第109話 病猫食を作ろう
それからしばらくの間、ぼくたちはサバシロの病気が治るまで集落に棲むことになった。
毎日、ブレンドハーブティーを作ってみんなに振るまった。
ハーブティーは薬ではなく嗜好品なので、元気な時に飲んでも平気。
だからって、飲みすぎたらダメだけどね。
とはいえ、猫は水をあまり飲まない動物だから飲みすぎることはない。
健康な猫が1日に必要な水分量は、体重が1kgだったら約30~60mℓ
3kgだったら、約160mℓ
猫がガブガブ水を飲むようになったら、病気のサイン。
おなかの中に寄生虫がいる猫には、ニガヨモギを飲ませる。
特におなかがすいている時に飲ませると、効果的らしい。
ニガヨモギには、thujoneという神経毒が含まれる。
といっても、kg単位で食べなければ問題ない。
念の為、妊娠中や授乳中の人は食べない方が良い。
「塵も積もれば山となる」ともいうし、長期間飲み続けるのも危険。
寄生虫予防には、2週間に1回飲めばいい。
野生の猫はどんなに気を付けていても、寄生虫やノミを呑み込んでしまうから駆虫は欠かせないんだよね。
ニガヨモギは、猫の天敵であるヘビ除けとしても有効なんだって。
ニガヨモギはスゴい!
ฅ^・ω・^ฅ
ブラッシングしたりハーブティーを飲ませたりしているうちに、猫たちはあまり吐かなくなった。
吐かなくなったことは、良いことだ。
吐くと体力を使うし、喉も傷めちゃうから良くない。
サバシロの症状も、だんだんと良くなってきた。
最初の頃は、ずっと苦しそうにぐったりしていたけど、少しずつ呼吸が楽になってきたみたいで表情が和らいできた。
それでも具合が悪いのか、ほとんど1日中眠っている。
目を覚ましたら、ニガヨモギとハーブティーを飲ませている。
だけど、何も食べていないから痩せちゃっている。
飼い猫だったら消化の良いごはんを作って食べさせるんだけど、野生の猫はそうもいかないし……。
そうだ! 火を使えるんだから、病猫食が作れるじゃないかっ!
骨付き肉を柔らかくなるまでじっくり煮て、スープを作ったらどうだろう?
スープなら、食欲がなくても食べられるはず。
お肉を手に入れるには、狩りへ行かなきゃ。
日向ぼっこをしているお父さんとお母さんに、お願いする。
「お父さん、お母さん、狩りへ行きたいミャ」
「狩りニャー? もちろん行くニャー!」
「美味しいお肉を狩りに行きましょうニャ」
相変わらず狩りが大好きなお父さんは、大きく頷いてくれた。
せっかくだから、集落の見張りをしているグレイさんも狩りに誘おう。
「グレイさん、いつも見張りお疲れ様ミャ。良かったら、一緒に狩りに行かないミャ?」
『もちろん行くぞ。オレが愛するシロちゃんの誘いを、断る訳がないだろう。集落の猫たちも食べるなら、いっぱい狩らなくてはな』
グレイさんは嬉しそうな笑顔で、しっぽをブンブン振りながらついて来てくれた。
ฅ^•ω•^ฅ
ぼくたちは、Gastornis(体重約500kgの飛べない鳥)を仕留めた。
みんなで力を合わせて、ガストルニスを集落まで運んだ。
「みんな~っ、ガストルニスが捕れたミャ~!」
ぼくが声を掛けると、集落の猫たちが大喜びで駆け寄ってくる。
みんな「うみゃいうみゃい」と言いながら、美味しそうに食べてくれた。
猫が食べている姿って、可愛くてずっと見ていられるよね。
おっと、猫の食事シーンを楽しんでいる場合じゃなかった。
サバシロに、スープを作らなきゃ。
火を使う時は、出来るだけ河原でやる。
火事になっちゃったら、大変だからね。
じっくり煮込むことを考えたら、葉っぱの鍋はちょっと怖い。
煮ている間に鍋に穴が開いちゃいそうだから、木の皮で鍋を作ってみよう。
倒木から皮を剥がして、川の水に浸しておく。
木の皮を水に浸している間に、火を起こす。
