第129話 耳疥癬
猫が食べられる薬草は、この近くにある?
『対象:イネ科オガルカヤ属檸檬茅』
『概要:別名「Lemongrass」citralを含有しているため、レモンのような風味がある。猫が好むハーブだが、大量摂取すると中毒を起こす可能性がある』
『薬効:抗菌作用、抗ウイルス作用、鎮痛作用、消臭効果、解熱作用、鎮静作用、血行促進、利尿作用』
『対象:キク科ムカシヨモギ属姫女菀』
『概要:春紫苑の近縁種。味は、春菊に似ている』
『薬効:止血、胃炎、腸炎、消化不良、肝炎、糖尿病、解毒作用、解熱《熱さまし》、皮膚美容、老化防止、むくみ、歯痛、腸炎による下痢や腹痛』
レモングラスは、猫が好きな猫草として有名だよね。
レモンの匂いがするから、ハーブティーにしても美味しそう。
乾燥したバジルとセージと合わせて、ブレンドスパイスを作っても良いかもね。
防虫効果があるなら、虫除け首輪を作ってみようかな。
イヌハッカとキャットタイムも編み込んだら、良い首輪が出来るぞ。
ヒメジョオンも、ハルジオンと同じように食べられるのか。
どちらも優秀な薬草だし、採っていこう。
いつも、欲しい薬草が手に入るとは限らない。
種類によって、生えている季節も場所も違う。
これからも、知らない草が生えていたらこまめに調べていこう。
さっそく、イヌハッカとレモングラスとキャットタイムで首輪を作ってみた。
「新しい首輪が出来たから、着けてミャ」
「ふにゃ~ん、良い匂いがするニャー……」
「新しい首輪も、とっても素敵ニャ」
猫が大好きな草で作ったから、お父さんもお母さんも匂いを嗅いでうっとりしている。
だけどグレイさんだけは、首輪の匂いを嗅ぐと顔をしかめた。
『悪いが、その臭いは苦手なんだ。シロちゃんがせっかくオレの為に作ってくれたのに、すまない……』
グレイさんは申し訳なさそうに、耳としっぽをしょんぼりと垂らした。
どうやらグレイさんは、レモングラスが苦手なようだ。
猫科のぼくたちと犬科のグレイさんでは、匂いの感じ方が違う。
イヌハッカの匂いは、猫にしか効かないし。
猫が嫌いなドクダミの臭いも、グレイさんはなんともなかった。
犬猫に近付いて欲しくない場所には、犬猫が嫌う臭いを撒くって方法があったな。
これじゃ、グレイさんがぼくたちに近付けなくなっちゃう。
レモングラスをハーブティーや料理に使おうと思っていたんだけど、グレイさんが苦手ならやめよう。
レモングラスを使う場合は、猫しかいない時にすればいいんだ。
シロバナヨケギクとニガヨモギで首輪を作り直して、グレイさんにプレゼントする。
「ごめんなさいミャ。これなら、大丈夫ミャ?」
『こちらこそ、すまなかった。作り直してくれて、ありがとう』
「どういたしましてミャ」
グレイさんは、作り直した首輪を喜んで受け取ってくれた。
ฅ^•ω•^ฅ
次の集落が近付いて来ると、また『走査』が発動した。
『対象:食肉目ネコ科ネコ属リビアヤマネコ』
『病名:耳疥癬、皮膚炎、外耳炎、食中毒』
『耳疥癬の概要:ミミヒゼンダニが、外耳道(みみのあな)に寄生する感染症。非常に感染力が高い』
『処置:耳の掃除をする。駆除薬、点耳薬の滴下。駆虫薬、抗生物質、抗炎症薬の投与』
ダニの感染症か。
ぼくたちは虫除け首輪を着けているし、駆虫薬を飲んで寄生虫の感染対策をしているから大丈夫だけど。
この集落に棲んでいる猫たちは、感染対策なんてしてないよね。
でも猫の耳掃除って、どうやってやればいいの?
『猫の耳掃除のやり方:猫を落ち着かせる。猫用の耳掃除クリーナーや洗浄液をたっぷり吸わせたコットンで優しく汚れを拭き取る』
猫用の耳掃除クリーナーも洗浄液もコットンもないよ。
自然界に、コットンの代わりになるものってあるの?
『対象:アオイ科ワタ属綿』
『概要:別名cotton。ワタの種子から取れる木綿』
『対象:ヤナギ科ヤマナラシ属白楊』
『概要:別名poplar。ハコヤナギの種子を包む綿毛』
そうか、文字通りコットンがあった。
でも、種子から取れるってことは秋じゃないの?
