第110話 新しい仲間
サバシロを看病し続けること、1週間。
毎日ハーブティーとスープを飲ませたサバシロは、起き上がれるまで回復した。
苦しそうだった呼吸も、ずいぶん楽になったみたいで鼻呼吸に戻った。
相変わらず全然喋ってくれないけど、目やしっぽで気持ちを伝えてくる。
ゆっくりとまばたきをしたり、体をスリスリしてくれるようになった。
猫がゆっくりまばたきしたりスリスリしたりするのは、大好きの表現。
スリスリされると嬉しくて、ぼくもスリスリしちゃう。
もしかしたら、サバシロは無口な猫なのかもしれない。
猫にもお喋り好きな陽キャや、人見知りする陰キャもいる。
生まれつき、声帯に問題があって声を出せない猫もいる。
喋らないことも個性だから、認めてあげよう。
猫は生きているだけで存在価値あるから、それ以上は望まない。
猫が幸せなら、それでいい。
ฅ^•ω•^ฅ
サバシロの看病をすること、2週間。
サバシロはすっかり元気を取り戻し、お肉も食べられるようになった。
集落の猫たちにも、薬草の見分け方と使い方を教えた。
これで、心置きなく旅立てる。
この集落の長である、サビネコのトーティにお別れの挨拶をしに行く。
「長い間お世話になりまして、ありがとうございましたミャ。今日で旅立ちますミャ」
「仔猫のお医者さん、また来いナ~」
「そういえば、この集落の名前はなんという名前なんですミャ?」
「狗尾草ナ~」
エノコログサの別名は、ねこじゃらし。
このあたりには、ねこじゃらしがいっぱい生えている。
風が吹くたびに、柔らかいねこじゃらしの穂がゆらゆらと揺れる。
猫たちがねこじゃらしにじゃれて遊んでいるのが、可愛くて微笑ましい。
ねこじゃらしにじゃれる猫を見ながら、ぼくたちはエノコログサの集落を旅立った。
ฅ^•ω•^ฅ
「待ってくれにゃっ! おれも、連れてってにゃっ!」
エノコログサの集落から出たところで、息を切らせて追いかけてきたのはサバシロだった。
それを聞いて、ぼくはとてもビックリした。
「なんでですミャ?」
「おれはずっと前から、あの集落を出たいと思っていたにゃ」
そう前置きをして、サバシロは真剣な表情で語り始める。
エノコログサの集落の先代の長の灰サビは、穏やかで親しみやすい性格だった。
灰サビがいた頃は、とても平和だった。
ところが灰サビは今年の春、みんなに惜しまれながら亡くなった。
まもなく、サビネコのトーティが新しい長になった。
トーティは「強い猫が偉い」という考え方で、力でねじ伏せるタイプらしい。
それにより集落内で上下関係が出来て、強い猫が弱い猫をいじめるようになってしまった。
ギスギスした集落に嫌気が差したサバシロは、いつか集落を出ようと考えていた。
そんな時に、病気(原虫性肺炎)に罹ってしまった。
いっそのこと、このまま死のう。
そう思って集落を飛び出し、死に場所を探した。
力尽きて倒れた時、死を覚悟した。
そんな時、ぼくが現れた。
「真っ白なきみを見た時、『ついに天使がお迎えに来た』と思ったにゃ。きみが見つけてくれなかったら、死んでいたにゃ。本当に、ありがとうにゃ」
そう言って、サバシロは嬉しそうに笑った。
悲しけれど、猫の世界でもいじめは起こる。
強い猫が弱い猫のごはんを横取りしたり、威嚇したり、追いかけ回したり、噛 んだり、猫パンチしたり、仲間外れにしたりする。
ぼくもこの集落の猫たちに取り囲まれて、サバシロの為に作ったスープを横取りされそうになった。
幸い、お父さんとお母さんが守ってくれたけど。
集落にいる間もずっと、余所者として仲間外れにされていた。
そのくせ、必要な時だけすり寄って来る。
都合良く、利用されている感じがした。
集落の雰囲気は、お世辞にも良いとは言えなかった。
「――ということだから、おれも連れて行ってくれないにゃ?」
「そういうことなら、一緒に行きましょうミャ」
「いいのにゃっ?」
ぼくが笑いかけると、サバシロは嬉しそうに飛びついてきた。
「おれのことは、気軽に『兄ちゃん』とか『兄さん』とか呼んでくれにゃ!」
