第116話 挿し木3年種10年
イチモツの集落にも、オリーブの木を植えたい。
秋になったら、オリーブの種をもらって育ててみようかな。
『オリーブを種から育てる方法:成熟したオリーブの果実から種を取り出し、洗って乾燥させる。土に浅く植え、暖かい場所で管理する。実が成るまで、10~15年掛かる』
10~15年っ?
野生の猫は、その半分も生きられないよっ!
『オリーブを挿し木から増やす方法:オリーブの木から、枝を剪定する。水挿しで、育苗する。発根したら、土に植え替える。実が成るまで、3~5年掛かる』
挿し木でも、3~5年かぁ……。
挿し木をイチモツの集落へ持ち帰っても、実が成るところは見られないな。
お土産に、オリーブの枝を何本かもらっていこう。
でも、勝手に枝を折ったらマズいよな。
集落の長から、ちゃんと許可を取らないと。
ぼくは、ゴロニャンしている猫たちに声を掛ける。
「すみません、この集落の長は誰ですミャ?」
「クロネコのネロさんですニャン」
キジトラネコが指差した先には、全身真っ黒なクロネコがオリーブの木の下にいた。
オリーブの木にスリスリしているネロに、話し掛ける。
「こんにちは、あなたがこの集落の長のネロさんですミャ?」
「そうニャオ。あったかいお茶を飲んだら、おなか痛いのが治ったニャオ。美味しいお茶を作ってくれて、ありがとうニャオ」
「それは良かったですミャ。ひとつお願いがあるのですが、オリーブの枝を何本かいただいてもよろしいでしょうミャ?」
「オリーブの木はいっぱいありますから、好きなだけ持っていってくださいニャオ」
「本当ですミャ? ありがとうございますミャ」
ネロから許可を得たので、オリーブの剪定しよう。
『走査』から、挿し木の作り方を教えてもらった。
オリーブの挿し木は成功率が低いらしいから、多めに10本くらい作った。
これで、イチモツの集落にオリーブを植えられるぞ。
オリーブの木は、幸せを呼ぶ木と呼ばれているらしい。
オリーブの花言葉は、平和・知恵・安らぎ・邪気払い。
『走査』によれば、オリーブの挿し木は植木鉢で育てるらしい。
3ヶ月くらい経って根っこが出たら、日当たりの良い場所に植え替えるんだって。
さっそく植物の蔓を編んで、植木鉢を作ってみた。
だけど、これを持って旅をするのは無理だ。
植木鉢は軽いんだけど、土を入れたら重すぎて持ち上がらない。
一度イチモツの集落へ戻って、植木鉢を置いてきた方が良さそうだ。
ここからイチモツの集落は、ぼくの足で2週間くらい。
重い植木鉢を運ぶから、倍くらい掛かるかもしれない。
今はまだ初夏だから、一回帰ってもまた旅立てる余裕がある。
まずは、お父さんとお母さんに帰ることを伝えなきゃ。
「お父さん、お母さん、イチモツの集落へ帰るミャ」
「帰るニャー?」
「どうしてニャ?」
オリーブでゴロニャンになっていたふたりは、不思議そうな顔で首を傾げた。
ぼくはふたりに、オリーブの植木鉢を見せる。
「長から、オリーブの苗をもらったミャ。これを、イチモツの集落に植えるミャ」
「イチモツの集落でも、この匂いを嗅げるニャー?」
「そうミャ」
「嬉しいニャ!」
ふたりは植木鉢にすり寄って、うっとりしている。
挿し木を作ったばかりだから、切り口からオリーブの匂いがしている。
ぼくはゴロニャンにはならないけど、ずっと嗅いでいたいと思わせる匂いだ。
爽やかな木の香りを嗅ぐと、なんだかとっても心が安らぐ。
「きっと、みんなも喜んでくれるニャー」
「早く持って帰りましょうニャ」
お父さんとお母さんは嬉しそうに笑って、帰ろうと急かしてくる。
「だったら、長にお礼を言って帰るミャ」
「もちろんニャー」
「こんな素敵なお土産をもらったんだから、ちゃんとお礼を言わないとニャ」
ぼくたちは、集落の長のネロにお別れの挨拶をする。
「ネロさん、短い間でしたがお世話になりましたミャ。オリーブの苗までいただいてしまって、ありがとうございましたミャ。大切に育てますミャ」
「いやいや、こちらこそありがとうニャオ」
「オリーブを分けていただいて、ありがとうございましたニャー」
