第121話 急性湿性皮膚炎
翌日。
葉っぱに包んで埋めておいたお肉を取り出して触ってみると、カチカチになっていた。
あれ? もしかして立てて腐った?
でも、腐ったら逆に柔らかくなるよね?
肉を1日置いといたのが、良くなかったのかな?
匂いを嗅いでみたけど、腐った臭いはしない。
代わりに、包んでいた葉っぱとセージの爽やかな匂いがした。
硬くなっているけど、腐ってはいないようだ。
そういえば、包むのに使ったこの大きな葉っぱ。
これ、なんていう葉っぱなんだろう?
教えて、『走査』
【対象:イネ科ササ属隈笹】
【薬効:抗菌作用、防腐作用、解毒作用、消炎作用、鎮痛作用、鎮静作用、解熱、利尿、高血圧、糖尿病、健胃、不眠、創傷回復、口内炎、歯周病、口臭予防】
【概要:葉には優れた抗菌作用、防腐作用があり、粽(餅や米などを葉で包んで、茹でたり蒸したりした食べもの)料理に使われる。漢方では、万病に効く淡竹葉と呼ばれる生薬。犬猫用クマザサエキスも売られている】
知らずに使っていたけど、クマザサも薬草だったの?
犬猫に使える、万能薬なのか。
クマザサに包んでおいたから、肉が腐らなかったんだね。
笹の良い匂いがするから、ハーブティーにしても美味しそう。
今まで器に使っていた大きな葉っぱも、薬草だったのかもしれない。
もし間違って毒草を使っていたら、危なかったかも。
『走査』が警告を出したことがないから、考えたこともなかった。
今後は器に使う葉っぱも、調べた方が良さそうだな。
そういえば、肉や魚を葉っぱで包んで焼く料理法もあったよね?
だったら今日は、クマザサの包み焼きを作ってみよう。
セージの粉をまぶした肉に、適当に手で裂いたキノコをたっぷり乗せて、クマザサの葉で何重にもグルグル巻きにする。
クマザサの茎を紐代わりにして、ほどけないようにしっかり結ぶ。
火を起こして、焚火の中にクマザサで包んだ肉を入れた。
包み焼きって、どのくらい焼けばいいんだろう?
『加熱時間:火加減による。弱火で20~40分』
じゃあ、30分経ったら教えて。
火を絶やさないように薪を焚べながら、弱火でじっくりと焼く。
30分経ったら火から取り出して、触れる温度になるまで冷ます。
包み焼きを冷ましている間に、クマザサのハーブティーを作ろう。
クマザサをハーブティーにするは、葉っぱを軽く炒るんだって。
焼き石の上で、クマザサの葉っぱがカラカラになるまで焼いてみた。
葉っぱの鍋に水とクマザサを入れて、弱火で5分煮出せば出来上がり。
クマザサの包み焼きが冷めたら、紐をほどいて開けてみた。
開けると、クマザサとセージとキノコと肉の良い匂いが広がる。
美味しそうな匂いに、具合が悪くて寝ていた3匹が起き上がった。
「またシロちゃんが、美味しそうなものを作っているニャー」
「昨日とはまた違う、良い匂いがするニャ」
『シロちゃん、食べてもいいか?』
「どうぞ、召し上がれミャ」
みんなの前に包み焼きを出すと、美味しそうに食べ始めた。
ぼくも、包み焼きを食べてみる。
セージとクマザサの良い匂いが、食欲をそそる。
蒸し焼きになった肉が、ふっくらジューシーで美味しかった。
焼く前は硬かったけど、焼いたら柔らかくなって良かった。
クマザサのハーブティーも、飲んでみる。
思った通り、笹の味がして美味しい。
クマザサの葉も万能薬らしいから、たくさん摘んでいこう。
さっき使った大きな葉っぱも、何だったか教えて『走査』
【対象:キク科ヒマワリ属向日葵】
【薬効:抗酸化作用、免疫力強化、抗鬱作用、鎮静作用、整腸作用、滋養強壮、生活習慣病、動脈硬化、高血圧、眩暈、老化予防】
ヒマワリって、あのヒマワリ?
ヒマワリって、3mくらいの高さになるんだっけ?
ぼくの体が小さいから、これがヒマワリだなんて全然気付けなかった。
見上げてみれば、うんと上の方に大きなヒマワリのつぼみがある。
花が咲くには、まだ早そうだ。
理科の授業で育てたことがあるけど、ヒマワリといったら夏だもんね。
ヒマワリって、猫も食べられるの?
