第26話 生きながらえるもの
「シロちゃん! やっと見つけたニャーッ?」
「シロちゃん、生きてて良かったニャッ!」
「お父さん! お母さんっ!」
草むらから飛び出して来たのは、2匹の猫だった。
ふたりはぼくを見ると強く抱き締めて、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
ぼくもギュッと抱き付いて、嬉しくて喉を鳴らした。
お父さんとお母さんにサンドイッチされて抱き締められると、スゴく安心した。
良かった、やっと会えた。
あったかい、柔らかい……。
抱き合う、ただそれだけでどうしてこんなにも幸せなんだろう。
ぼくたち3匹は抱き合って、お互いの無事と再会を喜び合った。
感動の再会を果たした後、お父さんとお母さんからトマークトゥスに襲われた時の話を聞いた。
あの時、みんなバラバラの方向へ逃げた。
ぼくがはぐれてしまったことに気付いても、探しに行けなかった。
お父さんとお母さんも、逃げるのに必死だったから。
しばらくすると、トマークトゥスは諦めてどこかへ行ったらしい。
トマークトゥスがいなくなった後、血眼に(他のことは忘れて、一生懸命に)なってぼくを探し回った。
だけど、いくら探してもぼくは見つからなかった。
トマークトゥスに、食べられてしまったかもしれない。
愛する我が子が死んだなんて、信じたくなかった。
もしかしたら、逃げ切って生きているかもしれない。
見つかるまで諦めきれなくて今までずっと探し続けていたと、ふたりは語った。
お父さんもお母さんも、ぼくを心配して探してくれていたんだ。
そのことが嬉しくて嬉しくて、涙が止まらなかった。
しばらく会わないうちに、お父さんとお母さんはずいぶん痩せた気がする。
「お父さんとお母さんは、ぼくと離れていた間も、ちゃんとごはんを食べていたミャ?」
「シロちゃんが心配で、何も食べられなかったニャ」
「安心したら、おなかが空いたニャー」
お父さんとお母さんは、ぼくを探すのに必死で何も食べていなかったらしい。
ぼくを心配するあまり、何も喉を通らなかったそうだ。
生きる為とはいえ、ぼくだけしっかり食べていたのが申し訳なくなった。
おなかが空いたので、狩りをしようということになった。
3匹で獲物を探していると、ウマの顔をしたゴリラみたいな動物が鉤爪で枝をたぐり寄せて木の葉を食べていた。
「あれは、カリコテリウムニャー。足が遅いから、狩れるニャー」
そう言ってお父さんは素早く走り出し、カリコテリウムに襲いかかった。
ぼくとお母さんも後に続いて、お父さんが食らいついたカリコテリウムに飛び付く。
カリコテリウムは大きな鳴き声を上げて、激しく暴れる。
お父さんはカリコテリウムの喉に喰らいついて、仕留めた。
改めてお父さんの強さには、驚かされる。
ぼくはプレーリードッグ1匹倒すのでも、苦戦したのに。
お父さんは自分よりもずっと大きな獲物でも、あっという間に狩ってしまう。
やっぱり、お父さんはスゴイ。
いつも見ていた光景も、離れたことで初めて気付くことがあるんだな。
カリコテリウムは、今まで食べたウマのような草食動物と似たような味がした。
お父さんもお母さんも、「うみゃいうみゃい」と言いながらお肉を食べている。
美味しそうに食べるふたりの笑顔が嬉しくて、ぼくも笑顔になる。
ごはんはひとりで食べるより、みんなで食べた方が美味しいよね。
お父さんとお母さんと再会出来れば、ここにとどまっている理由はない。
食休み(ごはんの後に、ゆっくりする)をしたら、すぐに旅を再開しよう。
お父さんとお母さんは行方不明になったぼくが心配で、夜も眠れずごはんも食べられなかった。
疲れて果てているお父さんとお母さんの為に、早く次の集落へ辿り着きたい。
猫がたくさんいる集落なら、ぐっすりと眠ってのんびりと疲れを癒すことが出来る。
猫にとって、睡眠不足とストレスは大敵。
どんな生き物でも睡眠不足とストレスが溜まると、寿命が縮まると言われている。
ただでさえ、野生の猫の平均寿命は4歳くらいしかないんだ。
大好きなお父さんとお母さんと、ずっと一緒にいたい。
いつまでも元気で、たくさん長生きしてもらいたい。
お父さんとお母さんの健康は、ぼくが守る!
