第55話 先住猫と新入り猫
ぼくたちはイヌノフグリの集落の猫たちを全員引き連れて、イチモツの集落へ戻ることにした。
おっと、グレイさんにもこのことを伝えておかなくちゃ。
「お父さん、お母さん。みんなを連れて、先に行っといてくれるミャ? ぼくは、グレイさんをお迎えに行ってくるミャ」
「任せてニャー」
「では皆さん、私たちのあとをついて来て下さいニャ」
お父さんとお母さんが先導して、猫たちがゾロゾロとついて行く。
ケガが痛むからゆっくりだけど、みんな自分の足で歩けるみたいで良かった。
途中で休憩を挟んだりしても、イチモツの集落までそんなに時間は掛からないはず。
このペースでいけば、日没までには辿り着くだろう。
ฅ^•ω•^ฅ
ぼくはひとり、グレイさんが見張りをしている場所へ向かった。
グレイさんはイヌノフグリの集落から少し離れた、小高い丘の上に座っていた。
ぼくが近付いて行くとグレイさんは勢い良く立ち上がり、嬉しそうな笑顔を浮かべてしっぽを振り出す。
『シロちゃん、オレに会いに来てくれたのか? この集落を襲おうとする動物は、今のところ近付いて来ていないぞ。そっちは、大丈夫か?』
「この集落の猫たちは、とても弱っているミャ。だから、ぼくたちの集落へお引っ越しさせることになったミャ」
『なるほど。お父さんとお母さんが猫たちを連れて集落を出て行ったのは、そういうことだったのか』
「グレイさん、知っているミャ?」
『ああ、ここからは集落の様子が良く見えるからな。シロちゃんが頑張っているところも、ずっと見ていたぞ』
グレイさんはニッコリと笑った後、首を傾げて聞いてくる。
『それで、シロちゃんはどうするんだ?』
「ぼくは急いでイチモツの集落へ戻って、茶トラ先生にこのことを伝えなくちゃいけないミャ」
『だったら、オレがシロちゃんを運ぼう。オレは走るのが、得意だからな。オレの足ならすぐ、シロちゃんの集落へ着くぞ』
「ホント? じゃあ、お願いするミャ」
『よし、落ちないように良い子にしているのだぞ』
大きな犬の背中に乗るの、夢だったんだよね。
そんなことを考えながらグレイさんに乗ろうとしたら、首根っこを咥えられた。
「ミャ?」
グレイさんはぼくを咥えたまま、軽快に走り出す。
ぼくこれ、トマークトゥスに連れ去られているように見えない?
自信満々で言った通り、グレイさんの足はめちゃくちゃ速かった。
ぼくが走るよりも、ずっと速い。
景色が、目でとらえられない速さで流れていく。
おかげで、みんなよりもずっと早く先回りすることが出来た。
グレイさんはゆっくりと速度を落として、イチモツの集落より少し前で立ち止まって、ぼくを降ろしてくれた。
『シロちゃん、このあたりで良いか?』
「うん、ありがとうミャ。グレイさん、足が速くてカッコイイミャ」
『カッコイイか……。ふふっ、またオレに惚れ直したか。オレが必要な時は、いつでも呼んでくれ。愛するシロちゃんの為なら、いくらでも力になろう。それでは、またな』
「グレイさん、またミャ」
グレイさんは満足げに笑うと、軽い足取りでどこかへ走り去った。
グレイさんはカッコイイし優しいんだけど、愛が重すぎるんだよなぁ……。
毛づくろいをして出来るだけグレイさんの臭いを消してから、イチモツの集落へ入った。
たった1日で帰ってきたぼくを見て、イチモツの集落の猫たちは不思議そうに首を傾げている。
「あれ? シロちゃん、もう帰ってきたニャ~?」
「なんか、あったのかニャア?」
「何か忘れたニャン?」
ぼくは茶トラ先生の元へ駆け寄って、話し掛ける。
「すみません、茶トラ先生。お話がありますミャ」
「シロちゃん、どうしたニャ~?」
「お隣のイヌノフグリの集落が、ヒアエノドンの群れに襲われたそうですミャ」
「それは、可哀想にニャ~……。でもお隣の集落じゃ、私にはどうすることも出来ないニャ~」
「茶トラ先生、お願いがありますミャ。イヌノフグリの集落の猫たちを、イチモツの集落に受け入れてくれませんミャ? お父さんとお母さんが、イヌノフグリの集落の猫たちを連れてここへやって来ますミャ」
「お隣の猫たちが来るのニャ~?」
「はい、イヌノフグリの集落の猫たちを、助けてあげて下さいミャ」
