第145話 尿結石症の再発
半日ほどすると、雨は止んだ。
晴れれば、気象病は治る。
雨が降ったあとに夏の日差しで水分が蒸発すると、気化熱で涼しくなる。
気化は、液体が気体になること。
液体は気化する時に、周りにある熱エネルギーを吸収する。
それによって涼しくなる現象を、気化熱と呼ぶ。
猫も暑い日はこまめに毛づくろいをして、気化熱で体温調節をしているんだよ。
雨が止むと、少しずつ霧も晴れてきた。
「待ってました」とばかりに、蝉たちの大合唱が始まって一気にうるさくなる。
夏が来れば思い出す、「蝉爆弾」
蝉爆弾は、死にかけの蝉のこと。
夏の終わり頃に、地面に仰向けになって静かに倒れている。
近付くと「ジジジジジジジ……ッ!」という爆音と共に、地面をのたうち回る。
なんで蝉は、例外なくあんなことしてくるの?
最後の抵抗なのかもしれないけど、怖すぎて本当に無理なんだけど。
閑話休題。
ぼくとグレイさんは巣穴を出て、お散歩がてら獲物を探す。
見れば牛サイズのカピバラみたいな動物が、沼地で草を食べていた。
あれはなんて動物? 『走査』
『対象:齧歯目パカラナ科 ジョセフォアルティガシア属Josephoartigasia』
『概要:河口や湿地帯などに生息している草食性の巨大ネズミ』
「グレイさん、あれを狩るミャ」
『分かった、オレに任せろ』
ぼくとグレイさんは頷き合い、少しずつ近付いて行く。
雨のあとで地面がぬかるんでいたから、泥に足を取られてグチャリと音を立ててしまった。
その音でぼくたちに気付いたジョセフォアルティガシアは、すぐに沼の中へ潜ってしまった。
しまった、泥の中じゃ追えない。
ぼくはしょぼんとして、グレイさんに謝る。
「逃げられちゃったミャ、ごめんなさいミャ……」
『まぁ、こういうこともあるさ。気にするな。オレだって、何度も逃がしている。むしろ、逃げられることの方が多いくらいだ』
そう言って、グレイさんは優しく笑って慰めてくれた。
仕方がないので、別の獲物を探すことにした。
歩き回っていると、Gastornis(ダチョウのような鳥)を見つけた。
ガストルニスは体が重すぎて走るのが遅いから、狩りやすい。
ふたりで素早く回り込んで、狩った。
ガストルニスはとても大きくてふたりでは食べきれないので、ハルジオンの集落の猫たちへお土産としてお持ち帰りした。
ฅ^•ω•^ฅ
ハルジオンの集落へ戻ると、改めて猫たちにお別れの挨拶をする。
「それでは皆さん、クロさん、くれぐれもお大事になさってくださいミャ」
「仔猫のお医者さんも、元気でニャオ。集落のみんなから慕われる、優しい長になるニャオ」
長のクロは、笑顔でそう言った。
長は、集落に棲む猫たちが安心して暮らす為に必要不可欠な存在。
猫たちがケンカをしていたら、長が止めなければならない。
以前、ぼくが灰サビから八つ当たりされた時にクロが止めてくれた。
ツンデレな灰サビの代わりに、謝ってくれた。
誰よりも早く「薬草を教えて欲しい」と、ぼくに頼み込んできた。
あの時すでに、長としての役割を十分に果たしていた。
長になったからと言って、威張り散らすこともない。
クロならきっと、長として立派にやっていける。
クロが長なら、ハルジオンの集落は安心だ。
ぼくたちは猫たちに見送られて、ハルジオンの集落を旅立った。
ฅ^•ω•^ฅ
こう暑いと、虫除け首輪がすぐ枯れてしまう。
また新しい首輪を作らなければならない。
まずは、近くに生えている虫除け効果のある薬草を集めよう。
このあたりは、キャットタイムの群生地(いっぱい生えている場所)のようだ。
ということは、キャットタイムの集落が近い。
キャットタイムは猫が好むハーブのひとつで、利尿作用、殺菌作用、消化促進、防虫作用、強壮作用がある。
だけどシュウ酸カリウムが多く含まれるから、食べすぎには注意。
たくさん食べると、尿路結石が出来ちゃうぞ。
ぼくがキャットタイムで首輪を編んでいると、お父さんとお母さんが近付いてきた。
「シロちゃんが、新しい首輪を作っているニャー」
「私たちも、作るニャ」
「お母さんの分は、お父さんが作るニャー」
「じゃあわたしは、お父さんの首輪を作るニャ」
