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ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話  作者: 橋元 宏平


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第23話 傷だらけの猫たち

 ゆっくりと眠って疲れが取れたので、旅立つことにした。


「ハチ先生、茶ブチさん、お世話になりましたミャ」

「もう行くニャフ? 仔猫(こねこ)(きみ)も立派なお医者さんになれるように、応援(おうえん)しているニャフ」

「じゃあニィ~、気を付けてニィ~。大きくなったら、またおいでニィ~」


 ふたりは優しい笑顔でぼくの頭を()()でして、お別れを言ってくれた。

 ぼくは確かに見た目は仔猫だけど、これでも一応成猫(おとな)なんだけどな。


 ちゃんと茶トラ先生に認められた、立派なお医者さんだし。

 言っても信じてもらえないので、(だま)ってニコニコ笑っておいた。

 この縄張(なわば)りでぼくをお医者さんと信じてくれているのは、転落事故(てんらくじこ)で大ケガを()った灰色猫だけだ。


 ぼくが旅立つと聞いて、灰色猫が見送りに来てくれた。


(あらた)めて、お礼を言わせて欲しいニャン。仔猫のお医者さんが助けてくれなかったら、あそこで死んでたニャン。ありがとニャン」

「どういたしましてミャ。もう二度とパサン(野山羊(のやぎ))を狩ろうなんて、危ないことはしないで下さいミャ」


「あんな痛い目には、もう()いたくないニャン。パサンは、(あきら)めるニャン」


 そう言って、灰色猫は苦笑いした。

 お世話(せわ)になった猫たちと別れの挨拶(あいさつ)を済ませて、ぼくたち家族は旅立った。


 いつものことだけど、集落(しゅうらく)縄張(なわば)りから離れる時はとても(さび)しい。

 今まで何度も、たくさんの猫達と出会いと別れを()り返してきた。


 別れる時、みんな必ず「またね」と言ってくれるけど。

「また」は、あるのだろうか?