「困った時は、助け合いニャ~。私もみんなから、助けられてばかりだからニャ~。分かったニャ~。イヌノフグリの集落の猫たちを、うちで受け入れるニャ~」
茶トラ先生は少し考えた後、ニッコリと笑って頷いてくれた。
茶トラ先生はイチモツの集落の猫たちを集めて、イヌノフグリの集落の猫たちのお引っ越しの話をしてくれた。
事情を話せば、イチモツの集落の猫たちも「そういうことなら仕方ないニャー」と受け入れてくれた。
しばらくすると、お父さんとお母さんがイヌノフグリの集落の猫たちを連れて帰って来た。
「ただいまニャー」
「シロちゃん、もう帰って来たのニャ?」
ぼくは、お父さんとお母さんに駆け寄る。
「お父さん、お母さん、おかえりなさいミャ! 茶トラ先生や集落の猫たちに、お話しはしておいたミャ。みんな、イヌノフグリの集落の猫たちを、受け入れてくれるってミャ」
「それは、良かったニャー」
「シロちゃん、ありがとうニャ」
ぼくの話を聞いて、お父さんとお母さんは嬉しそうに笑った。
ふたりはイヌノフグリの集落の猫たちを、茶トラ先生のところへ連れて行った。
イヌノフグリの集落の猫たちは、揃って茶トラ先生に挨拶をする。
「あなたが、ここの集落の長ですニィ?」
茶トラ先生は、イヌノフグリの集落の猫たちを優しい笑顔で迎える。
「皆さん、ようこそいらっしゃいましたニャ~。この集落の長の茶トラですニャ~。この度は、災難でしたニャ~。どうぞ、ここでゆっくりとケガを癒して下さいニャ~」
「長、我々を受け入れて下さってありがとうございますニィ」
「本当に、助かりますニャン」
「長、これからよろしくお願い申し上げますニャア」
「猫たちを、茶トラ先生にお願いしても良いミャ?」
「シロちゃん、いつもありがとうニャ~。あとは、私に任せてニャ~」
茶トラ先生は、ぼくの頭を優しく撫でながら続ける。
「シロちゃんたちは、旅の途中で引き返して来たニャ~? また、すぐ旅へ出掛けるのかニャ~?」
茶トラ先生に問われて、悩む。
ここで茶トラ先生に全部丸投げして、すぐに旅へ出てしまうのは無責任な気がする。
イヌノフグリの集落の猫たちを、お引っ越しさせると決めたのはぼくだし。
イヌノフグリの集落の猫たちも知らない土地に連れて来られて、すぐには馴染めないだろうし。
もともとここに棲んでいる猫たちも、他所から来た猫たちを受け入れるのには時間が掛かると思う。
みんなが仲良く出来るかっていう、心配もあるんだよね。
しばらく、集落に留まって様子を見よう。
ฅ^•ω•^ฅ
新入り猫たちがお引っ越ししてきてから、数日後。
猫たちは巣穴から出てきて、毛づくろいや日向ぼっこをするようになった。
猫は毎日欠かさずに毛づくろいをしないと、毛がボサボサになっちゃうんだよ。
ヒアエノドンに襲われてからずっと、体が痛くて毛づくろいが出来なかったみたい。
毛づくろいをすると、ストレス解消にもなる。
毛づくろいと日向ぼっこをすることで、毛の艶と健康が保たれる。
猫にとって毛づくろいは、とっても大切なことなんだよ。
しばらくすると、猫たちは猫会議をするようになった。
イチモツの集落の先住猫たちとイヌノフグリの集落の新入り猫たちは、それぞれ離れたところで猫会議をしている。
まぁ、これは予想出来たよね。
猫会議は、仲良しの猫同士で集まる。
ほとんどの猫は警戒心が強いから、人見知りをする。
猫だから、猫見知りって言うのかな?
人間だって初対面の相手はどんな人か分からないから、緊張するよね。
どんな動物も初めて会う相手や新しい環境に慣れるには、それなりに時間が掛かる。
それが、当たり前なんだ。
無理に仲良くさせようとか、慣れさせようとしても出来ない。
猫にもコミュニケーション能力が高い陽キャな猫と、臆病な陰キャの猫がいる。
慌てず焦らず無理せず、先住猫と新入り猫が仲良くなってくれるまで待つしかない。
今のところ、ケンカしたり威嚇したりする様子は見られないから大丈夫かな。
先住猫と新入り猫が同じ場所で過ごしているうちに、お互い少しずつ警戒が解けてだんだんと仲良くなっていくと思う。
ぼくに出来ることと言ったら、みんなが仲良くなってくれるまで温かく見守ることくらいだ。