河原の石を軽く洗って、火の中に入れて焼き石を作る。
大きな石だと焼くのに時間がかかるから、小さな石をたくさん焼く。
木の皮が柔らかくなったら、鍋の形に成形する。
鍋に、小さく切った鳥肉と叩き折った鳥の骨と水を入れる。
焼き石が出来たら、鍋へドボン。
焼き石が「ジューッ!」と大きな音を立てて、あっという間に水がお湯になる。
焼き石がボコボコいわなくなったら、鍋から取り出してまた火へ戻す。
石を焼いて鍋に入れるを、何度もくり返して肉を煮る。
蒸発して水が少なくなってきたら、水を足す。
そうして、肉の水煮が出来た。
じっくり煮たから、肉はホロホロ。
鳥の骨からは、良い出汁が出ている。
これなら、サバシロも食べられるかもしれない。
スープを作っていると、匂いに釣られた猫たちが集まってくる。
「いい匂いがするナ~、食べさせろナ~」
「皆さんはさっき、お肉をたくさん食べたでしょミャ」
「そっちも美味そうナ~、いいから早くそれを寄越せナ~」
「これはサバシロさんのごはんだから、ダメですミャ!」
ぼくが困っていると、お父さんとお母さんが群がってくる猫たちを止めてくれた。
「シロちゃんを困らせる悪い猫は、誰であろうと許さないニャー!」
「シロちゃんは、早く逃げてニャッ!」
「お父さん、お母さん、ありがとうミャ」
ふたりにお礼を言って、サバシロのもとへ急いだ。
ฅ^•ω•^ฅ
サバシロは、ずっと同じ場所で寝ている。
病気で体力が落ちて、動けないのかもしれない。
ぼくが近付いて行くと、サバシロが薄く目を開けた。
スープの匂いを嗅ぎ取ったのか、鼻がヒクヒクしている。
サバシロの目の前に鍋を置いて、話し掛ける。
「スープを作りましたミャ。これなら、食べられますミャ?」
サバシロは警戒しているのか、しばらくスープの匂いを嗅いでいた。
ぼくは緊張してドキドキしながら、様子を見守る。
少しして、おそるおそるスープを舐めた。
ひとくち飲んだら気に入ったらしく、美味しそうに飲んでくれた。
これで少しでも早く、元気になってくれたら良いな。
そのあと結局、全員分のスープを作ることになった。
だって、みんな「食わせろ食わせろ」ってうるさいんだもん。
美味しそうなものは、誰だって食べたくなるよね。
全員分作ろうと思ったら、大きな器が必要だ。
ということで、まずは器作りから。
石斧で倒木を、適当な長さに叩き伐る。
丸太に、石で叩いて大きな穴を開ける。
かなりざっくりだけど、水漏れしなければこれでよし。
あとは、さっきと同じようにスープを作るだけ。
ほかの猫たちは病気ではないので、ホロホロになるまで煮込む必要はない。
肉の中までしっかり火が通れば、出来上がり。
野生の猫はみんな猫舌だから、最後に少し水を足してぬるくしておいた。
「出来ましたミャ」
「やっと出来たナ~!」
ぼくの後ろで「まだかまだか」と待ちかねていた猫たちが、一斉に押し寄せてきてスープを食べ始める。
「こんな美味いもの、サバシロさんだけ食べさせるなんてズルいナ~ッ!」
「ズルいも何も、サバシロさんは病気だから消化の良いものを作っただけですミャ」
動物に理屈は通用しない。
美味しそうなものを見たら食べたくなる、それが動物の本能。
でも猫は狩猟本能があるから、おなかがいっぱいになるまでは食べない。
おなかいっぱいになると、動きが鈍くなることが分かっているから。
それに野生の猫は、捕獲した獲物を一気に全部食べない。
野生の猫は、飼い猫のように毎日ごはんが食べられるとは限らない。
狩りをしなければ食べられないし、狩りを失敗する時だってある。
だから、少し食べて残す、残ったものを食べてまた少し残す、ということをくり返すんだ。
猫は可愛いだけじゃなくて、とっても賢い動物なんだよ。