 帰りも、同じ道を通るとは(かぎ)らない。

 再び同じ土地を(おとず)れたとしても、知り合った猫はいないかもしれない。


 野生の猫は、いつも天敵(てんてき)(ねら)われている。

 ストレスが多く、猫にとって何よりも大事な睡眠(すいみん)が満足に()れない。

 狩りをしないと、ごはんが食べられない。

 ケガや病気になっても、寝て治すしかない。


 だから野生の猫は、ペットとして飼われている猫よりも寿命(じゅみょう)が短い。

 ペットとして飼われている猫の平均寿命は、約15歳。

 野生の猫の平均寿命は、約4~5歳。


 イチモツの集落のミケさんは5歳くらいだったから、長生きな方なんだ。

 もしかしたらイチモツの集落へ帰った時、ミケさんとは会えないかもしれない。


 振り向けば、イチモツの集落がある森は(はる)か遠く。

 帰りたくても、簡単には帰れない距離になっていた。


 ฅ^•ω•^ฅ


 それからしばらく、お父さんとお母さんと3匹だけで旅を続けた。

 ハチ先生の縄張りを旅立ってから、次の縄張りにはなかなか辿(たど)()けない。


 山を見上げれば、パサンやリスや鳥なんかはよく見かけるのに。

 この辺りに、猫はいないようだ。

 お父さんとお母さんがいるから「可愛い猫を()でたい!」っていう欲求(よっきゅう)は、()たされているけど。

 早く猫がいっぱいいる縄張りや集落を見つけて、のんびりしたいなぁ。


 ふいに、お父さんとお母さんに付いて来てもらって良かったなと思う。

 ぼくは仔猫だから、何かと不便(ふべん)なんだよね。

 ひとりだと必ず、「お父さんとお母さんは?」って聞かれるし。

 どこへ行っても、子供(あつか)いされるし。

 体が小さくて弱いから、天敵(てんてき)にも(ねら)われやすい。


 お父さんはカッコ良くて、動物に詳しくて狩りも上手。

 お母さんは美猫(びじん)さんだし、ぼくをいっぱい愛してくれる。

 ふたりがいてくれるおかげで、ぼくは安心して旅を続けられるんだ。

 ぼくはふたりを見上げて、にっこりと笑う。


「お父さん、お母さん、いつもありがとうミャ! 大好きミャッ!」

「ボクも、シロちゃんが大好きニャー」

「私も、シロちゃんが大好きニャ!」


 お父さんとお母さんが(うれ)しそうに笑って、ぼくをギュッと抱き()めてくれた。

 抱き()められるとあったかくて気持ちが良くて、スゴく安心して幸せを感じる。


「ありがとう」は言える時に言っておかないと、(あと)になって言わなかったことを後悔(こうかい)する。

「ありがとう」は言った方も言われた方も、(うれ)しくなるよね。

 だから言える時に、いつでも何度でも「ありがとう」と言おう。


 ฅ^•ω•^ฅ


 それから、数日後。 

 苦しんでいる猫達の鳴き声が、聞こえてきた。

 周囲(しゅうい)(ただよ)うほど、強い血の(にお)いもしている。


「大変ミャ! この近くに、傷付いている猫達がたくさんいるミャッ!」


 お父さんとお母さんと(うなづ)()い、猫を探し始める。

 それからすぐ、傷付いて地面に倒れている5匹の猫を見つけた。

 ぼくは急いで、猫たちに()()る。


「大丈夫ですミャッ?」

「うぅ……、痛いニャ~、助けてニャ~……」


 猫たちはニャーニャー鳴いて、助けを求めている。

 見た感じ、危険生物に(おそ)われたみたいだな。

 何に(おそ)われたかなんて、そんなのは(あと)で聞けば良い。

 今は少しでも早く、猫たちを助けないと!


 傷だらけで倒れている5匹の猫に向かって、『走査(そうさ)


『病名:動物咬傷(こうしょう)()まれた傷)、掻傷(かききず)による、細菌感染症さいきんかんせんしょう

処置(しょち):傷口を流水で洗浄(せんじょう)後、消毒。抗菌薬(こうきんやく)破傷風(はしょうふう)トキソイドを投与(とうよ)


破傷風(はしょうふう)トキソイド」ってのが、何か分からないけど。

 とにかく早く、傷口を洗わないと。

「川で傷を洗いますミャ」と言ったら、思った通りみんなイヤがった。


「洗わないと病気になって、今よりもっと痛くなりますミャ」


 と言い聞かせれば、みんな渋々(しぶしぶ)とだけど(したが)ってくれた。

 お父さんとお母さんに(たの)んで、ケガで動けない猫たちを川へ運んでもらった。

 軽傷(けいしょう)で自分で歩ける猫たちは、イヤイヤながらも自分で川へ入ってくれた。


 流水で傷口を洗い終わったら、猫たちを川から引き上げる。

 水浴び疲れでぐったりと河原(かわら)で寝そべる猫たちに、ヨモギの薬を()っていく。

 ヨモギには止血(しけつ)抗菌(こうきん)作用があるから、傷薬(きずぐすり)最適(さいてき)

 浄血(じょうけつ)(血を綺麗(きれい)にする)や増血(ぞうけつ)(血を増やす)作用もあるから、ヨモギの汁をひとくちずつ飲ませる。


 猫もちょっとだけなら、ヨモギを食べても大丈夫。

 猫草(ねこくさ)みたいに、ヨモギを(この)んで食べる猫もいるらしい。

 でも猫によっては、アレルギー反応を起こしたり|ゴロゴロピーちゃんになったり《おなかをこわしたり》するから、無理に食べさせちゃダメだよ。


破傷風(はしょうふう)トキソイド」なんて薬はないから、これは無視(むし)だな。


 これで、やれることはやったはず。

 処置(しょち)が終わったところで、猫たちに話しかけてみる。


「こんなに傷だらけになって、何があったんですミャ?」

「狩りをしていたら、トマークトゥスに(おそ)われたニャ~……」


 5匹の中でケガが軽かったクロブチネコが、ションボリ顏で(こた)えてくれた。

 トマークトゥスって、どっかで聞いたような……。

 あ、思い出した!

 トマークトゥスに追われて、やむなく毒虫だらけの森に集落を(かま)えていた猫たちがいたっけ。


 その猫たちは、ぼくが安全な場所へお引っ越しさせたけど。

 あの猫たちは、今頃どうしているかな?

 みんな、元気に()らしていると良いけど。


 ぼくは今のところ、トマークトゥスという動物を見たことがない。

 猫の天敵(てんてき)らしいから、出来れば会いたくないな。

破傷風(はしょうふう)とは?】

 傷口から破傷風菌(はしょうふうきん)が入ることで、感染(かんせん)する。

 高い熱が出たり体がだるくなったり全身(ぜんしん)麻痺(まひ)したりする、とっても怖い病気。



破傷風(はしょうふう)toxoid(トキソイド)とは?】

 破傷風菌(はしょうふうきん)の毒を、無毒化(むどくか)したもの。

 破傷風(はしょうふう)トキソイドを注射すると、破傷風菌(はしょうふうきん)免疫(めんえき)防御能力(ぼうぎょのうりょく))が出来る。 

 免疫細胞(めんえきさいぼう)破傷風菌(はしょうふうきん)防御能力(ディフェンススキル)(おぼ)えた白血球(はっけっきゅう))が、破傷風菌(はしょうふうきん)をやっつけてくれるので病気が治る。



Tomarctus(トマークトゥス)とは?】

 今から2300万年~1600万年前に生息(せいそく)していたといわれている、オオカミの祖先。

 推定(すいてい)体長約150cm

 推定体高約90cm

 推定体重約50kg

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