第120話 コモンセージ
やるべきことはやったので、集落から旅立つことにした。
おっと、大事なことを聞き忘れていた。
「この集落の名前は、なんですミャ?」
「セージですにぃ~」
言われて見れば、濃い緑色の葉っぱにちっちゃな青紫色の花がいっぱい咲いている。
さっそく前足をかざして、『走査』してみる。
『対象:シソ科アキギリ属Common Sage』
『薬効:抗酸化作用、鎮静作用、強壮、精神安定、発汗抑制作用、防腐作用、殺菌作用、食欲不振、疲労回復、食欲増進、健胃、口臭、食べ過ぎ、飲み過ぎ、のどの痛みなど』
『概要:肉料理の臭み消しや、香辛料として使われる。ソーセージの名前の由来にもなっている。特にドイツ料理、イタリア料理には欠かせないハーブ。ハーブティーにも使える。花はedible flower(食用花)として食べられる』
『警告:猫にとって有毒なthujoneとtanninが含まれる。猫がタンニンを大量に摂取すると、胃腸障害や腎臓障害を引き起こす。熱処理や乾燥処理をした上で、少量であれば問題ない。ツジョンには防腐作用があり、キャットフードにも使われている』
神経毒のツジョンはニガヨモギやヨモギにも入っているけど、たくさん食べなければ大丈夫。
カフェインやタンニンが入ったお茶は、猫に飲ませてはいけないって聞いたことがあるぞ。
ハーブティーにするのは、やめておくか。
匂いを嗅いでみると、薄荷みたいな爽やかな匂いがする。
たくさん摘んで、背負い籠に入れて乾燥させておくか。
乾燥したら、肉料理に使ってみよう。
どんな味がするのか、今から楽しみだ。
この集落の猫たちにも、セージの使い方を教えておこう。
ぼくたちは、セージの集落の猫たちに見送られて旅立った。
ฅ^•ω•^ฅ
最近、雨の降る日が増えた。
どうやら、雨季に入ったらしい。
雨が降ると気圧が下がって、気象病になるんだよね。
気象病になると、頭が痛くなったり体がダルくなったりする。
それに地面がぬかるむから、歩きにくくなってしまう。
雨が降り出したら、急いで高いところに巣穴を掘って逃げ込むようにしている。
体が濡れると体調を崩しやすくなって、風邪も引きやすくなる。
雨が降り続けると気温が下がって寒くなるし、川も濁って飲めなくなる。
飲み水は、雨水を集めて飲むしかない。
乾燥させた薬草たちも、湿気て腐りやすくなる。
野生の猫にとって、長雨は死活問題。
あ~あ……、早く止んでくれないかなぁ。
雨が降ると、憂鬱になる。
こんな時こそ、セージの出番だ。
セージには、抗鬱作用があるらしいからね。
セージの葉っぱを籠の中で自然乾燥させておいたら、簡単にパキパキ割れるようになった。
乾燥処理は、これでいいのかな?
次は乾燥させたセージを、どう使うかなんだけど。
石で叩いて粉にして、セージの粉を肉にふりかけて焼いてみたらどうだろう?
焼けば、熱処理されるはず。
焼いた石で肉を焼く調理法も、試してみたいんだよね。
そうと決まれば、薪集めと狩りだ。
キノコも採ってきて、焼きキノコにしてもいいかもね。
ぼくひとりだとパラミスくらいしか狩れないから、グレイさんにお願いしようかな。
グレイさんが「もっとオレを頼って欲しい」と言っていたから、甘えさせてもらう。
気象病でぐったりしているグレイさんに、声を掛ける。
「グレイさん、具合が悪いところをごめんなさいミャ。もしよかったら、狩りに行ってきて欲しいミャ」
『ああ、そうだな。オレも腹が減ったし、気晴らしに狩りへ行きたかったところだ』
「お肉を獲ってきてくれたら、焼肉を作るミャ」
ぼくがニッコリと笑いかけると、グレイさんは笑顔でガバリと起き上がった。
『それは楽しみだ! 待っていてくれ、すぐ狩ってくるっ!』
「ぼくも薪集めやキノコ狩りをしてくるから、焦らなくていいミャ」
『分かった! 行ってくるっ!』
「行ってらっしゃ~いミャ」
グレイさんはめちゃくちゃ張り切って、巣穴から飛び出して行った。
ぼくもグレイさんの期待に応えられるように、頑張らなくっちゃ。
草木は濡れているから、薪集めは苦労する。
出来るだけ、濡れていない枯れ葉や枯れ草を探して集めないと。
