第158話 あたたかくなる言葉
花粉症は、辛いよね。
ぼくも人間だった頃は、スギの花粉症で苦しめられた。
花粉症は、原因となる花粉が飛び終わるまで治らない。
ブタクサとヨモギの花粉は、8月下旬~10月まで飛び続ける。
雨の日は、花粉が洗い流されて多少楽になるけどね。
室内飼いされている犬猫なら、空気清浄機を使うとかこまめに掃除をするとかいろいろやりようがあるけど。
野生で生きているぼくたちは、花粉から逃れられない。
犬猫用のマスクがあればいいのにね。
犬用マスクといったら、噛みつきや無駄吠え防止、拾い食い防止用。
猫用マスクだと、爪切り用の目隠しマスクくらいかな。
そういうマスクは、呼吸出来るように口と鼻の部分は開いている。
それじゃ、意味がないんだよね。
『犬用防塵マスクはある』
え? あるんだ?
しかし、そんなものは手に入らないのである。
人間の世界には、ハンカチやティッシュペーパーとかマスクの代わりになるものがあるけど。
自然界に、マスクの代わりになりそうなものなんてない。
可哀想だけど、花粉が飛び終わるまで耐えてもらうしかないんだよね。
花粉症は死ぬほど辛いけど、実際に死んだ人はいない
だけど花粉症が原因で、別の病気になることはある。
掻きむしってしまうと、毛がごっそり抜けたり傷になったりする。
傷から菌やウィルスが入ると、感染症に罹ってしまう。
グレイさんも搔きむしっちゃって、傷になっていた。
抗炎症作用や抗菌作用がある、アロエの汁をたっぷり塗っておいたからきっと大丈夫だと思う。
花粉症特製ブレンドのハーブティーを飲んだら、ゆっくりと眠る。
睡眠不足は、万病のもと。
寝ないと免疫力が下がって、いろんな病気に罹りやすくなる。
花粉症も、睡眠不足だと悪化してしまう。
ฅ^・ω・^ฅ
夜明け前に目を覚ますと、カタバミの集落へ戻った。
薄明薄暮性(明け方と夕暮れに活動する性質)の猫たちは、そろそろ起き出してくる頃だ。
みんなが起きたところで、挨拶をして旅立つことにした。
改めて、カタバミの集落の長に謝る。
「サバシロお兄さんが、ご迷惑をお掛けしてすみませんでしたミャ。ぼくたちは、これで旅立ちますミャ」
「確かにあの藪医者には騙されましたが、シロちゃんには助けられましたからニィ~。どうもありがとうございましたニィ~」
「そう言っていただけると、嬉しいですミャ。それでは皆さん、お元気でミャ」
「シロちゃんも、気を付けて帰ってくださいニィ~」
ぼくたちは猫たちに見送られて、カタバミの集落をあとにした。
ฅ^•ω•^ฅ
エノコログサの集落には、正直良い思い出がない。
サバシロお兄さんには嫌われてしまったし、仲直り出来るとも思えない。
お父さんとお母さんとグレイさんが言う通り、お互いに良い思いをしないなら会わない方が良いだろう。
イチモツの集落とエノコログサの集落はお隣さんだけど、きっともう二度と行かない。
そう思えば、少しは諦めが付く。
ぼくたちはエノコログサの集落を避けて、イチモツの集落へ向かった。
イチモツの集落まで、あともう少しだ。
これで、ぼくたちの旅は終わる。
さぁ、帰るべき場所へ帰ろう。
「イチモツの集落が見えてきたミャッ!」
「やっと帰ってきたニャー」
「あともう少しで着くニャ」
イチモツの集落が近付いて来ると、足取りも自然と軽くなる。
ぼくの横を歩いている、お父さんもお母さんも嬉しそうだ。
一方、グレイさんはしょんぼりと寂しそうな顔をしている。
イチモツの集落に着いたら、旅が終わってしまうから。
集落の前で立ち止まり、グレイさんに感謝の言葉を口にする。
「グレイさん、今まで本当にありがとうミャ。グレイさんがいてくれたおかげで、とっても助かったミャ。感謝してもしきれないくらい、感謝しているミャ」
『こちらこそ、とても楽しい旅だった。これでもう、旅は終わりなのか?』
「ごめんなさい、旅はこれでもう終わりミャ。これからはイチモツの集落でゆっくりと、お父さんとお母さんに親孝行したいミャ」
『そうか……。旅が終わっても、また会ってくれるか?』
「もちろん、毎晩会いに行くミャ。ぼくたちは、これからもずっと一緒ミャ」
『そうだな! 愛し合っているもの同士、離れられない運命だからなっ! オレとシロちゃんの愛は、永遠だっ!』
