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ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話  作者: 橋元 宏平


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第31話 兄貴のプライド

 ぼくたち家族が川に沿()って歩いていると、猫の()れが狩りをしているところに()くわした。

 シカのような動物を、数匹で追いかけ回している。

 ヒョウ(がら)猫がシカの足に飛びかかると、シカが大きく(ころ)んだ。

 続いて別の猫たちも飛びついて、素早(すばや)仕留(しと)めた。


「お~、スゴイニャー! みんな、上手ニャーッ!」


 狩りが得意なお父さんも、猫たちの見事(みごと)連携(れんけい)を見て感心している。

 狩りは、チームワークが大事だからね。

 猫たちは仕留(しと)めたばかりのシカを、美味しそうに食べ始めた。


 ぼくたちはさっき、アルケオテリウム(イノシシ)を食べたところなのでおなかは空いていない。

 それに他の猫のれが仕留(しと)めた獲物(えもの)を、ぼくたちがおこぼれにあずかるのもおかしな話だ。

 ぼくたちは、猫たちの食事が終わるのを待った。

 ひとしきり食べて、お土産(みやげ)にしようと運び始めた猫たちに話しかける。


「初めまして、こんにちはミャ」

「こんにちはにゃん。初めて見る仔猫(こねこ)にゃん、どこの子にゃん?」


 最初にシカに飛びかかったリーダーらしきヒョウ柄猫は、ぼくを見て首を(かし)げた。


「ぼくは、お父さんとお母さんと3匹で旅をしていますミャ。先程のあなたたちの狩りを、見させてもらいましたミャ。とってもカッコ良かったですミャ。狩りが得意なぼくのお父さんも、()めていましたミャ」

「そ、そう? まぁ、オレくらいになれば、このくらい余裕(よゆう)にゃん。良かったら、オレの縄張(なわば)りに来るにゃん? オレのカッコイイ話を、聞かせてあげるにゃん」


