第112話 猫は優秀なハンター
次の集落が近付いてくると、くしゃみや咳がいくつも聞こえてくる。
ぼくは集落に入る前に立ち止まって、グレイさんにお願いする。
「グレイさんは、いつものようにここで見張りをしておいて欲しいミャ」
『ああ、もちろん。ここはオレに任せて、いってらっしゃい。くれぐれも、頑張りすぎるなよ?』
「うん、いつもありがとうミャ。いってきますミャ」
グレイさんがそこから動かなくなると、サバシロお兄さんが首を傾げる。
「グレイは、どうしたにゃ?」
「グレイさんは、猫の集落には入れませんミャ。ですが、ぼくたちが集落にいる間は、グレイさんがこの集落を守ってくれますミャ」
「そうか、グレイはおれたちを守る為にいるんだにゃ」
「そうですミャ。グレイさんは、とっても優しいトマークトゥスですミャ」
サバシロお兄さんは納得した様子で、ようやく笑顔を見せた。
これでちょっとは、グレイさんを信じてくれたかな?
集落の中に入っていくと、ぐったりとしている猫が何匹もいた。
目脂、涙、鼻水などで顔がぐちゃぐちゃだ……。
顔が痒くて掻いちゃったのか、ところどころ赤くなっている。
可哀想に思って、1匹の猫に近付いて声を掛ける。
「大丈夫ですミャ?」
「誰ですニャア?」
「ぼくはお医者さんですミャ。すぐにお薬をご用意しますミャ」
「お医者さんニャアッ? だったら、早く助けてニャアッ!」
「もちろんですミャ」
まずは、猫たちの目にアロエの汁を垂らしていく。
アロエには、抗炎症作用による痒み止め、傷を早く治す作用などがある。
続いて、ムラサキバレンギクとオオバコとヨモギとイヌハッカのブレンドハーブティーを飲ませた。
ぼくたちも感染予防に、別のお皿を用意してブレンドハーブティーを飲んだ。
感染した猫たちと同じお皿で飲んじゃうと、感染しちゃうからね。
これで、少しずつ症状は軽くなるだろう。
猫ウイルス性鼻気管炎は、どのくらいで治るの?
『約2週間以内で快復予定』
2週間以内に治るなら、良かった。
あとは必須アミノ酸を摂る為に、お肉を食べさせないと。
「お父さん、お母さん、サバシロお兄さん、狩りに行きましょうミャ」
「狩りなら任せてニャーッ!」
「皆さんの為に、美味しいお肉を狩りましょうニャ」
「おれも、腹が減ったにゃ」
「そういえばサバシロお兄さんは、狩りは得意なんですミャ?」
「きみこそ、そんな小さな体で狩りなんか出来るのかにゃ?」
サバシロお兄さんが小馬鹿にするように笑って、煽ってきた。
ぼくが小さな仔猫だからって、完全に舐め腐っているな。
だったら、仔猫のぼくでも狩りが出来るってところを見せてやる!
ฅ^•ω•^ฅ
ぼくたちが集落を出ると、草むらからグレイさんが飛び出してきた。
『シロちゃんっ!』
「ふぎゃぁぁあぁぁぁっ! 急に飛び出してくるにゃぁああぁぁ~っ!」
グレイさんを見て、サバシロお兄さんは大きく飛び跳ねた。
サバシロお兄さんはグレイさんに向かって、「やんのかステップ」で威嚇している。
グレイさんは猫の言葉は分からなくても、威嚇されていることは分かる。
『お兄さんは、何をそんなに怒っているんだ?』
「グレイさんが突然出てきたから、ビックリしたみたいミャ」
ぼくが代わりに答えると、グレイさんは照れ臭そうに笑う。
『そうか。驚かせてしまって、すまない。シロちゃんを見たら、嬉しくなってついな』
「それはそうと、これから狩りに行くんだけどグレイさんも一緒に行くミャ?」
『シロちゃんのお誘いなら、もちろん喜んで行くぞ。お兄さんも、一緒に行くのか?』
「サバシロお兄さんは、ぼくが狩りをするところが見たいんだってミャ」
『そういうことなら、オレも手伝おう』
グレイさんはにっこりと笑って、しっぽをブンブン振った。
ぼくたちは、森の中を歩き回って獲物を探した。
しばらく歩いていると、数匹のParamys(体長約30~60cmのネズミ)が何かに群がっているところを見つけた。
パラミスなら、ぼくひとりでも何度も狩ったことがある。
ぼくとお父さんとお母さんとグレイさんは、パラミスたちに気付かれないように静かに距離を詰めていく。
サバシロお兄さんは木の上に登って、ぼくたちを見下ろしている。
仔猫のぼくに狩りが出来るのか、確かめるつもりらしい。
お父さんが小さな声で、ぼくたちに指示を出す。
「合図を出したら、一斉に襲い掛かるニャー」
