第117話 ローズティー
イチモツの集落の猫たちは、初めて見るオリーブの植木鉢に興味津々だ。
「これなんニャア?」
「なんだか、とっても良い匂いがするにゃ~」
オリーブの匂いを嗅いだ猫たちは、ゴロニャンになった。
同じ匂いを嗅いでいるのに、仔猫たちはゴロニャンになっていない。
イヌハッカやオリーブが効かないのは、やっぱりぼくが仔猫だからか。
『走査』によると、オリーブの挿し木から根っこが出るのは3ヶ月後らしい。
根っこが出ても、しっかり土に根付くまで植え替えは出来ないらしい。
植え替えはぼくしか出来ないけど、水やりくらいなら猫だって出来るはず。
水やりは、キャリコにお願いしよう。
「キャリコさん、お忙しいところをすみませんミャ。ぼくがいない間に、オリーブの水やりをしていただけませんミャ?」
「水やりって、なんですにゃう?」
薬草を仕分けしていたキャリコが、訳が分からないという顔で首を傾げた。
キャリコは毎日ハーブティーを作っているけれど、薬草を育てたことはない。
キャリコが取り扱っている薬草は、そこらじゅうに生えている雑草。
雑草は、何もしなくても勝手に生えてくるのが当たり前。
だから、「水やりをして植物を育てる」という考えがないんだ。
ぼくはキャリコの前で、植木鉢に水をやってみせる。
「この中に入っている土が乾いたら、こんな感じで下から流れ出るくらいたくさん水を入れるんですミャ」
「水を入れるだけで良いですにゃう?」
「水を入れるだけで、オリーブの木が育ちますミャ」
「オリーブは、ハーブティーになりますにゃう?」
「毎日水やりをすれば、オリーブの葉っぱが出ますミャ。あ、そうミャ。キャリコさんに、お土産がありますミャ」
「お土産にゃう?」
ぼくは背負っていた籠を下ろして、ひっくり返す。
中には、旅の途中で集めた薬草がどっさり入っていた。
イチモツの集落の周りには、生えていない薬草ばかりだ。
腐らないようにときどき籠から出してお日様に干しておいたから、全部乾燥している。
「キャリコさんが大好きなハーブティーですミャ」
「これ全部、ハーブティーですにゃう? 見たことないものばっかりですにゃう。ありがとうございますにゃう! さっそく、淹れてみますにゃうっ!」
キャリコは茶葉の山に、目を輝かせた。
いそいそと火を起こして、お湯を沸かし始める。
「どれを淹れるかにゃう♪」と楽しそうに声を弾ませて、茶葉の匂いを嗅ぎながら楽しそうに選んでいる。
ウキウキしているご機嫌な猫が、めちゃくちゃ可愛い。
キャリコは、本当にハーブティーが好きなんだなぁ。
これだけ喜んでくれれば、持って帰った甲斐がある。
「これにしますにゃう!」
キャリコが選んだのは、オリーブの葉。
キャリコが、オリーブのハーブティーを淹れてくれた。
乾燥したオリーブのハーブティーを飲むのは初めてだから、ぼくも楽しみだ。
「シロ先生、どうぞにゃう」
「ありがとうミャ」
飲んでみると緑茶みたいなほのかな苦味と渋味があって、オリーブの匂いがする。
フレッシュハーブティーは、苦味が少なくて爽やかな草の味がしたっけ。
同じ葉なのに、生と乾燥した葉は全然違う味になって面白いな。
オリーブの匂いに釣られて、猫たちが集まってくる。
「さっきの木と同じ匂いがするニャ~」
「ワタシたちにも、そのハーブティーを飲ませてニャア」
「皆さんの分もすぐに淹れますから、ちょっと待っててくださいにゃう」
キャリコは楽しそうな笑顔で、新しいハーブティーを淹れ始める。
いつもこんな感じで、みんなの為にハーブティーを作り続けているんだろうな。
「美味しい」って喜んでもらえると、嬉しいよね。
ฅ^•ω•^ฅ
オリーブのお世話はキャリコに任せて、ぼくたちは再び旅立――たない。
お疲れのグレイさんを、ゆっくりと休ませたいからね。
グレイさんにも、疲労回復効果のあるハーブティーを淹れて飲ませよう。
