第152話 大好きなのはヒマワリの種
セージの集落を旅立ったあたりから、暑さが和らいできた気がする。
朝と夜も、涼しくなってきた。
空を見上げると日差しはまだ強いけど、入道雲が見られなくなった。
油蝉やミンミン蝉に交じって、ツクツク法師が鳴き始めている。
夜になると、草むらから蟋蟀や鈴虫の鳴き声が聞こえる。
セミは昼行性で、コオロギは夜行性だから鳴き声がかぶることはない。
虫によって、鳴く時間帯が違うのは不思議だよね。
ツクツクボウシが鳴き出すと、夏も終わりだなぁと感じる。
クコの実が成り始めているけど、まだ小さくて青いから食べられそうにない。
仕方がない、残念だけどクコの実は諦めよう。
秋は食べられるものが、ほかにもいろいろあるからね。
今年はヒマワリの種とオリーブの実が食べられそうだから、とっても楽しみなんだよね。
オリーブの実の収穫時期は、9月~2月。
9~11月頃に採れる緑の実は、グリーンオリーブと呼ばれる。
12~2月頃に採れる黒い実は、ブラックオリーブ。
グリーンオリーブは渋味が強くてそのままでは食べられないので、塩漬けやオイル漬けにするのが一般的。
ブラックオリーブは渋味が抜けて甘くなるので、生でも食べられる。
ただし、オリーブはカロリーがとっても高いから食べ過ぎには注意。
塩漬けは猫の体に毒だから、グリーンでもブラックでも生のものを与えてね。
オリーブオイルはどちらからでも搾れるし、猫の体にも安全だよ。
ヒマワリの種の収穫時期は、夏の終わりから秋。
花が枯れて、種が茶色く乾いてきたら収穫出来る。
しっかりと乾燥させて、殻を剥くと食べられる。
フライパンで炒ったり揚げたりすると、美味しいよ。
どちらもカロリーが高いから、たくさん食べるとデブニャンになっちゃうぞ。
種をイチモツの集落へ持ち帰って、育ててもいいかもね。
そういえばちょうど今が、ヒマワリの種の収獲時期じゃないか。
さっそく、ヒマワリを探そう。
ぼくの体はちっちゃいから、ヒマワリを探すのは難しい。
ずっと上を見上げていなきゃいけないから、大変だ。
そうだ、木に登って上から探せば良いんじゃないか。
近くに生えていた木にしがみついて登り始めると、お父さんもお母さんもグレイさんも不思議そうに声を掛けてくる。
「シロちゃん、木登りニャー?」
「木の上から、ヒマワリの花を探そうと思ってミャ」
「ヒマワリって、なんニャ?」
『それも、お薬になるのか?』
「もちろんお薬になるし、食べても美味しいミャ」
ヒマワリの花弁でハーブティーを淹れたことがあるから、みんなも見たことがあるはずなんだけどな。
といっても、ヒマワリの花のハーブティーを淹れた回数は少ない。
ヒマワリは茎がトゲトゲしているから、下手に触るとケガをしちゃうんだよね。
葉っぱが大きいから、お皿としてはよく使うんだけどね。
ぼくは棒を拾って、地面にヒマワリの絵を描きながら説明する。
「こんな感じのおっきなお花を探しているミャ。良かったら、みんなも探して欲しいミャ」
「おっきいお花って、どのくらいおっきいのニャ?」
「ものによるけど、成猫が丸くなったくらいおっきさミャ」
『そんなに大きな花があるのか? だったら、オレでも見つけられそうだな』
「分かりやすいお花だから、見つけやすいと思うミャ」
「分かったニャー、探すニャー」
ぼくたちは手分けをして、ヒマワリの花を探すことにした。
ぼくとお父さんとお母さんは、木の上から。
グレイさんは木に登れないから、下から探してもらう。
探し始めたら、意外とすぐに見つかった。
枯れたヒマワリの茎を、石斧で伐り倒す。
倒れた衝撃で、ヒマワリの種がパラパラと地面に飛び散った。
「この種を、集めて欲しいミャ」
「分かったニャー」
「この種が、食べられるニャ?」
『よし、たくさん集めるぞ』
みんなで協力して、ヒマワリの花から種を集める。
乾燥したヒマワリの種は、面白いくらい簡単にポロポロ取れる。
