第133話 恩師との再会
ひと通り処置が終わったところで、ぼくとアオキ先生はふたりでのんびりと話し始める。
「アオキお父さんは、あれからお変わりありませんミャ?」
「何も変わらないにゃお。毎日、ハチミケさんと一緒にお茶を作り続けているにゃお」
「そうミャ。アオキお父さんに、フレッシュハーブティーの作り方を教えたいんですミャ」
「フレッシュハーブティーって、何にゃお?」
アオキ先生は、不思議そうに首を傾げた。
アオキ先生がいつも作っているハーブティーは、水出しハーブティーだ。
水出しハーブティーは、時間がかかる。
摘んだ薬草をお日様に干して、乾燥させて茶葉にする。
茶葉を水に浸けて、長い時間をかけて成分が出るまでじっくりと待つ。
アオキ先生みたいに、集落でのんびりと生きている猫ならそれも出来るけど。
ぼくのように旅をしている猫は、そんなに待てない。
茶葉を作り置きしておくことは出来るけど、水出しは時間がかかりすぎる。
嗜好品として飲むなら、水出しでもいいと思うけど。
病気の時は、出来るだけ早くハーブティーを飲ませたい。
そんな時に便利なのが、フレッシュハーブティーだ。
薬草を摘んで、すぐに淹れられる。
ぼくはさっそくアオキ先生の前で、イヌハッカの花のフレッシュハーブティーを淹れて見せた。
イヌハッカには、鎮静効果、抗菌作用、抗ウィルス作用、抗酸化作用、解熱、免疫力強化、猫のストレス解消などに効果がある。
アオキ先生は、火の起こし方を知らない。
もちろん、フレッシュハーブティーを見るのも飲むのも初めて。
イヌハッカの匂いに釣られて、集落の猫たちも集まってくる。
「なんだか、とっても良い匂いがするにゃあ」
「何の匂いニャウ?」
水出しよりもお湯出しの方が、匂いが立つからね。
集まってきた猫たちにも、イヌハッカのフレッシュハーブティーをふるまった。
水出しとお湯出しは、茶葉から出る成分の量や味も変わる。
例えば緑茶だと、お湯出しよりも水出しの方がカフェインの量が半分になる。
乾燥した葉より生葉の方が苦味が弱く、すっきりさっぱり飲みやすい。
「こんな淹れ方があったなんて、知らなかったにゃお。いつもボクが作っているお茶とは、全然違う味がして面白いにゃお」
アオキ先生はフレッシュハーブティーを飲んで、驚きながらも目を輝かせて感動していた。
アオキ先生は優しく笑いながら、ぼくの頭を撫でる。
「あれからだいぶ経つのに、シロちゃんはいつまでも仔猫のまま何も変わらないにゃお。どうしてにゃお?」
「ぼくは生まれつき、大きくなれない病気なんですミャ」
「そうにゃお? 知らなかったとはいえ、ごめんにゃお」
「珍しい病気ですからミャ」
「じゃあ、シロちゃんは今いくつにゃお?」
「3歳ですミャ」
「にゃんとっ? 仔猫扱いしちゃって、悪かったにゃお」
「慣れていますから、大丈夫ですミャ」
ぼくが苦笑すると、アオキ先生は申し訳なさそうな顔で謝ってくれた。
「仔猫なのに、しっかりしていると思ったらそういうことかにゃお」
「黙っていて、すみませんミャ」
「いやいや、シロさん、こちらこそごめんにゃお」
ずっと「ちゃん付け」で呼ばれてきたから、違和感がスゴい。
今さら「さん付け」されても、呼ばれ慣れていなくて反応に困る。
「今まで通り『シロちゃん』で、いいですミャ。ぼくも、アオキお父さんって呼びますミャ」
「じゃあお言葉に甘えて、シロちゃんって呼ばせてもらうにゃお。シロちゃんは誰に、ハーブティーを教えてもらったにゃお?」
「ぼくのおばあちゃんですミャ」
人間だった頃のね。
最初にハーブティーを教えてくれたのは、おばあちゃん。
ハーブティーの作り方と淹れ方を教えてくれたのは、『走査』
『走査』は、なんでも知っている。
いつだって感謝しているよ、『走査』
「シロちゃんのおばあちゃんは、スゴいにゃお。ボクも、見習わないといけないにゃお」
「アオキお父さんだって、スゴいお医者さんミャ」
「ボクは先代のお医者さんから教えてもらったことを、続けているだけにゃお」
「この集落の猫たちはみんな、アオキお父さんを立派なお医者さんだって言っていますミャ。ぼくも、アオキお父さんに救われましたミャ」
