第27話 ノミダニ駆除大作戦
キジブチの話がひと区切りついたところで、いつもの質問をしてみる。
「ここに、お医者さんはいますミャ?」
「仔猫ちゃんは、ケガをしているニャゴ? でも残念ながら、ここにはお医者さんはいないニャゴ」
「ぼくが、お医者さんですミャ。もしケガや病気で苦しんでいる猫がいるなら、ぼくが助けますミャ」
「あらあらまぁまぁ、仔猫ちゃんがお医者さんニャゴ? 可愛いお医者さんニャゴ。分かったニャゴ、ついて来てニャゴ」
子供のおままごとに付き合う大人みたいな半笑いで、キジブチは手招きしながら歩き始めた。
仔猫扱いされても、お医者さんだと信じてもらえなくても良い。
バカにされても、ぼくは苦しんでいる猫を救うだけだ。
キジブチについて行くと、クロトラネコを紹介された。
「クロトラさ~ん、仔猫のお医者さんを連れてきたニャゴ~」
「仔猫のお医者さんニャゥ? お医者さんだったら、助けて欲しいニャゥ。体が痒くて痒くて、仕方がないニャゥ」
クロトラネコは痒そうに体を掻いたり、激しく頭を振り回したりしている。
良く見れば、小さな虫がピョンピョン跳ねている。
この猫、ノミかダニがいるな。
でも、処置が分からないから『走査』
『病名:ノミ皮膚炎、疥癬(ダニによる皮膚炎)、細菌感染症』
『処置:ノミ駆除薬、ダニ駆除薬、抗炎症薬、抗菌薬の投与』
ダニやノミは、1匹見つけたら100匹いると考えて良い。
この感じだとクロトラだけじゃなく、縄張りの猫たちにもいそうだな。
あとで、全員集めて処置しよう。
抗菌薬は、ヨモギがあるし。
抗炎症薬は、アロエがあるから良いとして。
問題は、ノミとダニの駆除薬か。
この辺りに、ノミとダニの駆除に効く薬草はあるかな?
そもそも、そんな薬草があるのかな?
とりあえず、草がいっぱい生えている場所に向かって『走査』
『対象:白花虫除菊』
『薬効:殺虫成分のPyrethrinを含む。乾燥させて、粉末にして利用する。ノミ・ダニ・ハエ・蚊などに、殺虫効果がある』
これだーっ!
足元に生えていた白花虫除菊は、花の時季を終えて枯れていた。
粉末にするから、枯れていてもいいや。
抗菌薬のヨモギと抗炎症薬のアロエも、忘れずに採っておく。
ひと通り集めたところで、近くの岩壁に寄りかかってひと休み。
何気なく岩壁に手を着いた時に、『走査』が発動した。
『対象:珪藻土』
『用途(使い道):陶器や建材の原料、絶縁体(電気を通さない)、研磨剤(刃物を研ぐ)、乾燥剤、ノミやダニの駆除、虫下し(寄生虫を出す)、食用可』
え? 草じゃなくて、食べられる土?
試しに、珪藻土を軽く爪で削って口に入れてみた。
当たり前だけど、ただの土だ。
ところが、口に入れてまもなく、口の中の水分を全部吸われた感覚がした。
慌てて川まで走って、水をガブガブ飲んだ。
これは、そのまま食べるもんじゃないな。
でも、良いものを見つけたぞ。
白花虫除菊と珪藻土を混ぜれば、きっと最強のダニノミ駆除薬が出来るに違いない。
さっそく、白花虫除菊と珪藻土をすり潰して混ぜる。
珪藻土が、白花虫除菊に残っていた水分を吸ってくれたおかげで、細かい粉になった。
これで、ダニノミ駆除薬の完成だ。
出来れば、ノミ取り櫛も欲しいところだけど。
櫛の代わりになる物はないかと、辺りを見回す。
ふと、松の木が目に入った。
細い松の葉を束ねれば、ブラシが出来そうな気がする。
思い立ったら、なんでもやってみよう。
松の木によじ登り、緑色の松葉を採る。
数十本の松葉を揃えて束ね、蔓科の植物でグルグルときつく巻いてみた。
試しに作ったばかりのブラシで、自分の毛をブラッシングしてみる。
う~ん……、尖った葉先がチクチクして痛いな。
尖った葉先を石にこすりつけて、先を削ってみたらいい感じになった。
ブラシに柄を付けたら、さらに使いやすいかも。
あれこれ試して改良を重ね、松葉のブラシが完成した。
色々試して考えながら作るものづくりって、楽しいよね。
いよいよ、実際に使ってみよう。
ฅ^•ω•^ฅ
薬とブラシを持って、ダニとノミで苦しんでいるクロトラの元へ戻ってきた。
「お待たせしましたミャ。お待たせしましたお薬を作ってきたので、治療させてもらってよろしいですミャ?」
「痒いニャゥ~……。なんでも良いから、早くなんとかしてニャゥ……」
クロトラは痒みに耐えきれず、あちこち搔きむしっている。
