第40話 老猫がかかりやすい病気
旅の間、気になっていたことがもうひとつ。
それは、ミケさんの健康だ。
お年寄りの灰白猫と出会った時から、ミケさんが心配で仕方がなかった。
無意識に、灰白猫とミケさんを重ねていた。
灰白猫は、クッシング症候群と腎不全だった。
どちらも高度な医療技術や特殊な治療が必要で、ぼくには治せない病気だった。
猫も人間と同じように年を取ると体が弱って、病気に罹りやすくなる。
猫は元気そうに見えても、実は病気を隠していることがある。
パッと見た感じ元気そうなミケさんも、何か重大な病気に罹っているかもしれない。
ミケさんはイチモツの木がお気に入りで、イチモツの木の下でお昼寝していることが多い。
ぼくが近付くと、ミケさんは目を覚ましてニッコリと笑う。
「おや、シロちゃん。ワシに何か用かにゃ?」
「おやすみのところ、すみませんミャ。ミケさんの体を、診察させてもらえませんミャ?」
「診察? どこも悪いところはないけど、シロちゃんに任せるにゃ」
ぼくはミケさんの許可を得て、『走査』してみる。
『病名:慢性腎臓病、歯周病、関節炎、便秘』
『慢性腎臓病の処置:降圧薬・利尿薬・活性型ビタミンD・クレメジンなどの投与』
『歯周病の処置:歯垢の除去、歯石の除去、歯磨き、抗生物質の投与』
『関節炎の処置:非ステロイド消炎鎮痛剤・コラーゲン・グルコサミン・コンドロイチンなどの投与』
『便秘の処置:食物繊維や乳酸菌やオリゴ糖の摂取、水分摂取、適度な運動、便秘薬の投与』
うわぁ……、病気でいっぱいだ。
だけど、高度な医療が必要でなければ、ぼくでもなんとか出来るはずだ。
降圧薬、利尿薬、抗生物質、鎮痛剤、便秘薬は、全部ヨモギでいける。
ビタミンDは肉に含まれているから、肉を食べさせれば良い。
クレメジン、コラーゲン、グルコサミン、コンドロイチン、食物繊維、乳酸菌、オリゴ糖は、たぶん栄養補助食品かな?
『クレメジンの概要:尿毒症症状(食欲不振、痒み、吐き気、口臭など)を改善する吸着炭』
吸着炭なんて知らないし、手に入らないよ。
歯垢の除去や歯石の除去は、歯科技術や専用の道具がないと無理だ。
あと、栄養補助食品も手に入らないし……。
いや? 待てよ?
猫草を食べさせれば、良いんじゃないか?
胃腸を整えたり毛玉を出したり、ビタミンや食物繊維が摂れたはず。
食感が良い猫草は、良く噛むから歯にも良さそう。
さっそくミケさんに、ヨモギと猫草を食べさせよう。
猫は、体の不調を隠す動物と言われている。
自然界では、弱ったものから天敵に喰われる。
ヒョウ兄貴もケガを隠して、痩せ我慢をしている猫だった。
きっとミケさんも、病気を隠しているんだ。
ミケさんが茶トラ先生に診察されているところを、見たことがない。
たぶん茶トラ先生も、ミケさんの病気に気付いていない。
もしかしたらケガや病気を隠している猫が、他にもいるかもしれないな。
何はともあれ、苦しんでいる猫は放っておけない。
ミケさんには、いつまでも元気で長生きして欲しいから。
「ミケさん、ヨモギのお薬を作りましたので、飲んで下さいミャ」
「お薬にゃ? ワシはどこも、悪いところはないけどにゃ」
「ミケさん、あちこち具合が悪いでしょうミャ? 隠しても、お医者さんのぼくには分かりますミャ」
「やれやれ……、シロちゃんにはかなわないにゃ」
ミケさんは諦めた顔で、ヨモギの薬を飲んでくれた。
「あと、おやつに猫草も食べて下さいミャ」
