第141話 レプトスピラ症とコクシジウム症
そろそろ、次の集落へ向かうとしよう。
ぼくたちがまだ行ったことがない集落を探して、『走査』
『該当なし』
なし?
ということは、イチモツの森の中にある集落を全部回り切ったのか。
やったー! ぼくの目的がついに達成されたぞっ!
本当はイチモツの森を出て、もっと広い世界を見てみたいけれど。
森の外へ出てしまうと、冬が来る前にイチモツの集落まで戻れなくなる。
それにお父さんとお母さんとグレイさんが、森の外へ出ることを許してくれない。
ぼくだってもう二度と、Argentavis(巨大な鷹)に攫われたくない。
しかたない、大人しくイチモツの集落へ帰るか。
イチモツの集落へ帰る途中で、他の集落にまた寄る約束もしている。
カタバミの集落に残してきた、サバシロお兄さんがどうなったかも気になっている。
秋になったら、食べたいものがたくさんあるんだ。
探してみれば、意外と猫でも食べられるものがあると分かった。
枸杞の実、オリーブの実、ヒマワリの種、栗、サルナシ、秋のキノコ。
まさに、実りの秋。
さぁ、道草食いながらイチモツの集落へ帰ろうか。
ฅ^•ω•^ฅ
『走査』の案内に従って、以前立ち寄った集落へ向かう。
メグサハッカの集落では、耳疥癬と皮膚炎と外耳炎と食中毒の集団感染が起きていたっけ。
皮膚炎と外耳炎と食中毒は、ぼくがいるうちに治った。
耳疥癬だけは、根気よく治療をし続けなければならない。
あれから1ヶ月くらい経っているから、もうそろそろ治っているはずだ。
メグサハッカの集落が近付いて来ると、自動的に『走査』が発動した。
『病名:レプトスピラ症、およびコクシジウム症』
『概要:病原性Leptospira菌、原虫Coccidiaが寄生したネズミを捕食したことが原因の感染症』
『処置:駆虫薬、抗コクシジウム薬、抗菌薬、抗生物質、止瀉薬、整腸剤の投与。水分補給、電解質の補液』
病原菌や寄生虫が付いているネズミを、食べちゃったみたいだな。
野生の猫はネズミをよく食べるから、仕方ないね。
ネズミは、病原菌をたくさん持っている。
ネズミにはノミやダニもいっぱい付いているから、寄生虫も多い。
ぼくもネズミをよく食べるから、駆虫効果があるニガヨモギを定期的に飲むようにしている。
抗コクシジウム薬や電解質の輸液は、手に入らないから無視。
駆虫薬は、ニガヨモギ。
抗生物質は、ムラサキバレンギク。
抗菌薬は、イヌハッカやシソ。
止瀉薬は、ウスベニアオイ
整腸剤は、イヌハッカやオオバコ。
ニガヨモギ以外を全部まとめて、フレッシュハーブティーにしよう。
そうだ、甘草も使ってみよう。
甘草を入れたハーブティーがどんな味になるのか、とても楽しみだ。
ฅ^•ω•^ฅ
メグサハッカの集落の前でグレイさんと別れて、集落へ入る。
猫たちはみんなぐったりとしていて、苦しそうに口呼吸をくり返している。
レプトスピラ症とコクシジウム症の主な症状は、高熱と下痢と嘔吐らしい。
これらの症状によって、脱水症状も起こしているはずだ。
倒れている猫たちに駆け寄って、声を掛ける。
「皆さん、大丈夫ですミャ?」
「あっ、仔猫のお医者さん! また助けに来てくれたニャゴ?」
「待っていてくださいミャ、すぐにお薬を作りますミャ」
「ありがとうニャゴ……」
集めておいた薬草で、フレッシュハーブティーを淹れた。
葉っぱのお皿に注ぎ分けると、お父さんとお母さんがみんなに配ってくれた。
猫たちは喉が渇いていたらしく、ハーブティーを飲んでくれた。
次はニガヨモギのペーストを、葉っぱのスプーンで喉の奥へ入れる。
ヨモギにも駆虫効果はあるんだけど、腸内に棲み付いた寄生虫にはニガヨモギがよく効くんだ。
もちろん、薬だけでは病気は治らない。
しっかりごはんを食べさせて、栄養も摂らせないとね。
『走査』によれば、レプトスピラ菌とコクシジウムは熱に弱いそうだ。
つまり、火を通せば安全。
だったらお肉を柔らかくなるまでじっくりと煮て、食べさせよう。
あとは、安静にしていれば少しずつ良くなるはずだ。
それにしても耳疥癬が治ったと思ったら、今度はレプトスピラ症とコクシジウム症の集団感染か。
次々と感染病に罹っちゃって、可哀想に。
集落の猫たちは、みんな同じものを食べている。
感染病は一匹でも罹ると、集団感染してしまう。
野生の猫は、感染拡大しないように隔離することも出来ない。
ぼくも感染予防対策に、フレッシュブレンドハーブティーを飲もう。
甘草は副作用が強すぎるから、入れすぎないように注意。
甘草を飲みすぎると、血圧が上がったり、倦怠感、筋肉痛、むくみなどの症状が出るらしい。
だから、ブレンドティーに入れる時は少なめにする。
ブレンドの割合の目安としては、ムラサキバレンギク1に対して甘草0.25
ムラサキバレンギクはちょっと苦味があるんだけど、甘草を入れると苦味が和らいで飲みやすくなった。
甘草は、いかにも薬っぽい香りがする。
だけどいつものハーブティーよりも、味がまとまっている感じがするな。
猫が甘味を感じられないのが、悔しすぎる。
砂糖の50~80倍がどれくらい甘いのか、自分の舌で感じてみたかった。
レプトスピラ症とコクシジウム症は犬科の動物にも感染するから、あとでグレイさんにも飲ませて味の感想を聞きたい。
そういえば、レプトスピラ症とコクシジウム症は治るまでどのくらいかかるの?
