第102話 冬の訪れ
猫は、キウイフルーツを食べると酔っぱらうという説がある。
キウイには、マタタビと同じ成分が含まれているらしい。
特に、葉や枝を嗅いだり噛んだりするとゴロニャンになるそうだ。
お父さんとお母さんは、マタタビやイヌハッカの匂いを嗅ぐとゴロニャンになる。
残念ながら、ぼくは仔猫だからか効かないんだけどね。
ふたりのゴロニャンが見たくて、サルナシの葉と蔓と実を持って帰ってきた。
「ただいまミャ。みんなに、お土産を持ってきたから食べてミャ」
「シロちゃん、ありがとうニャー」
「とっても良い匂いがして、美味しいニャ」
『おぉっ、なんだこれはっ? とっても甘くて美味しいぞっ!』
3匹とも、美味しそうにサルナシの実を食べている。
みんな、喜んでくれて良かった。
ぼくもひとつ食べてみよう。
石のナイフで半分に切ってみると、本当にキウイフルーツそっくりだ。
真ん中は白く、周りは綺麗なエメラルドグリーン。
白い部分の周りには、黒いつぶつぶが付いている。
口に入れてみると、爽やかな果物の匂いが口いっぱいに広がった。
ちょっと酸っぱいけど、嫌な酸っぱさじゃない。
甘さは感じられないけど、ジューシーで美味しい。
久し振りに、果物を食べられて嬉しい。
人間の頃に食べた、キウイフルーツの味に似ている気がする。
だけど、食べ過ぎは良くない。
犬猫に果物を与える時は、おやつ程度にちょっとだけ。
お父さんとお母さんには、3個ずつ。
グレイさんは体が大きいから、5個。
ぼくは仔猫だから、1個だけ。
みんな「もっと食べたい」とおねだりしてくるけど、これ以上はダメ。
お父さんとお母さんには、代わりに葉っぱと蔓をあげてみた。
ふたりは少し匂いを嗅いだ後、興味なさそうに毛づくろいし始めた。
あれ? なんで?
マタタビ科の植物なのに、ゴロニャンにならないの?
『概要:マタタビには、猫を強力に誘起する活性物質「ネペタラクトール」が含まれる。サルナシには、含まれない』
なんだ、サルナシにはゴロニャンしないのか……。
ฅ^•ω•^ฅ
秋が深まり、冬が近付いてきていると肌で感じる。
最近、お日様が出ていても暑さを感じなくなった。
強い風が吹くと、肌寒く感じるくらいだ。
急いだおかげで、冬が来る前にイチモツの集落へ辿り着けそうだ。
グレイさんは集落に入れないので、集落より少し前でお別れをする。
イチモツの集落へ帰ってこれたことは嬉しいけれど、グレイさんとは離れなくちゃいけないことが寂しい。
ぼくは笑顔でグレイさんに抱き着いて、体をスリスリとこすり付ける。
「グレイさん、ずっとぼくたちを守ってくれてありがとうミャ」
『愛するシロちゃんを守ることは、当然のことだ。もちろん、お父さんとお母さんもな。こちらこそ、一緒に旅が出来て楽しかった。ありがとう』
「ぼくもグレイさんと旅が出来て、とっても楽しかったミャ。集落に戻ってきても、また一緒に遊ぼうミャ」
『ああ、オレはいつでも集落の近くにいる。何かあれば、いつでも来てくれ』
「もちろんミャ」
グレイさんは名残惜しそうに、ぼくを強く抱き締めた。
いつもよりもたくさん、ペロペロ舐められまくった。
グレイさんの側にいられるのは、旅をしている間だけ。
集落へ戻ってきたら、グレイさんの側にいられなくなる。
ちょっとだけ寂しくなるけれど、お別れじゃない。
グレイさんは、会おうと思えばいつでも会える距離にいる。
「またミャ、グレイさん」
『またな、シロちゃん。愛しているぞ』
離れがたいと思いながらも、ぼくはグレイさんから背を向けて歩き出す。
振り返ると、グレイさんは寂しそうな顔でいつまでもぼくを見つめていた。
ฅ^•ω•^ฅ
ぼくたちは毛づくろいと日向ぼっこをして、グレイさんの臭いを消してからイチモツの集落の中へ入る。
帰ってきたぼくたちを見て、集落の猫たちが騒ぎ始める。
「ニャニャッ? シロちゃんニャンッ!」
「ホントニィ! シロちゃんが帰ってきたニィッ!」
