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ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話  作者: 橋元 宏平


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第156話 逃げ上手のサバシロ

 サバシロに会いたいような会いたくないような、複雑な気持ちだ。

 考えこんでいると、みんなが心配そうにぼくの顔を(のぞ)き込んでくる。


「シロちゃん、しょんぼりしてどうしたニャー?」

「シロちゃん、なんだか元気がないニャ。大丈夫ニャ?」

『具合が悪いなら、ここで休もう』

 

「大丈夫ミャ。ちょっと、考えごとをしていただけミャ」

「悩んでいることがあったら、なんでも相談してニャー」

「私たちは、いつでもシロちゃんの味方ニャ」 

『シロちゃんが悲しいと、オレも悲しい。オレに出来ることがあったら、なんでも言ってくれ』

「お父さん、お母さん、グレイさん、ありがとうミャ」


 みんなの優しさが、じんわりと心に()みる。

 ひとりで悩んでいても仕方がないので、素直に話した。

 みんな最後まで、ぼくの話を聞いてくれた。

 話し終わると、お母さんが優しくぼくを抱き締めて頭を()でてくれた。


「シロちゃんが会いたくないなら、会わなくていいニャ」

「サバシロくんは、お父さんも嫌いニャー」

『ああ、あの時の猫か。仲が悪いなら、会わない方がいい。お互い、気分が悪くなるだけだ』


「そんなに気になるなら、お父さんが見てきてあげるニャー」

「私も行くニャ。シロちゃんは、無理して会う必要ないニャ」

「いいのミャ?」

「このくらい、お安い御用(ごよう)ニャー」

「シロちゃんとグレイさんは、そこで待っててニャ」


 お父さんとお母さんがぼくの代わりに、カタバミの集落(しゅうらく)の様子を見てきてくれるらしい。

 もしケガや病気で苦しんでいる猫たちがいても、ふたりなら安心して任せられる。

 ふたりの手に負えないような重い病気に(かか)っているようだったら、ぼくの出番だ。

 話し合いの結果、お父さんとお母さんだけ集落へ入り、ぼくとグレイさんは集落の外で報告を待つことになった。


 ฅ^•ω•^ฅ


 ただ待っているだけだと(ひま)なので、ぼくとグレイさんはお散歩しながら薬草を集めることにした。

 お父さんとお母さんがいつ戻ってきてもいいように、集落から離れすぎないように気を付ける。


 カタバミの集落の周りには、カタバミとシロツメクサとムラサキツメクサがたくさん()えている。

 この3つは花が咲いていないとパッと見、全部同じように見える。

 ちゃんとよく観察してみれば、それぞれ特徴(とくちょう)があるから簡単に見分けられるけどね。


 カタバミに(ふく)まれる水溶性(すいようせい)シュウ酸塩(さんえん)は、猫にとって毒。

 シロツメクサやムラサキツメクサと、間違えないように注意。

 グレイさんがお散歩をしながら、首を(かし)げる。


『どうしてシロちゃんは、嫌われてしまったんだ? こんなに可愛いシロちゃんを嫌うなんて、信じられん』


 グレイさんは猫の言葉が分からないから、サバシロがぼくを嫌う理由を知らない。

 サバシロがカタバミの集落に残った理由も、簡単にしか伝えていない。

 後ろめたい気持ちがあったから、(くわ)しい話が出来なかった。

 ずっと言わないでいるのも心苦しいし、ちゃんと説明しよう。


「ぼくのやりたいことを押し付けちゃったから、嫌われただけミャ」

『シロちゃんがやりたいこととは、なんだ?』

「ぼくの夢は、旅をしながらお医者さんとして多くの猫たちを救いたいミャ」

『素晴らしい夢じゃないか、それのどこがダメなんだ?』


「サバシロくんは自分がしたいことしかしない、猫らしい猫ってことミャ」

『シロちゃんだって、したいことをしている猫らしい猫だろう』

「そうミャ、お互いしたいことが違っただけミャ」

『だったら、ふたりとも悪くないじゃないか』


 そう、どちらも悪くない。

 性格が合わなかった、それだけの話なんだよね。

 猫はマイペースでツンデレが、標準装備(ひょうじゅんそうび)

 それに加えて、毛色や育ってきた環境(かんきょう)によっても性格は変わる。


 例えばシロネコは、好きな相手には甘えん坊だけど警戒心(けいかいしん)が強い。

 クロネコは、好奇心旺盛(こうきしんおうせい)人懐(ひとなつ)っこい。

 サビネコは、甘えん坊だけどちょっと人見知(ひとみし)り。

 ミケネコは、プライドが高いツンデレ女王様。

 サバシロネコはマイペースで、人懐っこいタイプと神経質(しんけいしつ)なタイプに分かれる。

 もちろん、それぞれ個体差(こたいさ)もあるけどね。


 しばらくすると、お父さんとお母さんが集落から飛び出して来た。


「シロちゃん、サバシロくんがいないニャー!」


 な、なんだってーっ? 