『治療期間:約1~3週間』
だったら、少なくとも1週間は様子を見よう。
ฅ^•ω•^ฅ
集落の猫たちが寝静まった頃、集落から抜け出した。
グレイさんを探すと、集落全体を見下ろせる少し高い丘の上にいた。
「グレイさん!」
声を掛けると、グレイさんはすぐにしっぽをブンブンと振り出した。
ぼくに向かって駆け寄ってくると、抱き締めてたくさん舐めてくれる。
『シロちゃん。今日も大活躍だったみたいだな、お疲れ様』
「グレイさんも暑い中、見張りお疲れ様ミャ」
『オレはただ見守っているだけだから、ちっとも疲れていないさ』
「グレイさんがいるだけで、天敵が近付いて来なくなるからとっても助かっているミャ」
『シロちゃんの役に立てるなら、オレはなんだってするぞ』
「だったら新しいハーブティーを作ったから、飲んで感想を聞かせて欲しいミャ」
『ほう? 新しいハーブティーか。それは楽しみだな』
ハーブティーと聞いて、グレイさんは顔をほころばせる。
美味しいものが大好きなグレイさんなら、絶対喜んでくれると思った。
さっそく河原へ行って、甘草入りのブレンドティーを淹れた。
「はい、どうぞミャ」
『ん? おおっ? なんだこれはっ! とっても甘くて美味しいぞっ! こんなに甘いものは、初めて飲んだぞっ!』
「やっぱり、甘いミャ?」
『ああ、前に食べた甘い実よりもずっと甘い。このハーブティーには、何が入っているんだ?』
「この間、グレイさんに掘り出してもらった植物の根っこミャ」
『あの根っこが? とても甘そうには見えなかったがな。シロちゃんにかかれば、あんな根っこも美味しくなるんだな』
グレイさんは甘草の甘さに、かなりビックリしているようだ。
甘草の見た目は、ただの根っこだもんね。
甘草は副作用が強いから、ほんのちょっとしか入れていないんだけど。
砂糖の50~80倍の甘さって、本当なんだ。
『走査』の説明によると、甘草と砂糖の甘さは全然違うらしい。
砂糖は舌に触れた瞬間に、甘味を感じる。
甘草は砂糖よりも甘味を感じるのが遅くて、じわじわとゆっくり長く残るらしい。
グレイさんが「甘い甘い」と喜んでいるのが、羨ましい。
犬は人間と同じように、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味を感じることが出来る。
特に犬は、甘いものが大好き。
同じものを食べても、猫は甘味を感じることが出来ない。
ぼくだって、甘いものが食べたいのに……。
どうして、猫は甘味を感じることが出来ないのか?
猫は完全な肉食動物なので、甘味を感じる必要がないからだ。
だったら、犬だって肉食動物なのにどうして同じじゃないんだ?
『犬科は雑食性』
犬も猫も同じ食肉目(肉食動物)なのに、犬だけ甘味を感じられるなんてズルいっ!
【雑食性とは?】
オオカミは、肉食寄りの雑食性。
オオカミの狩りの成功率は20%と、とても低い。
狩りが出来なかった時には、他の動物の食べ残し、川魚、果物、草などを食べる。
オオカミが雑食性になったのは、なんでも食べられなければ生き残れなかった為と考えられている。




