第154話 ワンオペレーション
健康で長生きするか、好きなものを好きなだけ食べて早く死ぬか。
世の中には、「健康的なものを食べて長生きするよりも、大好きなカロリー爆弾を食べて早死にする方が良い」という人もいる。
猫にとっては、どちらが幸せなんだろうね?
そもそもぼくは、脂質異常症や糖尿病などの重い病気を治すことが出来ない。
肥満症を治すには、痩せるしかない。
だけど痩せる気がない猫を、痩せさせるのは難しい。
猫に無茶なダイエットをさせようとすると、逆に脂肪が肝臓を埋め尽くす「肝リピドーシス」になってしまうらしい。
人間でいうところの「脂肪肝」
飼い猫だったらダイエットフードに替えるとか、たくさん遊んで運動量を増やすとか、いろいろやりようがあるけど。
こんなにたくさんの野生の猫たちを、ダイエットさせるなんて出来っこない。
いろいろ考えたけど、オリーブの集落の猫たちをダイエットさせるのは無理だ。
だって、猫がオリーブの実を食べることは止められない。
あればあるだけ食べてしまう。
美味しそうにオリーブの実を食べる猫たちを見ていたら、「なんかもう猫が幸せならそれでいいかな」って思っちゃったよ。
それでも一応、ダイエットハーブティーは飲ませるけどね。
ダイエット効果がある薬草はいろいろあるけど、まだぼくが知らない薬草はあるかな? 『走査』
『対象:セリ科ウイキョウ属茴香』
『概要:別名、Fennel。全草可食部位。サラダ、煮物、炒め物、スープ、特に魚料理との相性が良い。種は乾燥させて、香辛料として使われる』
『薬効:食べ過ぎ、飲み過ぎ、胃もたれ、消化不良、健胃、消化促進、抗酸化作用、食欲増進、膨満感、膀胱炎、むくみ、口臭予防』
『対象:アオイ科フヨウ属Hibiscus Roselle』
『概要:全草可食部位。酸味が強いので、ハイビスカスティーや菓子などに加工する』
『薬効:美肌効果、利尿作用、抗炎症作用、解毒作用、抗酸化作用、疲労回復、脂肪燃焼促進、便秘、糖尿病予防、高血圧』
『対象:クワ科クワ属桑』
『概要:全草可食部位。果実はMulberryと呼ばれ、生食可。根皮は桑白皮、葉は桑葉、枝は桑枝、果実は桑椹と呼ばれる生薬になる』
『薬効:利尿作用、鎮咳、抗炎症作用、喘息、むくみ、高血圧、めまい、ふらつき、頭痛、滋養強壮、低血圧、関節痛、倦怠疲労、不眠、かすみ目、便秘、肝機能強化、脂肪抑制、糖尿病予防、コレストロール、動脈硬化』
『対象:イラクサ科イラクサ属西洋刺草』
『概要:別名、Nettle。毒を持つ無数の細い刺毛があり、刺さると蕁麻疹を発症する。薬用部位は全草で、乾燥させて茶にする』
『薬効:解毒作用、抗アレルギー作用、抗炎症作用、花粉症、利尿作用、血液浄化作用、花粉症予防』
セイヨウイラクサの薬効は欲しいけど、毒のトゲが怖いからやめておこう。
さっそく、ダイエットブレンドハーブティーを作ってみた。
味見してみると、めちゃくちゃ酸っぱかった。
う~む……、猫は酸味が苦手だからこれは飲まないな。
何が悪いのかと『走査』に聞いてみたところ、ハイビスカスが酸っぱいらしい。
ハーブティーは効能が一番重要だけど、味も大事なんだよね。
どんなに良い薬でも、飲めなかったら意味がない。
ハイビスカスを抜いて、作り直すしかない。
代わりに、猫が好きなレモングラスやイヌハッカを入れてみるか。
薬草っていろんな種類があって、知れば知るほど面白い。
こうやって、薬草を組み合わせてみるのも楽しいな。
作り直したダイエットハーブティーは、レモングラスとイヌハッカの爽やかなレモンの香りがした。
猫は柑橘系の匂いが苦手なんだけど、レモングラスとイヌハッカは好きなんだよね。
ウイキョウも爽やかな甘い香りがするし、クワはいかにも葉っぱの青臭い感じ。
これなら、猫たちも飲んでくれるかな?