ふたりはニコニコ笑顔を交わして、首輪を編み始めた。
ふたりは相変わらず仲良しで、可愛いなぁ。
グレイさんはふたりを見つめたあと、ぼくに頼み込んでくる。
『オレも、作り方を教えてくれないか?』
「グレイさんも作るミャ?」
『ああ、いつもいろんなものをシロちゃんからもらっているからな。オレもシロちゃんに、愛を込めた首輪を作ってあげたいんだ』
「ありがとうミャ。じゃあ、一緒に作るミャ」
さっそくグレイさんに、首輪の作り方を教えることにした。
グレイさんは不器用ながらも、一生懸命首輪を編んでいる。
オオカミが頑張っている姿は、微笑ましい。
グレイさんが初めて編んだ首輪は、あっちこっち草が飛び出していてぐちゃぐちゃだった。
だけどぼくの為に頑張って作ってくれた、という気持ちが嬉しい。
グレイさんは苦笑しながら、出来たばかりの首輪をぼくに差し出してくる。
『やはり、シロちゃんのように上手に出来ないな。でも、シロちゃんへの愛はいっぱい込めたぞ。受け取ってくれるか?』
「もちろん、受け取るミャ。ありがとうミャ」
『次は、もっと綺麗な首輪を作ってみせるからな』
「楽しみにしているミャ。ぼくが作った首輪は、グレイさんにあげるミャ」
『ありがとうっ!』
首輪を交換すると、グレイさんはしっぽをブンブン振りながらぼくの顔を舐めた。
ฅ^•ω•^ฅ
キャットタイムの集落へ近付いていくと、猫の鳴き声が聞こえてきた。
「ニャー」ではなく、「ギャー」って悲鳴。
慌てて駆け付けると、猫が砂場で叫んでいた。
猫が砂場で叫んでいたら、痛みを感じている。
この集落の猫たちは、尿路結石症や膀胱炎になっていた。
尿路結石症の治療法は、尿結石を出すしかない。
尿結石を押し流す為、水をたくさん飲ませる。
おしっこをする度に痛がるようなら、鎮痛剤を飲ませる。
尿結石は2週間くらいで出るはずだけど、尿路結石症は再発率が非常に高い。
50~80%の確率で、また尿結石が出来てしまうらしい。
キャットタイムには、尿路結石症にも効く。
しかし、尿結石の原因となるシュウ酸カリウムが含まれている。
シュウ酸カリウムは、水に溶け出す性質がある。
それを知らずに、キャットタイム入りのハーブティーを飲ませてしまった。
飲ませたあとで、それに気付いた。
「知らないって怖いことなんだ」って、改めて思い知った。
だからちゃんとキャットタイムが入っていない、ムラサキバレンギクとムラサキツメクサとクマザサのブレンドハーブティーを教え直した。
それなのに、尿路結石や膀胱炎に苦しんでいる猫がいるのはなんで?
痛みに苦しんでいる猫に、近付いて声を掛ける。
「大丈夫ですミャ?」
「あ、仔猫のお医者さん! 助けて欲しいニャオ~、治ったと思ったらまた痛くなったニャオ~ッ!」
やっぱり、尿結石が再発してしまったようだ。
「ハーブティーは、ちゃんと飲んでいますミャ?」
「それがニャオ~……。暑くて誰も火を起こしたがらないから、全然飲んでないニャオ~」
気まずそうな顔で、目をそらしながら答えた。
どうやら、暑さを理由にハーブティーを作っていないようだ。
誰だって、暑い時に熱い思いはしたくないよね。
火の前は熱いから、脱水症状や熱中症を起こしかねない。
火を使いたくなければ、水出しハーブティーにすれば良いんだ。
今の季節なら、風通しの良い場所に薬草を干しておけば半日で乾く。
乾燥したら、あとはじっくりと水に浸けておくだけ。
これなら火を使わなくても、ハーブティーが出来る。
さっそく、水出しハーブティーの作り方を教えよう。
【Josephoartigasiaとは?】
今から約258万年前くらいに生息していたと言われている、ネズミの祖先。
熱帯雨林や湿地帯の川や沼に生息していた。
主に葉、木の実、木の根、果実などを食べていたと、考えられている。
見た目はカピバラに似ているけど、大きさは牛サイズ。
推定全長262.8cm
推定体重1100kg
ジョセフォアルティガシアの子孫は、カピバラではなくパカラナ。
パカラナは、ずんぐりむっくりとした巨大ネズミ。
全長約47~51cm
体重約13kg
人懐っこいので、ペットとして飼われることがある。




