第128話 ハルジオン
蚊遣火を焚いていると、お父さんとお母さんが|Hyracotheriumを引きずりながら戻ってきた。
「シロちゃーん、ヒラコテリウムを獲ってきたニャーッ!」
「シロちゃん、ただいまニャ」
猫たちはヒラコテリウムを見て、目を輝かせた。
病気で何日も食べていなくて、きっとおなかが空いているだろう。
けれど、病気で起き上がる体力はないようだ。
早くヒラコテリウムを煮て、スープを作らないとね。
解体には、お父さんとお母さんも手伝ってくれた。
水と骨ごとぶつ切りにした皮つき肉を、倒木から作った大きな器に入れる。
焼き石を入れて、肉が煮えたら出来上がり。
出来たスープをお皿に注ぎ分けて、お父さんとお母さんに配ってもらった。
ハーブティーを飲んで少し元気を取り戻していた猫たちは、美味しそうにスープを食べてくれた。
みんな、「うみゃいにゃあ~」と感動しながら食べている。
おなかが空いている時に食べるごはんは、とっても美味しいよね。
ฅ^•ω•^ฅ
それから、しばらく。
ぼくたちは、集落に留まって猫たちの看病を続けた。
毎日ハーブティーとスープを作って飲ませ、蚊遣火を焚き続けた。
2週間ほど経つと、猫たちの症状がは少しずつ軽くなってきた。
『走査』によると重症熱性血小板減少症候群は、3週間以内には治るそうだ。
重症熱性血小板減少症候群の一番怖いところは、後遺症らしい。
一部の患者に、頭痛、倦怠感、鬱などの後遺症が残るという。
ハーブティーは鎮静作用があるから、こういった後遺症にも効く。
みんな、早く病気が治って元気になって欲しいな。
元気を取り戻してきた猫たちに、問い掛ける。
「この集落の長は、どなたですミャ?」
「長は、お医者さんが来るずっと前に病気で亡くなったニィー」
「それはお気の毒にミャ……」
しょぼんとするぼくの前に、しっぽを膨らませた灰サビネコが歩み寄ってきて強い口調で怒鳴り散らしてくる。
「お医者さんがもっと早く来てくれていれば、長は助かったにゃんっ! どうして、長が生きているうちに来てくれなかったにゃんっ? なんで、助けに来てくれなかったにゃんっ?」
「申し訳ございませんミャ……」
ぼくだって、苦しんでいる猫たちを1匹残らず救いたい。
だけど間に合わなかったりぼくの医療技術が足りなかったりして、救えないことがたくさんあった。
そんな猫たちに、ぼくは謝ることしか出来ない。
ぼくを責め続ける灰サビに、クロネコが鋭いネコパンチを喰らわせた。
「サビ、そのくらいにしておけニャオ」
ネコパンチを受けた灰サビは、気まずそうな顔でぼくから離れていった。
その場に残ったクロが、灰サビに代わって謝ってくる。
「すまなかったニャオ。お医者さんは何も悪くないから、どうか気に病まないでくれニャオ。俺たちを助けてくれて、ありがとうニャオ」
「いえいえ、こちらこそ助けて下さってありがとうございましたミャ」
「アイツは仔猫の頃から、長が大好きだったニャオ。長が亡くなってから、すっかりふてくされてしまったニャオ。本当に困ったヤツニャオ」
「そのお気持ちは、よく分かりますミャ」
「それにしても、きみは仔猫なのにスゴいニャオ。俺たちにも、その薬を教えてくれないニャオ?」
「もちろん、そのつもりでしたミャ」
笑顔で頷くと、クロは嬉しそうに笑った。
ぼくはこの集落の猫たちに、薬草の見分け方やハーブティーの作り方、安全な火の使い方などを教えた。
あと、蚊遣火の説明もした。
灰サビや病気で動けない猫たちは、遠くからぼくをじっと見つめていた。
そうして役目を終えたぼくたちは、集落を旅立つことにした。
元気になった猫たちが、お見送りしてくれた。
ぼくは、クロに別れの挨拶をする。
「それでは皆さん、どうかお大事になさってくださいミャ」
「仔猫のお医者さんも、元気でニャオ」
「新しい長を決めたり、病気の看病したりと大変なことがたくさんあると思いますミャ。どうかこれからも、皆さんで支え合ってくださいミャ」
「ああ、ありがとうニャオ」
「最後にお聞きしたいのですが、この集落の名前はなんというのですミャ?」
「ハルジオンニャオ」
ハルジオン?
