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ねこねここねこなお医者さん 転生して仔猫になったぼくが夢の獣医になる話  作者: 橋元 宏平


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第104話 石焼き調理法と温石

 (すご)い! 焼き石を水に入れたら、あっという間に沸騰(ふっとう)したっ!

 木の(うつわ)の中を(のぞ)き込むと、焼き石が水の中でボコボコと音を立てている。

 確かにこれなら鍋を直接火に掛けなくても、お湯が出来る。


 さて、このお湯で何を作ろうかな?

 ハーブティーを()れても良いし、キノコ汁も作れそうだ。

 集落(しゅうらく)の猫たちは、水出(みずだ)しハーブティーをいつも飲んでいる。


 そうだ、イチモツの集落の猫たちが食べたことのないキノコ汁を作ろう。

 キノコ汁は美味(おい)しくて体もあったまって栄養もあって、良いことしかない。

 ()ってきたばかりのキノコを石のナイフで切り、お湯の中へ入れる。


 最初に入れた焼き石が静かになってきたので、新しい焼き石と入れ替えた。

 また「ジューッ!」と大きな音がして、お湯がボコボコと()き出した。

 大きな音がするし熱くて怖いけど、()れれば便利だな。

 焚火(たきび)で焼き石を作っておけば、すぐお湯が沸く。

 ()めた石を火の中へ戻せば、何度でもくり返し使える。

 石焼き調理法を思い付いた人は、天才だな。


 キノコが()えると、美味しそうな匂いが辺りに(ただよ)い始める。

 匂いに()られた猫たちが、ぼくの周りに集まってきた。


「にゃんだか、とっても美味しそうな匂いがするニャァ」

「シロちゃん、何をしているニィ?」

「これは、キノコ汁ですミャ。冷めたら配りますから、もう少し待っていて下さいミャ。そうだ、焼き栗が出来ていますから、どうぞミャ」

「キノコ汁? 焼き栗?」


 猫たちは(そろ)って、不思議そうに首を(かし)げた。

 だけど食べたことがないものに、みんな興味津々(きょうみしんしん)だ。

 冷ましておいた焼き栗を半分に割って、1匹につき半分ずつ渡した。


「こうやって食べるんですミャ」


 ぼくは(つめ)で引っ()いて、栗を()いて見せる。

 外側の(かた)い皮は鬼皮(おにがわ)、内側の縞々(しましま)の皮は渋皮(しぶかわ)というらしい。

 どちらも食べると消化不良(しょうかふりょう)を起こすから、丁寧(ていねい)に剥いた。

 (くち)に入れるとほっくほくで、とても美味しい。

 みんなもぼくの真似(まね)をして、栗を剥いて食べ始めた。

 みんな「うみゃいうみゃい」と、大喜びで食べた。


 だけどすぐに食べ終わって、「もっと食べたい」とおかわりを欲しがった。

 美味しいものを、たくさん食べたい気持ちは分かるけど。

 栗はカロリーが高いから、食べすぎたらデブニャンになっちゃうぞ。

 デブニャンはそれはそれで可愛いけど、体には良くないからね。


 あとで、グレイさんにも焼き栗を食べさせてあげよう。

 栗を食べている間にキノコ汁が冷めたので、葉っぱのお皿に注ぎ分けてみんなに配った。

 キノコ汁も、「うみゃいうみゃい」と美味しそうに食べてくれた。

 みんな、喜んでくれて良かった。


 ฅ^•ω•^ฅ


 最近は、お日様(ひさま)が沈むとすっかり冷え込むようになってきた。

 焚火をしていると、あったかさを求めて猫たちが集まって来る。

 猫は寒さに弱い動物だから、あったかい場所が好き。

 猫会議(ねこかいぎ)のように、焚火を囲んでくつろいでいる。


 ぼくはずっと、火の(ばん)をしている。

 一度火を()けたら、消すまで火の側から離れてはいけない。

 それに、火の番はぼく以外出来ないからね。


 焚火であったまりながら、たくさんの焼き石を作っている。

 この焼き石は料理用じゃなくて、石焼き懐炉(カイロ)