「一匹も逃がさないニャ」
「グレイさん、お父さんの合図と一緒に飛び出すミャ」
『ああ、分かった』
「行くニャーッ!」
ぼくたちはお父さんの合図と共に、素早くパラミスたちを取り囲む。
パラミスたちは驚いて大慌てで逃げ出そうとするけど、逃げ道は完全にふさいでいる。
ぼくたちは、あっという間にパラミスを仕留めた。
猫はこうして音もなく忍び寄って、一気に仕留める。
トマークトゥスは獲物を追いかけ回して、獲物を弱らせてから仕留めるらしい。
追いかけっこが大好きなグレイさんからしてみれば、猫の狩りはつまらないかもしれないね。
ちなみに、猫の狩りの成功率は50%
オオカミの狩りの成功率はかなり低く、10%くらいと言われている。
猫は、とっても優秀なハンターなんだよ。
まもなくサバシロお兄さんが木から下りてきて、笑顔でぼくの頭を撫でてくれた。
「ちっちゃいくせに、なかなかやるにゃ」
「ミャッ!」
どうやらサバシロお兄さんは、ぼくのことを認めてくれたようだ。
ฅ^•ω•^ฅ
ぼくたちはさっそく、とれたてのパラミスを集落へ持って帰った。
集落の猫たちはよっぽどおなかがすいていたのか、物凄い勢いでパラミスを食べてしまった。
みんな病気で、狩りも出来なかったんだね。
これで、必須アミノ酸を摂らせることが出来た。
あとはたっぷり眠れば、少しずつ病気は治るはずだ。
やることやって疲れたので、ひと休みしよう。
ぼくとお父さんとお母さんとサバシロお兄さんは、集落の端っこでねこねこだんごになってお昼寝し始めた。
しばらくすると、1匹のキジトラシロネコが近付いてきた。
「どなたか存じませんが、我々の為にいろいろしてくださいまして助かりましたニィ~。わたしはこの集落の長で、フジといいますニィ~」
「おれはお前らを救う為に来てやった、お医者さんにゃっ!」
ぼくが口を開くより先に、サバシロお兄さんがやたら偉そうな口調で応えた。
サバシロお兄さんは、何もしてないのに。
だけどまぁ、仔猫のぼくよりサバシロお兄さんが言った方が信じてもらえるか。
お父さんとお母さんは何か言いたげな顔をしていたけど、ぼくが目で合図をして黙っていてもらった。
フジは嬉しそうに、サバシロお兄さんに感謝を伝える。
「ニャンと! お医者さんでしたかニィ~ッ! わざわざ我々を救う為にお越し下さり、ありがとうございましたニィ~」
「お医者さんが、苦しんでいる猫を助けるのは当然にゃ。他に、何か困っていることはないかにゃ?」
「今のところは、特にありませんニィ~。また何かありましたら、お声掛けさせていただきますニィ~」
そう言って、フジは立ち去った。
フジがいなくなると、お父さんとお母さんがサバシロお兄さんに詰め寄る。
「さっきから、どういうつもりニャーッ? シロちゃんをイジメるなら、許さないニャーッ!」
「サバシロくんは見ていただけで、何もしていないニャ。シロちゃんの手柄だけ横取りするなんて、ズルいニャッ!」
ふたりに叱られて、サバシロお兄さんはタジタジとなる。
「おれは、何も悪いことなんてしてないにゃ!」
「やっぱり、エノコログサの集落の猫は信用ならないニャーッ!」
「私たちがついて来て、良かったニャッ!」
「シロも見てないで、おれを助けろにゃっ!」
そう言われても、お父さんとお母さんが言っていることは正しいしなぁ。
ぼくもサバシロお兄さんの態度に、ちょっとイラッときている。
かと言って、このままケンカされても困る。
この場は、ぼくが冷静になって収めないと。
ぼくはにっこりと、3匹に笑い掛ける。
「じゃあ、次からはサバシロお兄さんもお手伝いしてくださいミャ。薬草の見分け方やお薬の作り方は、ぼくが教えますミャ。お父さんもお母さんも、それでいいミャ?」
「シロちゃんが、そう言うならニャー……」
「シロちゃんは、優しすぎるニャ……」
お父さんとお母さんは渋々といった感じで、どうにか怒りを収めてくれた。
サバシロお兄さんは許されたと思ったらしく、ニンマリと笑ってぼくの頭を撫でる。
「シロは、良い子だにゃ」
サバシロお兄さんがそう言った途端、お母さんに抱きかかえられた。
お母さんはぼくを抱えたまま、サバシロお兄さんを鋭い目で睨む。
「シロちゃんが良いと言っても、私たちはまだ認めていませんニャッ!」
サバシロお兄さんがお父さんとお母さんに認められるまで、まだしばらくかかりそうだ。




