第132話 葛の集落
おなかが痛くて狩りにいけないけど、昨日作ったクマザサ包みがある。
クマザサ包みを、作り置きしておいて良かった。
クマザサやセージに防腐作用や殺菌作用があるとはいえ、今は高温多湿で腐りやすい。
早めに食べないと、腐っちゃうぞ。
犬猫は肉食動物だから、野菜を食べる必要はない。
体に必要な栄養素は、肉から摂れる。
だけど野菜を食べた方が、ビタミンやミネラルなどが摂れる。
とはいえ、おなかを壊している時に食物繊維は良くない。
今日はお肉だけ、食べさせよう。
念の為、焼く前に包みを開けて肉が腐っていないか確認。
見た感じ腐っている様子はないし、腐った臭いもしない。
腐っていたら、『走査』が警告を出してくるはずだし。
だから、たぶん大丈夫。
クマザサ包みは、このまま焚火に放り込めば包み焼きが出来る。
だけどみんなおなかを壊しているから、消化の良いスープにした方が良いかもしれない。
お湯を沸かしてクマザサ包みを煮て、薬膳スープにしてみた。
「みんな、しっかり食べて早く元気になってミャ」
「ありがとうニャー……、でも今は食べたくないニャー」
「せっかくシロちゃんが作ってくれたから、お汁だけでもいただくニャ」
『食欲はないが、シロちゃんがオレの為に作ってくれたから食べるぞ』
いつもなら美味しそうに食べてくれるのに、今日はおなかが痛いからあまり食べたくないみたい。
それでも食べないともっと弱っちゃうから、少しずつ食べてくれた。
どんなに美味しいものも、元気がないと美味しく食べられない。
みんな、早く元気になって欲しいな。
ฅ^•ω•^ฅ
数日後には雨が止み、特発性膀胱炎と急性胃腸障害も治った。
これでようやく、旅が再開出来る。
だけど、Vasuki(巨大ヘビ)から命からがら逃げたせいで現在地が分からなくなってしまった。
今、どのあたりなんだろう?
最後に立ち寄ったメグサハッカの集落から、どのくらい離れているの?
教えて、『走査』
『位置情報:東方向1.6km』
う~ん、メグサハッカの集落からずいぶん離れちゃったな。
ここから、一番近い集落は?
『葛の集落』
『位置情報:直進290m、左折38m、直進130m』
葛って、葛湯の葛のことかな?
寒い冬には、おばあちゃんがハチミツが入った甘い葛湯をよく作って飲ませてくれたっけ。
葛は、何に効くの?
『対象:マメ科クズ属葛』
『薬効:抗酸化作用、発汗作用、解熱作用、鎮痙作用、止瀉作用、止血作用、滋養強壮、高血圧、口渇、冠動脈疾患、血流改善効果、整腸作用、二日酔い、突発性難聴』
『概要:葉、花、根は可食部位。丈夫な蔓は、加工して籠や衣服などに利用出来る』
なるほど、葛を見つけたらぜひ欲しいな。
その集落に、ケガや病気で苦しんでいる猫はいるの?
『対象:食肉目ネコ科ネコ属リビアヤマネコ』
『病名:青翅蟻形隠翅虫の毒による線状皮膚炎、細菌感染』
『処置:患部の洗浄、消毒殺菌。ステロイド外用剤の塗布。抗生物質、抗炎症薬の投与』
『走査』結果を見て、ぼくは3匹に向かって叫ぶ。
「大変ミャ! この先の集落に、毒虫にやられた猫がいるミャッ!」
「毒虫がいるニャーッ?」
「シロちゃん、薬草を集めるニャ。何が必要ニャ?」
『可愛い猫たちが、苦しんでいるのは可哀想だ。早く助けに行こう』
「お父さんとお母さんは、アロエを集めてミャ」
「分かったニャ!」
ふたりは、アロエを探し始める。
ステロイド外用剤は、早い話が抗炎症薬。
だから、アロエの葉汁を塗れば良いんだ。
薮枯が近くに生えていたので、一緒に集めておく。
ヤブガラシには、解毒作用と鎮痛作用がある。
『シロちゃん、オレにも何か手伝えることはあるか?』
「グレイさんは、ぼくを集落の近くまで運んで欲しいミャ」
『そのくらい、お安い御用だ』
グレイさんは、ぼくの首根っこを咥えて運んでくれた。
急ぐ時は自分の足で走るより、グレイさんに運んでもらった方が早い。
集落が近付いてくると、猫たちの悲痛な叫びが聞こえてくる。
グレイさんは心配そうな顔で、ぼくを下ろしてくれた。
『なんだか、スゴい鳴き声が聞こえるな。早く助けてやってくれ』
「もちろんミャ!」
「シロちゃん、アロエを集めてきたニャー」
「これだけあれば、足りるニャ?」
「お父さん、お母さん、ありがとうミャ」
あとから、アロエを抱えたお父さんとお母さんが追い付いてきた。
グレイさんに集落の見張りを頼んで、ぼくたちは急いで患者さんの元へ向かった。
「皆さん、大丈夫ですミャッ?」
痛みと痒みに苦しんでいる猫たちに声をかけると、一斉にこちらを見た。
「あっ、シロちゃんにゃあ!」
「シロちゃんが、帰ってきたニャウッ!」
「みんな、ぼくを知っているミャ?」
「知ってるも何もないにゃあ」
「シロちゃんは、お兄ちゃんたちのことを忘れちゃったのかニャウ?」
サビネコとクラシックタビーネコが、揃って首を傾げる。
あれ? もしかして、仲良し兄弟のサビーとタビー?
