第103話 冬支度
旅の土産話を話し終わると、集落の猫たちから質問責めにされた。
質問にひとつずつ答えると、猫たちは感心した顔で頷いて、満足げに離れていった。
やっと終わった。
話し疲れて、喉がカラカラだ。
水飲み場へ行くと、ぼくが旅立つ前に作った木の器が置いてあった。
中には水が入っていて、茶葉の束が浸けてある。
匂いを嗅いでみると、イヌハッカのハーブティーだと分かった。
イヌハッカは、ミントの匂いと味がして美味しい。
イヌハッカのハーブティーは、抗菌作用、抗ウィルス作用、鎮静作用、抗酸化作用、整腸作用、不眠症、生活習慣病予防、風邪予防などの薬効がある。
これはたぶん、茶トラ先生とキャリコが作ってくれたものだろう。
きっとふたりが毎日、ハーブティーを作り続けてくれたに違いない。
茶トラ先生とキャリコに、お礼を言わないといけないな。
だけどそろそろ、水出しハーブティーだと冷たすぎるかもしれない。
熱湯が使えるようになったから、あったかいお茶を飲める。
ぼくが集落にいる間は、あったかいキノコ汁も作れる。
本格的に冬を迎える前に、ハーブやキノコをたくさん集めておかないと。
茶葉を作ったり干しキノコを作ったりと、やることはいっぱいある。
今のうちに、やるべきことを全部やらなきゃ。
早いうちに冬支度を終えておけば、あとが楽になる。
それにぼくたち猫は、寒くなったら動けなくなっちゃうからね。
ぼくたちは長い間、旅に出ていたからイチモツの集落で何があったのか何も知らない。
集落で何があったのか、茶トラ先生に話を聞いてみよう。
ぼくはさっそく、茶トラ先生の元へ向かった。
茶トラ先生は、いつものように石でヨモギの葉を潰して薬を作っていた。
「おや、シロちゃん、お話しは終わったのかニャ~?」
「はい、終わりましたミャ。茶トラ先生、ぼくがいない間もハーブティーを作り続けてくれて、ありがとうございましたミャ」
「いやいや、お礼を言うのはこちらの方ニャ~。シロちゃんから教えてもらったハーブティーを飲むようになってから、病気になる猫が少なくなったニャ~。おかげで、とっても助かっているニャ~。本当にありがとうニャ~」
そう言って、茶トラ先生は嬉しそうに笑った。
ハーブティーの薬効成分で、病気で苦しむ猫が減ったのか。
それは、良かった。
「シロ先生、薬草摘みへ行きましょうにゃう」
「ミャ」
キャリコに誘われて、一緒に薬草摘みをすることになった。
ぼくは薬草を探すついでに、キノコ狩りもしている。
毬栗も落ち始めたから、見つけては拾っている。
これで、キノコ汁と焼き栗が食べられるぞ。
茹で栗にしても、美味しいかもしれない。
そんなことを考えていると、キャリコが嬉しそうに話し出す。
「シロ先生が教えて下さったハーブティーを作ったら、みんな水を飲んでくれるようになりましたにゃう」
キャリコの話によると、季節の変わり目になると体調が悪くなる猫がたくさんいたそうだ。
春から夏、夏から秋になる時、気温や気圧の変化が激しくなる。
季節の気温の変化に体がついていけなくて、体調を崩す猫は多い。
それに猫は、ちょっとしたことですぐ水を飲まなくなる。
水が冷たいとか、水の味が嫌とか、容器が気に入らないとか、場所が気に入らないとか、飲みたい気分じゃないとか。
水を飲まないと、脱水症状、腎不全、下部尿路疾患(尿結石や膀胱炎)、便秘などになってしまう。
ハーブティーを作り始めたら、猫たちは喜んで水を飲むようになったらしい。
その結果、病気の猫は少なくなったという。
「特にイヌハッカが人気で、作っても作っても足りませんにゃう。みんなが飲みたがるから、イヌハッカのハーブティーばっかり作っていますにゃう」
キャリコは困ったように、苦笑いした。
話しながら慣れた手付きで薬草を摘み、細長い葉で薬草の束を作っている。
腰に巻いた腰紐に、薬草の束を結び付けていく。