掻きすぎてあちこち毛が抜けて、掻き傷もたくさん出来ていた。
可哀想に……、痒いのは辛いよね。
まずは、抗炎症薬のアロエを傷に塗る。
炎症を抑えれば、痒みも収まるはずだ。
続いて、抗菌薬のヨモギをひとくち飲ませる。
とどめに、ダニノミ駆除薬をクロトラの全身に振りかけた。
粉まみれになったクロトラは、めちゃくちゃ驚いている。
「何するニャゥ~ッ?」
「クロトラさんの痒みの原因は、ダニとノミですミャ。これは、ダニとノミを駆除するお薬ですミャ。もう少しすれば、痒みは収まるはずですミャ」
「そ、そうニャゥ? ん? あ、本当ニャゥ。痒くなくなってきたニャゥ」
仕上げに、クロトラの体を丁寧にブラッシングする。
クロトラは、ブラッシングが気持ち良いのかうっとりしている。
ブラッシングすると、抜け毛と一緒にダニとノミがたくさん出てきた。
ダニとノミを駆除し終わったクロトラは、大喜びでぼくに感謝する。
「仔猫のお医者さん、ありがとニャゥ! 痒くなくなったニャゥッ!」
「痒みがなくなって、良かったですミャ。同じように、痒みで苦しんでいる猫たちがいたら、連れてきて下さいミャ。お薬とブラシの作り方も教えますので、お手伝いしてくれそうな猫がいたら呼んで下さいミャ」
「分かったニャゥ! みんなを呼んで来るニャゥッ!」
クロトラは張り切って、猫たちに声を掛けに行ってくれた。
クロトラが声を掛けに行っている間に、珪藻土を掘り出すことにした。
「仔猫のお医者さん! みんなを連れて来たニャゥッ!」
しばらくすると、クロトラがお手伝いの猫たちと患者さんたちを連れて戻ってきた。
お手伝いの猫たちに、ダニノミ駆除薬と松葉ブラシの作り方を教えた。
ダニノミ駆除薬は、珪藻土と白花虫除菊を混ぜて叩いて粉にするだけ。
ブラシは作るのが難しいので、手先が器用な猫たちに教えた。
力や体力がある猫たちは、薬作り。
手先が器用な猫たちは、ブラシ作り。
薬とブラシが出来たら、使い方を教えた。
みんなで手分けして、ダニとノミで苦しむ猫たちに薬をふりかけて、ブラッシングしていく。
ダニとノミを駆除し終えた猫たちに、今度はヨモギの見分け方と薬の作り方を教えた。
ヨモギは飲んでも塗っても使える、とっても優秀な万能薬。
アロエは葉っぱを折るだけだから、簡単で便利だけど。
猫がアロエを食べるとポンポンペインペインになるので、毛づくろいの時に舐めないように注意。
白花虫除菊は、虫にしか効かない毒だから猫が舐めても大丈夫。
ちなみに、ブラシに使った松葉にも毒はない。
松の葉には油が含まれているので、ブラッシングすると毛がなめらかになる。
松の葉も、薬草として優秀で、抗酸化作用、高血圧、動脈硬化、脳卒中、認知症、不眠、抜毛、育毛、禁煙などに効果がある。
松の樹に含まれる松脂は、止血、保湿、燃料、滑り止めとして使える。
――と、『走査』が教えてくれた。
薬草は用法用量を正しく守れば、どれも素晴らしい薬になる。
薬も使い方を間違えてしまうと、毒になってしまうから要注意。
みんなで手分けして作業すれば、それほど時間をかけずに全員の処置が終わった。
これでぼくがいなくなっても、病気やケガの処置が出来るようになったはずだ。
これからは行く先々でも、猫の手も借りることにしよう。
あとは、お医者さんになってくれる猫がいれば良いんだけど。
無理強いはしたくないから、なりたい猫がなってくれれば良い。
みんなが処置出来るなら、お医者さんにこだわる必要はない。
苦しんでいる猫が1匹でもいなくなって、幸せになってくれることだけがぼくの望みだから。
猫が幸せなら、ぼくも幸せ。
やるべきことはやったし、ゆっくり休んで疲れが癒えたら旅へ出よう。
【白花虫除菊とは?】
5月下旬~6月上旬に、花を咲かせる白い菊。
ピレトリンは、虫にしか効かない神経毒(体が動かなくなる毒)。
哺乳類や鳥類には、ほとんど効かない。
かつては、蚊取線香、ノミダニ取り粉、農業用殺虫剤などの材料として利用されていた。
現在は化学薬品があるので、観賞植物として育てられることが多い。
【珪藻土とは?】
珪藻という藻が、化石になったもの。
たくさん水を吸うので、乾燥剤として利用される。
粉末にして振りかけると、ノミやダニは脱水症状を起こして死ぬ。
食べられるけど、たくさん食べるとおなかの中の水分を吸われてしまうので、便秘になる。