『木綿の収穫時期:9~11月』
『ハコヤナギの綿毛の飛散時期:5月末~6月』
木綿には早すぎるし、ハコヤナギの綿毛にはちょっと遅い。
あと使えそうなものといったら、猫の抜け毛だな。
猫は抜け毛が多いから、ブラッシングすればたくさん取れる。
抜け毛を集めて、猫毛フェルトを作る人もいるくらいだし。
猫毛フェルトっていうのは、文字通り猫の抜け毛を集めて作るフェルト。
作り方は簡単で、抜け毛を両手でコロコロ転がして毛同士を絡ませるだけ。
本当は洗濯用石鹸で洗ったり、形を整えたりする必要があるけど。
今回は耳掃除用に使い捨てするから、そこまでしなくて良い。
試しに自分の毛で作ってみたら、ちっちゃい毛玉が出来た。
よし、お父さんとお母さんもブラッシングして抜け毛をもらおう。
「お父さん、お母さん、ブラッシングするミャ」
「ありがとうニャー」
「シロちゃんも、ブラッシングしてあげるニャ」
ぼくたちはお互いをブラッシングし合い、たくさんの抜け毛を手に入れた。
グレイさんは体が大きいからたくさん抜け毛が取れそうだけど、天敵の臭いがするから猫たちは嫌がりそうだな。
あとは、集落の猫たちからも抜け毛をもらえば良いだろう。
いつも通り集落の前でグレイさんを別れて、ぼくたち3匹は集落の中へ入っていく。
集落の猫たちは、痒そうに耳をしきり掻いたり頭を振ったりしている。
まずは、痒み止めからだな。
痒みを止めないと、掻いちゃって新しい傷を作ってしまう。
痒そうなのは見れば分かるので、すぐにお父さんとお母さんがアロエを集めに行ってくれた。
ふたりがアロエを集めてくれている間に、薬やノミブラシを作る。
駆虫薬は、シロバナヨケギクとニガヨモギとイヌハッカ。
健胃、整腸、殺菌、解毒、抗炎症作用は、ハルジオンとヒメジョオン。
抗生物質は、ムラサキバレンギク。
ニガヨモギは、石で叩き潰してペースト状にして飲ませる駆虫薬。
ハルジオンとヒメジョオンとイヌハッカとムラサキバレンギクは、ハーブティーにして飲ませる。
猫たちをノミブラシでブラッシングして、体に着いたノミやダニと抜け毛を回収。
お湯を沸かして、中に抜け毛を入れて煮沸消毒する。
ノミやダニは熱に弱いから、60℃以上のお湯に入れれば死滅出来る。
お湯が冷めたら、抜け毛を回収して猫毛フェルトを作る。
お父さんとお母さんが、先にアロエの葉汁を猫たちの耳につけておいてくれた。
アロエで痒みを抑えたところで、猫毛フェルトで耳掃除をする。
「すみませんミャ。お耳のお掃除をさせてくださいミャ」
「お願いしますナァ~」
耳疥癬に罹った猫たちは、耳の中が真っ黒に汚れている。
このベッタリとした真っ黒の耳垢が、耳疥癬の特徴らしい。
薄っぺらい猫の耳をひっくり返して、猫毛フェルトで優しく拭くと真っ黒になった。
この黒い耳垢に、ミミヒゼンダニが潜んでいる。
使い終わった猫毛フェルトは、地面に穴を掘って埋めた。
猫毛フェルトはたくさん出来たので、惜しまず使おう。
あとはイヌハッカとレモングラスを編んで、虫除け首輪を作ってみんなに配った。
「皆さん、これを首に着けさせてくださいミャ。これを着ければ、ノミやダニが付くのを防げますミャ」
「とっても良い匂いがするナァ~」
猫は、首輪を着けるのを嫌がるんだけど。
猫が大好きな草で作ったから、みんな喜んで着けてくれた。
これで、耳疥癬と皮膚炎と外耳炎と食中毒は治るはずだ。
【犬が嫌う臭いとは?】
犬は嗅覚が優れているので、強い臭いを嫌う。
一般的に、柑橘系、金木犀、アルコール、タバコ、コーヒー、大蒜、玉葱、酢、線香、刺激臭が強い薬品などが苦手と言われている。
【ポプラの綿毛とは?】
北海道では5月下旬~6月中旬頃に、雪のように美しいポプラの白い綿毛がふわふわと宙に舞う。
北海道の初夏の風物詩と言われている。
特に、北海道大学札幌キャンパスにあるポプラの並木道は有名。
幻想的な景色の一方、ポプラの綿毛が燃える火事が相次いで問題になっている。




