第127話 重症熱性血小板減少症候群
晴れたら次の集落を目指して走り、雨が降ったらお休み。
それを2週間くらいくり返して、ようやく次の集落が見えてきた。
そこで、『走査』が発動した。
『対象:食肉目ネコ科ネコ属リビアヤマネコ』
『病名:重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome=SFTS)』
『概要:重症熱性血小板減少症候群ウイルスを保有するマダニが刺咬することによって感染する、ウイルス性出血熱。致死率が高く、感染力も高い』
『処置:RNA依存性RNApolymerase阻害剤、抗菌剤、抗生物質、制吐剤、抗けいれん薬の投与。皮下輸液、静脈内点滴による体液補正』
重症熱性血小板減少症候群なんて、初めて見た。
どうやら、マダニによる感染症みたいだ。
ぼくも去年、マダニ感染症に苦しめられた。
でも、知らない薬ばっかりで何が何やら。
おそらく、この集落の周辺にはウィルスを持ったマダニがいる。
マダニ感染症の予防法は、マダニに咬まれないこと。
ぼくたちもマダニに咬まれないように、気を付けないと。
幸いなことに、ぼくたちは虫除け首輪を着けている。
乾燥した首輪もたくさんとってあるから、駆虫薬が作れる。
ぼくは大声で、みんなに注意する。
「みんな、このあたりにはマダニがいるから草むらには近づかないでミャ! 今、マダニに咬まれなくなるお薬を作るミャッ!」
『草に近付かなければ良いんだな?』
「お薬を作るなら、お手伝いするニャー」
「私も、お薬を作るニャ」
ぼくたち3匹は、乾燥した首輪を石で擦り潰して駆虫薬を作り始めた。
出来た駆虫薬を、お互いの体にまぶした。
「お薬が付いているから、毛づくろいしちゃダメミャ」
「分かったニャー」
「粉まみれで気持ち悪いけど、我慢するニャ」
『シロちゃんを舐められないのは残念だが、しばらくは我慢しよう』
これで、ぼくたちのマダニ予防は出来たはず。
次は、すでに重症熱性血小板減少症候群に罹っている猫たちの処置を考えなければ。
「RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤」なんてものはないから、対症療法(症状に合わせた治療)しか出来ない。
重症熱性血小板減少症候群の症状を教えて、『走査』
『症状:元気消失、食欲消失、発熱、嘔吐、黄疸、腹痛、下痢、下血、頭痛、筋肉痛、意識障害、リンパ節腫脹、皮下出血、血小板減少、白血球減少、肝酵素の上昇』
これは大変だ。
急いで、症状に合わせた薬草を集めよう。
リンパ節腫脹、皮下出血、血小板減少、白血球減少、肝酵素の上昇などは、どうすることも出来ないけど。
元気消失、食欲消失、発熱、嘔吐、腹痛、下痢、頭痛、筋肉痛あたりは、なんとかなるかも。
下血って、なに?
『消化器官からの出血により、タール便(泥のような黒いウン〇)が排出される』
消化器官ってことは、胃腸か。
じゃあ、胃腸に効く薬草を使えばどうにかなりそう。
あと、黄疸っていうのは?
『血中のBilirubin濃度が上昇し、皮膚や粘膜に沈着した状態』
なるほど、分からん。
黄疸を治すには、どうすれば良いの?
