第105話 旅の仲間探し
長い冬が終わって、春が来た。
あちこちで花が咲き始めると、なんだか嬉しくなるよね。
この世界でも、桜が咲くんだよ。
イチモツの森に生えている桜は、山桜という野生の桜。
日本で有名な染井吉野は、お父さんの大島桜とお母さんの江戸彼岸桜から産まれた観賞用の桜。
世界中で生えているソメイヨシノは、全部clone(同じ遺伝情報を持つコピー)らしい。
挿し木や接ぎ木などで、人の手で増やしたものなんだって。
ソメイヨシノは人工授粉で種を作ることも出来るけど、その種から産まれた桜はソメイヨシノとは別の品種になってしまうそうだ。
だから、クローンで増やすしかないんだって。
桜の花弁は、猫も食べられる。
だけど葉っぱや実にはamygdalinという毒が含まれるから、絶対に食べちゃダメ。
食べると青酸中毒になって、呼吸困難や痙攣などの症状が出る。
猫用シャンプーには、桜エキスが入っているものもあるけどね。
人間にとっては薬になるけど、猫には毒になる植物はたくさんあるから気を付けないと。
ฅ^・ω・^ฅ
あたたかくなってくると、旅へ出たくなる。
こんなことを思う猫は、ぼくくらいだと思う。
猫は基本的に、ずっと同じ場所に居つく動物だから。
旅へ出たくても、お父さんとお母さんはもうついて来てくれない。
お父さんとお母さんは、今年で4歳。
人間の年齢で換算すると、40歳くらい。
飼い猫の場合は、32歳くらいになる。
飼い猫よりも野良猫の方が、年を取るのが早いといわれている。
ぼくも今年の春で、3歳になった。
人間の年齢で換算すると、32歳くらい。
そんな年齢の感覚は全然なくて、ぼくの気持ち的にはまだ子どもなんだけどね。
旅へ出られるのは、きっと今年で最後だろう。
そう思うと、いっそう旅へ出たくなる。
だけど、ぼくひとりじゃ旅へ行けない。
グレイさんなら喜んでついて来てくれると思うけど、ふたり旅はちょっと寂しい。
誰か、旅についてきてくれないかなぁ?
ダメもとで、イチモツの集落に棲んでいる猫たちを誘ってみるか。
まずは、猫会議をしている猫たちに声を掛けてみる。
「すみませんミャ。誰か、ぼくと一緒に旅に出てくれる猫はいませんミャ?」
「旅ニャア? ワタシは今、仔猫を育てるのに忙しいからダメニャア」
「旅に出るつもりはないニィ。すっとここにいたいニィ」
どの猫たちも、首を横に振った。
ひと通り若い猫たちに声を掛けてみたけど、全員断られてしまった。
困った、誰も一緒に来てくれそうにない。
たぶん、もれなくグレイさんが付いて来ることを知っているからだろうな。
そうだ! キャリコはどうだろう?