しばらくすると見覚えのある青と黄の虹彩異色症のシロネコと、ハチワレミケネコが駆け寄ってくる。
「シロちゃん、おかえりにゃおっ!」
「シロちゃんなら、また来てくれるって信じていたナォンッ!」
「アオキお父さん、ハチミケお母さん、お久し振りですミャ」
ふたりはぼくをサンドイッチにして、抱き締めてくれた。
そうか、葛の集落はアオキ先生の集落だったんだ。
そういえば、集落の名前を聞くのを忘れていたな。
集落の猫たちは、ぼくが帰ってきたと喜んでくれた。
だけど、今は再会を喜ぶよりも治療が最優先だ。
「皆さんの痛みや痒みの原因は、毒虫の毒ですミャ。自覚症状がある猫は、今すぐ川へ行って傷口を洗い流してきてくださいミャ」
「「「「毒ニャーッ?」」」」
猫たちは毒と聞いて、跳び上がるほど驚いた。
猫は水が苦手だけど、痛みと痒みには耐えられなかったのか、次々と川へ飛び込んで行った。
水浴びが終わった猫から、アロエとヤブガラシの汁を塗る。
あとは、抗生物質と抗炎症薬を飲ませるだけだ。
この集落には、ハーブティーの専門家アオキ先生がいる。
アオキ先生は水出しハーブティーを、毎日作り続けている。
だからハーブティーは、アオキ先生にお任せしよう。
「アオキお父さん、ムラサキバレンギクのお茶はありますミャ?」
「ムラサキバレンギクにゃお? もちろん、作ってあるにゃお」
「だったら、みんなに飲ませてくださいミャ。それで解毒できますミャ」
「シロちゃん、お茶の効果を覚えていたにゃお? 偉い子にゃお」
アオキ先生は嬉しそうに笑って、ぼくを撫でて褒めてくれた。
アオキ先生は作り置きのムラサキバレンギクのハーブティーを、みんなに飲ませてくれた。
ひと通り、処置は出来たかな。
これでようやく落ち着いて、アオキ先生と話が出来そうだ。
【青翅蟻形隠翅虫とは?】
カブトムシ亜目ハネカクシ科の昆虫。
アリに似ているけど、上記の通りアリじゃない。
体長約7mm
日本ならどこにでもいる虫で、7~8月になると一気に増える。
黒と赤っぽい橙色の警告色なので、見ればすぐ分かる。
体液が肌にかかると、pederinという毒で火傷のような丘疹性皮膚炎を引き起こす。
このことから、「ヤケドムシ」と呼ばれることが一般的。
農作物に付く害虫を食べてくれるので、農家にとっては益虫。
【葛とは?】
根は葛根と呼ばれ、葛根湯の材料として有名。
根からデンプンを取り出したものが、葛粉。
この葛粉から、葛湯や葛餅などを作る。
丈夫な蔓は、生活用品として広く利用されている。
草食動物も虫も大好物で、犬猫も安心して食べられる。
しかし、実は雑草である。
繁殖力が強く、除草剤も効かない。
海外では、侵略的外来種ワースト100に指定されている。
※「クズ」だと文字の印象が悪いので、「葛」と表記します。




