第147話 猫カリシウイルス感染症
キャットタイムの集落から出てしばらく歩くと、風に乗って良い匂いが漂ってきた。
見れば、バジルの白い花がたくさん咲いていた。
このあたりは、バジルの群生地のようだ。
バジルの開花時季は、7~8月。
ちょうど良いから、バジルをたくさん採っていこう。
バジルは肉料理に良く合うし、薬草としても超優秀。
イチモツの集落でも、バジルを育てたいな。
花が枯れたら、種が採れるそうだ。
種を持って帰れば、イチモツの集落でも育てられる。
繫殖力が強いから初心者でも育てられるけど、お世話が大変らしい。
花が咲いてしまうと栄養が花に取られて、葉っぱが硬くなって美味しくなくなるんだって。
こまめに葉っぱを摘まないと、大きくなりすぎてしまう。
大きくなりすぎた葉っぱは、美味しくないんだって。
アブラムシやハダニなどの害虫が寄ってきやすいから、駆除対策もしなければならない。
花が枯れると物凄い量の種が出来るから、放っておくと大繁殖するそうだ。
寒さに弱いから、冬になったら枯れてしまうけどね。
今はまだ花の時季だから、種が採れるまでもう少し待たなくちゃいけない。
もう少しすると、ホタルブクロの集落が見えてくるはずだ。
ホタルブクロの集落では、食中毒と急性湿性皮膚炎が流行っていたっけ。
急性湿性皮膚炎は、高温多湿の環境による細菌繁殖と毛づくろい不足が原因と言われている。
高温多湿になる、梅雨に発症しやすいそうだ。
急性湿性皮膚炎の原因は、毛づくろい不足。
毛づくろい不足の原因は、食中毒。
食中毒になって毛づくろいをしなくなったから、急性湿性皮膚炎になった。
病気が病気を呼んで、さらに病気になったという分かりやすい例だ。
あれからだいぶ経つし、みんな元気にしていることだろう。
そう思っていたら、『走査』が発動した。
『対象:食肉目ネコ科ネコ属リビアヤマネコ』
『病名:食中毒、猫カリシウイルス感染症、ウイルス性結膜炎』
『処置:猫インターフェロン、胃腸薬、抗生物質、抗ウイルス薬、抗炎症剤、止瀉薬の投与。ステロイド点眼薬の点眼』
夏は気温が高くて肉が腐りやすいから、どの集落でも食中毒が起こりやすい。
猫カリシウイルス感染症は、いわゆる猫風邪。
この季節に罹る風邪は、一般的に夏風邪と呼ばれる。
結膜炎は、猫が罹りやすい病気のひとつ。
ウィルス性結膜炎は、同じ猫カリシウイルスによるもの。
感染症だから、集落にいる猫全員が感染している可能性が高い。
猫インターフェロンは、猫カリシウイルス感染症に効果があると言われている。
抗ウイルス作用と免疫増強作用と抗腫瘍作用もある。
薬そのものは手に入らないから、同じ効果がある薬草で代用するしかない。
抗菌作用、扁桃炎、風邪、肺炎、整腸作用、免疫力強化なら、ヨモギ。
抗炎症作用、解毒作用、鎮静作用、鎮痛効果、抗ウィルス効果なら、松。
鎮痛作用、解毒、抗炎症作用、抗ウイルス作用、下痢、腹痛、食欲不振、消化器の潰瘍改善なら、甘草。
抗生物質なら、ムラサキバレンギク。
点眼薬なら、アロエ。
「お父さん、お母さん、病気で苦しんでいる猫たちがいるミャ。アロエとヨモギを集めてミャ」
「分かったニャー」
「急いで集めましょうニャ」
『オレも、手伝おう』
「じゃあ、グレイさんはムラサキバレンギクを採ってきて欲しいミャ」
『ああ、任せろ』
ぼくたちは手分けして、薬草を集めた。
ฅ^•ω•^ฅ
集落の前でグレイさんと別れると、薬草を抱えて集落の中へ入っていく。
猫たちは、くしゃみ、咳、鼻水、涙が止まらず、苦しそうに口呼吸をしながらぐったりとしていた。
「皆さん、すぐに、お薬を作りますから待っててくださいミャ」
「うぅ……、きみは確か仔猫のお医者さんナァー? 早く助けてナァー……」
ぼくがかまどを作っている間に、お父さんに水を汲んできてもらった。
お母さんは、猫たちの目にアロエの葉汁を点してくれた。
ハーブティーが出来たら、お父さんとお母さんと3匹で手分けをして猫たちに配って回った。
あとはゆっくりと眠れば、病気は治るはずだ。
ホタルブクロの集落の猫たちは、前回も今回も食中毒になっている。
ひとことで食中毒と言っても、原因はいろいろある。
①腐ったものを食べた。
②ウィルスや菌、寄生虫が付いているものを食べた。
③自然界に存在する、猫にとって毒となる植物や生き物を食べた。
④化学物質が含まれているものを食べた。
この猫たちの食中毒は何が原因? 『走査』
『腐敗によって増殖した微生物、ノロウイルス、キダチアロエの経口摂取』
そっか、いろんな原因が重なった食中毒なのか。
野生の猫はいろいろなものを食べちゃうから、仕方がないね。
野生の猫は腐った臭いや味には、敏感なはずなんだけど。
腐っているのに気付かないで、食べちゃったのかな?
