第61話 シロツメクサ
グレイさんを見られてしまったので、ぼくたちは急いで集落を立ち去った。
そういえば、集落の名前を聞くのを忘れちゃったな。
あの集落には、何の植物が生えていたっけ?
足元を見れば、緑色のじゅうたんみたいにクローバーがいっぱい生えていた。
今も、白くて丸い可愛い花が咲いている。
クローバーはどんな植物なのか、教えて『走査』
『対象:マメ科シャジクソウ属シロツメクサ』
『概要:「四つ葉のクローバーを見つけると、幸せになれる」として、知られる。葉と花は、猫でも食べられる』
『薬効:風邪の去淡(痰や鼻水を出やすくして、病原体を体の外へ出す)効果、鎮静効果(興奮を抑える)、止血作用』
「幸せの四つ葉のクローバー」は、人間だった頃に友達と一緒に探したから知っていたけど。
クローバーは、シロツメクサという名前の薬草だったのか。
猫風邪にも効果があったのに、全然知らなかった。
ぼくもまだまだ、勉強不足だな。
見知っている草花だから、調べようともしなかったんだよね。
ちょっと薬草に詳しくなって、思い上がっていたのかもしれない。
反省の意味を込めて、この集落を「シロツメクサの集落」と呼ぶことにしよう。
またこの集落を訪れる時、今日の反省を思い出すだろう。
ฅ^•ω•^ฅ
ぼくとお父さんとお母さんとグレイさんは、また4匹で旅を続けた。
ふたりに、離れていた時のことをたくさん話した。
さすがに、死んだことは話さなかったけどね。
こういう時、グレイさんが猫語を話せなくて良かったと思う。
グレイさんは正直で、絶対ぼくが死んだことを喋っちゃうからな。
もしお父さんとお母さんがぼくが死んだことを知ったら、グレイさん以上の心配症になってしまう。
ふたりには今でも十分迷惑を掛けまくっているのに、これ以上心配を掛けたくない。
ぼくはグレイさんに近付いて、こそこそと小声で伝える。
「ぼくが死んだことはお父さんとお母さんには、ないしょにしてミャ」
『もちろん、分かっているさ。シロちゃんも、オレが泣いたことは黙っていてくれ。オレは強いから、めったに泣かないんだぞ。愛するシロちゃんが死んだから、泣いたんだからな』
グレイさんは照れ臭そうに笑い、耳が後ろにペタリと寝てしまった。
そんなグレイさんに、ぼくも笑い返す。
「ぼくも大好きなグレイさんが死んだら、めちゃくちゃ泣くミャ」
『シロちゃんも、オレが死んだら泣いてくれるのかっ!』
「当たり前ミャ」
『そうか! じゃあ、絶対に死ねないなっ!』
グレイさんは耳をピンと立てて、嬉しそうにしっぽをブンブン振った。
ฅ^•ω•^ฅ
シロツメクサの集落を出てから、数日が経った。
次の集落が、なかなか見つからない。
今までが、順調にいきすぎたのかも知れない。
集落が見つかるきっかけはいつも、『走査』がケガや病気で苦しんでいる猫を探してくれていた。
ぼくはなんでもかんでも、『走査』に頼りきりな気がする。
『走査』がないと診断も出来ないし、処置も出来ない。
グレイさんと話すことさえ、出来なくなってしまう。
『走査』が使えないぼくなんて、何も出来ない無力な仔猫だ。
だから猫の神様は、ぼくに『走査』を授けてくれたんだろう。
変な意地を張るのも無駄にひねくれるのも、もうやめだっ!
