第12話 ネコカリシウイルス感染症
さすがにぼくたちだけじゃ、大きなシヴァテリウス(キリン模様の牛)は食べきれない。
集落にいた頃は、集落のみんなにお土産に出来たけど。
猫には、肉を保存する方法も、持って行く手段もない。
もったいないけど、ここに置いて行くしかない。
置いて行っても、大丈夫。
森の中には、「森の掃除屋さん(Scavenger)」がたくさんいるから。
「森の掃除屋さん」というのは、動物の死体を食べてくれる動物や鳥や虫のことだよ。
美味しいお肉を食べて、おなかいっぱいになったら眠くなった。
「ミャ~……」
「あらあら、シロちゃんはもうおねむみたいニャ」
「じゃあ、寝る場所を探すニャー」
集落にいた頃は、眠くなったらどこでも寝られた。
たくさんの猫がいたから安全だったし、安心して眠れる巣穴もあった。
だけど、旅に出たら毎日寝る場所を探さなければならない。
一番安全なのは、他の動物が作った巣穴を探すこと。
ほとんどの野生生物は、巣穴を掘る。
巣穴を作る理由は、
敵から襲われた時に逃げ込む為。
子供を守る為。
食べ物を保存する為。
雨風をしのぐ為。
安心して眠れる寝床の為などなど。
巣立ったりお引っ越ししたりして、空き巣になっているものもある。
自分では巣穴を掘らず、他の動物が掘った空き巣に住み着く動物もいる。
ぼくたちは手分けして、空き巣を探した。
誰か今日だけで良いから、巣穴を貸して欲しい。
だけど、空き巣はなかなか見つからない。
ほとんどの巣穴には、誰かが住んでいた。
最終手段は、木の上で寝る。
高い場所は敵から狙われにくいし、襲われてもすぐ逃げられる。
しかし上からも下からも丸見えで、天敵から見つかりやすい。
長時間安心して眠れる場所じゃないと、睡眠不足になる。
猫にとって睡眠不足は、命に関わる。
出来れば、巣穴でゆっくりと眠りたい。
どうしても見つからなかったら、自分たちで掘るしかない。
結局、空き巣は見つからなかったのでお父さんが巣穴を掘ってくれることになった。
「ふたりの為なら、このくらいなんのそのニャー」
全身土まみれになっても、笑顔を絶やさないお父さんが頼もしい。
「シロちゃん、私たちは草を集めましょうニャ」
「ミャ」
ぼくとお母さんは、巣穴の中に敷き詰める柔らかい草を集めた。
巣穴を作っている間に空が夕焼け色に染まり、夜が近付いてきていた。
暗くなると猫の天敵である、夜行性の肉食動物が活動を始める。
夜になる前に、巣穴が完成して良かった。
「巣穴が出来たニャー。みんな寝るニャー」
「おやすみなさいニャ」
「おやすみなさいミャ」
作ったばかりの巣穴に入ると、いつものようにお父さんとお母さんにサンドウィッチしてくれた。
ふわふわもふもふの猫毛に包まれると、とても幸せな気持ちになる。
お母さんにスリスリして、喉をゴロゴロ鳴らす。
お父さんとお母さんもぼくを抱き締めて、嬉しそうに喉をゴロゴロ鳴らしている。
この時間が、一番幸せ。
最初は、親同伴の旅なんて恥ずかしいと思っていたけど。
こうしていると、やっぱりお父さんとお母さんについて来てもらって良かったな。
ฅ^•ω•^ฅ
目覚めると、太陽の光がわずかに差し込んで巣穴がほんのり明るい。
「シロちゃん、起きたかニャー?」
「シロちゃん、良く寝たニャ」
お父さんとお母さんが、ぼくより先に起きているなんて珍しいな。
巣穴から出てみると、太陽はもう真上にあった。
しまった、寝過ごした!
初めての旅で、思ったより疲れていたようだ。
成猫になっても、体力がないなぁ。
これも、体が小さいせいなのかな。
そんなことを考えていると、お父さんが一匹のネズミを差し出した。
「シロちゃんが寝ている間に、パラミスを狩ってきたニャー」
「私たちはもう食べたから、あとはシロちゃんの分ニャ」
「ありがとうミャ、いただきますミャ」
ひとことお礼を言って、ありがたくネズミをいただいた。
パラミスは、鶏肉っぽい味がして美味しい。
食べ終わると、ぼくたちは再び集落を探して歩き出した。
しばらく、森の中を歩いていると脳内に文字が現れた。
『走査開始』
『走査完了。結果表示』
『対象:食肉目ネコ科ネコ属リビアヤマネコ』
『病名:ネコカリシウイルス感染症』
『処置:ネコインターフェロン、ウイルス治療薬、抗生物質の投与。保温して安静ののち、2週間程度で自然治癒』
この近くに、病気で苦しんでいる猫がいる!