「じゃあこれからは、サバシロお兄さんと呼びますミャ。サバシロお兄さんの歳は、いくつですミャ?」
「1歳にゃっ!」
サバシロは、得意げに胸を張った。
ぼくより、2歳も年下じゃないか。
猫の1歳は、人間だと15歳くらい。
ぼくは3歳だから、人間だと32歳くらい。
でも、ぼくの見た目は生後3ヶ月の仔猫。
生後3ヶ月の仔猫は、人間だと5歳くらい。
仔猫扱いされるのは慣れているけど、年下の相手を「お兄さん」と呼ぶのはちょっと抵抗があるなぁ……。
ฅ^•ω•^ฅ
「サバシロお兄さんも、一緒に旅へ連れて行ってもいいミャ?」
お父さんとお母さんに尋ねると、ふたりともちょっと複雑そうな顔をした。
「サバシロくんは、あの集落の猫だからニャー」
「シロちゃんがいじめられないか、心配ニャ」
エノコログサの集落では、明らかな嫌がらせを受けた。
余所者を警戒する気持ちは、分かるけどさ。
お父さんとお母さんが守ってくれなかったら、もっと酷いいじめに遭っていたに違いない。
改めて、ふたりがついて来てくれて良かったと思う。
ふたりは、ぼくがサバシロお兄さんからいじめられないか心配なんだ。
いつも守られてばかりで、情けないなぁ。
ぼくはいつまで経っても、弱いままだ。
どうやったら、強くなれるんだろう?
お父さんとお母さんはふたりでしばらく話し合った後、頷き合う。
「サバシロくんが信用出来る猫かどうか分かるまで、お父さんたちも一緒に旅を続けるニャー」
「シロちゃんがいじめられないように、私たちが守るニャ」
「本当ミャ? ふたりとも、ありがとうミャ!」
サバシロお兄さんとグレイさんと3匹で旅をするのは正直不安だったから、ふたりがついて来てくれると助かる。
今のところ、サバシロお兄さんをどこまで信頼していいのか分からないし。
そうだ、お兄さんにグレイさんも紹介しないと。
そろそろ、グレイさんと待ち合わせしている場所に着く頃だ。
グレイさんなら、絶対喜んでくれるはず。
でも、お兄さんには心の準備が必要だ。
「これからサバシロお兄さんには、会ってもらわなきゃいけないお友達がいますミャ」
「お父さんとお母さん以外に、旅の仲間がいるのかにゃ? どんなヤツにゃ?」
「グレイさんは見た目は怖いけど、とっても優しくて強くてカッコイイミャ」
「おれも、グレイさんとお友達になれるかにゃ?」
「それは、サバシロお兄さん次第ミャ」
グレイさんがトマークトゥスだと知ったら、お兄さんはどんな反応をするかな?
ฅ^•ω•^ฅ
『会いたかったぞ! シロちゃんっ!』
「トマークトゥスにゃぁああぁぁあぁぁぁあ~っ!」
サバシロお兄さんはグレイさんを見た直後、悲鳴を上げて逃げてしまった。
うん、まぁそうなるよね。
トマークトゥスは、猫の天敵。
サバシロお兄さんの反応が正しい。
捕食対象の猫を食べないグレイさんが、例外なんだ。
例えるなら、「人間が家畜に恋愛感情を抱いて食べられない」みたいな感じだよ。
天敵のトマークトゥスと、友達になったぼくも相当おかしいんだけどね。
サバシロお兄さんを見て、グレイさんが不思議そうに首を傾げている。
『なんだ? 今のは?』
「サバシロお兄さんミャ」
『なに? シロちゃんには、お兄さんがいたのか? 初めて知ったぞ。なんで、早く教えてくれなかったんだ?』
「ぼくも、この集落で初めて会ったミャ」
『なに? どういうことだ?』
ぼくはグレイさんに、サバシロお兄さんのことを簡単に説明した。
グレイさんはぼくの話を聞いて、納得した顔で頷く。
『そうか、この集落で初めて会ったあの猫か』
「グレイさんは、サバシロお兄さんと仲良くしてくれるミャ?」
『可愛い猫なら、何匹増えても大歓迎だぞ』
「グレイさんなら、そう言うと思ったミャ」
『やはり、シロちゃんにはオレの考えはお見通しだな。これも愛の力か』
「あとはサバシロお兄さんが、グレイさんを受け入れてくれるかどうかだミャ……」
それが、一番の問題なんだよね。
この調子だと、先が思いやられるな。




