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ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話  作者: 橋元 宏平


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第149話 感染症の恐怖

 それからしばらく、グレイさんがぼくの看病(かんびょう)してくれた。

 ずっと側にいてくれて、ムラサキバレンギクも()ってきてくれた。

 グレイさんが唯一(ゆいいつ)覚えているムラサキバレンギクは、天然の抗生物質(こうせいぶっしつ)

 免疫力(めんえきりょく)を高める効果があるから、風邪にも()くんだ。


 今は火を起こす気力がないから、水出しハーブティーを作ろう。

 晴れた日なら、風通しの良い場所に薬草を干しておけば半日で乾く。

 日差(ひざ)しが強い真夏には、水を入れたお皿を日当たりの良い場所に置いておく。

 熱湯まではいかなくても、そこそこ熱いお湯が出来る。

 このお湯に、乾燥させたムラサキバレンギクの花弁(はなびら)(ひた)す。

 そうすれば、冷たい水よりは早くハーブティーが出来る。


 去年の春に、シロツメクサの集落(しゅうらく)で猫ヘルペスウイルス感染症(かんせんしょう)に感染したっけ。

 あの時も、グレイさんが看病してくれた。

 猫ヘルペスウイルス感染症も猫カリシウイルス感染症も、どちらも猫風邪。

 猫風邪は、猫にしか感染しない。

 もし犬猫共通の病気だったら、治るまで会えなかった。


 哺乳類全般(ほにゅうるいぜんぱん)(かか)る感染症を、人獣共通感染症じんじゅうきょうつうかんせんしょうというらしい。

 人獣共通感染症は、150種類以上もあるそうだ。

 例を()げると、

 ・狂犬病(きょうけんびょう)

 ・トキソプラズマ感染症、

 ・皮膚糸状菌症ひふしじょうきんしょう

 ・媒介生物(ベクター)媒介性疾患(ばいかいせいしっかん)など。


 狂犬病は、狂犬病ウイルスによる感染症。

 トキソプラズマ感染症は、寄生虫(きせいちゅう)による感染症。

 皮膚糸状菌症は、皮膚(ひふ)真菌(カビ)が生える感染症。

 媒介生物(ベクター)媒介性疾患は、病原体(びょうげんたい)を持っている()やダニなどに()まれることで(かか)る感染症。


 空気感染(くうきかんせん)接触感染(せっしょくかんせん)の予防は難しい。

 媒介生物(ベクター)媒介性疾患は、虫除(むしよ)け首輪や蚊遣火(かやりび)をすればある程度は予防出来る。


 寄生虫といえば、カエルを食べたことによるマンソン裂頭条虫(れっとうじょうちゅう)駆除(くじょ)は出来たのかな?

走査(そうさ)』が以前、「完全な駆除は困難」と言っていた。

 内部寄生虫駆除ないぶきせいちゅうくじょに効果のある、壬生蓬(ミブヨモギ)は定期的に飲み続けている。

 駆除は出来たのかな? 『走査(そうさ)


『マンソン裂頭条虫の駆除失敗』


 うん、そんな気はしていた。

 現代医療でも困難と言われている病気を、ぼくが治せる訳がないよね。

 マンソン裂頭条虫に寄生されてずいぶん()つけど、ぼくの体は大丈夫なのだろうか?

 自覚症状(じかくしょうじょう)はほとんどないけど、ちょっと心配だな。


『マンソン裂頭条虫症は、ほとんどの場合は無症状。発症しても、命にかかわるような事にはない。便と共に排出されることもある』


 それならいいけど……。

 しょぼんとしているぼくの顔を、グレイさんが心配そうな顔で(のぞ)き込んでくる。


『シロちゃん、肉は食べられそうか?』

「ごめんなさいミャ、今は具合が悪くて何も食べられないミャ……」


 力ない声で答えて、地面にうずくまる。

 猫カリシウイルス感染症に罹ってから、食欲がない。

 食べなきゃいけないことは分かっているけれど、食べる気が起きない。


 せっかく狩ってきてくれたのに、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 グレイさんはしょんぼりとした顔で、ひとりでお肉を食べ始めた。