『処置:黄疸は、肝炎が原因であることが多い。胆汁酸吸着剤、肝庇護薬、選択的κ受容体作動薬、抗ヒスタミン薬、溶血抑制薬、副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、抗ウイルス薬、鎮痛薬などの投与』
専門用語だらけで、全然分からない。
抗ウイルス薬と鎮痛薬しか、分からなかった。
そういえばウスベニアオイに、胃炎、下痢、抗酸化作用、抗菌作用、抗炎症作用、肝臓保護作用があったな。
ウスベニアオイはオクラやモロヘイヤと同じアオイ科の植物で、猫も食べられる。
ウスベニアオイの花は、「ブルーマロウ」という有名なハーブティー。
淹れたては青色で、時間が経つと温度の変化で紫色へ変わる。
レモンを入れるとアルカリ性から酸性に変化し、ピンク色に変わる。
このことから、「surprise tea」や「tisane d’Aube(フランス語で『夜明けのハーブティー』)」と呼ばれるそうだ。
解毒、消炎作用、鎮痛作用、鎮静作用、解熱なら、クマザサ。
抗生物質は、ムラサキバレンギク。
鎮静効果、抗菌作用、抗ウィルス作用、抗酸化作用、解熱、整腸作用、生活習慣病、食欲増進、免疫力強化、猫のストレス解消なら、イヌハッカ。
ウスベニアオイとクマザサとムラサキバレンギクとイヌハッカで、ハーブティーを作ろう。
さっそく薬草を集めて、集落へ向かった。
ฅ^•ω•^ฅ
集落内では、数匹の猫たちが倒れていて苦しそうに口呼吸している。
大急ぎでハーブティーを淹れて、お父さんとお母さんに配ってくれるように頼んだ。
体力がなくて飲めない猫には、葉っぱのスプーンを作って少しずつ口へ運んで飲ませた。
ハーブティーを飲ませたら、あとは様子見だ。
猫が生まれつき持っている自然治癒力を信じて、安静にするしかない。
そういえば、阿膠に補血作用や止血作用があったな。
さっそく、|Hyracotheriumを狩ってアキョウを作ろう。
猫たちの看病をしている、お父さんとお母さんに声を掛ける。
「お父さん、お母さん、みんなを頼むミャ。ぼくはグレイさんと一緒に、ヒラコテリウムを狩って来るミャ」
「狩りなら、お父さんたちに任せるニャー」
「すぐに帰ってくるから、シロちゃんはここで待っていてニャ」
ふたりはそう言い残して、集落を飛び出して行った。
お父さんとお母さんが狩りへ行ってしまったので、帰ってくるまで待つしかない。
ふたりが狩りに行っている間に、マダニの駆除と予防対策をしよう。
マダニは恐ろしいことに、一度咬みついたら1~2週間くらい離れないらしい。
マダニの唾液には麻酔成分が含まれるから、咬まれても痛くない。
だから、いつの間にか咬まれていたなんてことがある。
ぼくがマダニ感染症に罹った時も、咬まれたことに全然気付かなかった。
シロウトがマダニを取ることは、とても危険らしい。
無理矢理取ろうとすると、体が千切れて頭が皮膚に残ってしまうそうだ。
しかも、マダニの体液と病原体が体の中へ入る。
もしマダニに咬まれてしまったら、専門のお医者さんに抜いてもらおう。
お医者さんでも、専用の医療器具を使わないと取れない。
ぼくにはマダニを抜く技術も、医療器具もない。
最終手段は、マダニが離れてくれるまで待つ。
マダニはおなかいっぱいになったら、自分から離れていく。
出来れば、早めに離れて欲しいものだ。
とりあえず猫たちの体に、駆虫薬をまぶしてみよう。
駆虫薬は虫には毒だけど、猫には無害。
駆虫薬は、猫の毛に付いているノミやダニを駆除出来る。
きっと、マダニにも効くはずだ。
集落の周りにひそんでいる、マダニも駆除しよう。
マダニに咬まれないことが、一番大事。
マダニを駆除する方法を教えて、『走査』
『マダニの駆除方法:殺虫剤や忌避剤の散布。熱湯を散布して、死滅させる。マダニの生息地を除草するか、焼き払う』
う~ん……、どれも現実的な方法とは思えないな。
一番簡単な方法は、蚊遣火を焚くことくらいか。
蚊遣火を焚く場合は、風向きも大事。
猫のヒゲで風向きを感じ取り、焚く場所を探す。
場所を決めたらヨモギとマツとスギの葉っぱを集めて、枯れたシロバナヨケギクに火を点けてまとめて燃やす。
煙で猫たちがむせちゃうといけないから、焚く量にも気を付けないとね。
【RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤とは?】
早い話が、抗ウイルス薬。
ウイルスは物なので、自力では増えることが出来ない。
ウィルスが増えるには、生物の体内にある「リボ核酸ポリメラーゼ」という酵素(コピー機)が必要となる。
このコピー機の働きを抑えて、ウィルスを増やせなくする。
本剤は、「ファビピラビル製剤アビガン(富士フイルム富山化学)」のみ。
「アビガン」は、新型コロナウイルス肺炎感染症の治療薬としても有名。
アビガンは人間用で、犬猫用の治療薬はまだない。
犬猫は、対症療法のみ。
重症熱性血小板減少症候群の人間の致死率は10~30%くらいだが、犬猫の致死率は60~70%