言われて見れば、野菊のような可愛い白い花が咲いている。
ハルジオンって何? 『走査』
『対象:キク科ムカシヨモギ属春紫菀』
『薬効:健胃、整腸、殺菌、解毒、消炎、利尿、ウイルス性肝炎、解熱、むくみ、糖尿病』
『概要:葉、茎、蕾など全草可食部位』
こんな身近なところに、ウイルス性肝炎に効く薬草があったなんて。
もっと早く、知っていれば良かった。
知らないって、本当にもったいない。
結構、こういうことってあるんだよなぁ……。
ハルジオンは食べられる野草らしいので、さっそく食べてみた。
あまり癖がなくて、春菊みたいな味がする。
ハルジオンはどこにでも生えている雑草だから、これからは見つけたら食べてみよう。
ハルジオンの集落の猫たちにも、教えておこう。
ハルジオンについて説明していると、灰サビがそろりそろりと近付いてきた。
ぼくの前までやって来ると、ボソボソと小さな声で喋り出す。
「あ、あの……。この前は八つ当たりしてしまって、すまなかったにゃん。僕も長のような、立派な猫になりたいにゃん。もし良かったら、僕にもいろいろ教えて欲しいにゃん……」
「素直じゃないヤツで、すまないニャオ。コイツもコイツなりに、この集落を愛しているニャオ。悪いが、コイツにも教えてやってくれニャオ」
クロはニヤニヤ笑いながら、気まずそうな顔をしている灰サビの頭を撫でた。
猫のツンデレは、愛猫家にとってご褒美ですっ!
ぼくは喜んで、灰サビにも薬草の使い方を教えた。
灰サビと仲直り出来たぼくは、晴れやかな気持ちでハルジオンの集落を旅立った。
ฅ^•ω•^ฅ
ハルジオンが集落に周りにいっぱい生えていたのに、活用出来なかった。
この後悔を教訓として、学び直そう。
この世界には、まだまだぼくが知らない薬草がたくさんある。
とりあえずこの近くに生えている草花を、ひと通り調べてみよう。
ということで、教えて『走査』
『対象:ヤマゴボウ科ヤマゴボウ属洋種山牛蒡』
『警告:alkaloid、saponin、Aglycone、硝酸カリウムなどの毒性を持つ有毒植物。誤食すると、最悪死に至る』
『対象:ユリ科ユリ属山百合』
『薬効:鎮咳、強壮、不眠、口腔内や胃粘膜の保護』
『警告:犬猫には有毒なcolchicineを含む』
『対象:キキョウ科キキョウ属桔梗』
『薬効:鎮咳、去痰、排膿作用、抗炎症作用』
『警告:犬猫には有毒なサポニンを含む』
このあたりに生えている植物は、毒ばかりだな。
毒も、使い方によっては薬になる。
日本三大有毒植物として有名なトリカブトも、使い方によっては優秀な漢方薬となる。
けれど、ぼくは毒を薬にする知恵も技術もない。
シロウトが毒を取り扱うのはとても危険だから、手を出さないに限る。
【春紫菀とは?】
4~6月頃に、道端や空地などで白や薄ピンク色の花を咲かせる雑草。
野菊に似ているけれど、花弁が糸のように細くてパサパサしている。
「折ったり摘んだりすると貧乏になる」という言い伝えがあり、「貧乏草」とも呼ばれる。
繁殖力がめちゃくちゃ強くて、どこにでも生え散らかす。
日本の侵略的外来種ワースト100に入っていて、要注意外来生物に指定されている。




