第139話 認知症予防
そういえば、この集落にアグチ先生を介護してくれる猫はいるのかな?
あとで、集落の猫たちに聞いてみるか。
暑い時に熱い思いはしたくないので、日が沈んで涼しくなってから火を起こした。
ヒマワリとイヌハッカの花でハーブティーを淹れて、集落の猫たちに配った。
「はい、どうぞミャ」
「良い匂いがして、とっても美味しいにゃ~」
アグチ先生も集落の猫たちも、喜んでハーブティーを飲んでくれた。
ぼくがアグチ先生とお話ししている間に、お父さんとお母さんがGastornis(ダチョウサイズの飛べない鳥)を狩ってきてくれた。
「みんな~、ガストルニスを狩ってきたニャー」
「シロちゃん、ただいまニャ」
「シロちゃん、ハーブティーのお礼にいっぱいキノコを採ってきたにゃ~。みんなで、焼いて食べるにゃ~」
「お父さん、お母さん、アグチ先生、ありがとうミャ!」
アグチ先生もキノコをたくさん狩ってきてくれたので、さっそく焼きキノコと焼き鳥を作った。
みんな「うみゃいうみゃい」と、大喜びで食べてくれた。
そういえば、初めて焼き鳥を作ったのもこの集落だったな。
キノコを石で焼いて食べることも、アグチ先生から教わったんだ。
たくさん作って、あとでグレイさんにも持って行ってあげよう。
グレイさんにも、「ツルゴール反応」を試してみようかな。
ฅ^•ω•^ฅ
集落の猫たちが、寝静まった頃。
焼き鳥と焼きキノコが入った籠を背負って、集落を飛び出した。
『走査』の案内に従って歩いて行くと、グレイさんは何故か川の中にいた。
正確に言うと水の中で伏せをしていて、首から上だけ出している。
どう見ても、溺れているようには見えない。
「グレイさん、何をしているのミャ?」
『ずっと見張りをしていたんだが、どうにも暑くてな。こうして水に入って、体を冷やしていたんだ。シロちゃんも一緒にどうだ? 冷たくて気持ちが良いぞ』
「ぼくも入るミャ!」
さっきまで火を使っていたから体が熱いし、煤で全身が黒く汚れている。
背負い籠を河原に下ろして、ぼくも川へ飛び込んだ。
グレイさんが言う通り、川の水はひんやりと冷たくて気持ちが良い。
ぼくが、水が平気な猫で良かった。
他の猫は水が苦手だから、水浴びなんて出来ない。
自然界で熱を冷やす方法なんて、水に入る以外ないからね。
「グレイさん、川の中で追いかけっこして遊ぼうミャ!」
『ああ、水の中なら暑くないからな』
ぼくとグレイさんは、川の浅いところで追いかけっこをして遊んだ。
うっかり深いところに踏み込んでしまったら、グレイさんがすぐに咥えて引き上げてくれた。
『シロちゃん! あまり深いところへ行くと、危ないぞっ!』
「ごめんなさいミャ。助けてくれて、ありがとうミャ」
ぼくたちみたいに水浴びが出来れば、夏バテにならずに済むのに。
集落には、夏バテを起こしている猫もいた。
猫は体調不良を隠す動物だから、夏バテになっていても気付きにくいんだ。
ぼくじゃなきゃ、見逃しちゃうね。
たかが夏バテと、侮ってはいけない。
夏バテになると、寝たきりになったり食欲がなくなったりする。
暑さで胃腸が弱って、おなかを壊してしまうこともある。
最悪、死んでしまうことだってある。
猫が夏バテを起こしていると思ったら、迷わず病院へ連れて行こう。
飼い猫の夏バテ対策としては、室内温度を27~28℃くらいに設定する。
寒すぎても、猫の体に良くない。
栄養があって食べやすい、ウェットフードを食べさせる。
猫が、水を飲みやすい環境を整える。
「いつでも水を飲める環境」だけではなく、「飲みたくなる工夫」もしてあげてね。
猫は気分屋さんで、すぐ水を飲まなくなっちゃうから困ったもんだよね。
普段から、夏バテにならない対策が一番大切なんだよ。
遊び疲れたら、河原で寝そべって毛を乾かす。
濡れた毛に、吹き抜ける川風が心地良い。
『追いかけっこをしたら、腹が減ったな』
