第60話 グレイさんは心配症
あれからグレイさんが、さらに過保護になったような気がする。
ちょっとくしゃみひとつでもしようもんなら、「大丈夫か?」と心配される。
一度死んでしまったから、心配症になるのも無理はないけど。
あまり心配されると、「そんなに心配しないで」って申し訳ない気持ちになる。
ぼくは昔から病弱だし、いつまでも仔猫のままだから集落のみんなからも心配されっぱなしなんだよね。
ぼくが弱いから仕方ないけど、なんだかなぁ。
とにかく早く病気を治そうと思ったら、寝るのが一番。
病気が治って、体力が戻ったら、集落の様子を見に行こう。
ฅ^•ω•^ฅ
再び自分の足で歩けるようになるまで、ずいぶん掛かってしまった。
日数にして、2週間くらい?
ずっと寝ていて時間の感覚がおかしくなっているから、もっと経っているかも。
もしかしたら、1ヶ月近く経っているかもしれない。
お父さんとお母さんは、まだあの集落にいるのかな?
ふたりのことだから、ぼくを置いてどこかへ行ったってことはないと思うけど。
こんなに長い時間、ふたりと離れていたのは生まれて初めてかもしれない。
久し振りに、ふたりに会いたい。
「グレイさん、集落を見に行きたいミャ」
『シロちゃん、もう歩いて大丈夫なのか? 集落へ行きたいなら、近くまでオレが運ぼう。遠くから眺めるだけで良いなら、集落を見渡せる高いところへ連れて行くぞ。どっちが良い?』
「みんなと会ってお話ししたいから、集落に行きたいミャ」
『そうか。病み上がりで集落まで歩くのは疲れるだろうから、近くまで送ろう。よし、行くぞ』
グレイさんはぼくの首根っこを咥えて、集落まで運んでくれた。
集落へギリギリ入らない場所まで送ってくれたのは、今回が初めてだ。
グレイさんはぼくを下ろすと、心配そうに顔を覗き込んでくる。
『ここでお別れするのは心配だが、何かあったらすぐ戻ってきてくれ。オレはここでずっと、待っているからな』
「ミャ」
グレイさんは心配しきりで、集落から見えない場所に隠れた。
ぼくはグレイさんに見守られながら、集落の中へ入って行った。
ฅ^•ω•^ฅ
「シロちゃん、今までどこ行ってたニャーッ? とっても心配したニャーッ!」
「シロちゃん、探したニャ! 無事で良かったニャッ!」
集落に入ると、すぐにお父さんとお母さんが駆け寄ってきてぼくを抱き締めた。
「ぼくも、集落のみんなと同じ病気に罹っちゃったミャ。それで、ずっと寝込んでいたミャ。病気が治るまで、グレイさんが看病してくれていたミャ」
「そうだったのニャー? 確かに、グレイさんの臭いがいっぱいするニャー。そのままだとみんなビックリしちゃうから、毛づくろいしてあげるニャー」
「シロちゃんの病気が治って、良かったニャ。あとで、グレイさんにもお礼言わないといけないニャ」
ぼくの話を聞いたお父さんとお母さんは、ホッとした顔で笑った。
自分では分からないけど、今のぼくはグレイさんの臭いがぷんぷんするらしい。
ずっと抱っこされていたから、グレイさんの臭いが移っちゃったんだ。
ふたりはぼくの毛づくろいをして、グレイさんの臭いを和らげてくれた。
毛づくろいをされている間、あの後どうなったかをふたりに聞いてみた。
すると、お母さんが困り顔で答える。
「実は私たちも、病気がうつっちゃったニャ」
「ミャッ? お父さんとお母さんもミャッ?」
「集落の猫たちが『助けてくれたお礼』と言って、看病してくれたニャー」
猫風邪に感染した集落の猫たちは全員、横穴に避難していた。
お父さんとお母さんも、同じ横穴の中にいた。
あんな狭い場所でねこねこだんごになっていて、感染しない方がおかしい。
でも、ふたりとも猫風邪が治ったようで良かった。
ぼくみたいに質の悪い、猫汎白血球減少症に罹らなくて良かった。
そういえば、この集落には仔猫がいない。
きっとこの集落の仔猫たちも、ぼくと同じ猫汎白血球減少症で亡くなってしまったのだろう。
亡くなった仔猫たちも、ウイルスに汚染された水を飲んだんだと思う。
もう、同じ過ちは繰り返さない。
今後は絶対、川を流れる新鮮で綺麗な水しか飲まないぞ。
集落の猫たちにも、水たまりの水を飲まないように注意しなくちゃいけないな。
猫の神様はきっとそのことをみんなに伝えさせる為に、ぼくを生き返らせてくれたんだ。
集落を見て回れば、ほとんどの猫が元気になっていた。
猫が生まれつき持っている回復力で、猫風邪を乗り越えたようだ。
いや、待てよ?