『少しでも食べないと、元気になれないぞ。オレが料理を作れたら、シロちゃんの為に何か作ってあげられるのだがな……』


 そう言い残して、グレイさんはお肉を(くわ)えてどこかへ行った。

 巣穴(すあな)の外を見れば、雨が()っている。

 きっと食べきれなかった分を、集落へお裾分(すそわ)けしに行ったんだ。


 以前も、グレイさんにお願いしてお肉を集落に運んでもらった。

 雨が降ると、猫たちはみんな巣穴に()もってしまう。

 猫たちが集落から姿を消している間に、グレイさんはいつもこっそりとお肉を集落へ運び込む。

 雨の日はグレイさんの臭いも洗い流されるから、ちょうど良いんだよね。


 雨が止んだら、猫たちはお裾分けに気付いて食べてくれるはずだ。

 グレイさんは、本当にビックリするほど猫に優しい。

 猫の為なら何でもしてくれる、愛猫家(あいびょうか)なんだよね。

 ぼくだって、可愛い猫の為ならなんだってしてあげたくなっちゃうもん。


 そういえば、前にグレイさんが「火の起こし方を教えてくれ」と言ったことがあった。

 あれは確か、ぼくが猫マイコプラズマ感染症に罹った時だっけ。

 猫マイコプラズマ感染症も、猫風邪のひとつ。

「治ったら教える」と約束をしていたのに、すっかり忘れていた。


 野生動物は、本能的(ほんのうてき)に火を恐れる。

 その証拠にぼくが火を使っている時には、グレイさんは近付いて来ない。

 雨に濡れた毛を乾かす時でも、火から離れた場所にいることが多かった。


 グレイさんは火が怖いのに、ぼくの為に火を起こせるようになりたいと思ってくれたんだ。

 その気持ちはとても嬉しいけれど、無理はして欲しくないな。


 ฅ^•ω•^ฅ


『シロちゃん』


 グレイさんの鼻先で、顔を(つつ)かれて起こされた。

 目を開けると、Phenacodus(フェナコドゥス)(もこもこの毛が生えていないヒツジ)が置いてあった。

 どうやらぼくの為に、狩りへ行ってきてくれたようだ。


『頼むから、食べてくれないか? このままでは、死んでしまうぞ』


 いくら食欲がないからといって、何も食べなかったら弱る一方だ。

 グレイさんが言う通り、少しでも食べなきゃ。

 でも、体が弱っている時に生肉を食べるのはちょっと怖い。


 野生動物には、病原体や寄生虫がいることが多い。

 免疫力が下がっている時に病原体が入ってくると、感染しやすい。

 せめて加熱消毒して、出来るだけ感染の危険を()けなければ。

 でも、今は体力がなくて火を起こすことも出来ない。

 どうしたものか……。


 そういえば、理科の実験で虫眼鏡(むしめがね)でお日様(ひさま)の光を集めて火を起こす「太陽着火法たいようちゃっかっほう」をやったことがある。

 透明なペットボトルやビニール袋に水を入れて、レンズ代わりにすることも出来る。

 冬だったら、氷でレンズを作る手もある。


 五円玉の穴に水を落として、表面張力ひょうめんちょうりょくで水レンズを作る方法もある。

 だけど五円玉くらいの小さな水レンズでは、お日様の光は集められない。

 光を1ヶ所に集めることさえ出来れば、鏡や空き缶の底でも出来るらしい。

 レンズも鏡も手に入らないから、無理だけどね。


 結局のところ、摩擦熱(まさつねつ)で火を起こす弓切(ゆみき)り式火起こしが一番確実なんだよね。


「グレイさん、火を起こしたいから材料を集めてきて欲しいミャ」

『火を起こすのか。何が必要なんだ?』 

「このくらいの棒と長い(つる)、乾燥した葉っぱや松ぼっくり、枯れ枝をたくさん集めてきて欲しいミャ」

『そんなに、いろんなものが必要だったのか。分かった、集めてこよう』


 グレイさんは巣穴と外を行ったり来たりして、材料を集めてくれた。

 ぼくはその間に少し穴を掘り、土でかまどを作っておいた。


 材料さえ(そろ)えば、あとは火を起こすだけ。

 だけど今は風邪で体力がないから弓を強く引けなくて、なかなか火が()かない。 

 全身でゼーハーと息をしていると、グレイさんが近寄ってきた。


『これを引けばいいのか?』

「そうミャ」

『これなら、オレにも出来そうだ。代わりにやろう』

「じゃあ、火が着いたら危ないから離れてミャ」

『分かった』


 グレイさんが弓を引き、ぼくは横から息を吹きかける。

 しばらくすると火起こし棒が摩擦熱で白い煙が立ち始め、火種(ひだね)が燃え始める。


「グレイさん、もう大丈夫ミャ。ありがとうミャ」

『そうか、これでいいのか』


 火種を枯れ草に移し、松ぼっくりと枯れ枝へと燃え移らせてだんだんと火を大きくしていく。

 グレイさんは少し離れたところから、見守って感心している。


『なるほど、こうやって火を起こすのだな。シロちゃん、ひとりでやるのは大変だろう。今度から愛の共同作業で、ふたりで火を起こさないか?』

「そうだミャ。グレイさんが手伝ってくれたら、ぼくひとりでやるよりずっと早いし助かるミャ」

『任せてくれ。オレとシロちゃんの愛の炎は、この火よりも熱く強く燃え上がっているからな』


 グレイさんはそう言って、自分が起こした火を嬉しそうに見つめていた。

狂犬病(きょうけんびょう)とは?】

 ウイルス性の人獣共通感染症じんじゅうきょうつうかんせんしょう

 昔は犬の病気だと思われていたが、全ての哺乳類(ほにゅうるい)に感染する。

 発症すると、ほぼ100%死亡する。

「もっとも致死率(ちしりつ)が高い病気」として、ギネス世界記録にも記録されている。

 狂犬病ワクチンを接種(せっしゅ)しておけば、95%予防出来ると言われている。

 日本では、1957年に撲滅(ぼくめつ)されている。

 海外では現在でも、毎年約5万人の死者を出している。


【野生動物はどうして、火を恐れるのか?】

 オオカミやコヨーテなどの野生動物は、本能的に火を恐れる。

 野生動物にとって、火は見慣(みな)れないものだから警戒(けいかい)して近付かない。

 火を恐れない動物は、好奇心旺盛(こうきしんおうせい)な猫くらい。

 恐れないだけで、近付きすぎると危ないことは分かる。

 人間に飼い慣らされた犬は、人間が火を使うのを見慣(みな)れているから平気。

 虫が火に飛び込むのは、光に引き寄せられる習性と火の恐怖を知らないから。

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