第45話 種族の壁を超えて
お父さんとお母さんと3匹で森の中を歩き回って、獲物を探す。
角が生えている動物だったら、なんでも良い。
『走査』はぼくが困った時に、自動的に発動することが多いんだけど。
狩りの時は、発動しない。
ぼくが狩りの時は、『走査』に頼りたくないと思っているからだ。
そもそも、『走査』の発動条件ってなんだろう?
『走査』はイチモツの木から与えられた特別な力だけど、実は良く分かっていないんだよね。
『走査』で『走査』を調べてみたら、何が分かるんだろう?
そういえば、今まで考えたことがなかったな。
教えて、『走査』
『走査とは、対象から情報を得たり、対象の持つ情報を再生することである』
『猫神から授かった猫のみが、その力を行使(使うことが)出来る』
ぼくが「お医者さんになりたい」と願ったから、『走査』の能力を授けられた。
この力は、ぼくしか使うことが出来ない。
目新しい情報は、何もないな。
それだけでもう、十分ではあるんだけど。
ぼくがそんなこと考えていると、お父さんとお母さんが立ち止まった。
ふたりはぼくを後ろに庇い、木の陰に隠れる。
お父さんが小さな声で、教えてくれる。
「シロちゃん、シンテトケラスがいるニャー」
見れば、木の葉っぱをモシャモシャと食べているシカのような動物がいた。
ちょうど、シカの角と骨が欲しかったんだ。
「油断している今が、チャンスニャー。3匹で、一斉に襲うニャーッ!」
お父さんが木の陰から飛び出したので、ぼくとお母さんも後に続く。
飛び出してきたぼくたちを見て、シンテトケラスは驚いて逃げ出すがもう遅い。
お父さんがシンテトケラスの後ろ足に噛み付くと、シンテトケラスは痛みでその場に崩れ落ちるように倒れる。
急所の首元に喰らい付いて、仕留めた。
「さぁ、みんなで食べるニャー」
「いただきますニャ」
「いただきますミャ」
捕れたてのシンテトケラスのお肉は、牛肉みたいでとっても美味しかったです。
ฅ^•ω•^ฅ
ぼくとお父さんとお母さんの3匹は、シンテトケラスを集落へお持ち帰りした。
「みんなー! シンテトケラスを、お土産持って帰って来たニャーッ!」
お父さんが大きな声で言うと、猫たちが嬉しそうに集まって来る。
みんな「うみゃいうみゃい」と、大喜びでお肉を食べてくれた。
さて、問題はここからだ。
どうやって、骨と角を回収するか。
猫は犬のように、太い骨を食べない。
細い鳥の骨くらいなら、噛み砕くことが出来るけど。
鋭く尖った骨が喉や胃などに刺さってしまうことがあるから、とっても危険。
だから、骨が付いているエサは猫に食べさせちゃダメだよ。
ちなみに、草原の掃除屋さんのハイエナは骨まで食べるらしい。
ハイエナは顎の力が人間の約7倍もあって、太い骨もバキバキ噛み砕く。
超強力な胃腸を持っていて、骨も消化して栄養として吸収することが出来るそうだ。
ハイエナは、スゴイ。
そんなことを考えながら、集落のみんながお肉を食べ終わるまで待った。
猫たちが食後の顔を洗っている間に、骨と角を回収する。
さすがに全部は持っていけないから、手頃なサイズを選ぼう。
グレイさんは、どのサイズの骨が齧りやすいのかな?
ちょっとお肉が残っている骨もあったら、喜んでくれるかな?
適当に数本選んで、植物の蔓で縛って束ねた。
あとはこれを背負って、グレイさんの元へ持って行けばいいだけだ。
だけどまたグレイさんに会いに行くって言ったら、絶対止められるよね。
かといって、黙って出て行ったらみんなに心配を掛けちゃう。
ウソは吐きたくないし心配も掛けたくないし、どうしよう。
あれこれ悩んだ後、お父さんとお母さんに正直に相談することにした。
「あのね、お父さん、お母さん……。この骨と角なんだけど、グレイさんにプレゼントしたいミャ。だから、行ってきてもいいミャ?」
「グレイさんっていうのは、シロちゃんとお友達になったトマークトゥスニャー?」
「シロちゃんがひとりで集落の外へ行くのは危険だし、とっても心配ニャ」
「だったら、私たちも一緒に行くニャー」
え? お父さんとお母さんも付いて来るのっ?
グレイさんは喜んでくれると思うけど、お父さんとお母さんは大丈夫かなぁ?
ふたりが「どうしても行く」と言うので、3匹でグレイさんに会いに行くことになった。
じゃあ道案内をお願い、『走査』
『走査開始』
『対象:食肉目イヌ科イヌ属トマークトゥス』
『個体名:グレイ』
『位置情報:直進600m、右折90m、直進200m』
「これからグレイさんがいるところへ行くから、ついて来てミャ!」
「わ、分かったニャー……」
「トマークトゥスは怖いけど、シロちゃんをひとりで行かせるのはもっと怖いからニャ……」
ふたりとも、グレイさんと会うのが怖いらしい。
ぼくだって、グレイさん以外のトマークトゥスは怖い。
でも、グレイさんは怖くない。
お父さんとお母さんにも、グレイさんは怖くないって知って欲しい。
お土産の骨と角を背負って、グレイさんがいる場所へ向かって駆け出した。
ฅ^•ω•^ฅ
『目的地周辺に到着、案内終了』
『走査』の案内通りに走ると、無事にグレイさんがいるところへ辿り着けた。
いつも案内ありがとう、『走査』
「グレイさん!」
目を閉じて伏せていたグレイさんに、声を掛ける。
途端にグレイさんの両耳がぴょこんと立ち、しっぽをブンブン振り出す。
『シロちゃん! 待っていたぞっ! また会いに来てくれて、とっても嬉しいなっ!』
「ぼくも、グレイさんに会いたかったミャ!」
『そうか! シロちゃんも、そんなにオレと会いたくて仕方なかったのか! だったら、ずっとオレの側にいてくれっ!』
グレイさんは嬉しそうに笑い、両前足でぼくを抱き寄せて顔をペロペロと舐め始めた。
犬科の動物が顔を舐めるのは、愛情表現。
猫が相手の毛づくろいをするのも、愛情表現。
ぼくたちは違う動物だけど、愛情表現は同じなんだ。
お互いに舐め合いながら、ぼくはグレイさんに話し掛ける。
「そうミャ。グレイさんに、会わせたい猫がいるミャ」
『なに? シロちゃんのお友達を紹介してくれるのか?』
「お友達じゃないミャ、ぼくのお父さんとお母さんミャ」
そう言いながら振り返ると、ふたりの姿はなかった。
あれ? 逃げた?
「お~いっ、お父さ~ん! お母さ~んっ! どこ行ったミャ~?」
良く見れば、ふたりとも木の陰に隠れている。
こちらを見ながら、ガクガクブルブルと震えている。
「ほ、本当に、トマークトゥスニャー……。怖いニャー……」
「し、シロちゃんが、トマークトゥスに味見されているニャ……」
やっぱりトマークトゥスと猫が種族の壁を超えて仲良くなるのは、難しいのかもしれない。
【|Synthetocerasとは?】
今から2300万年くらい前に、生息していたと言われているラクダの祖先。
シカっぽい見た目だけど、ラクダの親戚。
草原や林に棲んでいた、草食動物。
シカのように頭の上に2本の角が生えていて、さらに鼻の上にもY字型の角が生えている。
鼻の上の角はメスへのアプローチ用で、オスにしか生えていない。
推定体長2m。
体重は不明。