それに、「アロエはおなかを壊すから食べちゃダメ」って注意しておいたはずなのに。
人間がアロエを食べると、胃腸痛、便秘、二日酔いなどに効果がある。
ちなみにヨーグルトなどに入っている食用アロエは、アロエベラ。
キダチアロエは薬用で、食べられるけど苦味が強いからあまり食べない。
アロエは300種類以上あるけど、食べられるのはこのふたつのみ。
猫がアロエを食べると、Barbaloinやsaponinといった成分でおなかを壊しちゃうんだよ。
バルバロインとサポニンは、葉の皮と葉の汁に含まれる。
葉の皮には、発癌性物質も含まれる。
中にある半透明の葉肉は、毒抜きすれば猫も食べられるらしいよ。
人間も、食べすぎるとおなかを壊しちゃうから注意してね。
急性湿性皮膚炎の時も、アロエの葉汁を目薬や傷薬として使ったんだよね。
好奇心が旺盛な猫は、アロエを食べてしまうこともある。
アロエの皮はトゲトゲしているから、食べると口の中をケガしてしまうこともある。
もし猫がアロエを食べてしまったら、迷わず病院へ連れて行こう。
どの食中毒になっても、処置はほとんど同じ。
水分をたっぷりと飲んで、悪いものを体から出し切る。
1日は何も食べずに、胃腸を休めて様子を見る。
無理して食べると、弱った胃腸に負担がかかるからね。
出すもの出して症状が落ち着いたら、消化の良いものを少しずつ食べさせる。
これが、食中毒の基本。
今はあったかいハーブティーを飲ませて、悪いものを出す段階。
症状が軽い猫には、肉が柔らかくなるまで煮た肉スープを食べさせる。
猫風邪を治すには、栄養も摂らないとね。
体力がないと、病気も治らない。
お父さんとお母さんとグレイさんに頼んで、狩りに行ってもらって新鮮なお肉で肉スープを作った。
Gastornis(ダチョウのような飛べない鳥)の皮や骨には、ゼラチンがたっぷりと含まれる。
ゼラチンは消化が良く、体にも良いから病人食にぴったり。
これで、少しずつ元気になるはずだ。
ฅ^•ω•^ฅ
『走査』によれば、食中毒もウィルス性結膜炎も猫カリシウイルス感染症もちゃんと治療すれば1~2週間くらいで治るらしい。
症状が軽かった猫たちは、看病し始めてから3日くらいで治った。
きっと、ぼくたちが来る前に自然治癒力で治りかけていたんだ。
元気になった猫たちには、看病のお手伝いをお願いした。
今は暑いから、水出しハーブティーとハーブウォーターの作り方を教えた。
日が沈んで涼しくなったら火を起こして、肉スープを作ってみんなに飲ませる。
この集落の猫たちは、カリシウイルスに対する免疫が出来ている。
一度完治したら、再発することはほとんどない。
だけどぼくたちは、カリシウイルスに感染する危険がある。
猫カリシウイルスはとても強く、洗剤やアルコールくらいじゃ死なない。
強力な消毒液に浸け込むか、煮沸消毒する。
カリシウイルスが付いているものに触ったら、ヨード化合物入りの薬用石鹸でしっかりと手を洗う必要がある。
しかし、そんなものはないのである。
マスクや手袋がないから、どんなに気を付けていても感染する。
感染したくないと気を付けていても、感染する時はしてしまう。
猫カリシウイルス感染症は、空気感染。
潜伏期間は3日。
「なんかおかしいな~」と思った時には、時すでに遅し。




