77話:無様
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皆さんのお陰です!
【サークル・ザンバー】のコックピットに乗り込み、待機モードから戦闘モードへと切り替えた。機体の四肢に流れる循環液がエネルギーを伝え、機動に要求されるエネルギーが十全に行き渡った。
膝立ちの状態から立ち上がり、周囲を見渡す。
誘導された庭部分は、周囲を覆うように植林で囲まれており、視界は遮られている。
背が低い小型機である【サークル・ザンバー】では周囲を俯瞰することは出来ないな。
上を取らせてもらうか──
テオドール卿が手を振って退避していった。行動が早い。
彼が退避しきったのを確認し、【サークル・ザンバー】の膝を屈めた。
シャードブースター起動。エネルギー噴射と共に、勢いよく地面を蹴って跳躍。
【グラスホッパー】ほどではないが、軽量で出力の大きい【サークル・ザンバー】は高い跳躍力を示してくれた。
青い月が照らす静かな夜の湖湾に、ふわりと機体を浮かばせた。
会場を大きく飛び越え、軽く周囲を見渡す。
着地点を確認しつつ、倉庫を囲むように敵機の姿が──
姿が──
会場正面を埋め尽くすように──【バグベア】が──
すげぇうじゃうじゃ居た。
え?
ざっくり50機近く居るんだけど?
ちょ、ちょっと待って! 多すぎじゃない???
方針変更! いくら弱兵とは言え、あそこに飛び込むのはマズイ!
混乱のまま、空中でシャードブースターを制動。着地点を会場上へと変更した。
着地により、衝撃と機体重量により、少し屋根が陥没する。
【サークル・ザンバー】の軽さで崩れるということは相当脆い。
建物の利用は危険だ。要塞街の常識で戦えそうもない。
しかしなんだあの光景は。つい、あまりの数に動揺してしまった。
再度、状況把握しなければならない。
ちょうど会場の屋根という高所を確保出来た。周りを見渡して──
呆然とした。
正門側──入口付近の50機程の集団は見えないが、ここから見える機体が更に40機程度。
湾岸側──複数の船上と上陸中の機体が、50機以上が上陸を試みている。
リング──前後から接近しているのが、10機ごとに固まっている集団が前後6箇所くらい点在。
内壁側──リングの側面から無理やり湖を渡り侵入してきているのが5集団くらい。
俺の目視による非常に大雑把な計算ですら、最低250機くらいは見えるんだけど???
ダメだ。どうやら俺は会場で渡された酒で酔っ払っているらしい。
どう考えても幻覚だろ。混乱している。落ち着け。お前は酔っ払いだ。
深呼吸。冷静になれ。
──慎重に、再度確認──
いや、やっぱり居るなぁ! 見間違いじゃない! 幻覚であってほしかった!
こんなグダグダな襲撃に動員する物量じゃねぇだろ!
無駄過ぎて吐き気がしてきた。
【バグベア】は恐ろしく弱い機体だとは言え、シャードジェネレータを搭載している立派なAGだ。
超量産型機とは言え、見ただけでも250機。
これだけの機体が"防衛"ではなく"内戦"のために生産されている事実に目眩がしてくる。
シャードジェネレータ250基、要塞街のセクター5つ分にもなるであろう莫大なエネルギーと資金がこの襲撃に投入されていることになる。
これだけの数居たら【ケンタウロス】を50機くらいは揃えられるじゃねえかよ!
バ、バカじゃねえの~!?