落ち込んでいたグレイさんが笑顔を取り戻して、ぼくを抱き締めてくれた。
ぼくもグレイさんを抱き返して、「大好き」のスリスリをした。
「それじゃあ、夜になったらまた会いに来るミャ」
『ああ、待っている』
グレイさんは笑顔でしっぽを振りながら、ぼくたちをずっと見つめていた。
ฅ^•ω•^ฅ
「みんなー! ただいまミャーッ!」
「ただいまニャー!」
「ただいま帰りましたニャ」
帰って来たぼくたちを見て、集落の猫たちが集まってくる。
「あっ、シロちゃんたちニャァ!」
「シロちゃん、サバトラさん、シロブチさん、おかえりなさいニャア」
みんな「おかえり」と笑顔で迎えてくれて、鼻チューしてくれた。
鼻チューは挨拶であると同時に、信頼の証でもある。
鼻チューは、仲がいい相手としかしないんだよ。
「おかえり」と言われると、「帰って来た」って気持ちで胸がいっぱいになる。
たった4文字なのに、心があたたかくなる優しい言葉だ。
やっぱり、ぼくが帰ってくるべき場所はここなんだ。
集落の猫は一匹も減っていないし、みんな元気そうだ。
茶トラ先生とキャリコが、ハーブティーを作り続けてくれたおかげだろう。
そう思っていると、茶トラ先生とキャリコが笑顔で近付いて来る。
「シロちゃん、おかえりニャ~。元気で帰って来てくれて、良かったニャ~」
「シロ先生、おかえりなさいにゃう。ご無事で何よりですにゃう」
「茶トラ先生、キャリコさん、集落のみんなを守ってくださって、ありがとうございましたミャ」
鼻チューすると、ふたりもぼくにスリスリしてくれた。
「集落のみんなを守るのは、長として当然ニャ~」
「ボクは、大好きなハーブティーを作っているだけですにゃう」
「これからは、ぼくもイチモツの集落の猫として協力しますミャ」
「シロちゃん、また旅の話をたくさん聞かせて欲しいニャ~」
「シロ先生のお話し、とっても楽しみですにゃう」
「はい、喜んでミャ。そちらもぼくがいない間に何があったか、聞かせてくださいミャ」
ぼくと茶トラ先生とキャリコは、のんびりと情報交換の猫会議をすることにした。
ぼくはふたりに、旅の間に何があったかを話した。
お父さんとお母さんとグレイさんと共に、イチモツの森の集落を全部回り切ったこと。
たくさんの猫たちと出会い、苦しんでいる猫を救ったこと。
詳しく話すと長くなってしまうから、ざっくりと要点だけ。
振り返ってみるとこの半年間、本当にいろんなことがあった。
「あと、お土産もありますミャ」
背負い籠にぎっしり詰まったオリーブの実を見せると、ふたりとも目を輝かせる。
「とっても美味しそうニャ~」
「これ、食べていいですにゃう?」
「もちろんですミャ」
オリーブの匂いに釣られて、集落の猫たちも集まって来た。
ぼくは集落の猫たちに、オリーブの実をひとつずつ配った。
「種は食べられないので、呑み込まないように気を付けてくださいミャ」
みんなは、大喜びでオリーブの実を食べた。
しかし、「ひとつじゃ足りないニャー」とみんな文句を言った。
「たくさん食べると、おなかが痛くなっちゃいますからダメですミャ」
そう言い聞かせれば、猫たちは渋々引き下がってくれた。
イチモツの集落には、猫が30匹くらいいる。
オリーブの実は籠いっぱいに持ち帰ったけど、猫の数が多いからひとりひとつずつしか配れなかった。
食べ終わった猫たちからオリーブの種を回収して、川の水で綺麗に洗った。
種蒔きに適切な気温は、15〜22℃
春蒔きなら3~4月、秋蒔きなら9~10月。
秋蒔きにちょうど良い季節だから、さっそく蒔いてみよう。
蒔き方は、『走査』に教えてもらった。
青いオリーブの実から取った種は、発芽率がとても低いらしいから望みは薄いけど。
ひとつでもいいから、芽が出るといいな。
上手くいけば、1ヶ月後には芽が出るはずだ。
オリーブは寒さに強いから、冬を越せる。
コモンセージも寒さに強いから冬越しは出来るけど、自然界で降雪や降霜対策することは難しい。
枯草を敷き詰めて冬越し対策はするけど、失敗して枯れてしまったら来年の春にまた種を蒔こう。
バジルは寒さに弱くて冬を越せないから、早く種が出来るといいな。