お父さんとお母さんに頼んで、葉っぱのお皿に入れて配ってもらった。
みんな気に入ってくれたみたいで、「うみゃいうみゃい」と喜んで飲んでくれた。
これで、ちょっとはマシになるといいけど。
それにしてもみんな、こんなに太っていて狩りなんて出来るのかな?
ちゃんと、ごはんを食べられているのかな?
まさか、オリーブの実しか食べていないってことはないよね?
そんなことを考えていたら、1匹のクロネコが大きな獲物を引きずりながら戻ってきた。
「みんな~、お土産ニャオ。みんな、食べてニャオ」
このクロネコは、オリーブの集落の長のネロだ。
集落の猫たちは、重い体をのっそりと起こして集まってくる。
「長、お疲れ様ニャン」
「長、ありがとうニィ~」
「たくさん召し上がれニャオ」
猫たちはそれぞれ、ネロにお礼を言ってお肉を食べ始める。
ネロはニコニコ笑いながら、お肉を食べる猫たちを見つめている。
この集落でネロだけ、デブニャンではなかった。
どうやらネロが、みんなの為にひとりで頑張って狩りをしているようだ。
集落を守るのは、長の役目。
とはいえ、長ひとりで14匹を養うのは大変すぎる。
そんな心配をしながら、ネロに近付いて話しかける。
「ネロさん、お久し振りですミャ」
「おや、どこの仔猫かと思えば、お医者さんだったニャオ。また来てくれて、嬉しいニャオ」
「あの、もしかしてネロさんおひとりで狩りへ行かれているのですか?」
「そうニャオ。みんな病気だから、ボクが頑張らないといけないニャオ」
ネロは疲れた顏で、力なく笑った。
なんか、可哀想だな。
長として責任を持って、みんなを守ろうという気持ちは偉いと思う。
だけどこのままひとりで頑張りすぎたら、いつか倒れてしまう。
デブニャンでも、幸せならそれで良いと思っていたけど。
ネロがたったひとりで、14匹の猫たちを支えている状況はどう考えてもおかしい。
ネロの「自分が我慢すればいい」という、犠牲的精神も良くない。
同じ集落に棲むもの同士、支え合って生きていくべきなんだ。
お肉を食べる為に集落の猫たちが全員集まっている。
ちょうどいいから、この場で話し合いをしよう。
猫たちがお肉を食べ終わる頃を見計らって、話し始める。
「あの、皆さんにお話ししたいことがありますミャ」
そう前置きをして、猫たちにも分かるように訴えかける。
「皆さん、いつまでも長ひとりに頼りっきりではいけませんミャ。もし長が大きなケガを負ったりや病気になったりして倒れたら、どうするんですミャ?」
「……言われてみれば、ずっと長ひとりに狩りを任せっきりになっていたニャン」
「長が倒れたら、とっても悲しいニ~」
ぼくの話を聞いて、猫たちは顔を見合わせた。
猫たちは長の周りに集まって、申し訳なさそうに謝り始める。
「長、今まですまなかったニャン。つい、長の優しさに甘えてしまったニャン」
「今まで、本当にごめんなさいニィ~。これからはワタシたちも、狩りを頑張るニィ~」
「みんな、ありがとうニャオ……」
猫たちはネロに、大好きのスリスリをした。
猫たちがスリスリしている光景は、見ているだけで癒される。
ネロもずっと気負いすぎて、ストレスを抱えていたに違いない。
ネロは心の底から安心した表情で、嬉しそうに笑った。
これからは他の猫たちも、狩りを手伝うようになるだろう。
デブニャンだから、動きが鈍いかもしれないけど。
運動量が増えれば、きっと少しずつ痩せられるはずだ。
口に出して言わなければ、何も伝わらない。
やっぱり、話し合いって大事だよね。
【西洋刺草とは?】
「ネトルティー」という名で、花粉症やダイエットに効くお茶として売られている野草。
青紫蘇に似ているけれど、茎に鋭い刺毛が生えている。
刺毛には、蟻酸、histamine、serotonin、|Acetylcholineなどの毒があり、刺さるとめっちゃ痛い皮膚炎を起こす。
これらの毒は、乾燥したり加熱したりすると無毒化出来る。
余談だけど、奈良県立都市公園(奈良公園)に生えているイラクサには、通常の約50倍の刺毛が生えている。
奈良公園以外のイラクサには、このような進化は見られない。
鹿から身を守る為に、超進化したと考えられている。