走査(そうさ)』によると、「温石(おんじゃく)」というらしい。

 平安時代(へいあんじだい)の人々は、火やお湯であっためた石を布で包んで(ふところ)に入れて寒さをしのいでいたそうだ。

 温熱療法(おんねつりょうほう)にも、温石を使ったんだって。

 これからの時季(じき)は寒さでおなかを(ゴロゴロ)こわす(ピーちゃんになる)猫もいるから、温石でおなかをあっためるといいかもね。


 焼き石を火から取り出して火傷(やけど)をしないくらいの温度まで冷ましてから、猫たちに配った。

 最初は温石を受け取ってくれなかった猫たちも、一度触れば「あったかいニャー」と喜んでくれた。

 これで火を消しても、あったかく眠れるだろう。


 猫たちが巣穴で温石を抱きかかえて、寝静まる頃。

 火の始末(しまつ)をして、焼き栗を持ってこっそりと集落を出た。

走査(そうさ)』でグレイさんを探して、()()る。


「グレイさん!」

『おおっ、シロちゃん! 会いたかったぞっ!』

「ぼくも会いたかったミャッ!」


 グレイさんはぼくを見ると、めちゃくちゃ嬉しそうな笑顔でしっぽをブンブン振る。

 ぼくもグレイさんと抱き合って、スリスリした。

 気が済むまでスリスリしたあと、皮を剥いておいた焼き栗をグレイさんに差し出す。


「はい、グレイさんの為に作った焼き栗ミャ」

『シロちゃんがオレの為に作ってくれるものは、なんでも美味しいからな。ありがたく、いただこう』


 グレイさんは焼き栗を食べると、笑みを浮かべる。


『おおっ? なんだこれはっ? 甘くてほくほくして、とっても美味しいぞっ!』

「喜んでもらえて、良かったミャ」


 食べ終わると、すがるような目でおねだりしてくる。


『やはりこれも、おかわりはないのか?』

「これ以上食べたら、病気になっちゃうからダメミャ」

『シロちゃんは、いつも美味しいものを作ってくれるのは嬉しいが。たくさん食べられないのが、悲しいな……』


 グレイさんはブンブン振っていたしっぽを、しょんぼりと()らす。

 そんなこと言われても困る。

 ぼくだって、美味しいものはおなかいっぱい食べたい。

 いくら美味しいからって、たくさん食べたら病気になってしまう。

 グレイさんには、出来るだけ元気でいて欲しい。

 元気じゃないって、それだけで不幸だからね。


「おなかが()いているなら、狩りをしようミャ」

『いや、腹は空いていない。シロちゃんと一緒に、お散歩がしたいな』

「じゃあ、お散歩するミャ」


 ぼくたちは気を取り直して、のんびりと夜のお散歩を楽しんだ。


 ฅ^•ω•^ฅ


 冬が来る前に薬草やキノコを出来るだけ採って乾燥させたり、防寒対策(ぼうかんたいさく)を考えたりして、せっせと冬支度(ふゆじたく)をしていると。

 お父さんとお母さんが揃って、真剣な顔つきでぼくに話し掛けてくる。


「シロちゃん、大事なお話しがあるニャー」

「ミャ?」

「私たちも年を取って、そろそろ旅をするのが(つら)くなってきたニャー」

「シロちゃん、旅はもうやめましょうニャ。これからはイチモツの集落で、みんなとのんびり()らしましょうニャ」


 ふたりは優しく笑って、ぼくを前後から(はさ)んで抱き締めてくれた。

 ぼくもお母さんの胸に顔を()めて、ギュッと抱き返した。


 野生の猫の寿命は、3~4歳。

 長くても、5歳と言われている。

 お父さんとお母さんも、もうそんな年齢なんだ。

 年齢的にも体力的にも、限界なのかもしれない。


 ぼくが無茶ばかりするから、ふたりにはストレスを掛けただろう。

 ふたりの優しさに甘えて、たくさん無理をさせてしまった。

 ふたりとも、心身共(しんしんとも)に疲れ切っている。

 これ以上、ふたりを旅へ連れて行くことは出来ない。


 今まで本当にありがとう。

 苦労ばかり掛けてしまって、ごめんなさい。

 今までワガママを言った分、これからは親孝行(おやこうこう)するよ。

 だから今度は、お父さんとお母さんがぼくに甘えてね。


 集落の(おさ)の茶トラ先生も、だいぶお年だ。

 (おさ)とお医者さんの両方を(つと)めるのは、大変だろう。

 茶トラ先生にもお世話になったから、ご恩返(おんがえ)しをしないとね。


 これからはぼくが、イチモツの集落のお医者さんとしてみんなの健康を守るよ。

 ぼく自身も旅を通してさまざまなことを学び、お医者さんとして成長したと思う。

 これからはその経験を生かして、イチモツの集落の猫たちの役に立ちたい。


 ぼくを尊敬(そんけい)してくれている、お医者さんの卵のキャリコもいる。

 ぼくが、キャリコを次のお医者さんに育てなければならない。

 これからもきっと、ぼくのやるべきことがたくさんあるに違いない。


 もしかしたらこれから一生、イチモツの集落から出ないかもしれない。

 だけどある日、ふとした時に旅へ出たくなるかもしれない。

 また旅へ出たいと思うその日まで、旅はお休みしよう。

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