第136話 猫にお土産作戦
『シロちゃん、おなかが空いただろう? 狩りに行って来るから、待っていてくれ』
グレイさんは気象病で体調が悪いのに、ぼくの為に狩りに行ってくれた。
気象病が少しでも軽くなるように、ハーブティーを飲ませてあげたい。
鎮痛作用や鎮静効果がある薬草といえば――
イヌハッカ
イチョウ
ジャーマンカモミール
クマザサ
コモンセージ
シソ
シロツメクサ
バジル
ヒマワリ
ムラサキツメクサ
ムラサキバレンギク
レモングラス
ヨモギ
よし、近場で薬草を探そう。
そうだ、薬草を集めるついでに集落の様子も見に行こう。
何日も集落に戻っていないから、心配なんだよね。
まだぼくの風邪は治りきっていないから、遠くの場所から見るだけにしておくか。
葛の集落を覗いてみると、雨が降っているから誰もいない。
可愛い猫たちに会いたかったけど、今は我慢。
雨が止んで、ぼくの風邪も治ったらまた会いに来よう。
みんな、ちゃんとごはんは食べられているかな?
ぼくみたいに、風邪を引いていないかな?
グレイさんにお願いして、お肉を集落に置いてきてもらうってことは出来ないかな?
猫たちが巣穴に籠もっている今なら、グレイさんも集落に入れそうだし。
雨が降っている間は、グレイさんの臭いも雨に紛れて分かりにくいはず。
お肉を集落の中に置いてもらったら、ぼくがお父さんとお母さんに声掛けをして取りに来てもらう。
名付けて、「猫にお土産作戦」
グレイさんの負担が大きいから、申し訳ないんだけど。
薬草と焚火の燃料を集めたら、グレイさんに相談してみよう。
巣穴へ戻ると、すでにグレイさんは帰ってきていた。
ぼくの顔を見るなり、叱りつけてくる。
『またオレに黙って、外へ出たなっ? ちょっと目を離すとすぐいなくなる、気まぐれ猫ちゃんめ! 具合が悪いのに、どうして大人しく寝ていられないんだっ!』
「ごめんなさいミャ。集落のみんなが、どうしても心配でミャ……」
『みんなを心配する気持ちは、よく分かる。だが、自分の体を大事にしてくれ。オレは、シロちゃんが何よりも大切なんだ』
そう言って、グレイさんはぼくをギュッと抱き締めた。
グレイさんが言っていることは正しいし、心配してくれるのもとても嬉しい。
だけどぼくだって、みんなのことが心配なんだ。
ぼくはとりあえず、自分の考えをグレイさんに説明した。
グレイさんは話を聞いた後、渋々という感じで頷いてくれた。
『分かった。肉を運ぶくらいは、オレがやろう。シロちゃんは、お父さんとお母さんにだけ会って来い。病気がうつらないように、気を付けてな』
「グレイさん、いつもぼくを助けてくれてありがとうミャ」
ぼくはグレイさんにしっぽを巻き付けて、大好きのスリスリをした。
グレイさんもニッコリと笑って、スリスリしてくれた。
『ふふっ、可愛い。ずっと、こうしていたいな』
ฅ^•ω•^ฅ
ぼくとグレイさんは、さっそく行動に移すことにした。
まずはぼくが集落へ入って、誰もいないことを確認。
確認出来たら、グレイさんにお肉を集落の中へ運んでもらう。
運び終えたら、グレイさんは素早く立ち去った。
獲物を置いて、雨でグレイさんの臭いが洗い流されるのを待つ。
グレイさんの臭いがしなくなったところで、お父さんとお母さんがいる巣穴へ向かった。
思った通り、ふたりは巣穴の中で寝ていた。
しばらく見ないうちに、少し痩せた気がする。
気象病で、具合が悪くて狩りに行けていないのだろう。
やっぱり、グレイさんにお願いして良かったな。
ぼくは少し離れたところから、声を掛ける。
「お父さん、お母さん、大丈夫ミャ?」
ふたりは目を開けると、ぼくを見て嬉しそうに笑った。
「シロちゃん、やっと帰ってきたニャー」
「ずっと、グレイさんのところにいたのニャ?」
「ごめんなさいミャ。風邪を引いて、グレイさんに看病してもらっていたミャ。まだ治りきっていないから、近付いちゃダメミャ」
「そうだったのニャ? あとで、グレイさんにお礼を言わないとニャ」
「グレイさんが獲物を狩ってきてくれたから、みんなで食べてミャ」
「ありがとうニャー。ありがたくいただくニャー」
「グレイさんに、よろしく伝えてニャ」