こうなったら、『走査』を有効活用しよう。
めちゃくちゃ広いイチモツの森の中を、なんの手がかりもなく探すなんて無理だ。
ここから一番近い猫の集落の場所を教えて、『走査』
『位置情報:直進100m、左折30m、直進40m、右折80m』
ありがとう、『走査』
ぼくは、お父さんとお母さんに話しかける。
「お父さん、お母さん。向こうに猫の集落があるから、ついて来てくれるミャ?」
「また、病気の猫がいたのかニャー?」
「次の集落には、ケガや病気で苦しんでいる猫はいないみたいミャ」
「苦しんでいる猫がいないなら、良かったニャ。じゃあ、案内してニャ」
「分かったミャ!」
グレイさんにも同じ内容を伝えると、ニッコリと笑ってぼくに体をすり寄せる。
『だったら、急いで行く必要はなさそうだな。シロちゃん、集落へ行く前にひと休みしないか? ずっと歩きっぱなしで、疲れたろう? 腹は減っていないか?』
「言われてみれば、おなかが空いたミャ」
『よし、シロちゃんはそこで待っていてくれ。オレが、何か狩って来よう。シロちゃんは、何が食べたい?』
「狩りをするなら、みんなで行くミャ。ぼくも、狩りがしたいミャ」
『そうか。だったら、みんなで行こう』
お父さんとお母さんにも、「おなかが空いたから、次の集落へ行く前にごはんを食べよう」と声を掛けた。
ふたりは、笑顔で大きく頷いた。
「そうだニャー、おなかが空いたニャー」
「じゃあ、みんなで狩りをしましょうニャ」
ฅ^•ω•^ฅ
ぼくたちは腹ごしらえをしようと、Gastornis(体長約2.5m、体重約500kgの激重ダチョウ)を狩って食べた。
ガストルニスは、体が重くて走るのが遅いから狩りやすいんだよね。
大きいから、4匹では食べきれない。
そうだ! これから向かう集落のお土産にしようっ!
ぼくが『走査』で道案内して、お父さんとお母さんとグレイさんにガストルニスを集落まで運んでもらった。
グレイさんとはいつものように、集落の少し前で別れた。
ぼくとお父さんとお母さんの3匹で、集落を訪ねる。
集落の入り口近くで、香箱座りをしていたクリーム(薄茶色の毛並みの)猫に声を掛けてみる。
「初めまして、こんにちはミャ。ぼくはイチモツの集落からやって来た、シロといいますミャ。ここへ来る途中で、ガストルニスを狩ったんでお土産に持ってきましたミャ。集落の皆さんで、食べて下さいミャ」
「初めましてみゃお。お土産、ありがとうみゃお。さっそく、いただくみゃお。みんな~! お客さんが、お土産を持って来たみゃお~っ!」
クリーム猫が大きな声で呼び掛けると、集落の猫たちが集まって来た。
集まって来た猫は、たったの5匹。
あれ? これで全部?
猫たちはお礼を言って、美味しそうに食べ始める。
聞きたいことは色々あるけど、集落の猫たちが食べ終わるまで待った。
猫たちが満足げに食後の顔を洗い始めたところで、クリーム猫に聞いてみる。
「集落の猫は、これで全員ですミャ?」
「これで、全員みゃお。前はもっとたくさんいたんだけど、死んじゃったみゃお」
「亡くなったんですミャ?」
「天敵に襲われたり、病気が流行ったりして死んじゃったみゃお」
「天敵は、どんな動物でしたミャ?」
「狩りに行った猫たちが襲われたらしいから、何に襲われたかまでは知らないみゃお」
狩りをしている時に、天敵と出会うことは良くあるんだよね。
きっと、狩りに行った猫たちは、そのまま帰って来なかったんだ。
「どんな病気が流行ったんですミャ?」
「どんな病気かなんて、知らないみゃお」
何を質問しても、クリーム猫は「知らないみゃお」と答えた。
クリーム猫は若い猫だから、何も知らないのかもしれない。
「この集落の長は、どこにいらっしゃいますミャ?」
「そこに」
クリーム猫が顔を向けた先には、盛り土の上に大きめの石が置いてあった。
それが何かなんて、聞くまでもなかった。
【白詰草とは?】
江戸時代にオランダから長崎へガラス製品を輸入される時、衝撃吸収材として箱に詰められていたことが名前の由来。
明治以降は牧草(家畜のエサ)として輸入され、日本中に広がった。
優秀な蜜源植物でもあり、「クローバーのはちみつ」が有名。
若葉や花は、茹でたり天ぷらにしたりして食べられる。
柔らかい若葉を、好んで食べる猫もいるよ。
ただし、その辺に生えている野草はばっちいから食べちゃダメだよっ!




