第122話 幸せの魔法
猫が毛づくろいをしなくなったら、病気のサインだと言われている。
毛づくろい不足も、急性湿性皮膚炎の原因になる。
たぶん食中毒になっちゃったから、毛づくろいが出来なくなって急性湿性皮膚炎になったんじゃないかな?
ぼくたちみたいに気象病で、具合が悪かったのかもしれない。
猫にも毛づくろいが上手く出来ない、ぶきっちょさんな猫もいるんだよ。
そんなぶきっちょさんには、ブラッシングをしてあげると良い。
さっそく松の葉を束ねてブラシを作って、猫たちにブラッシングしてあげよう。
もちろん、皮膚炎を起こしている場所のブラッシングは避ける。
本当は炎症を起こしている部分の毛を、刈った方が良いんだけど刈るなんてないからなぁ。
病気の猫たちはみんな毛並みがボサボサで、ノミやフケもたくさん出る。
これは、思った以上に深刻かもしれない。
お父さんとお母さんにも手伝ってもらって、1匹ずつしっかりブラッシングしないといけないな。
それからぼくたちは病気の猫たちに薬を塗ったり、ハーブティーを飲ませたり、ブラッシングをしたりと大忙しだった。
仔猫のぼくが、成猫のブラッシングをするのはかなりの重労働だ。
最後の1匹のブラッシングが終わる頃には、へとへとくたくた。
疲れ果てて、その場で気絶するように眠ってしまった。
ฅ^•ω•^ฅ
いったい、何時間くらい寝たんだろう。
ぐっすり眠ったおかげで、疲れが取れた気がする。
気が付くと、丸くなったお父さんとお母さんに抱きかかえられていた。
あったかくて柔らかい猫毛に包まれていて、とっても気持ちが良い。
ぼくが寝た後、ふたりもねこねこだんごになって一緒に寝たのかな?
ふたりとも、気持ち良さそうに眠っている。
猫の寝顔って、可愛くて癒されるよね。
たまに白目を剥く、寝顔が怖い猫もいるけど。
ふたりを起こさないように、そっと抜け出して大きく伸びをする。
ぼくが寝たあと、みんなはどうなったかな?
眠気覚ましにお散歩でもしながら、みんなの様子を見に行こう。
「皆さん、お加減はいかがでしょうミャ?」
「仔猫ちゃんこそ、大丈夫ナァー?」
みんなの体調を心配して聞いたはずなのに、逆に心配されてしまった。
訳が分からずに、首を傾げる。
「ぼくなら、大丈夫ですミャ。何かあったんですミャ?」
集落の猫たちから話を聞いたところ、ぼくは3日も眠っていたらしい。
道理で、スッキリしているはずだ。
猫の一日の睡眠時間は12~16時間だけど、病気や体力がない猫はさらにたくさん寝なければならない。
それにしたって、寝すぎだ。
ぼくが眠っている間、お父さんとお母さんが代わりに猫たちの看病をしてくれていたんだって。
だけどあまりにもぼくが目を覚まさないので、重い病気に罹ったんじゃないかと思ったらしい。
特に、お父さんとお母さんは気が気じゃなかったそうだ。
またみんなに迷惑を掛けてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「頑張りすぎて、疲れちゃっただけですミャ。ご心配をお掛けして、すみませんミャ」
「見ず知らずのワタシたちのために、倒れるまで頑張ってくれてありがとうナァー」
「どういたしましてミャ」
続々とぼくの周りに猫たちが集まってきて、みんなから「ありがとう」と言われた。
ぼくは苦しんでいる猫を見ていられなくて、自分が助けたいから助けているだけなのに。
助けられればそれで良いから、見返りなんて求めない。
大好きな猫が元気になってくれさえすれば、それで十分だ。
猫の幸せが、ぼくの報酬だと思っている。
だけど「ありがとう」と言ってもらえると、やっぱり嬉しい。
「ありがとう」って、魔法の言葉だと思う。
たった5文字の言葉なのに声に出して言うだけで、言った方も言われた方も幸せになれる。
なんて不思議で、素敵な言葉なんだろう。
ぼくも嬉しい時には、もっとたくさん「ありがとう」って言おう。
みんなに体調を聞いて回ると、3日前よりも症状が軽くなったらしい。
食中毒は原因となった菌やウィルスによるけど、だいたい数日で治る。
黄色ブドウ球菌やノロウイルスなら、3日くらい。
病原性大腸菌なら、1週間くらい。
急性湿性皮膚炎は、どのくらいで治るの?