ふたりの為に、早く居心地の良い集落を探そう。
そういえば、トマークトゥス(オオカミ)に襲われて、ケガをしていた猫たちは無事に逃げ切れたのだろうか。
あの猫たちも逃げ切って、無事に自分達の縄張りへ帰れたと信じたい。
あの猫たちの縄張りの場所を、聞いておけば良かった。
でも、きっとそう遠くない場所にあるに違いない。
猫は、ふたつの縄張りを持つと言われているから。
ひとつめは、「Home・territory」
ふたつ目は、「Hunting・territory」
「ホーム・テリトリー」は、生活する場所。
「ハンティング・テリトリー」は、狩り場。
猫は縄張り意識が強いから、何か特別な理由がない限り生まれて死ぬまで縄張りから出ることはない。
野生の猫が獲物を狩るには、直径1kmの範囲が必要だという。
だから猫がいるってことは、1km以内に縄張りがあるはずなんだ。
でもここ数日、猫と会ったことは1度もなかったっけ。
あの猫たちはトマークトゥスに追われて、ハンティング・テリトリーを出てしまった可能性が高い。
何はともあれ、いつまでもうだうだ考えていても仕方がない。
とにかく早く、次の縄張りを探そう。
ฅ^•ω•^ฅ
半日もしないうちに、たくさんの猫達がいる場所へ辿り着いた。
お父さんとお母さんも、ホッとした顏をしている。
疲れているふたりを、早く休ませてあげたい。
ぼくはさっそく、近くにいたキジブチ猫に話しかける。
「初めまして、こんにちはミャ」
「あらあらまぁまぁ、可愛い仔猫ちゃんニャゴ。ここらでは、見かけない子ニャゴ。どこの子ニャゴ? お父さんとお母さんは? 迷子ちゃんニャゴ?」
キジブチはぼくを見ると、ぼくの頭を撫で撫でしながら質問を重ねてくる。
なんだか、世話好きなオバサンみたいだ。
「お父さんとお母さんなら、ぼくの後ろにいますミャ。3匹で旅をしていて、旅の途中でここに寄ったんですミャ」
「あら~、そうニャゴ? 迷子ちゃんじゃなくて、良かったニャゴ。旅する猫なんて、珍しいニャゴ。何もないとこだけど、ゆっくりしていってニャゴ」
キジブチは安心したように、ニッコリと笑った。
どうやら、おしゃべりな猫のようだ。
たまにめちゃくちゃ話しかけてくる、おしゃべりな猫っているよね。
どんなに話しかけられても、猫語で全然分からないけど可愛いから良し。
猫にいっぱい話しかける人も、猫からしたら「何言ってんだ? コイツ」って思われているのかもね。
逆にクールで、めったに鳴かない猫もいるけど。
猫は気まぐれで、ツンデレが標準装備だから。
猫は可愛い! 可愛いは正義っ!
猫はただそこにいるだけで、存在価値があると思う。
せっかくおしゃべりな猫と会えたから、色々話を聞いてみよう。
「ここには、何がありますミャ?」
「ここには特に何もないけど、とっても良いところニャゴ。狩りが得意な猫もいっぱいいてたくさん狩ってきてくれるから、いつもおなかいっぱい美味しいお肉が食べられるニャゴ。それから……」
キジブチは「よくぞ聞いてくれました!」とばかりの良い笑顔で、話し始めた。
狩りが得意な猫がいっぱいいるのか。
お父さんよりも、狩りが上手な猫もいるのかな?
毎日、美味しいお肉がいっぱい食べられるのは良いことだ。
健康な体を作るには、しっかり食べないとね。
それにしても、キジブチの話は長いなぁ。
お父さんとお母さんはキジブチの話が長すぎて退屈したのか、香箱座りで居眠りしていた。
【|Chalicotheriumとは?】
今から2300万年前~360万年前くらいに生息していたと言われている、ウマの祖先。
奇蹄目だけど、見た目はウマの頭がついたゴリラ。
奇蹄目なのに、手足には鋭い鉤爪が付いている。
足よりも手が長く、ゴリラみたいに握った両手を地面につけた歩き方をしていたらしい。
推定体長約2~3m
体重は不明。




