閑話 息子の死 ※人間の父親視点
息子が死んだ。
大きな木の側で仰向けで倒れていた息子は、仔猫を抱えていたらしい。
息子の横には、折れた枝が落ちていた。
検視官の現場検証により、「事件性はない、ただの転落死」と結論付けられた。
「木から降りられなくなった仔猫を助ける為に木へ登り、足場にしていた枝が折れて転落したのだろう」とのことだ。
息子が猫を助けて死んだと知り、妻は怒り狂った。
妻は息子の死を悲しむことはなく、涙の一粒すら流さなかった。
一方、母は誰よりも息子の死を悼んで、号泣していた。
妻について、母はこう語る。
「あの女は何よりも自分のことが大好きで、あの子は自分を引き立たせる道具にすぎなかった。みんなから羨ましがられる、優秀な《《自慢の息子》》が欲しかっただけみたい」
それを聞いて、私は愕然とした。
妻は家事を一切やらず、全部母に任せきりだったそうだ。
息子が学校に行っている間、ママ友たちと遊び回って散財していたという。
息子が学校から帰ってくれば、勉強をサボらないように監視する。
ちょっとでも気に喰わないことがあれば、何時間でもヒステリックに怒鳴り散らした。
息子は、幼い頃から猫が大好きだったようだ。
息子の遺品であるスマホには、猫の写真がいっぱい入っていた。
勉強漬けの日々で、猫だけが癒しだったのかもしれない。
息子は「将来は猫のお医者さんになりたい」と、言っていたらしい。
しかし妻は「《《人間の医師》》以外、絶対に許さない」と、頭ごなしに否定したそうだ。
私は仕事を言い訳にして、家庭を顧みなかった。
家に帰れば自分の部屋にこもって趣味に没頭し、寝るだけ。
家のことは母と妻に任せていれば大丈夫だろうと、甘え切っていた。
息子が死んだ後で、こんな大事なことに気付くとは……。
私はなんて愚かな父親なんだ。
息子の葬儀で、妻は「優秀な息子を亡くした可哀想な母親」として参列者たちに同情されて喜んでいた。
葬儀中に、妻は明るい笑顔で媚びてきた。
「早く、新しい子どもが欲しいわ。次はあんなバカじゃなくて、あたしの言う通りになるもっと従順で頭の良い子がいいんだけど」
非常識な妻に吐き気がして、その場で離婚を突き付けた。