 ヒョウ柄猫は、()められるのに弱いらしい。

 ちょっと()めたら、めちゃくちゃご機嫌になって縄張りへ招待(しょうたい)してくれた。

 お父さんとお母さんは他の猫たちと一緒に、お土産(みやげ)を運ぶのを手伝った。

 ヒョウ柄猫は、得意げに自己紹介してくる。


「オレの名前は、ヒョウ。気軽に、ヒョウ兄貴(あにき)と呼んでくれにゃん。お前は?」

「ぼくは、シロですミャ。よろしくお願いします、ヒョウ兄貴」

「そうか、シロちゃん。良い名前にゃん。こちらこそ、よろしくにゃん」


 ヒョウ兄貴は、ぼくの頭を()()でしてくれた。

 キジブチとは違うタイプで、面倒見(めんどうみ)が良い猫のようだ。 

 いわゆる、兄貴肌(あにきはだ)行動力(こうどうりょく)があって、(たよ)りがいのあるタイプ)。

 ヒョウ兄貴の案内で、縄張りに()いた。


「シロちゃん、ここがオレらの縄張りにゃん。お~いっ、お前ら~! お土産(みやげ)持って帰ってきたにゃ~んっ!」


 ヒョウ兄貴が声を張り上げると、縄張り中の猫たちが集まって来た。

 狩り仲間の猫たちが持って帰ったお土産(みやげ)を、大喜びで食べ始めた。

 ヒョウ兄貴は、食べる猫たちを(うれ)しそうに(なが)めながらぼくにも声をかけてくる。


「シロちゃん、お前も食べて良いにゃん」

「ぼくたちは、さっき食べたばかりなので、おなかは空いていませんミャ。ところで、この縄張りには、お医者さんはいますミャ?」

「お医者さん? ここには、そんなものはいないにゃん。え? もしかして、シロちゃん、どこか痛いところでもあるにゃん? なんで、早く言わないにゃんっ?」


 そう言ってヒョウ兄貴は心配そうに、ぼくを抱き上げた。

 ぼくは(あわ)てて、否定(ひてい)する。


「いえ、ぼくは大丈夫ですミャ。というか、ぼくがお医者さんなんですミャ」

「シロちゃんが、お医者さんにゃん? そうかそうか、シロちゃんはお医者さんなのにゃん。偉いにゃん」


 ヒョウ兄貴はホッとした顏でぼくを()ろすと、頭を()()でしてくれた。

 仔猫相手だから否定(ひてい)はしないけど、全然信じていない時の反応だ。

 いつものことだから、()れているけどね。


「ここにケガや病気で苦しんでいる猫は、いませんミャ?」  

「ケガなんて狩りをしていれば、しょっちゅうにゃん。ほら」


 そう言って、ヒョウ兄貴はすり切れた肉球を見せてくれた。

 確かに、狩りにケガは付きものだ。

 逃げる獲物(えもの)全力(ぜんりょく)で追いかけ回し、飛びかかる。

 獲物(えもの)(あば)れて反撃(はんげき)されたり、振り落とされたりもする。

 走っている間に地面で肉球がすり切れたり、草木を引っかけることもある。

 狩りが上手なお父さんだって、小さなケガならしょっちゅうしている。


「このくらい、()めれば治るにゃん」


 ヒョウ兄貴は得意(とくい)げな顔で、肉球をペロペロと()めた。

 う~む……、なんか強がって我慢(がまん)しているような感じがする。

 こっそりと、ヒョウ兄貴に向かって『走査(そうさ)


『病名:右前腕骨(みぎぜんわんこつ)不全骨折(ふぜんこっせつ)左下腿骨(ひだりかたいこつ)不全骨折(ふぜんこっせつ)尾椎(びつい)不全骨折(ふぜんこっせつ)打撲(だぼく)内出血(ないしゅっけつ)擦過傷(さっかしょう)刺創(しそう)細菌感染症さいきんかんせんしょう虫刺症(ちゅうししょう)


右前腕骨(みぎうでのほねに)不全骨折(ヒビが入っている)左下腿骨(ひだりすねのほねに)不全骨折(ヒビが入っている)尾椎(しっぽのほね)不全骨折(にヒビが入っている)処置(しょち):なし。安静(あんせい)ののち、3週間ほどで自然治癒(かってになおる)


打撲(だぼく)内出血(ないしゅっけつ)処置(しょち)冷却(れいきゃく)圧迫(あっぱく)し、心臓より高い位置で固定』


擦過傷(すりきず)刺創(さしきず)、および、細菌感染症さいきんかんせんしょう処置(しょち):傷を流水(りゅうすい)洗浄(せんじょう)後、消毒(しょうどく)し、創傷被覆材(ばんそうこう)保護(ほご)抗菌薬(こうきんやく)投与(とうよ)


虫刺症(むしさされ)処置(しょち):傷を流水(りゅうすい)洗浄(せんじょう)後、ステロイド外用剤(がいようざい)の塗布(をぬる)』 


 うわ、なんかスゴい!

 体中(からだじゅう)傷だらけで、歴戦(れきせん)の戦士(多くの戦いを経験(けいけん)したプロ)って感じだっ!

 ヒョウ兄貴はなんでもないような顔をしているけど、痛くないのかな?


 ヒョウ兄貴は、やせ我慢(がまん)(つらいと思っているのに、我慢(がまん)して、平気なふりをしている)するタイプだと思う。

 カッコイイ強いリーダーに(あこが)れているみたいだから、きっと自分の弱いところを誰にも見せたくないんだ。

 歴戦の戦士だって、ケガが原因で病気になっちゃう人もたくさんいたからね。


 それに、虫刺(むしさ)されはマズい。

 何の虫に()されたかにもよるけど、毒虫だったら危ない。

 ヒョウ兄貴を説得(せっとく)して、治療(ちりょう)を受けてもらおう。


「ヒョウ兄貴、ぼくにケガを治療(ちりょう)させてもらえませんミャ?」

「さっき、()めときゃ治るって言ったにゃん」

()めても治らない、ケガや病気がたくさんあるんですミャ。それに、虫に()されましたミャ? そのまま放っておいたら、もっと痛くなっちゃいますミャ」

「にゃんっ? にゃんでオレが、虫に()されたことを知っているにゃんっ?」


 虫刺(むしさ)されを言い当てられて、ヒョウ兄貴はとてもビックリした。


 やっぱりやせ我慢(がまん)をして、誰にも言わずに(かく)していたな?


