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ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話  作者: 橋元 宏平


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第53話 ボス猫の条件

 ぼくにとってミケさんは、おばあちゃんのような存在だった。

 いつも(やさ)しくて、ぼくが悪いことをしたらちゃんと(しか)ってくれた。

 お父さんやお母さんと同じくらい、大好きだった。

 かけがえのないミケさんが()くなったことは、やっぱりとても悲しかった。


 野生の猫の寿命(じゅみょう)は、長くても5歳。

 長く生きられないことは、最初から知っていた。

 分かっていても、悲しいものは悲しい。


 旅の途中(とちゅう)で、何度か猫が死ぬところを見たけれど。

 ミケさんを失った悲しみは、あの時の何倍も大きい。

 ぼくはまだぬくもりが残るミケさんのご遺体(いたい)に抱き着いて、大声で泣きじゃくった。


 集落(しゅうらく)の猫たちもミケさんが命を落としたことを知り、深く悲しんでいる。

 みんなも、ミケさんの死を()しんでいた。


 穴掘(あなほ)りが得意な猫たちは、ミケさんを()める穴を()ってくれた。

 猫たちは協力(きょうりょく)して、ミケさんを穴の中に入れた。

 ぼくはたくさんお花を()んできて、ミケさんを囲んだ。


 花を(ささ)げるのは亡くなった相手の冥福(めいふく)(死後の幸せ)を祈る気持ちを込めた、最期(さいご)(おく)り物だそうだ。

 花を捧げるぼくを見て、猫たちは不思議そうに首を(かし)げていた。

 説明をしても、猫たちにはきっと分からないだろう。

 お葬式(そうしき)をするのは、人間だけだから。


 集落の猫たちが、ミケさんに土を掛けて埋めていく。

 少しずつ、ミケさんの体が見えなくなっていく。

 ミケさんの体が完全に見えなくなるまで、目を離せなかった。

 ミケさんの姿を見られるのは、これが最後だから。


 ミケさんが亡くなってから、涙が止まらない。

 思い返せば、ぼくは小さい頃からミケさんに心配や迷惑ばかり掛けていた。

 ぼくは優しいミケさんに甘えてばかりで、何も(おん)を返せなかった。


 もっと、一緒にいたかった。

 もっと、側にいてあげれば良かった。

 いくら()いても、もう遅い。

 

 だけど最期を看取ることが出来て、本当に良かった。

 看取ることが出来なかったら、きっともっと後悔していたから。


 「シロちゃん、大丈夫ニャ? 毛づくろいしてあげるニャ」


 涙でぐしょぐしょになってしまったぼくを心配して、お母さんが優しく(なぐさ)めてくれた。

 お父さんも、ぼくの頭を()で撫でしながら言う。


「ミケさんは、仲間想いのとっても優しくて立派な長老だったニャー。早く次の集落の(おさ)(リーダー)を、決めなきゃいけないニャー」


 お父さんが言う通り、悲しんでばかりもいられない。

 集落を守る為には、次の(おさ)を決めなければならない。

 全員集まって「誰が次の(おさ)になるべきか」を、真剣に話し合い始めた。

 集落の(おさ)、つまり、「ボス猫」になるにはさまざまな条件がある。


 ①勇気があること。

 敵を(おそ)れず、逃げるどころか(みずか)ら立ち向かっていく勇気を持っていなければならない。


 ②信頼(しんらい)されていること。

 仲間をまとめる役割(やくわり)があるから、みんなから信頼(しんらい)されていなければならない。


 ③精神(メンタル)肉体(フィジカル)が強いこと。

 集落を守る為には、心も体も強くなければならない。


 ④縄張(なわば)り意識が強いこと。

 誰よりも集落を愛し、仲間を守りたい気持ちが強くなければならない。


 ⑤恐れられること。

 仲間から一目置(いちもくお)かれる(誰よりも(すぐ)れていると思われる)くらい顔や体が大きく、強くなければならない。


 ⑥優しいこと。

 誰かが困っていたら、すかさず助ける優しさを持っていなければならない。


 ⑦安心させられること。

 いつも仲間や周囲に気を配り、みんなが安心して暮らせる環境(かんきょう)を作らなくてはならない。


 理想(りそう)のボス猫になるには、たくさんの条件があるんだ。

 ボス猫=オスというイメージがあるけど、条件さえ()たしていればオスメスは関係ない。


 (おさ)がいないと、集落の猫たちは安心して暮らすことが出来ない。

 (おさ)が亡くなったら、なるべく早く次の(おさ)を決める必要があるんだ。


 集落の猫たちは「誰が(おさ)相応(ふさわ)しいか」と、頭を(なや)ませているようだ。

 ぼくは黙って、みんなの話を聞いていた。

 ぼくは集落を守ってくれるなら、正直誰でも良いと思っている。


 それに、ぼくが選ばれることは絶対ないと分かっている。 

 だってぼくは、条件を()たしていないからね。

 生まれつき病弱(びょうじゃく)で、体が小さい。

 心も体も弱いから、逆にみんなから守られている。

 集落は愛しているけど、信頼(しんらい)はされていないんじゃないかな?