「そう言うと思って、焼き鳥と焼きキノコを持ってきたミャ」
『さすがシロちゃん、気が利くな。さっそくいただこう』
籠をひっくり返して焼き鳥と焼きキノコを出すと、美味しそうに食べてくれた。
グレイさん用に焼いた太い骨も、嬉しそうに齧っている。
『ありがとう、とても美味しかったぞ』
「グレイさんは暑くても、食欲があって偉いミャ」
『シロちゃんが作るものは、シロちゃんの愛情がこもっていて美味しいからな』
グレイさんは満足げに笑って、口の周りをぺろりと舐めた。
念の為、グレイさんにもツルゴール反応を試してみたけどすぐ戻ったよ。
ฅ^•ω•^ฅ
グレイさんと一緒に夜を過ごし、毛づくろいをしてグレイさんの臭いを消してから夜明け前に集落へ戻った。
猫は夜行性ではなく薄明薄暮性だから、夜明け前と夕暮れ時に元気になる。
夏はちょうどその時間帯が、涼しくて動きやすい。
蚊も同じ時間に活動するから、ついでに蚊遣火を焚いておこう。
虫除け首輪も、作らないとね。
そういえばアグチ先生は、編みもののが得意だったっけ。
ぼくも今まで見よう見まねで籠や首輪を編んでいたけど、せっかくだからアグチ先生に正しい作り方を教えてもらおう。
「アグチ先生、籠の編み方を教えて欲しいですミャ」
「いいにゃ~」
アグチ先生は器用で、葛の蔓で器用に籠を編んでいく。
アグチ先生が作った籠は網目が整っていて、籠全体の形も綺麗だ。
ぼくが作った籠と見比べると、ひと目で分かるくらい違う。
他の集落でみんなに偉そうに教えていたけど、ぼくもまだまだだな。
籠が出来たところで、次は首輪を作ろう。
「アグチ先生、首輪を作りたいんですけど出来ますミャ?」
「首輪って何にゃ~?」
アグチ先生は、首輪を知らなかった。
野生の猫は、首輪なんて着けないから当たり前だよね。
猫はもともと、体に何かを着けることを嫌う。
赤ちゃんの頃から首輪や服を着せられていた猫は、慣れているけれど。
大人になってから、首輪や服を着せようとすると嫌がる。
ぼくはレモングラスとイヌハッカとニガヨモギを編んで、首輪作ってみせた。
「こんな感じなんですけど、アグチ先生ならもっと上手に出来るのではないかと思いましてミャ」
「あらあらまぁまぁ、とっても素敵にゃ~。これは、面白そうにゃ~」
アグチ先生は、楽しそうに首輪を作り始めた。
籠作りよりもずっと簡単だから、すぐ出来た。
「こんな感じかにゃ~?」
「おおっ、さすがアグチ先生ですミャッ!」
思った通り、アグチ先生が作った首輪はめちゃくちゃ綺麗だった。
レモングラスの草にイヌハッカとニガヨモギの花が上手に編み込まれていて、とってもおしゃれで可愛い。
やっぱり、アグチ先生には敵わないなぁ。
ぼくはアグチ先生とお喋りしながら、集落の猫全員分の首輪を作ることになった。
「これを着けると、虫に咬まれなくなるんですミャ」
「それはいいにゃ~。だったら、今作った首輪はシロちゃんにあげるにゃ~」
「ありがとうございますミャ。でもこの首輪は、すぐ枯れちゃうから定期的に交換しないといけないんですミャ」
「あら~、それじゃあ、ずっと作り続けなければいけないにゃ~」
アグチ先生はそう言って、嬉しそうに首輪を編んでいる。
手と頭を使って細かい作業をしていると、ボケにくくなるって話を聞く。
一日中ぼ~っと寝てすごすより、好きなことをやった方が認知症予防に良いらしい。
これからも、アグチ先生には編み物を続けてもらったらいいかもね。
「そういえば、アグチ先生にはお世話してくれる猫はいますミャ?」
「あたしが困っていたら、みんな助けてくれるにゃ~。ありがたいことにゃ~」
「それは良かったですミャ」
アグチ先生はこの集落のお医者さんとして、みんなから慕われている。
集落に棲んでいる猫たちは、みんな助け合って生きている。
介護する猫がいるどうかなんて、いらぬ心配だったんだ。