「ぼくはお医者さんなので、()れば分かりますミャ」

「そうなのにゃん? お医者さんは、スゴイにゃん。分かったにゃん、治療(ちりょう)を受けるにゃん。でもくれぐれも、縄張りの猫たちにはないしょにして欲しいにゃん。みんなにはオレのカッコ悪いところを、知られたくないにゃん……」


 ションボリとしたヒョウ兄貴は、ぼくの耳元でこそこそと小さな声でそう言った。

 どうやら、ヒョウ兄貴なりのプライドがあるらしい。

 ぼくとヒョウ兄貴はこっそりと、縄張りから(はな)れた川へ移動(いどう)した。 


「ここなら大きな岩がゴロゴロ転がっているから、猫たちに見られることはありませんミャ。誰かが来ても、すぐ(かく)れられますミャ」

「すまんにゃん……。こんなカッコワルイところ、余所猫よそもののシロちゃんくらいにしか見せられないにゃん……」


 最初に会った頃の、堂々(どうどう)とした態度(たいど)はどこへやら。

 耳もしっぽも、ションボリと()れてしまっている。  

 声もぼそぼそと、(ちから)がない。

 さっきまで元気そうだったのは、やっぱりやせ我慢(がまん)をしていたんだな。


「カッコワルくなんてないですミャ。ケガや病気をしたら、誰だってつらいのは当たり前ですミャ。すみませんが、まずは傷を洗い流して冷やさなければなりませんミャ。水は苦手だと思いますけど、川に入ってもらえますミャ?」

「分かったにゃん……」


 ヒョウ兄貴は、何もかも(あきら)め切ったような顔でとぼとぼと川へ入っていった。


「ヒョウ兄貴が傷を洗い流している間に、お薬を作りますミャ」


 河原(かわら)の近くにある草むらで、薬草を探す。

 いつでもどこでも、最適(さいてき)な薬草が()えているとは限らないから薬草探しは大変だ。

 ヨモギとアロエは、繁殖力(はんしょくりょく)が強い雑草(ざっそう)だから、わりと見つかりやすい。 

 このふたつがあれば、だいたいなんとかなる。

 あとは虫刺(むしさ)されに()く、薬草があれば良いんだけど……。


 頼むぞ、『走査(そうさ)


対象(たいしょう):ヤブガラシ属ヤブガラシ』

薬効(やっこう)解毒(げどく)鎮痛(ちんつう)消炎(しょうえん)虫刺(むしさ)され』


 さすがは、『走査(そうさ)

 この状況に一番最適(さいてき)な薬草を、見つけ出してくれた。

走査(そうさ)』は、なんでも教えてくれる先生みたいな存在(そんざい)だと思っている。

 頭が固いのが、玉に(きず)


 ヤブガラシを()ると、つるや(くき)の切り口から出た汁で毛が黒く汚れてしまった。

 うわぁ……、ぼくもあとで水浴びしなきゃいけないな。

 川の水で手だけ洗って、ヨモギを(つぶ)して抗菌薬(こうきんやく)を作る。

 アロエとヤブガラシは、葉や(くき)を折った時に出てくる汁を混ぜ合わせて虫刺(むしさ)され用の抗炎症薬(こうえんしょうやく)を作った。

 これでひと通り、薬が出来たぞ。


「ヒョウ兄貴、お薬が出来ましたので川から上がって良いですミャ」

「すまんにゃん……」


 ヒョウ兄貴も水が苦手だったらしく、げっそりしていた。

 猫は水に()れると、別の生き物みたいになるよね。

薮枯(ヤブガラシ)とは?】

 夏(6~ 8月)に、直径約5mmの薄緑色のちっちゃい花を咲かせる雑草。

 (やぶ)(おお)って木を枯らしてしまうほど繁殖力(はんしょくりょく)が強いので、「藪枯(やぶがらし)」と名付けられた。

「貧乏な人の住処(すみか)()(しげ)る」「藪が家を覆い隠して、家が貧相(ひんそう)に見える」などの由来(ゆらい)から、「貧乏蔓(びんぼうかずら)」の別名もある。

 花が咲く前のやわらかい若芽、葉や茎は食べられる。

 ただし、エグみがとても強いので、灰汁(あく)抜きしないと食べられない。

 採取(さいしゅ)する時に、汁で手や服が黒く汚れるので注意。 

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