キャリコがだんだんと、腰蓑を穿いた猫になっていく。
それはそれで可愛いけど、そのやり方だと時間と手間が掛かる。
そうだ、キャリコにも背負い籠を作ってあげよう。
この辺りにも、サルナシの木が生えている。
アグチ先生からもらった籠を参考にして、見よう見まねで籠を編んでみよう。
まずは、太めの蔓を縦2本、横2本で十字になるように重ねる。
次に、細めの蔓を横糸にして、縦糸にぐるぐる巻き付けるように編み込んでいく。
う~ん、なかなか難しいな。
どうにかそれっぽい籠は出来たけど、デコボコした不格好な形なってしまった。
初めてだから、こんなものか。
たくさん練習して、アグチ先生みたいに綺麗な形の籠が編めるようになりたい。
「キャリコさん、もし良かったらこの籠を使って下さいミャ。ぼくが作ったので見た目は悪いですけど、たくさん薬草が入るはずですミャ」
「シロ先生が作ってくれたのですにゃうっ? ありがとうございますにゃうっ!」
キャリコは大喜びで、籠を受け取ってくれた。
こんなに喜んでくれるなら、次はもっと綺麗な籠を作ってあげたいな。
旅の間は4匹しかいなかったから、葉っぱで作った鍋で間に合ったけど。
イチモツの集落には、30匹くらいの猫がいる。
キノコ汁やハーブティーを作ろうとしたら、大きな鍋が必要となる。
やっぱり、鍋用の土器を作った方がいいのかな?
土器はどうやって作ればいいのか、教えて『走査』
『縄文式土器の作り方:①粘土層から粘土を採取する』
『②採取した粘土に、土、砂、有機物などを混ぜ、3日ほど寝かせてなじませる』
『③②で、土器の底を作る』
『④②で幅1~2cm、長さ15~20cmの紐を10~15本作る』
『⑤③で作った底の上に、④の粘土紐を輪にして積み重ね、土器の形にしていく』
『⑥粘土紐の繋ぎ目を埋めるように、粘土を慣らしながら形を整える』
『⑦日陰に1ヶ月程度置き、乾燥させる』
『野焼き:⑧地面の上に薪を敷き詰め、⑦を置く』
『⑨⑧を覆い隠すように、枯れ葉や枯れ草をかぶせる。薪を重ね、灰をかぶせる』
『⑩⑨に火を着けて2時間ほど焼き、荒熱が取れるまでそのまま放置すれば、完成』
土器を作るって、そんなに大変なのっ?
作ってみたい気持ちはあるけど、めちゃくちゃ難しそう。
陰干ししている間に、猫たちがイタズラしそうだから無理かな。
別の手を考えてみるか。
『火で良く焼いた石を水を入れた鍋に入れれば、鍋を直接火に掛けなくても調理可能』
焼いた石を入れる?
そんな方法は、思い付かなかったな。
なるほど、それならすぐ出来そう。
試しに、焼き石でお湯を作ってみよう。
河原でぼくの手くらいの大きさの石を5つ拾って、川の水で綺麗に洗う。
薪を平たく敷き詰めて、その上に石を置いて、さらにその上に薪を組む。
枯れ葉や枯れ草をかぶせて、火を着ける。
それで、石はどのくらい焼けばいいの?
『石が赤くなるまで、30~1時間ほど焼く』
石を焼くって、そんなに掛かるんだ?
焼いている間に、木の器が作ろう。
ついでに、焼き栗も作っちゃおう。
石のナイフで栗に切れ目を入れて、毬栗ごと焚火に放り込むだけで出来る。
切れ目を入れておかないと、栗の中に含まれる水分が中で沸騰して爆発するんだって。
焼き石と焼き栗の様子を見ながら、石のナイフで木を彫って器を作る。
木の器を作る時に出た木屑も、燃料として火に入れる。
美味しそうな匂いがしてきたところで、焼き栗を取り出して冷ます。
大きな木の器が出来たら、川の水で綺麗に洗って水を入れておく。
かなり時間は掛かったけど、ようやく焼き石が出来た。
少し赤くなった焼き石を、木の棒で挟んで取り出す。
軽く灰を落とした後、木の器に放り込む。
「ジューッ!」という大きな音と共に大量の湯気が立ち昇って、あっという間に水が沸騰した。
物凄い迫力で、ぼくも周りにいた猫たちもみんなビックリして跳び上がった。