 だから、ぼくは絶対に選ばれない。


 ฅ^•ω•^ฅ


「シロちゃんは、どうニャ~?」と、茶トラ先生が笑いながら言った。

 そのひとことで、みんなの視線(しせん)がぼくに集まる。

 予想外(よそうがい)の展開に、めちゃくちゃビックリした。


「ぼ、ぼくですミャッ?」

「シロちゃんはとっても良い子で、お医者さんとしてもとっても優秀(ゆうしゅう)ニャ~。体が小さくても頑張(がんば)って狩りへ行くし、みんなから信頼(しんらい)されているニャ~。あのトマークトゥスを(したが)える、強さと勇気も持っているニャ~。だから、私はシロちゃんを推薦(おす)ニャ~」


 茶トラ先生の話を聞いて、他の猫たちが「ニャるほど、確かに」と納得(なっとく)した顔で何度も(うなづ)いている。

 いやいや、ぼくは集落の(おさ)になる気なんてないんですけどっ?


「シロちゃん、(おさ)になってくれないかニャ~?」

「ぼくが(おさ)になるなんて、絶対無理ですミャッ!」


 まさかのご指名(しめい)に、何度も首を横に振る。

 だってぼくは、(おさ)になれるような(うつわ)(その地位(ちい)にふさわしい才能を持っている者)じゃない。

 それに、この集落には、ぼくより年上の猫たちがたくさんいる。


「みんなから信頼されている」という点なら、茶トラ先生の方が相応(ふさわ)しい。

 誰よりも優しく、お医者さんとしてケガや病気を治し、みんなから必要とされている。


「ぼくは、茶トラ先生を推薦(おし)ますミャ」

「でも私はイチモツの木に登ることが出来なかった、弱い猫だからニャ~」


 茶トラ先生は、困り顔でそう言った。

 イチモツの集落の決まりで、1歳を(むか)えた猫は「成獣(おとな)儀式(ぎしき)」を受けなければならない。

 イチモツの木を登り、その実を取って来た猫だけが「立派な成獣(おとな)」と(みと)められる。

 猫神(ねこがみ)から特別な力を(さず)かる。


 ぼくもイチモツの実を食べて、『走査(そうさ)』を授かった。

 お父さんもイチモツの実を食べて、狩りが上手で動物に(くわ)しくなった。

 他にもイチモツの実を食べて、強くなった猫がたくさんいる。


 だけど、イチモツの木に登れない弱い猫もいる。

 弱い猫は、力を()られないばかりか、ひとりで集落の外へ出ることも(ゆる)されない。

 単純に弱い猫が集落を出たら、天敵に(ねら)われやすいからって理由なんだけどね。


 イチモツの木に登れなかった茶トラ先生は、ほとんど狩りをしたことがないそうだ。

 そこで茶トラ先生は「せめてみんなの助けになりたい」と、お医者さんになったそうだ。

 ちょうど先代(せんだい)のお医者さんも、次のお医者さんになってくれる猫を探していた頃だったらしい。


「それに、イチモツの集落を守ってくれているのは、あのトマークトゥスニャ~。あのトマークトゥスを(したが)えているのは、シロちゃんニャ~」

「そんなこと言われましても……。ぼくは近いうちに、グレイさんと一緒に旅へ出る約束をしているんですミャ。ぼくが旅へ出たら、誰が集落を守るんですミャ? それにグレイさんを『従えている』なんて言い方は、やめて下さいミャ。グレイさんは、ぼくの大事なお友達ですミャ」

「気を悪くしたなら、すまなかったニャ~。シロちゃんのお友達を、バカにしたつもりはないニャ~。集落を守れる力を持っているシロちゃんが、(おさ)になるのが相応(ふさわ)しいと思っただけニャ~」


 茶トラ先生は申し訳なさそうに謝り、深々とため息を吐いた。


 話し合いの結果、茶トラ先生が集落の(おさ)になることが決まった。

 茶トラ先生は「私なんかでいいのかニャ~」と、困り顔で言っていたけど。

 茶トラ先生がお医者さんとして今まで集落を守ってきたことを、みんなが知っている。


 それに茶トラ先生は、誰よりもみんなのことを知っている。

 みんなも、誰よりも優しい茶トラ先生が大好きなんだ。

 茶トラ先生が弱くても、他の強い猫たちが外敵(がいてき)から集落を守れば良い。


 誰だって得意なこと、不得意なことがある。

 今までだって集落に()む仲間同士で、支え合って暮らしてきたじゃないか。

 これからも、みんなで助け合って生きていけば良いんだ。

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