッカにゴロニャンになっていた。
ゴロニャンになっている猫は、とっても可愛いよね。
ふたりともうっとりとした顔で匂いを嗅いだり、葉っぱを食べたり、体をすり寄せたり、ゴロニャンと寝そべったりしている。
イヌハッカが、猫にしか利かないのはなんでなのかな?
ぼくとグレイさんは、いくら嗅いでもなんともないのに不思議だね。
ฅ^•ω•^ฅ
イヌハッカの花冠の匂いが、だいぶ薄くなってきた頃。
ようやく、目的の集落が見えてきた。
そこで、『走査』が発動した。
『対象:食肉目ネコ科ネコ属リビアヤマネコ』
『病名:感染性胃腸炎』
『処置:抗菌剤、免疫抑制剤、抗生物質、胃酸抑制剤、整腸剤を投与。水分補給』
感染性ってことは、集団感染している可能性が高い。
集落で暮らしている猫たちは、集団感染しやすいんだ。
ぼくは、横を歩いているお父さんとお母さんを呼び止める。
「この先の集落の猫たちは、集団感染しているミャ」
「分かったニャー」
「お薬を作って、助けに行きましょうニャ」
ふたりが大きく頷いてくれたので、ぼくも頷き返した。
お父さんとお母さんとぼくの花冠を外して、グレイさんに預ける。
「グレイさんは、見張りをお願いミャ。いつも、ひとりぼっちにしちゃって、ごめんなさいミャ」
『良いんだ、謝らないでくれ。離》れていても、オレはいつでもシロちゃんを見守っているからな。それに、小高い丘の上から、猫の集落を眺めているだけでも、結構幸せなんだぞ』
グレイさんは可愛い猫をただ見ているだけでも、充分幸せになれるタイプだったな。
うんうん、分かる分かるよ。
だってぼくも人間だった頃、猫アレルギーで触れなかったけど遠くから見るだけで幸せになれたもん。
猫はただそこにいるだけで、癒される。
可愛いだけで、存在価値があるっ!
神様が生み出した、最高傑作だと思う。
【犬がハーブティーを飲んでも大丈夫?】
犬が食べられるハーブだったら、大丈夫。
犬が食べられるハーブは、カモミール、ローズマリー、ローズヒップ、オレガノ、ミントなど。
人間用ではなく、ワンちゃん用ハーブティーなら安心安全。
【猫を見るだけで幸せになれる理由とは?】
猫を見て「可愛い♡」と思うと、脳内に「β-エンドルフィン」という幸せな気持ちになる物質が出るから。
ぶっちゃけ理由なんて、どうでもいい。
猫は可愛い、それだけで十分。