巣穴の近くに朽ちた倒木を見つけたので、石で叩き壊して薪にした。
長雨はキノコたちにとって恵みの雨らしく、元気いっぱい育っている。
『走査』に教えてもらい、食べられるキノコをたくさん集めた。
次は河原へ行って、石焼き料理に使えそうな平たい石を探した。
ついでに、手頃な石を研いで石のナイフを作った。
これで、肉以外の材料は全部揃った。
巣穴に戻って火を起こし、石を焼いている間にセージを石で叩いて粉にする。
しばらくすると、ずぶ濡れになったグレイさんが獲物を咥えて帰ってきた。
『ただいま、シロちゃん! 肉を獲ってきたぞっ!』
グレイさんが「褒めて褒めて!」とばかりに、良い笑顔でしっぽをブンブン振りまくっている。
ぼくはグレイさんに飛びついて、よしよしと撫でて褒める。
「さすがは、グレイさんミャッ! いつも美味しいお肉を狩ってきてくれて、本当にありがとうミャッ!」
『シロちゃんが喜んでくれて、オレも嬉しいぞ! さぁ、早く作ってくれっ!』
「分かったミャ。グレイさんは、焚火にあたって毛を乾かしてミャ」
『シロちゃんこそ、びしょ濡れじゃないか。寒くないか?』
「ぼくはずっと火の側にいるから、むしろ熱いくらいミャ」
ぼくはさっそく、グレイさんが狩ってきてくれた|Hyracotherium(ウマの祖先)を石のナイフで解体し始めた。
ヒラコテリウムを、石のナイフで骨ごと叩き切っていく。
太くて割れない骨は、グレイさんにあげた。
「グレイさん、良かったらこれあげるミャ」
『おおっ、噛みごたえがありそうな骨だ。ありがとう』
グレイさんは嬉しそうにしっぽを振りながら、骨にかじりついた。
グレイさんは、骨が大好きなんだよね。
イヌ科の動物が骨を好きな理由は、大好きな味と匂いがするから。
骨の中にある骨髄は、美味しくて栄養もたっぷりなんだって。
それに肉食動物は本能的に、噛むことを楽しいと感じる。
硬いものを噛むことで、虫歯や歯周病予防にもなるんだよ。
肉を適当な大きさに切ったら、肉全体にセージの粉を振りかけてなじませる。
生葉よりも乾燥させた方が、匂いが強くなったような気がする。
セージはたくさん使うと体に良くないから、軽くパラパラッとくらいにしておいた。
セージには、殺菌作用と防腐作用がある。
セージの粉を肉に揉み込んでおけば、腐らずに保存しておけるかもしれない。
「これは明日食べる分だから、食べちゃダメミャ」
みんなに言い聞かせて、大きな葉っぱに肉を包んで巣穴の奥に埋めておいた。
これで明日も、お肉が食べられるぞ。
焚火の上に置いておいた平たい焼き石が、熱せられて赤くなってきた。
そろそろ、肉が焼けるかな?
焼き石の上にセージをまぶした肉を乗せると、「ジューッ!」と大きな音がした。
ぼくたちは、肉が焼ける大きな音に跳び上がるほどビックリした。
それと同時に、美味しそうな匂いが広がる。
肉が焼ける匂いを嗅いで、みんな目を輝かせた。
ぼくたち野生の猫は、普段から生肉を食べ慣れているけど。
寄生虫予防には、中までしっかり火を通した方が良いんだよね。
新鮮なウマの肉は、生で食べても比較的安全らしい。
ウマは他の動物と比べて脂肪分が少なく、食中毒の原因となる細菌や寄生虫が付きにくいそうだ。
だからといって、食中毒にならないってことじゃない。
肉にこんがりと美味しそうな焼き色が付いたら、少し冷まして3匹の前に置く。
「みんな、焼けたから食べてミャ」
「待ってましたニャー!」
「良い匂いがして、とっても美味しいニャッ!」
『おおっ? 前に食べた焼肉よりほんのり甘くて、めちゃくちゃ美味しいぞっ!』
セージのおかげか、みんないつもよりも食いつきが良い。
ぼくも、ハーブ焼きを食べてみる。
セージの爽やかな匂いで、野生の動物特有の獣臭さが消えている。
食欲がそそられる匂いでどんどん食べられちゃうし、後味もスッキリさっぱり。
葉っぱを生で食べた時は苦かったけど、今は苦味を全然感じない。
セージは火を通すと、苦味がなくなるのか。
セージをかけただけで、こんなに味が変わるなんて驚きだ。
薬草は病気を治すものって思っていたけど、料理を美味しくすることも出来るんだね。