*
「我らウゾーとムゾー兄弟! 20機を連れて見参!」
「ウゴーノシュウ商会! 50機集めてきましたぜ!」
「ヨセアツメ組合! 80機連れて参りましたぞ!」
「おお! イキアタ議員、リバッタリ議員! 駆けつけてくれましたか!!」
「我々の意見が無視されるなど言語道断! 合計で100機の動員に成功したぞ!」
「そして熟練の傭兵達──どうやらこの襲撃は成功したも同然ですな──!」
「「「「はははははは!」」」」
*
俺がなんか動揺していたら、あちらさんから声がかかってきた。
登ってくるものは居ないし、射撃攻撃をしてくるやつも居ない。
まぁ、【バグベア】の手持ち火器で鎧機にあの位置から有効な攻撃はないので、したくても出来ないというのが実情だろうが──
「そこの要塞街の騎士よ! 我々は総議長ミードと"王殺し"の英雄を確保すればそれで良いのだ! 邪魔はしないでもらおう!」
あたまいたくなってきたな。
どうするかな。名乗るの嫌だな。
でもこのまま放置するのも、下に迷惑掛かりそうだな。
引きつけよう。機動力から考えれば逃げ回りゃ追いつけないだろう。
演技を維持しつつ──
煽るか。
その"王殺し"の英雄が、わざわざ出向いてあげたのよ。光栄に思いなさい凡夫ども。
ひしめき合う姿は滑稽で無様で気持ち悪いわ。パーティの余興としては最悪よ。
しかも鉄くずに劣るガラクタだけじゃない。品も無いの? 恥を知りなさい。
"ゴミ処理"を押し付けられた気持ちを考えて欲しいわ、ほんと迷惑。
ここからすぐに消えたら許してあげる。頭の悪い愚図は嫌いよ。
煽ってみた。
戦場から一瞬、音が消えた。
そして、俺から見える範囲の【バグベア】どもの殺意が、俺へと集中した。
予想通り、"堪え性"は無いらしい。思慮がなさすぎる。
「ッ! あの騎士を痛みつけてやれ!!」
てへぺろ☆
沸点低すぎ~! ざーこざーこ☆
じゃ、やりますかー!
*
屋根の上で戦うのは現実的ではない。
会場の屋根から【サークル・ザンバー】を疾駆させる。
屋根を少し破壊しながら、ステップするように屋根から落ちていく。
煽った入口付近の数十機は屋根に登っていなかった。
いや、【バグベア】はあまりにも雑な出力をしているから、ただ単に登れなかったかもしれない。
だが、会場の両横に回ってきておりこちらを囲むように行動してきている。
右腕の戦輪投擲機を起動。【サークル・ザンバー】には光輪を直接叩きつけるか、これを投擲する以外の武装は持っていない。
足にちょっとだけ仕掛けはあったが、それ以外は極めてシンプルな武装構成である。
割り切りが良すぎる。ちょっと正気とは思えない。二基構成機は特化機が多すぎる。
さて、使い勝手の把握も兼ねて離れているやつを狙う。
まずは一機ぶっ潰そう。全ての話はそれからだ。
機体を制動させ、腕をまっすぐ相手に向け、射出。
撃ち出した反動は弱く、パシュという音と共に高速で投射された。
イメージより遥かに速度が早い。回転する光輪は加速し、一番手前の【バグベア】を引き裂いた。
そして、そのまま奥に居た数機の間を容易く貫通。まとめて薙ぎ払った。
限界まで投射された光輪が止まり、戦輪投擲機のワイヤーが自動で巻き取られていった。
きゃりきゃりきゃりと戻ってきた光輪を受け止め、再装填される。
やばい。戦輪投擲機のイメージが想定と違いすぎる。
思ったより遥かに攻撃力が高い。そして射出時と速度と最大射程の感覚が全く掴みとれていない。
使い熟せるかな。全然自信無いぞ。
こちらの先制攻撃に遅れて【バグベア】たちが射撃を繰り出してきた。
大量の銃弾が飛び込んでくるが、こちとら小型とは言えシャードジェネレータ二基構成の騎士機だ。
コアフィールドで守られた堅牢な装甲は、歩兵用装備の威力程度では足止めにすらならない。
あれだけ数がいて射撃の圧が弱い。本当に悲しいくらい弱いな【バグベア】。
これで居て【ハッチポッチ】とあんまり値段が変わらないらしい。マジで無駄なAGだよ。
さすがに歩兵用の砲弾がたまに混ざっているため、それを足さばきだけで避け、二射目を投射。
使えるタイミングで早い内に感覚を掴んでおきたい。ちょっと撃ち合いしてよう。
十射くらいすれば感覚掴めるかな──?
流石にそこまで射撃戦に付き合ってくれるとは思えないが──まあ数を減らしながら慣らしをしていこう。幸いどれだけ火力が高くても【バグベア】のコックピットの硬さなら中まで貫通しないだろう。
切り刻んで動けない状態になった邪魔な機体は湖にぶち込んで、足場を確保。
こいつらは水に浮かぶ密度をしているからな。水没はしないだろう。
挟み撃ちにならないように周囲警戒つつ、近づかせないように注意しつつ射撃戦を継続させた。
結論から言うと──
50機くらい見えた機体をほぼ殲滅出来てしまった。
弱っ。




