第151話 猫の正しい叱り方
「この先の集落に、病気の猫たちがいるミャ。お父さんとお母さんは、ヨモギとイヌハッカを集めてミャ。グレイさんは、ムラサキバレンギクをお願いミャ」
「だったら、お父さんはヨモギを集めるニャー」
「私は、イヌハッカを集めるニャ」
『いつものムラサキの花だな? よし、任せろ』
手分けして薬草を集めれば、すぐに全部揃った。
「みんな、ありがとうミャ。グレイさんは、またあとでミャ」
『ああ、またな』
グレイさんとはその場で別れて、薬草を抱えてセージの集落へと急いだ。
集落の中では、猫たちがキノコの食中毒で苦しんでいた。
「皆さん! すぐハーブティーを作りますミャッ!」
急いでハーブティーを淹れて、お父さんとお母さんに配ってもらった。
食中毒になったら、たくさん水を飲ませて悪いものを全部出させるのが基本。
悪いものを出し切るまで、ごはんは食べさせない。
おなかが痛い時に、食欲なんてないだろうけどね。
急性胃腸炎は、毒キノコを食べた中毒症状が原因。
逆流性食道炎は、吐いた時に胃酸で食道が荒れちゃった状態。
どちらも炎症が起きているから、抗炎症作用と鎮痛作用があるハーブティーを飲ませてもいいかも。
ヨモギやクコに、抗炎症作用や鎮痛作用などがあるから大丈夫かな。
ハーブティーを飲んだらひたすら寝て、自然治癒力で治す。
食中毒は、早ければ1~3日くらいで治る。
みんなしょっちゅう食中毒になるから、食中毒の処置はすっかり慣れちゃったよ。
特に若い猫は好奇心旺盛で、咬んで遊んでいるうちに誤飲してしまうことが多い。
おうちの中には、猫が誤飲してしまうものがいっぱいある。
猫が誤飲しないように、くれぐれも気を付けてあげてね。
吐き出せないものを飲み込んじゃったら、手術が必要となる。
飼い猫が誤飲したら、迷わず病院へ連れて行こう。
今回は、毒キノコの誤食だから話は別だけどね。
ฅ^•ω•^ฅ
翌日、ほとんどの猫は食中毒の症状が落ち着いたようだ。
長のクロトビや一部の猫たちは、症状が重かった。
たぶん、たくさん食べちゃったんだろう。
弱っている猫に、お説教する気は起きない。
猫の叱り方には、コツがある。
猫は悪いことをしたらすぐ叱らないと、何がやっちゃいけないことなのか理解出来ない。
猫は賢いから、正しく叱れば「これはやっちゃいけないことなんだ」と理解出来る。
あまり強く怒鳴りつけると、猫は「なんだか分からないけれど、めちゃくちゃ怒られたっ!」という嫌な記憶しか残らない。
もちろん、大声で怒鳴りつけたり叩いたりしちゃダメだよ。
そんなことしたら、猫に嫌われちゃうぞ。
とりあえず、症状が落ち着くまでは様子を見よう。
長が寝込んでいる間に、ほかの猫から話を聞いてみるか。
「ぼくが旅立ったあと、皆さんキノコを食べられましたミャ?」
「長がキノコ鍋や焼きキノコを作ってくれて、食べさせてくれたニャオ」
「昨日は『同じ味で飽きた』と言って、違うキノコを入れていたナゴ」
「そのキノコを食べたら、具合が悪くなったフニャア」
なん……だと……?
クロトビは、ぼくの言いつけを破ったらしい。
いくら美味しくたって、同じものばかり食べていたら飽きる。
タモギタケの味に飽きたクロトビは、ほかのキノコに手を出して毒キノコ鍋を作っちゃったんだ。
これは、怒っていいよね?
長は、集落の猫たちを守らなくてはならない。
自分が食べたいからって、みんなも巻き込んで命の危険にさらしてしまうようでは長失格だ。
症状が落ち着いたら、お説教だっ!
