第125話 水分補給の重要性
集落の猫たちの警戒心が薄らいだところで、話しかける。
「初めまして、ぼくはお医者さんですミャ。皆さんの病気を治す為に来ましたミャ」
「君は、お医者さんニャオ~? 美味しいお肉とお水を、ありがとうニャオ~」
話を聞いてくれた猫をきっかけに、他の猫たちも次々と笑顔で「ありがとう」とお礼を言ってくれた。
集落の長だという茶シロトビが、困り顔で話し始める。
「みんな病気になって、動けなかったから助かったニャオ~」
「さっき皆さんに飲んでいただいたお水は、病気が治るお薬ですミャ」
「あの良い匂いがするお水は、お薬だったニャオ~? ぜひとも、お薬の作り方を教えて欲しいニャオ~」
「もちろん、皆さんの病気が良くなったらお薬の作り方を教えますミャ」
「それは、ありがたいニャオ~」
「それはそうと、今どんな状態か聞かせてもらってよろしいですミャ?」
「とってもおなかが痛くて、ずっと具合が悪いニャオ~。特におしっこする時が痛くて、辛いニャオ~」
明らかに、尿路結石の症状だな。
尿路結石って、どのくらいで治るんだろう? 『走査』
『尿路結石の治療期間:結石が排泄されるまで。結石の大きさ、結石の場所、治療法によって治療期間は異なる』
ハッキリと、何日で治るっていうのは分からないのか。
尿路結石が出来る原因は?
『尿路結石の原因:複合的な要因であることが多い。遺伝、環境、代謝異常、生活習慣、細菌感染、運動不足、水分不足など』
原因も、分かっていないのか。
これじゃ、予防するのも難しいな。
とにかく、食中毒も尿路結石も膀胱炎も水分補給が大事。
たっぷり飲んで出すもの出してしまえば、全部治る。
「お薬を毎日飲み続ければ、必ず病気は治りますミャ。治るまで、頑張りましょうミャ」
「治るニャオ~? 良かったニャオ~! ありがとうニャオ~ッ!」
茶シロトビが感激した様子で、ぼくに抱き着いてスリスリした。
尿路結石になったことがないから、その痛みは分かってあげられないけれど。
こんなに喜ぶってことは、よっぽど辛かったんだな。
ฅ^•ω•^ฅ
それから数日間、ハーブティーを作って猫たちに飲ませ続けた。
|Hyracotheriumが狩れた時には、阿膠作りにも挑戦してみた。
加熱抽出って、なんだか難しそうと思ったんだけど。
ヒラコテリウムの皮を、水で煮るだけだった。
煮出したスープを冷やすと、ゼリーみたいに固まるそうだ。
『走査』によると、ゼラチン質の多い肉や魚の煮汁が冷えて固まったものを「煮凝り」というらしい。
この煮凝りを乾燥させたものが、アキョウなんだってさ。
あったかいスープのまま食べても効果があるから、猫たちに食べさせることにした。
みんな、「うみゃいうみゃい」と喜んで食べてくれた。
ฅ^•ω•^ฅ
ほとんどの猫が、1週間ほどで治った。
元を辿れば、脱水症状が全ての原因。
水分を摂って、悪いものを全部出してしまえば治る病気なんだ。
痛みがなくなった猫たちは、穏やかな顔でお昼寝している。
最初は具合が悪くて、ぐったりと倒れているという感じだったからな。
パサパサになっていた毛並みも艶が出て、綺麗になった。
毛並みが良くなったってことは、健康になったという証拠。
みんな、治って良かった。
食中毒も尿路結石も膀胱炎も、どれも全部再発する可能性が高い病気らしい。
これから暑くなるから、水を飲まないと熱中症になっちゃうぞ。
逆を言えば、たっぷりと水を飲んでおけば病気に罹りにくくなる。
猫はあまり水を飲まない動物だから、特に気を付けないとね。
猫たちが元気になったところで、薬草の見分け方と使い方を教えた。
安全な火の使い方、ハーブティーや肉のスープの作り方なども教えた。
ひと通り教えたところで、ぼくたちは集落から旅立つことにした。
「今までお世話になりまして、ありがとうございましたミャ。皆さんが元気になったので、ぼくたちはそろそろ旅立ちますミャ」
「改めて、お礼を言わせて欲しいニャオ~。こちらこそ、助けてくれてありがとうニャオ~」
集落の長は、ぼくを抱き締めて別れを惜しんでくれた。
「また来る時の為に覚えておきたいのですが、この集落の名前はなんですミャ?」
「キャットタイムニャオ~」
この集落は、キャットタイムの群生地だった。
せっかくだから、お土産にたくさん摘んでいこう。
猫たちが良く食べるのか、キャットタイムの葉っぱは食いちぎられている。
そこで、『走査』が発動した。
『葉が濃い緑色の植物には、シュウ酸カリウムが多く含まれる。大量に摂取すると体内にシュウ酸カリウムが蓄積され、尿路結石の原因となる』
尿路結石の原因は、これかーっ!