【花、種、葉、根、茎、全草食用可】
種が食べられることは知っていたけど、全部食べられるのか。
そのままは食べられなそうだから、ハーブティーにしてみようかな。
種が取れるのは花が枯れたあとで、秋頃だったはず。
ヒマワリの種を手に入れたら、食べてみたいな。
種を持って帰って、イチモツの集落に植えてもいいかもね。
食べられるものが増えて、さらに秋が楽しみになった。
ฅ^•ω•^ฅ
長雨でしばらく足止めされていたけど、今日はスッキリ晴れた。
ぼくたちは数日振りに巣穴を出て、次の集落へ向かって走り出した。
夏が近いから、日差しが強い。
地面の水分が蒸発して、一気に蒸し暑くなった。
地面がぬかるんだ泥だらけで歩きにくいけど、いつまでもここにいる訳にもいかない。
次の集落まで、あと5km以上もある。
またいつ雨が降り出すか分からないし、晴れているうちに少しでも距離を稼いでおきたい。
セージとクマザサの効果か、みんな元気に走っている。
ぼくも最近、体の調子が良くて体が軽いんだよね。
やっぱり、ハーブティーを飲むと健康になるよね。
晴れた日は出来るだけ走り、雨の日はお休み。
そんな日々を2週間くらい過ごして、ようやく次の集落が見えてきた。
そこで、『走査』が発動した。
【対象:食肉目ネコ科ネコ属リビアヤマネコ】
【病名:食中毒、急性湿性皮膚炎】
【概要:高温多湿による表在性細菌の繁殖、および、被毛の手入れ不足が原因。別名『ホットスポット』】
【処置:炎症部位を剃毛後、殺菌薬が入った薬用シャンプーで洗浄。抗生物質、抗炎症薬、鎮痛剤、抗菌剤、副腎皮質ホルモンを塗布。患部を舐めたり掻いたりするのを防ぐ為、エリザベスカラーを着用】
温度と湿度が高くなると、細菌やウィルスが増えやすくなる。
この時季は物が腐りやすいから、食中毒になる猫が増えているんだ。
厚い毛に覆われているから、湿気やすく乾きにくい。
猫たちはみんな、辛い思いをしているはずだから早く助けてあげなきゃ。
「この先の集落に、病気の猫たちがいるミャ」
『そうか、苦しんでいる猫がいるなら早く助けてやってくれ。オレは、ここで待っている。行ってらっしゃい』
「行ってきますミャ」
グレイさんにはいつものように集落の見張りをお願いして、集落の少し手前で別れた。
ฅ^•ω•^ฅ
集落へ入っていくと、思った通りたくさんの猫たちが痒みや痛みに苦しんでいた。
まずは、消炎鎮痛剤を塗ることから始めよう。
ぼくが指示を出すよりも早く、お父さんとお母さんが動き出す。
「お父さんは、アロエを採ってくるニャー」
「わたしはヨモギを採ってきて、お薬を作るニャ。シロちゃん、他にもやることがあったらなんでも言ってニャ」
「お父さん、お母さん、いつもありがとうミャ」
ふたりとも痒みや傷には、アロエとヨモギが効くと知っている。
ぼくたちは旅をしながら、たくさんの猫たちを救ってきた。
理解が早くて助かるし、とても頼もしい。
ぼくもふたりを見習って、気合を入れ直して頑張るぞっ!
急性湿性皮膚炎は、アロエの葉汁とヨモギペーストを傷に塗れば良い。
アロエは傷薬として使うと、抗炎症作用と創傷治癒促進作用がある。
ヨモギは、抗菌作用、鎮痛作用、抗酸化作用、アトピー性皮膚炎にも効く。
アロエは猫が食べると毒なんだけど、すぐ痒みと痛みが引くから使っている。
アロエを使う時は必ず、「おなかが痛くなるから、絶対に舐めないように」ときつく言い聞かせている。
あとは、イヌハッカとムラサキバレンギクのフレッシュハーブティーを飲ませればバッチリだ。
【肉が硬くなったのは、どうして?】
動物は死ぬと、死後硬直が起こる。
死後硬直とは、筋肉が硬くなること。
死後2時間くらいから、だんだんと硬くなっていく。
死後30時間くらい経つと、逆に柔らかくなっていく。
環境によって、硬直時間は大きく変わる。