ฅ^•ω•^ฅ
3日目にしてようやく、クロトビたちの容態が安定した。
しばらくはおなかが痛いかもしれないけれど、安静にしていればそのうち治るだろう。
ぼくが怒っていると分かると、クロトビは体を丸めて座り、耳を後ろに倒して顔をそむけた。
猫が顔をそむけるのは、最大限に反省をしている証拠。
体を丸めてしっぽを体をしまいこんで座る時も、反省のポーズ。
耳が後ろに倒れていたり、ヒゲが下がっている時は精神的ストレスを抱えている。
これらの行動は、猫なりに反省している時にしかしない。
クロトビ自身も毒キノコを食べて苦しんだし、集落の猫たちも巻き込んでしまったから深く反省しているようだ。
「クロトビさん」
「ごめんなさいニィッ!」
クロトビに声をかけると、ビクーンッと体を大きく跳ねさせた。
すぐにおなかを見せて寝転がり、降参のポーズをした。
はい、可愛い。
う~ん……、こんなに反省していたら怒りたくても怒れないよ。
でも同じことをくり返されたら困るし、注意だけはしておかないとね。
出来るだけ、「怒っていますよ」という態度で話しかける。
「反省しましたミャ?」
「はい、すみませんニィ~。もうキノコは、懲りましたニィ~……」
「もう二度と、キノコは食べちゃダメですからミャ」
「はい、もう食べませんニィ~……」
「分かればよろしいですミャ」
こういうことが起こることが考えられたから、今まで誰にもキノコの見分け方を教えなかったんだ。
猫は興味がないことはすぐ忘れちゃうけど、嫌な思い出はずっと覚えている。
集落の猫たちも、毒キノコで苦しんだ記憶は深く残り続けるに違いない。
クロトビも痛い思いをして、十分反省しているみたいだし。
この集落の猫たちも、キノコを食べようとは思わないだろう。
今回はたまたま、猛毒のキノコは入っていなかったけど。
もし毒性が強い杉平茸や火炎茸だったら、最悪死んでいた。
致死率が高いキノコを食べていなくて、本当に良かった。
クロトビも深く反省して、猫たちの食中毒もすっかり治った。
これで、安心して旅立てる。
ぼくたちが旅立つ日、集落の猫たちがお見送りしてくれた。
「仔猫のお医者さん、助けてくれてありがとうニャオ」
「お医者さん、また来てナゴ。きみなら、いつでも歓迎するナゴ」
「ありがとうございますミャ。皆さん、どうかお元気でミャ。クロトビさん、今度こそ絶対に約束を守ってくださいミャ」
「はい、二度と破りませんニィ~。もうキノコは、懲り懲りですニィ~」
強く言い聞かせると、クロトビは反省のポーズを取った。
クロトビは、今もぼくが怒っていると思っているのかな?
その反省のポーズが見られただけで、もう怒っていないんだけどね。
というか、猫相手に本気では怒れないよ。
だって、猫可愛いんだもん。
でも、絶対に許さないからね。
許されると安心して忘れてしまうから、簡単に許してはいけない。
どんなに後悔しても反省しても謝っても、やってしまった罪は消せない。
間違ってうっかりやってしまった罪よりも、わざとやった罪の方が重い。
許されなければ、罪は嫌な記憶としてずっと心の中に残り続ける。
許されないことが、罰となるんだ。
集落の猫全員を、苦しめた罪は重い。
長として、責任を負うのは当たり前でしょ?
これからも集落の長として、猫たちを守り続けて欲しい。
ぼくたちは猫たちに別れを告げて、セージの集落をあとにした。
【杉平茸とは?】
特に杉の倒木や切り株に群生する、猛毒キノコ。
全体的に真っ白で、舞茸に似ている。
かつては優秀な食用キノコとして、食べられていた。
平成天皇即位の式典で、秋田県からの献上品として選ばれた。
しかし2004年秋頃から突然、スギヒラタケが原因の死亡事故が相次いだ。
研究の結果、腎臓機能障害を持つ人に対して急性脳症を引き起こす猛毒であることが明らかとなった。
「突然変異して、毒化したのではないか」という説もあるが、さだかではない。
【火炎茸とは?】
名前通り、紅く燃え盛る炎のような形をしているキノコ。
キノコの中では唯一、触っただけで皮膚が爛れる恐ろしい猛毒を持つ。
致死量は、わずか3g
食べて30分後くらいに食中毒の症状が現れ、胃腸障害や多臓器不全ののちに脳障害が起こる。
回復したとしても、言語障害や運動障害などの重い後遺症が残ると言われている。