「そんなに褒められると、照れるにゃお」
アオキ先生は嬉しそうにしっぽをピンと立てて、照れ臭そうに笑った。
ぼくも笑いながら、話を続ける。
「アオキお父さんは、葛は知っていますミャ?」
「もちろん、知っているにゃお。この集落に、いっぱい生えている草にゃお」
「あれも、薬草だって知っていましたミャ?」
「葛も、お茶になるにゃお?」
どうなの? 『走査』
『葛の花と葉を乾燥させると、葛花と葛葉という生薬になり、ハーブティーになる』
『葛花の薬効:更年期障害、骨粗鬆症予防、月経不順、肥満予防、ダイエット、老化予防、生活習慣病予防、二日酔い予防、美肌』
『葛葉の薬効:貧血予防、高血圧、コレステロール低下、細胞活性化、抗炎症作用、造血作用、血栓予防、解毒、整腸作用』
「花と葉っぱは、お茶に出来ますミャ。根っこは、お薬になりますミャ」
「へぇ~、知らなかったにゃお。ぜひとも、作り方を教えて欲しいにゃお」
ぼくは『走査』に教えてもらいながら、アオキ先生と一緒に葛花と葛葉を作ることにした。
葛花と葛葉は、川の水で綺麗に洗ったら乾燥させるだけ。
葛根も作ってみたいけど、気温が高い季節に作ると腐っちゃうんだって。
葛根を作るには、冬の寒さが重要らしい。
冬になったら、作ってみようかな。
葛の花と葉を干し終わったところで、アオキ先生に葛の蔓を見せる。
「これで、籠も作れますミャ」
「籠って、なんにゃお?」
「これですミャ。これがあれば、薬草がたくさん集められますミャ」
ぼくがいつも使っている、背負い籠を見せた。
アオキ先生は興奮気味に、籠を観察し始める。
「これはスゴいにゃお! これの作り方も、教えて欲しいにゃおっ!」
「ミャ」
アオキ先生に、背負い籠の作り方を教えた。
籠造りって、結構難しいんだよね。
ぼくはいくつも作ったから編めるようになったけど、慣れるまでは思う形にならない。
アオキ先生も、初めての籠造りに苦戦しているようだ。
巣作りが雑な、鳩の巣みたいになっている。
鳥は卵を産む時に巣作りをするんだけど、何故か鳩だけは巣作りが雑なんだよね。
鳩は年に7~8回も卵を産むから、巣も質より量なんだって。
アオキ先生は自分が作ったぐちゃぐちゃな籠に、顔をしかめている。
「う~ん、難しいにゃお」
「最初は、誰だって上手く出来ませんミャ。何度も作れば、少しずつ上手くなりますミャ」
「ボクも、綺麗な籠が作れるようになりたいにゃお」
「頑張ってくださいミャ。ぼくが作った籠は、アオキお父さんにあげますミャ」
出来たばかりの籠をプレゼントすると、アオキ先生は嬉しそうに受け取ってくれた。
「ありがとうにゃお。ボクもこのくらい綺麗な籠が作れるようになったら、ハチミケさんにプレゼントするにゃお」
「それは、とても良いですミャ」
アオキ先生とハチミケは、集落の猫たちの為に毎日ハーブティーを作り続けている。
ハチミケが薬草を集めて、アオキ先生が薬草を干して茶葉を作る。
相手のことを思いながら作ったものには、愛がこもっている。
背負い籠があれば、薬草集めはきっと今よりずっと楽になるだろう。
ฅ^•ω•^ฅ
葛は花も葉も根も蔓も全部使えるから、捨てるところがないと言われている。
もちろん、葛粉も作れる。
『走査』によると、葛粉を作るのはとても大変らしい。
葛粉の作り方は、以下の通り。
①太さ10cm以上の葛の根を掘り出し、水洗いして皮を剥く。
②①を叩いて砕く。
③②を水に浸して、澱粉を揉み出す。
④不純物を布で濾して、水にさらす。
⑤澱粉が沈んだら、茶色く濁った水を捨てる。
⑥新しい水を入れて、澱粉をかき混ぜて再び水にさらす。
⑦⑤~⑥の作業を、澱粉が真っ白になるまで数回も繰り返す。
⑦底に沈んだ白い澱粉を、お日様に干して乾燥させる。
こうして出来た澱粉が、本葛(葛100%で作った葛粉)なんだって。
約1kgの葛の根から出来る本葛の量は、約100g
めちゃくちゃ手間暇かかっていて、一番最初に本葛を作った人は天才だと思う。
作ってみたい気持ちはあるけど、手間と結果が見合わない。
本葛作りは、諦めよう。




