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ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話  作者: 橋元 宏平


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第54話 新たなる旅立ち

 ミケさんを看取(みと)り、次の(おさ)も茶トラ先生に決まり、集落(しゅうらく)でやるべきことは全部やった気がする。

 これで、心置(こころお)きなく、旅へ出られる。

 やっと、グレイさんと会えるんだ。

走査(そうさ)』! グレイさんの場所を教えてっ!


対象(たいしょう):食肉目イヌ科イヌ属トマークトゥス』


個体名(なまえ):グレイ』


位置情報(いちじょうほう):右折20m、直進150m、左折10m先』


 いつもありがとう、『走査(そうさ)

走査(そうさ)』が教えてくれるおかげで、迷わずにグレイさんを見つけることが出来て、本当に助かっているよ。

 ぼくは『走査(そうさ)』の案内に(したが)って、グレイさんの元へ向かった。


「グレイさん! 会いに来たミャッ!」

『おおっ、シロちゃん! やっと来てくれたかっ! 待ちかねていたぞっ!』


 お昼寝していたらしいグレイさんは、ぼくを見るとガバリと勢いよく起き上がって抱き付いてきた。

 ぼくの顔をペロペロ()めながら、千切(ちぎ)れそうなくらいしっぽを振って(よろこ)んでいる。


『会いたかった。シロちゃんと会えない間、ずっと(さび)しくて仕方なかったんだ。会えて、とっても(うれ)しいよ』

「ぼくも、ずっとグレイさんに会いたかったミャ」

『シロちゃんが会いに来れたということは、あの長老(ちょうろう)()くなってしまったのだな……』

「うん。ミケさんはとっても優しくて、良い長老だったミャ」

『シロちゃんの集落は、良い集落だ。もちろん、集落を最期(さいご)まで守り抜いた長老も良い猫だろう。ちゃんと、長老の最期を看取ることは出来たか?』

「出来たミャ。ミケさんは『グレイさんを受け入れてあげられなくて悪かった』って、言っていたミャ。きっとミケさんは、グレイさんとお友達になりたかったんだと思うミャ。でも集落の(おさ)としての立場があるから、仲良く出来なかったと後悔していたミャ」