「猫草は、味しいけど、たくさん噛まなきゃいけないから、顎が疲れちゃうにゃ」
もともと猫は、食べ物をあまり噛まずにすぐに飲み込んでしまう。
でも猫草だけは、食感を楽しむ為に良く噛んで食べる。
だけど年を取ると、顎の筋肉が衰えて噛めなくなる。
噛まないと、歯周病は悪くなる一方だ。
「おやつに、食べるだけで充分ですからミャ。一緒に、食べましょうミャ」
「はいはい、分かったにゃ」
猫草を差し出すと、ミケさんは苦笑して猫草をシャクシャクと食べ始めた。
一緒におやつの猫草を食べながら、ミケさんに問いかける。
「なんで、病気を隠しているんですミャ?」
「みんなに、心配をかけたくないからにゃ……」
ミケさんは猫草を噛みながら、ぽつりと言った。
ミケさんも集落の猫たちも、優しい猫だからな。
ミケさんが病気だと知ったら、みんな心配するだろう。
心配をかけたくないという気持ちは、分かる。
だけど、黙って病気を悪化させて、早く死なれた方が悲しい。
ぼくは、ニッコリと優しく笑いかける。
「だったら、ぼくとミケさんだけの秘密にしましょうミャ。ぼくがミケさんの担当医になりますからミャ」
「やっぱり、シロちゃんには、かなわないにゃ」
ミケさんはちょっと驚いた顔をした後、声を立てて笑い出した。
ฅ^•ω•^ฅ
旅をしてたくさんの猫と出会い、色んな経験をして世界を知った気になっていたけれど。
ぼくが見たのは、世界のほんの一部にすぎないんだと気付いた。
ぼくはまだまだ、この世界のことを知らなすぎる。
イチモツの森に何があるのかも、しっかり調べてみたい。
もっとたくさんの薬草や病気を学んで、もっと猫を救いたい。
だから、いつかまた旅に出よう。
ミケさんと話を終えた後、今度は茶トラ先生のところへ行った。
「茶トラ先生、お話ししたいことがあるんですミャ」
「シロちゃん、どうしたニャ~? お話しって何かニャ~?」
ぼくは茶トラ先生に、旅の途中で知った病気や薬草について詳しく説明した。
茶トラ先生は真剣な表情で、ぼくの話を聞いてくれた。
「この世界には、ヨモギ以外にも、薬草がたくさんあるんだニャ~。ヨモギが効かない病気もあるなんて、知らなかったニャ~」
茶トラ先生はニコニコ笑いながら、ぼくの頭を撫でた。
「今度は、私がシロちゃんから教わる番みたいだニャ~。これからもよろしくニャ~、仔猫のお医者さん」
ฅ^•ω•^ฅ
イチモツの集落にも、冬が来る。
雪が降り、どこもかしこも真っ白。
集落の猫たちは、日の当たるあったかい場所に集まって猫団子になっている。
猫団子っていうのは、猫がたくさん集まってくっついていること。
猫は寒さに弱いから、猫団子になってあっため合うんだ。
それに猫は、ふわふわもこもこしたものが好き。
猫はあったかくて、ふわふわで触り心地が良い。
特に仲良しの猫たちは、いつもくっついている。
ぼくも大好きなお父さんとお母さんと、よくくっついている。
ふたりにくっついて、スリスリしてゴロゴロ喉を鳴らす。
「シロちゃんは、甘えたさんで可愛いニャ」
「シロちゃんは、いつまでも可愛いニャー」
ふたりはそう言ってゴロゴロ喉を鳴らし、ぼくをペロペロ舐めて毛づくろいをしてくれる。
ぼくもお返しに、ふたりに毛づくろいをする。
みんな寒くて動きたくないから、猫団子になってずっと寝ている。
冬は寒いから、旅はおやすみ。
春になったら、またどこかへ行こうね。