早く、助けてあげなくちゃっ!
「走査」は、とても便利な能力だ。
病名から治療方法まで、全部教えてくれる。
ただし医療知識がないと、全然理解出来ないのが最大の弱点。
人間だった頃、「猫博士」と呼ばれるくらい猫に詳しかったぼくだけど。
医学については、これから勉強する予定だったんだ。
だから、医療用語は全然分からない。
ネコカリシウイルス感染症って、なに?
ネコインターフェロンとか、ウイルス治療薬とか、抗生物質とか、そんなものはないっ!
そもそも、ネコインターフェロンなんて言葉は初めて見たぞ。
念の為、お父さんとお母さんにも走査してみたけど、ふたりは感染症にかかっていなかった。
オロオロしているぼくを見て、お父さんとお母さんが不思議そうに首を傾げている。
「シロちゃん、どうしたニャー?」
「この先に、何かあるニャ?」
「この近くに、病気の猫がいるミャ!」
「じゃあ、シロちゃんが治してあげれば良いニャー」
「シロちゃんのお医者さんの力があれば、絶対治せるニャ」
「治せるもんなら治したいけど、薬がないミャ~……」
いや、待てよ?
ぼくの恩師である茶トラ先生は、どんなケガや病気もヨモギで治ると信じて疑わない猫だった。
きっとネコカリシウイルス感染症も、ヨモギで治していたに違いない。
そうと決まれば、近場で見つけたヨモギに向かって、『走査』
『対象:キク目キク科ヨモギ属ヨモギ』
『薬効:抗菌化物質を含む。止血、痛み止め、歯痛、喉の痛み、扁桃炎、咳止め、風邪、肺炎、健胃、整腸作用、肌荒れ、汗疹、肩こり、腰痛、神経痛、リウマチ、冷え症、貧血、高血圧、免疫力強化、抗ガン作用、造血作用、浄血作用』
『注意事項:体を温める作用がある薬草の為、ほてり、のぼせなどの症状には禁忌』
ヨモギさん、万能すぎやしませんかね?
ほとんどのケガや病気は、ヨモギで治るじゃん。
これなら、ネコカリシウイルス感染症にも効くかもしれない。
感染症にかかっている猫が1匹いれば、同じ集落で暮らしている猫たちも感染している可能性が高い。
もし集落内で集団感染していたら、たくさんのヨモギが必要となる。
お父さんとお母さんに、ヨモギを見せてお願いする。
「これと同じ草を集めて欲しいミャ」
「この草を集めれば良いニャ?」
「分かったニャー、たくさん集めるニャー」
ヨモギはなんにでも使えるから、たくさんあっても困ることはない。
お父さんとお母さんが協力してくれたおかげで、両手に抱えるほどのヨモギが集まった。
ヨモギを集めてくれたふたりに、「ありがとう」とお礼を言った。
ぼくの予想がハズれていることを祈りつつ、『走査』を頼りに病気の猫を探した。
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【森の掃除屋さんとは?】
動物の死体を食べてくれる、野生生物のこと。
食物連鎖によって、全ての生物は土へ還る。
【Paramysとは?】
今から約6000万年くらい前に生息していたといわれている、原始のネズミ。
推定体長約30㎝~60㎝
しっぽの長さは約30㎝
体重は不明。
【ネコInterferonとは?】
猫風邪《ネコカリシウイルス感染症》の治療薬。
簡単に説明すると、白血球(免疫細胞)にバフをかける薬。
強くなった白血球がウィルスをやっつけてくれるから、病気が治る。
【抗生物質とは?】
体に入ってきた悪い細菌が、増えないように抑え込む薬。
【ウィルス治療薬とは?】
体に入ってきた悪いウィルスが、広がらないように抑え込む薬。
【細菌とウィルスの違いとは?】
細菌は、ウイルスよりも10倍~100倍くらい大きい。
細菌は生きているので、分裂して増える。
ウィルスは、自分の力だけで増えることが出来ない。
ウィルスは生き物の細胞に、寄生することで広がることが出来る。
つまり、細菌とウィルスは別物。
だから細菌にウイルス治療薬は効かないし、ウィルスに抗生物質は効かない。