「おかえりなさいニャア、シロちゃんっ!」
集落の猫たちはぼくたちを取り囲んで、「おかえりニャー」と笑顔で迎えてくれた。
顔馴染みの猫たちに「おかえり」って言ってもらえると、嬉しくて胸がぽかぽかあったかくなる。
「おかえり」は、何度言われても嬉しい言葉だよね。
ぼくはみんなに向かって、大声で「ただいま」と言った。
お迎えの輪の中には、茶トラ先生と助手のキャリコもいた。
「おかえりニャ~。シロちゃんが無事で帰ってきてくれて、嬉しいニャ~」
「シロ先生、おかえりなさいにゃう。ご無事で、何よりですにゃう」
茶トラ先生は、ぼくを抱き締めて頭を撫で撫でしてくれた。
しばらく会わないうちに、なんだかちょっと老け込んだ気がする。
ぼくがいない間に、何かあったのかもしれない。
茶トラ先生から、詳しく話を聞きたい。
ぼくも茶トラ先生に話したい土産話が、いっぱいあるんだ。
今はとりあえず、イチモツの集落へ無事に帰ってこられたことを喜び合おう。
イチモツの集落の猫たちは、旅の話を聞きたがった。
猫は縄張り意識が強いから、何か特別な事情がない限り生まれて死ぬまで縄張りから出ない。
だけど好奇心旺盛だから、外の世界に興味津々なんだ。
ぼくは、旅の間に起こった出来事をひとつずつ語った。
今回の目的は、洪水被害を確認することだった。
高台にあるイヌノフグリの集落は、洪水の被害を受けていなかった。
シロツメクサの集落は平地なので、大雨で水浸しになっていた。
集落の猫たちは、崖に掘った横穴へ避難していたので全員無事だった。
コメツブツメクサの集落の猫たちが、どうなったかは分からない。
全員生き延びてくれていることを、願うばかりだ。
ナズナの集落では土砂崩れが起きて、猫たちが巻き込まれる事故が起きていた。
土砂崩れの原因は、ぼくが粘土層を掘り出してしまったからだと思う。
集落の長はぼくのせいじゃないと慰めてくれたけど、申し訳ない気持ちと悲しみで胸がとても痛い。
ノアザミの集落では、洪水から逃げ遅れたお年寄りの猫たちが亡くなっていた。
現在は、若い猫が新しい長を務めている。
ノアザミの集落の猫たちは、細菌性食中毒で苦しんでいた。
腐った肉を食べて、おなかをこわしてしまったらしい。
食中毒に似た症状で、炎症性腸疾患に罹っていた猫がいた。
クロトビさんは、今も闘病生活を続けているのだろう。
ノアザミの集落を後にして北の端っこを見に行こうとしたら、お父さんとお母さんとグレイさんに止められた。
前回の旅で、Argentavis(巨大な鷹)に連れ去られたからだ。
3匹が許してくれなかったので、森から出ずに西へ方向転換した。
双子泉の集落では大雨で水浸しになったものの、洪水被害はなかった。
そこで、三角関係のAbyssinianの猫たちと出会った。
レッドとブルーは、魔性のメス猫フォーンを取り合って喧嘩をしていた。
結局、フォーンがどちらを選んだのか分からなかったな。
秋の訪れを感じたぼくは、早くイチモツの集落へ帰ろうとしたんだけど。
ぼくたち全員、マダニ感染症に罹っていた。
それからマダニ感染症で、1ヶ月くらい動けなくなってしまった。
病気が治った後は、ひたすらイチモツの集落を目指して、走り続けた。
こうして振り返ってみると、今回の旅は辛いことの連続だったな。
しばらくは、イチモツの集落でゆっくりと心と体を休めたい。
春が来るまで、旅はお休みだ。
【kiwifruitとは】
野生種の猿梨の仲間で、鬼木天蓼を品種改良した果物。
ジューシーで香り高く、甘酸っぱくて美味しい。
日本で売られている輸入キウイの9割は、ニュージーランド産。
キウイフルーツには、猫を引き寄せる|Nepetalactolがちょっとしか含まれない。
「ネペタラクトール」は、キウイの根の部分に多く含まれる。
この為、猫がキウイの根を掘り起こして噛んでしまう。
キウイ農家では、「猫害」と呼ばれている。