疲労回復効果のある植物といえば、カモミール、ロサガリカ、ロサモスカタ、ローズヒップ、栗、キクラゲ。
ローズヒップと栗は、どちらも秋にならないと手に入らない。
Rosa gallicaとRosa moschataは、どちらも原種の薔薇と呼ばれるバラらしい。
Rosaは、ラテン語で「バラ」という意味なんだって。
ローズティーは、花が咲く前のつぼみを乾燥させたものを使うそうだ。
花が咲いたら、花弁でフレッシュローズティーも出来る。
もちろん、バラの花は猫も食べられる。
ちょうど、バラも咲いていたからフレッシュローズティーも淹れよう。
キノコ類はだいたい秋が旬だけど、キクラゲの旬は春~夏。
生のキクラゲは、軽く茹でると食べられるんだって。
キノコは見分けるのが難しいから、『走査』に探してもらった。
ฅ^•ω•^ฅ
背負い籠にキクラゲとバラを入れて、グレイさんの巣穴へ向かった。
そ~っと近付いて行くと、グレイさんは巣穴の中でぐっすりお休み中だ。
起こさないように気を付けながら、巣穴の側にかまどを作って火を起こす。
キクラゲは軽く茹でて、冷ましておく。
お湯の中にバラの花弁を入れると、ふわりとバラの優雅な匂いが漂った。
すると、グレイさんの鼻がヒクヒクと動いて目を覚ました。
『良い匂いがすると思ったら、シロちゃんか』
「起こしちゃって、ごめんなさいミャ。グレイさんの為に、茹でキクラゲとローズティーを作っていたミャ」
『オレの為に、作ってくれたのか。ありがとう』
「ぼくのワガママでグレイさんをたくさん疲れさせちゃったから、そのお礼ミャ」
『シロちゃんの役に立てるなら、オレはなんだってやるぞ。これからも、いくらでも頼ってくれ』
グレイさんはガバリと起き上がって、嬉しそうな笑顔でしっぽをブンブン振り出した。
グレイさんは本当に優しくて、頼りになる。
だから、早く元気になって欲しい。
まずは、茹でキクラゲを食べてみよう。
乾燥キクラゲとは違う、ぷにぷにコリコリした食感が楽しい。
だけど、匂いも味もほとんどしない。
グレイさんもキクラゲを食べて、微妙な顔をしている。
『む? なんだこれは? 味がしないぞ? これは食べものなのか?』
たぶんキクラゲは、単体で食べるものじゃないんだ。
キノコの専門家のアグチ先生は、キクラゲを乾燥させて薬として使っていた。
乾燥させて砕いて薬として使うか、秋になったら他のキノコと一緒にキノコ汁にしよう。
続いて、フレッシュローズティーを一緒に飲んでみた。
バラの良い匂いがして、癖がなくてスッキリ飲める。
とってもリラックスする匂いで、うっとりしちゃう。
「さっきの良い匂いはこれか! ほんのり甘くて美味しいぞっ!」
グレイさんも、ローズティーを気に入ってくれたみたいで良かった。
疲労回復に効く食べものといえば、やっぱりお肉!
|Archaeotherium(ウシサイズの巨大イノシシ)に、疲労回復効果のあるビタミンB1がたくさん含まれているんだけど。
ぼくひとりで、アルケオテリウムみたいな大きな獲物は狩れない。
それに、イチモツの森でアルケオテリウムを見たことはない。
代わりに、Paramys(30~60cmくらいのネズミ)を狩ってきた。
猫になってからネズミをよく食べるようになったんだけど、パラミスは鶏肉みたいな味がするんだよ。
日本はネズミを食べる文化がないけど、東アフリカや南北アメリカ、イングランド北部、フランス南西部、ペルー、タイ、フィリピン、カンボジア、台湾、中国などでは食べるらしいよ。
パラミスはいつも生で食べているけど、今日は焼いてみようかな。
石のナイフで適当な大きさにぶつ切りにして、串焼きにしてみた。
「はい、パラミスの串焼きミャ」
『生も美味しいが、焼くとまた違う味になって美味しいな!』
「焼き鳥みたいで、美味しいミャ」
ぼくたちはパラミスを食べ終わると、一緒にお昼寝をした。
疲れている時は、たっぷり寝るに限る!