お父さんとお母さんが「集落の猫たちが、助けたお礼に看病してくれた」と、言っていたっけ。
「もしかしたら」と思い、ふたりに聞いてみる。
「お父さんとお母さんが、みんなを助けてくれたのミャ?」
「シロちゃん、よく分かったニャー」
「私たちは、シロちゃんと一緒に、ヨモギの薬を作っていたからニャ」
「薬の作り方も、すっかり慣れたものニャー」
ふたりは嬉しそうに、ニコニコ笑いながら答えた。
やっぱり、そうか。
ぼくたちは何度も、ケガや病気で苦しむ猫を救ってきた。
今ではぼくが『走査』して、お父さんとお母さんが薬を作る流れが出来ている。
ぼくがお医者さんなら、お父さんとお母さんは薬剤師さんだな。
ふたりとも凄く頼もしいし、とってもありがたい。
ふたりがぼくの代わりに頑張ってくれたから、みんなの猫風邪が治ったんだ。
良かった、本当に良かった。
ฅ^•ω•^ฅ
集落の長のトビキジを探して、話し掛ける。
「長、お元気ですミャ?」
「仔猫のお医者さん、ずいぶん長い間見掛けなかったけれどどこへ行っていたにゃん?」
「実はぼくも病気がうつっちゃって、昨日まで寝込んでいたんですミャ」
「それは、大変だったにゃん。でも、元気になって良かったにゃん」
集落の長は笑顔で、ぼくの頭を撫でてくれた。
長に頼んで、集落の猫を全員集めてもらった。
みんなに薬草の見分け方と薬の作り方、用法用量を教えた。
集落の猫たちは、薬を飲んで猫風邪が治ったので真面目に覚えてくれた。
これでぼくたちがいなくなっても、自分達で病気を治せるようになったはずだ。
おっと、大事なことを伝え忘れていた。
「水たまりの水は病気になっちゃうから、絶対飲んじゃダメですミャ。必ず川を流れている、新鮮で綺麗な水を飲んで下さいミャ」
これはぼくにとっても、反省と学びになった。
今回はずいぶんと長く、この集落にいることになっちゃったけど、やるべきことは出来たと思う。
ひと通り伝えた後、集落の猫たちにお別れのご挨拶をする。
「ぼくたちは、これで旅立ちますミャ。長い間、お世話になりましたミャ。皆さん、どうかお元気でミャ」
「仔猫のお医者さんもサバトラさんもシロブチさんも、本当にありがとうにゃん。グレイさんにも、よろしく伝えてにゃん」
集落の猫たちに見送られながら、ぼくたちは再び旅立つ。
ちょうどその時、隠れていたグレイさんが姿を現した。
『シロちゃん、大丈夫か? また頑張りすぎて、疲れていないか?』
「グレイさん! まだ猫たちが見ているから、出てきちゃダメミャッ!」
振り返れば、「トマークトゥスニャーッ!」と悲鳴を上げて猫たちが逃げ出した。
あ~あ、だから言ったのに……。
【猫汎白血球減少症とは?】
猫神が説明していたけど、もうちょっと詳しく。
猫科の動物ならみんな感染する、伝染性腸炎。
特に仔猫が罹りやすく、猫風邪に似た症状(熱やダルさや腹痛など)が出る。
仔猫の場合、最悪発症後24時間以内に死亡する。
成猫の場合は罹っても症状は軽く済み、すぐ治る可能性が高い。
飼い猫さんの場合は、きちんとワクチンを注射しておけば罹らない。
ワクチン接種大事!
【サバトラさんとシロブチさんとは?】
皆さん忘れていると思うので、おさらい。
サバトラシロネコが、お父さん。
茶色のブチ模様があるシロブチネコが、お母さん。