「風邪が治ったら、また来るミャ」
ぼくはそう言って、集落から立ち去った。
集落の外から様子を見守っていると、お父さんとお母さんは手分けして巣穴の中にいる猫たちに声をかけていく。
猫たちは巣穴から出てくると、「うみゃいうみゃい」とお肉を食べ始めた。
どの猫も、痩せてしまっている。
ちゃんと、ごはんが食べられていない証拠だ。
狩りが得意なサビーとタビーも、気象病で狩りが出来ないんだろう。
たまに、咳やくしゃみが聞こえる。
みんなも長雨で体が弱って、風邪を引いてしまったようだ。
アオキ先生もハチミケさんも、この雨ではハーブティーを作ることも出来ない。
看病したいけど、ぼくも風邪を引いているからなぁ。
猫たちが苦しんでいるのに、助けてあげられないことが歯痒くてとても悔しい。
風邪は栄養と睡眠を充分摂っていれば、自然治癒力で治せる。
これからもグレイさんにお願いして、定期的にお肉を差し入れしてもらおう。
猫たちの様子を伺っていると、グレイさんが後ろから近付いてきて小声で話し掛けてくる。
『シロちゃん、そろそろオレたちの愛の巣穴へ戻ろう。ずっと雨に打たれていると、病気が悪化するぞ』
「グレイさん、ありがとうミャ」
『このくらい、お安い御用だ』
作戦を無事に終えたところで、グレイさんがぼくの首根っこを咥えて巣穴まで運んでくれた。
『ほら、またこんなに冷え切っているじゃないか。あっためてやるから、もう寝ろ』
「はーい、おやすみなさいミャ」
グレイさんに抱っこされて、もふもふの毛に包まれて目を閉じた。
ぼくも、早く風邪を治さないとね。
ฅ^•ω•^ฅ
翌朝、蝉の鳴き声で目が覚めた。
強い日差しが、目を覆いたくなるくらい眩しい。
グレイさんの腕の中から抜け出して外を見れば、綺麗な青空が広がっていた。
昨日までの灰色の雲に覆われていた空が、嘘みたいに晴れ渡っている。
青い空に白い入道雲が、もこもこと湧き上がっていた。
やった! やっと晴れたっ!
気象病も風邪も治ったみたいで、痛みもなく体も軽い。
思いっきり伸びをして、大きく欠伸をすると気持ちいい。
咳もくしゃみも止まったし、喉の痛みもなくなった。
痛みも苦しくもないって、最高だな。
嬉しくて、つい走り回りたくなる。
地面がドロドロになっちゃって水たまりもいっぱいあるけど、泥が跳ねて毛が汚れちゃっても気にしない。
今だったら、狩りにも行けそうなくらい元気が有り余っている。
グレイさんが笑顔でしっぽを振りながら、ぼくの元へ駆けてくる。
『シロちゃん、元気になったのか。良かった』
「元気になったら、おなかが空いたミャ」
『オレも安心したら、おなかが空いた。よし、狩りをしよう』
「ミャ!」
獲物を探すと、川の近くに大きなラマみたいな動物がいた。
あれは何? 『走査』
『対象:滑距目マクラウケニア科|Macrauchenia』
『概要:有蹄哺乳類であり、草食。関節が強靭かつ柔軟で、小回りが利く。脚の形状がアンバランスな為、走行速度自体はそれほど速くない』
よし、あれを狩ろう。
ぼくとグレイさんは身を潜めて、マクラウケニアの様子を伺う。
マクラウケニアは水を飲んでいて、まだこちらには気付いていない。
「ぼくがこっちから飛び出すから、グレイさんはそっちから回り込んでミャ」
『分かった』
ぼくはお尻を左右にフリフリして、タイミングを計る。
「今ミャ!」
ぼくが飛び出すと、マクラウケニアは驚いて逃げ出す。
逃げた先には、グレイさんが待ち構えている。
マクラウケニアは慌てて方向転換するが、小回りなら猫だって得意だ。
グレイさんと一緒に追い詰めて、仕留めた。
いつものようにぼくとグレイさんの分だけ取り分けて、残りは集落にお裾分けした。
【|Macraucheniaとは?】
今から約700~1万年くらい前に、生息していたと言われている有蹄哺乳類。
滑距目は、すでに絶滅している。
有蹄哺乳類は、ウマやウシなど蹄を持つ哺乳類のこと。
ラクダに似ているので、ラクダの祖先かと思われていたが違う生き物。
マクラウケニアは「大きなラマ」という意味だけど、ラマとも違う生き物。
推定体長約3m
推定体重約1000kg