たった1輪のヒマワリから、ものすごい量の種が採れた。
ヒマワリの花の大きさによるけど、100~5000粒くらい採れるそうだ。
蔓で籠を編んで、ヒマワリの種を入れた。
種が零れ落ちないように、網目を小さくして蓋も付けてみた。
種の量が多いからひとつじゃ足りなくて、3つも編むことになっちゃったけど。
籠はそれぞれ、お父さんとお母さんとグレイさんが背負ってもらった。
ぼくの背中には、すでに薬草がたくさん入った籠があるからね。
これでしばらくは、ヒマワリの種には困らないぞ。
たくさん採れたから、さっそく食べてみようかな。
殻は硬くて消化に悪いから、殻を剥いて中の仁だけを食べる。
しっかり乾燥させると、剥きやすくなるらしいよ。
仁は、生で食べた方が栄養価が高いんだって。
カルシウムを多く含み、よく噛んで食べると虫歯にならないと言われている。
特にアメリカや中国では、おやつとしてよく食べられているらしい。
さっそく、爪で引っかけて殻を開けてみる。
殻をはずすと、中から白くてちっちゃな仁がコロンと出てきた。
食べてみると、サクサクしたナッツみたいな味で美味しい。
だけどこのくらいのサイズだと、噛まずに呑み込んじゃいそうだな。
犬猫は、ごはんをあまり噛まずに呑み込むのが普通なんだよね。
呑み込んだら消化されずに、そのままの形で出てきそう。
だったら、石で叩き潰してみたらどうかな?
ヒマワリの種は油も搾れるから、肉にまぶして焼いたら美味しそう。
「お父さん、お母さん、ヒマワリの種を使った料理をしたいから狩りをしてきて欲しいミャ」
「狩りなら、お父さんに任せるニャー!」
「ヒマワリの種を使った料理、楽しみニャ」
狩りが好きなお父さんとお母さんは、背負い籠を置いて狩りへ行った。
その場には、ぼくとグレイさんが残った。
ぼくの横で、グレイさんが首を傾げて聞いてくる。
『オレは、行かなくて良かったのか?』
「グレイさんには火起こしのお手伝いと、ヒマワリの種のハーブティーを味見して欲しいミャ」
『それなら、喜んでやろう』
ヒマワリの種はフライパンでゆっくりと時間をかけて煎ると、ノンカフェインのヒマワリコーヒーが出来るんだって。
殻ごと煮出すと、ハーブティーも出来るそうだ。
ヒマワリコーヒーは難しそうだから、ハーブティーにしてみよう。
ヒマワリの種のハーブティーは、栄養補給、疲労回復、老化予防、生活習慣病、冷え性、更年期障害、気管支炎、むくみ、肌荒れなどに効果があるんだって。
種を使ったハーブティーは初めてだから、楽しみだな。
グレイさんに火を起こしてもらい、ヒマワリの種を煮出した。
出来上がったヒマワリのハーブティーを冷まして、グレイさんに差し出す。
「はい、これがヒマワリのハーブティーミャ」
『おおっ、これがさっきの種のお茶なのか。不思議な味だが、これはこれで美味しいぞ』
グレイさんは、大喜びで飲んでくれた。
ぼくも飲んでみると、香ばしい麦茶みたいな味がした。
実は猫は、麦茶が好き。
猫はイネ科の植物を好んで食べるから、麦茶も好きなんだろうね。
麦茶にはカフェインが入っていないから、猫に飲ませても大丈夫。
猫に麦茶を与える場合は、水で薄めてあげるといいよ。
麦茶には、カリウム、ナトリウム、リン、亜鉛、マグネシウム、カルシウムが含まれている。
だから、腎臓病や尿路結石の治療中の猫には与えない方が良いらしい。
しばらくすると、お父さんとお母さんが|Macrauchenia(大きなラマみたいな動物)を引きずりながら戻って来た。
「ただいまニャー、なんだかとっても良い匂いがするニャー」
「新しいハーブティーニャ? わたしたちにも、飲ませてニャ」
「ふたりとも、おかえりなさいミャ。お疲れ様ミャ。はい、どうぞミャ」
ヒマワリの種のハーブティーを差し出すと、ふたりは美味しそうに飲んでくれた。
ふたりも、気に入ってくれたみたいで良かった。