キャットタイムの食べすぎで、尿路結石が出来ちゃったんだ。
美味しいからって食べすぎたら、なんでも毒になる。
でも、猫に「食べちゃダメ」って言っても分からないからなぁ。
キャットタイムの集落の猫たちは、これからも尿路結石に悩まされ続けることだろう。
濃い緑色の葉っぱってことは、他の薬草にもシュウ酸カリウムが入っているのかな?
『シュウ酸カリウムは、ほとんどの植物に含まれる。含有量は物によって異なる。不要なカリウムは、尿と共に排泄される』
マジか、知らなかった……。
ぼくもいろんな薬草を食べたり飲んだりしているから、シュウ酸カリウムもたくさん摂っているはずだ。
カリウムを出す為に、意識して水をたくさん飲まなきゃいけないな。
ฅ^•ω•^ฅ
集落から出て、まもなく雨が降り出した。
急いで横穴を掘って、避難する。
また、晴れるまで足止めだ。
雨季は雨が降りやすいとはいえ、やっぱり憂鬱だ。
早く止まないかなぁ~と考えていた時、「プ~ン」という不快な羽音が聞こえた。
ハッとして耳をピルピルさせながら音がした方向を見ると、巣穴の中に蚊が飛んでいた。
「蚊ミャッ!」
ぼくは巣穴から追い払おうと、手を振り回す。
お父さんとお母さんとグレイさんもイライラした様子で、しっぽでタシタシと地面を叩いている。
みんなも、蚊を叩き潰そうと追い回している。
しばらくすると、蚊は巣穴から出ていった。
小さくても、蚊は怖いからな。
咬まれると痒くなるだけじゃなく、さまざまな病原体をうつされることがある。
蚊に咬まれるのは、人間だけではない。
もちろん、ぼくたち動物だって咬まれる。
そこで、『走査』が発動した。
『対象:食肉目ネコ科ネコ属リビアヤマネコ』
『対象:食肉目イヌ科イヌ属トマークトゥス』
『病名:蚊刺咬性過敏症』
『概要:通称、蚊アレルギー。猫は耳と鼻と肉球が刺されやすく、刺されていない場所にも湿疹が出る』
『処置:患部の洗浄、および冷却。抗炎症薬の塗布、鎮痛解熱薬の投与』
遅かったーっ!
いつの間にか、咬まれていたようだ。
みんな、「痒い痒い」と掻き始める。
ぼくも耳や肉球を咬まれていて、痒くなってきた。
早く、消炎鎮痛剤のアロエを採って来なければ。
解熱、解毒、鎮痛などの効果がある薬草といえば、アオジソとクマザサ。
よし、アロエとアオジソとクマザサを集めよう。
「みんな、待っててミャ! すぐに、薬草を採ってくるミャッ!」
ぼくは巣穴を飛び出し、大急ぎで薬草を集めて巣穴へ戻った。
お父さんとお母さんを診てみれば、早くも耳や鼻に咬まれた跡と掻きむしった跡があった。
グレイさんも咬まれた跡がいくつもあり、こちらも掻きむしって傷になっている。
これは、1匹どころじゃなく何匹にも咬まれているな。
掻きむしった傷に、アロエの葉汁を塗って痛みと痒みを抑える。
あとは、アオジソとクマザサのハーブティーを作って飲ませよう。
ぼくたちを咬んだ蚊が、恐ろしい病原体を持っていなくて良かった。
【蚊とは?】
今から約1億4500万年くらい前から、生息している昆虫。
身長約15mm、体重約2~3mg
普段の食事は、花の蜜や果物の汁。
メスは卵を産む時だけ、栄養を摂る為に吸血する。
吸血後の体重は約2倍になり、体が重くなるので動きが遅くなる。
吸血する時に、ウイルス病原体を感染させる。
これにより、「地球上で最も人類を殺害する生物」と言われている。
蚊の羽音が不快なのは、250~1000Hzの高周波数を耳障りと感じるから。
これは人類の祖先から培われてきた自己防衛本能で、潜在的に蚊を脅威だと認識しているという説がある。
致死性の高い感染症は熱帯地方に多く、日本には少ない。
しかし、訪日外国人や海外旅行者の急増により、病原体を持つ蚊が輸入されている。
たぶん蚊は、病原体を運んでいる自覚はないと思う。