『そうか……。長老の気持ちを知れただけで、嬉しいよ。教えてくれてありがとう、シロちゃん』


 そう言って、グレイさんは()れやかに笑った。


 ฅ^•ω•^ฅ


「いってらっしゃいニャ~。くれぐれも、気を付けてニャ~」

「元気でニャア」

「早く帰ってきてニャン」


 ミケさんが亡くなってから、数日後。

 ぼくとお父さんとお母さんの3匹の猫は、集落の猫たち全員にお見送りされて旅へ出ることになった。


「行ってきますミャ。皆さんも、どうかお元気でミャ」


 ぼくは猫たちに向かって大きく両手を振りながら、集落を旅立った。

 前回の旅では、集落から真っ直ぐ走って行って、森の外に何があるのかを見に行ったけど。

 今回の旅の目的は、イチモツの森を調べようと思っている。

 イチモツの森の中に、猫の集落がどれだけあるのかを知りたい。


 ぼくたち猫は基本的に、集落を出て狩場(かりば)で狩りをするんだけど。

 狩場の広さは、だいたい半径500m

 ほとんどの猫は狩場を出ることがないから、外の世界を知らないんだよね。


 他の集落を訪ねて、色んな猫に会ってみたい。

 集落にお医者さんがいたら、話をしたい。

 お医者さんがいなかったら、薬草の作り方と使い方を教えたい。

 ケガや病気で苦しんでいる猫がいたら、助けたい。

 やりたいことが、いっぱいだ。


 それに今回の旅には、グレイさんがついて来てくれる。

 グレイさんは集落に入れないので、集落の外で待ち合わせをして途中で合流する約束をしている。

 待ち合わせ場所では、グレイさんがしっぽを大きく振りながらおすわりをして待っていた。


「グレイさん、お待たせミャ!」

『シロちゃん! ようやく一緒に旅へ出られるんだなっ! この日を、どれだけ待ちかねていたことかっ!』


 グレイさんは散歩を待ち侘びていた犬みたいに大喜びで、ぼくに体をすり寄せた。

 ぼくもグレイさんに、体をスリスリする。


「ぼくもグレイさんと旅に出られるのを、とっても楽しみにしていたミャ」

『猫の集落を訪ねて回ると聞いているが、本当にオレがついて行って大丈夫だろうか?』

「大丈夫ミャ。ぼくがなんとかして、グレイさんを助けるミャ」

『シロちゃんは可愛いだけじゃなくて、(たの)もしいな。だったらオレは旅の間中、シロちゃんとお父さんとお母さんを守ってみせるぞ』

「みんなで助け合うミャ」

『もちろんだとも』


 お父さんとお母さんは、ぼくとグレイさんのやり取りを見て微笑(ほほえ)ましそうに笑っている。


「本当に、シロちゃんとグレイさんは仲良しさんニャー」

「グレイさん、どうかよろしくお願いしますニャ」


 こうしてぼくたち4匹は、新たな旅へと出掛けた。

 イチモツの集落の近くには、イヌノフグリの集落がある。

 イヌノフグリの群生地(たくさん生える場所)だから、名付けたという。


 イヌノフグリの開花時季(かいかじき)は、3月~5月。

 ちょうど、花が見頃(みごろ)(むか)えている頃じゃないかな。

 名前はアレだけど、花はちっちゃくって可愛いんだよね。


 イヌノフグリの集落には、2回(おとず)れたことがある。

 |猫風邪《ネコカリシウイルス感染症》と秋の花粉症(かふんしょう)で、苦しんでいた猫たちの治療をおこなった。


 今頃、イヌノフグリの集落の猫たちは元気だろうか。


「お父さん、お母さん。この近くにイヌノフグリの集落があるんだけど、覚えているミャ? ちょっと立ち寄って、軽く挨拶(あいさつ)していきたいんだけどいいミャ?」

「シロちゃんが行くなら、一緒に行くニャー」

「私たちはシロちゃんが行きたいところなら、どこでもついて行くニャ」


 お父さんとお母さんは笑顔で、ぼくの案を受け入れてくれた。

 グレイさんにも簡単に事情を説明すれば、大きく(うなづ)いてくれた。


『もちろん良いぞ。オレは猫たちを怖がらせないようにここで待っているから、3匹で行って来てくれ』

「ありがとうミャ。じゃあ、グレイさんはここで待っててミャ。何かあったら、知らせに来るミャ」

『何かあったら、早めに教えてくれ。いってらっしゃい』

「分かったミャ。いってきますミャ」


 グレイさんに見送られて、ぼくとお父さんとお母さんの3匹はイヌノフグリの集落へと向かった。

 イヌノフグリの集落は、以前とは異なる光景が広がっていた。

 一面(いちめん)に咲いていたと思われるイヌノフグリの花が、グチャグチャに()()らされている。

 踏み荒らされた草花(くさばな)の上に、数匹の猫が倒れていた。

 近くに倒れていた猫へ駆け寄って、声を掛ける。


「大丈夫ですミャッ? 何があったんですミャッ?」

「うぅ……、仔猫(こねこ)のお医者さんニィ……? ヒアエノドンの()れが、(おそ)ってきたんだニィ……」


 傷付いた猫は、悲しみと(くや)しさが混ざった顔でそう言った。

 イチモツの集落を襲ったヒアエノドンの群れは、グレイさんが追い払ってくれた。

 おそらくヒアエノドンの群れは、イヌノフグリの集落に標的を変えたんだ。

 猫たちは傷だらけだったが、みんなヨモギやアロエで治療されていた。

 薬の作り方を教えていなかったら、死んでいたかもしれない。


 イヌノフグリの集落の猫は、ずいぶん減ってしまった。

 勇敢(ゆうかん)な猫たちや(おさ)は、弱い猫たちを逃がす為に、ヒアエノドンに立ち向かって亡くなったらしい。

 生き残った猫たちも、みんな傷だらけで弱っている。

 狩りが出来る猫も、おさもいない今。

 ぼくたちが旅立った後に、全滅(ぜんめつ)しかねない。

 かといって、傷付いた猫たちを旅に連れて行くことも出来ない。


 困り果てたぼくは、お父さんとお母さんに相談してみる。


「お父さん、お母さん、どうしたらいいと思うミャ?」

「このままでは、みんな死んじゃうニャー」

「だったら、イチモツの集落へお引っ越しさせたらどうニャ? イチモツの集落には、茶トラ先生がいるから安心ニャ」

「お母さん、(かしこ)いミャ!」


 猫たちの安全を考えるなら、イチモツの集落へお引っ越ししてもらった方が良い。

 イチモツの集落からイヌノフグリの集落の距離は、そう遠くない。

 歩ける猫は、ゆっくりでも良いから自分で歩いてもらう。

 歩けない猫は、他の猫たちに運んでもらおう。


 一番大事なことはイヌノフグリの集落の猫たちが、この土地から離れられるかどうか。

 あと、イチモツの集落の猫たちが、この猫たちを受け入れてくれるかどうかだ。


 猫は、環境の変化を嫌う生き物。

 ちょっと部屋の模様替もようがえするだけでも、猫にとっては大きなストレスになるんだよ。

 人間だって、生まれ故郷や住み()れた環境があるでしょ?

 愛着(あいちゃく)のある場所からお引っ越しするのは、(せつ)ない気持ちになるよね。


 猫だって、()()れた縄張(なわば)りから離れるのは切ないんだ。

 あとはどうにかして、猫たちを説得(せっとく)するしかないな。

 ぼくは生き残った猫たちに、お願いする。


「皆さん、イチモツの集落へお引っ越ししてくれませんミャ?」

「この集落から離れたくないニィ」


 猫たちはみんな、首を横に振った。

 ぼくはみんなに向かって、懸命(けんめい)(たの)み込む。


「皆さんが、ここから離れたくない気持ちはとても良く分かりますミャ。ですがここにいたら、またヒアエノドンの群れが戻ってきて、みんな食べられてしまうかもしれませんミャ。イチモツの集落にはたくさんの猫がいますから、ここよりずっと安全ですミャ」


 ぼくの話を聞いた猫たちは戸惑(とまど)った顔で、お互いに顔を見合わせている。

 猫たちはしばらく話し合った後、ぼくに向かって笑い掛けてくる。


「シロちゃんは、何度もボクらを助けてくれたニィ。だから、シロちゃんの言う通りにするニィ」

「ここを離れるのはとっても(さび)しいけど、死にたくないニャン」

「ありがとうございますミャ!」 


 ぼくの説得の甲斐(かい)あって、イヌノフグリの集落の猫たちはイチモツの集落へお引っ越しすることになった。

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