「どうか、皆さんもお元気でお過ごしくださいニャ」
「ありがとうニャオ。そちらも、お気を付けてお帰りくださいニャオ」
ネロはニコニコ笑うと、手を振ってお見送りしてくれた。
集落の猫たちはオリーブの木に夢中で、ゴロニャンになりながらもしっぽを振ってくれた。
こうしてぼくたちはオリーブの苗をお土産にして、イチモツの集落へ帰ることになった。
しかし、困ったことに植木鉢はとても重い。
蔓で作ったロープを結び付けて、みんなで引きずって運ぶしかない。
「うんとこしょどっこいしょ」と3匹で力を合わせて運んでいると、グレイさんが不思議そうな顔で歩み寄ってくる。
『シロちゃん、何をそんなに一生懸命引っ張っているんだ?』
「これは、オリーブの木ミャ。イチモツの集落のお土産ミャ」
『これが、猫がゴロニャンになる木か。だったら、オレに任せろ』
グレイさんはロープを咥えると、植木鉢をヒョイと持ち上げた。
ぼくたち3匹だと、引きずるのが精一杯だったのに。
「グレイさん、スゴいミャ! とっても力持ちさんミャッ!」
ぼくが褒めると、グレイさんは得意げにしっぽをブンブンと振った。
オリーブの植木鉢は、グレイさんが運んでくれることになった。
グレイさんは力持ちさんだけどやっぱり重いものは重いらしく、あまり長い時間は運べない。
グレイさんが疲れたら、すぐに休んでもらう。
ぼくのわがままで重いものを運ばせてしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
グレイさんが休憩する時に、植木鉢の土の様子を確認する。
土が乾いてきたら、たっぷりと水やりをする。
水を吸った分だけ植木鉢が重くなるから、水やりをしたら長めの休憩をとる。
こまめに休憩をとりながら、ゆっくりと少しずつイチモツの集落へ向かった。
ฅ^•ω•^ฅ
それから、1か月後。
ようやく、イチモツの集落へ帰って来た。
グレイさんは重い植木鉢を運び続けて、へとへとになってしまった。
「ここまで運んでもらえれば、充分ミャ。グレイさん、ここまで運んでくれて本当にありがとうミャ。お疲れ様でしたミャ。ゆっくり休んでミャ」
『ああ。とても疲れたから、休ませてもらう……』
グレイさんはそう言い残して、自分の巣穴へ戻って行った。
本当によく頑張って、ここまで運んでくれた。
お礼とごほうびに、あとで美味しいものをたっぷり食べさせてあげよう。
さてここからは、イチモツの集落の猫たちの手を借りよう。
「お父さん、お母さん、植木鉢を運ぶから、みんなを呼んできて欲しいミャ」
「分かったニャー」
「シロちゃんは、ここで待っててニャ」
お父さんとお母さんに頼むと、ふたりは集落へ向かって駆けて行った。
ふたりがみんなを呼びに行っている間に、ぼくはぼくでやるべきことがある。
それは、ロープを付け替えること。
今使っているロープは、グレイさんの臭いが付いている。
猫は本能的に、天敵の臭いを嫌う。
だから、ロープを付け替える必要があるんだ。
古いロープはほどいて、穴を掘って埋めた。
近くに生えている長い草を引き抜いて、新しいロープを編んでいく。
ロープを編むといっても、ただの三つ編みだけど。
出来るだけ頑丈になるように、硬く編んでいく。
途中で切れちゃったら危ないから、しっかりと結びつける。
しばらくすると、お父さんとお母さんが集落の猫たちを引き連れて戻ってきた。
「シロちゃ~ん、連れてきたニャー!」
ぼくを見ると、集落の猫たちは笑顔で「おかえりなさい」と言ってくれた。
「おかえりなさい」は、何度言われても嬉しい言葉だ。
「帰ってきた」って、実感するから。
それからぼくは事情を説明して、植木鉢を運んでもらえるように頼んだ。
「――ということで、皆さんの力を貸してくださいミャ。お願いしますミャ」
「そういうことなら、お手伝いするニャア」
「これを、引っ張ればいいのかニャ~?」
優しい猫たちは、快く引き受けてくれた。
みんなで力を合わせてロープを引っ張り、植木鉢を集落へ運びこんだ。
これで、イチモツの集落にオリーブの木を植えられるぞ。