ぼくの弟子になりたいって言うくらいだし、もしかしたらついて来てくれるかもしれない。
キャリコは、イヌノフグリの集落からお引っ越ししてきた猫だ。
ぼくを「シロ先生」と呼んで、慕ってくれている。
ハーブティーの作り方を教えてからは、毎日ハーブティー作りに勤しんでいる。
火の使い方も教えたから、寒い日にはホットハーブティーを作っている。
猫は水が冷たいと、水を飲まなくなっちゃうからね。
ハーブティーを飲むようになってから、病気になる猫は減ったようだ。
感染症も流行っていないし、みんな元気そうでぼくも嬉しい。
ฅ^・ω・^ฅ
ぼくが編んだ籠を背負ったキャリコは、草むらでせっせと薬草摘みをしていた。
「キャリコさん、ぼくも手伝いますミャ」
「シロ先生、ありがとうございますにゃう」
ぼくとキャリコは、籠がいっぱいになるまで薬草を集めた。
いっぱいになった籠を見て、キャリコが嬉しそうに笑う。
「これでまた、たくさんハーブティーが作れますにゃう」
キャリコは、薬草を種類ごとに仕分けしていく。
仕分けした薬草を、数本ずつ束ねて草で結ぶ。
毎日ハーブティーを作り続けているキャリコは、手慣れたものだ。
教えたばかりの頃は、薬草の見分け方もおぼつかなかったのに。
今じゃすっかり、ハーブティーの専門家だ。
ぼくも作業を手伝いながら、キャリコに話を振る。
「キャリコさん、一緒に旅へ行きませんミャ?」
キャリコは作業の手を止めて、申し訳なさそうな顔で謝ってくる。
「ごめんなさいにゃう、おことわりしますにゃう」
「どうしてミャ?」
「ボクもシロ先生みたいに、たくさんの猫たちを救うのが夢でしたにゃう」
「でしたら、ぼくと一緒に行きましょうミャ」
「ですが今はみんなに『美味しい』って喜んでもらえる、ハーブティー作りが好きなんですにゃう。だから、行けませんにゃう」
「旅に出れば、イチモツの集落には生えていないハーブもたくさんありますミャ」
「ボクはイチモツの集落が大好きなので、離れたくありませんにゃう。本当に、すみませんにゃう」
今までお医者さんを志していたキャリコは、ハーブティーの専門家というなりたい自分を見つけたようだ。
それは、とても良いことだと思う。
だけど、ぼくの最後の望みは断たれた。
「ボクはいつでも、シロ先生のご活躍を応援していますにゃう! 頑張ってくださいにゃうっ!」
「……ありがとミャ」
キャリコは明るく励ましてくれたけど、ぼくはガッカリしてしまった。
結局、グレイさんとふたりで行くしかなさそうだ。
ぼくはしょんぼりしたまま、イチモツの集落を出た。
ฅ^・ω・^ฅ
グレイさんはぼくの足音と臭いを覚えているらしく、ぼくがひとりで集落から出てくると会いに来てくれるようになった。
『シロちゃん! 会いたかったぞっ!』
「グレイさん……」
『ん? どうした? そんなにしょんぼりして。何か悲しいことでもあったか?』
「それが――」
ぼくはグレイさんに、「お父さんとお母さんが旅へ出られないこと」や「集落の猫は誰も旅へついて来てくれないこと」などを話した。
ぼくの話を聞いて、グレイさんもしょぼんと耳としっぽを垂れる。
『お父さんとお母さんとは、もう一緒に旅が出来ないのか。残念だな』
「それでもぼくは旅へ出て、苦しんでいる猫を1匹でも多く救いたいミャ」
『シロちゃんは、相変わらず優しいな。もしシロちゃんが良ければ、オレとふたりで旅をしないか? シロちゃんは、オレが絶対に守ってやるから』
「実はぼくも、グレイさんとふたりで行こうと思っていたミャ」
ぼくが頷くと、グレイさんは嬉しそうに笑顔を浮かべてしっぽをブンブンと振り出す。
『そうか! やはり愛するもの同士、考えていることは同じだなっ! それで、いつ旅立つんだっ?』
「これから、集落のみんなにお別れの挨拶をしてくるミャ。グレイさんは、ここで待っててミャ」
『分かった、待っている! シロちゃんとふたり旅、楽しみだなっ!』
「うん、ぼくも楽しみミャ!」
グレイさんは「待て」の合図をされた犬のように、その場でおすわりをした。
散歩が待ちきれない犬みたいに、そわそわしているグレイさんが可愛い。
ぼくは毛づくろいをして、グレイさんの臭いを消してから集落へ戻った。
ฅ^・ω・^ฅ
まずは、お父さんとお母さんのもとへ向かった。
「お父さん、お母さん。ぼく、グレイさんとふたりで旅へ行って来るミャ」
「ふたりで旅ニャーッ?」
「グレイさんとふたりっきりなんて、とっても心配ニャ」
何故かふたりから、めちゃくちゃ心配された。
ふたりは一緒に旅をしたことがあるから、グレイさんがどんな性格か良く知っているはず。
それなのに、何を今さら心配する必要があるんだろう?
お父さんとお母さんは険しい表情で、ぼくに向かって言う。
「グレイさんとは、一度きちんとお話ししないといけないニャー」
「シロちゃん、グレイさんのところへ連れて行ってニャ」
え? なんで?