 サバシロは「この集落が気に入った」と、言っていたはずなのに。

 これは集落の(おさ)に、詳しい話を聞かなきゃいけないな。


 ฅ^•ω•^ฅ


 その場でグレイさんと別れて、カタバミの集落へ入った。

 ぼくたちは(おさ)のフジを見つけて、話し掛ける。


「フジさん、お久し振りですミャ」

「おや、どちら様ですニィ~?」

「あれ? 覚えていらっしゃらないですミャ? サバシロくんと一緒にいた、シロですミャ」

「ああ、あの藪医者(やぶいしゃ)のお仲間ニィ~?」


 サバシロの名前を出した途端(とたん)、フジは急に不機嫌(ふきげん)になった。


「藪医者ミャ?」

「我々が病気になって助けを求めたら『薬草を探してくる』と言って集落を飛び出して、そのまま戻って来ませんでしたニィ~」


 アイツ、逃げたな。

 以前、ぼくがこの集落の猫たちを助けた時、サバシロはぼくの手柄(てがら)横取(よこど)りしてお医者さんを名乗った。

 サバシロはズル賢くて、意地(いじ)が悪い猫だった。

 ぼくと性格が合わなかったサバシロは、「ここに残る」と言い出した。


 お医者さんがいなかったカタバミの集落の猫たちは、自称お医者さんのサバシロを喜んで受け入れた。

 それからしばらく、サバシロはお医者さんとしてみんなからチヤホヤされて幸せに暮らしていたそうだ。

 しかし、幸せは長くは続かなかった。


 ある日、みんなが病気になってもサバシロは何もしなかったらしい。

 何もする気がなかったし、何も出来なかった。

 薬草をひとつも知らない、藪医者だから。

 たぶん(うそ)がバレそうになったから、(あわ)てて逃げ出した。

 サバシロに逃げられたカタバミの集落の猫たちは、自分たちでハーブティーを飲んで病気を治したという。


 フジから話を聞いて、(あき)れるしかなかった。

 いつかこうなるんじゃないかと、思っていたけどね。

 フジも(いか)りを通り越して、呆れた口調で続ける。


「思い返せば、薬草を教えてくれたのはシロちゃんでしたニィ~。あの藪医者には、すっかり(だま)されましたニィ~」

「申し訳ございませんでしたミャ、代わりに謝らせてくださいミャ」

「いやいや、シロちゃんは何も悪くないですニィ~。シロちゃんが教えてくれた薬草のおかげで、我々は助かりましたからニィ~」


 フジはにこやかにぼくの頭を()でて、許してくれた。

 フジにサバシロの行方(ゆくえ)を聞いてみたけど、どこへ行ったか分からないと言う。

 けれど、ぼくには分かる。


走査(そうさ)』に調べてもらえば、一発だ。

 サバシロが今どこにいるか教えて、『走査(そうさ)


位置情報(いちじょうほう):左折360m、直進810m先』


 確かその方向って、エノコログサの集落があるんじゃなかったっけ?

 サバシロはカタバミの集落から逃げ出して、エノコログサの集落へ戻ったのか。

 あんなに、エノコログサの集落を嫌っていたのに。

 逃げ帰れる場所が、生まれ故郷であるエノコログサの集落しかなかったんだろう。


 サバシロは、集落の(おさ)代替(だいが)わりして居心地(いごこち)が悪くなったから逃げ出した。

 今回も、カタバミの集落にいられなくなったから逃げ出した。

 たぶんサバシロは都合(つごう)が悪くなったらすぐ逃げる、逃げ(ぐせ)があるんだ。

 もともとサバシロはエノコログサの集落の猫だから、戻ることはそんなに難しくなかっただろう。


 サバシロのことだから、自分にとって都合(つごう)の良い(うそ)()いたに違いない。

「無理矢理連れ去られた」とか「(だま)された」とでも言って、被害者ぶったんだろう。

 サバシロは、そのくらいの嘘なら平気で()く。


 ほんの数日しか一緒にいなかったけど、サバシロの性格の悪さはすぐ分かった。

 自分は何もしない(くせ)に、マウントを取りたがる。

 言い訳ばっかりして、都合が悪くなると自分だけさっさと逃げる。


 いつまでも、逃げられると思うなよ。

 カタバミの集落からエノコログサの集落は、1kmくらいしか離れていない。

 急げば、今日中に辿(たど)()けるはずだ。


 とはいえ、急ぐ必要はない。

走査(そうさ)』がある限り、サバシロは逃げられない。

 今日のところは、カタバミの集落でのんびりしよう。

 ずっと旅をしていると、お父さんとお母さんのストレスがたまっちゃうからね。

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