【治療期間:1~2週間】
急性湿性皮膚炎は見た目は痛々しいけど、治るのは結構早いんだね。
毎日薬を塗り続ければ、すぐに良くなるだろう。
お父さんとお母さんが頑張ってくれたから、今度はぼくが頑張らないとね。
猫たちを集めて、薬草の見分け方と使い方を教えた。
ときどき痒みを訴える猫たちに、アロエの説明しながら実際に使って見せる。
すぐに痒みや痛みが引くのを感じて、猫たちは驚いていた。
アロエの即効性は、ビックリするよね。
ノミブラシの作り方も教えて、自分たちでブラッシングしてもらった。
ブラッシングは、毛並みを整えるだけじゃないんだよ。
毎日ブラッシングすることで、抜け毛やノミを取り除くことが出来る。
猫は、抜け毛が多い動物。
猫はよく毛づくろいをするけど、ブラッシングした方がより多くの抜け毛を取り除ける。
余分な抜け毛を取り除くことで、湿気や熱気がこもりにくくなる。
何より、ブラッシングすると気持ちが良い。
みんな大喜びで、ブラッシングしていた。
ブラッシングする時間は3分くらいで、やりすぎても良くない。
あとはハーブティーの作り方を教えて、飲ませた。
やっぱりイヌハッカのハーブティーが好評で、みんな美味しいって飲んでくれたよ。
しばらくすると、お父さんとお母さんが目を覚ました。
ぼくが起きているのを見て、ふたりとも嬉しそうに駆け寄ってくる。
「シロちゃん、ずっと起きないから心配したニャー!」
「やっと起きてくれて、良かったニャ」
「心配掛けちゃって、ごめんミャ。疲れて、ちょっと寝すぎちゃっただけミャ」
「倒れるまで無理しちゃダメって、いつも言っているニャー」
「これだから、目が離せないニャ」
「そんなこと言われても困るミャ」
ふたりはぼくをサンドイッチにして抱き締めて、喉をゴロゴロ鳴らしながらスリスリしてくれた。
ฅ^•ω•^ฅ
3日も会わなかったから、グレイさんも心配しているだろう。
集落を出て、グレイさんの様子を見に行くことにした。
「グレイさ~ん!」
『シロちゃんっ!』
声を掛けると、しょぼんと垂れ下がっていたグレイさんの耳がピンと立った。
嬉しそうにしっぽをブンブン振りながら、ぼくを抱き締めてくれた。
『会いたかった! ずっと会いに来てくれないから、寂しかったぞっ!』
「ごめんミャ。病気の猫たちを看病していたら、疲れちゃって今までずっと寝ていたミャ」
『ということは、また無理をしたな? 無理をするなと、いつも言っているのに』
「お父さんとお母さんにも、同じことを言われたミャ」
『言うこと聞かない悪い子には、お仕置きが必要だな』
「お仕置きミャ?」
『来なかった分だけ、シロちゃんをひとり占めさせろ』
「それは、グレイさんがぼくをひとり占めしたいだけミャ?」
『ずっと会えなくて寂しかったんだ、それくらい良いだろう? シロちゃんも、ゆっくり休んだ方が良い』
そう言って、グレイさんはぼくの顔をペロペロと舐め始めた。
グレイさんは、優しいなぁ。
といっても、3日も戻らなかったらみんな心配するだろう。
せめて、お父さんとお母さんには伝えておきたい。
そうだ! 狩りをして、「集落のみんなにお裾分けする」という理由で一旦集落へ戻ろうっ!
「グレイさん、お散歩しながら狩りをしようミャ」
『だったら、シロちゃんの愛情がたっぷり入った美味しい焼肉が食べたいな』
「分かったミャ」
グレイさんとふたりで、お散歩をしたり追いかけっこをしたりして遊んだ。
お散歩の途中で、|Synthetoceras(シカみたいなラクダ)を見つけたので狩った。
「グレイさん、集落のお土産げにしても良いミャ?」
『ああ、いいぞ。こんなに大きな獲物は、ふたりでは食べきれないからな』
「ありがとうミャ」
ぼくとグレイさんの分だけ取り分けて、残りはグレイさんに集落まで運んでもらった。
ぼくひとりじゃ、大きなシンテトケラスは運べないから助かった。
集落へ入ろうとするぼくを、グレイさんが呼び止める。
『ネコたちに肉を食べさせたら、出来るだけ早く戻って来てくれ』
「分かったミャ」
『待っているからな』
そう言い残すと、グレイさんは素早く立ち去った。




