76話:賞杯
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俺は混乱の極みに居た。
襲撃者とパーティ参加者が楽しくドンパチしてるのを眺めて、たまに飛んでくる弾を避けるか工具で弾きつつ、俺はテオドール卿に話しかけに行った。
──テオドール卿、なんだかあちらさんの狙いは俺らしいんだけど、理由分かります?
「ヴァレリア卿、口調に素が出ているよ。気をつけないとね」
おおっと。忘れていた。ロールプレイ中だったな。
いやでもこんな状況になっているのならば、もう別に良くない?
「さて、事情を説明したいところだけど──
まずは、【サークル・ザンバー】へ搭乗したほうが良さそうだね。庭まで行こうか」
お、そうだな。あまりにも展開が謎すぎて完全に置いてけぼりになっていたところだった。
常識的に考えてAGが出ているのならば、こちらも鎧機を持ち出すべきだ。
「僕の護衛はアルマ君とヒルダ君に引き継いで貰う。だから安心して暴れてくれていいよ。
ふたりとも見事な実力を示してくれた。僕としては彼女たちで充分だ」
「はーい。散弾じゃなければ弾けそうだし、先生は鎧機乗っちゃって暴れて~」
「敵機のマシンガン回収する暇ありましたし、残弾は問題ありません。遠慮なく行ってください」
二人から力強い言葉を聞けた。ふたりとも成長したな。
アルマは完全に趣味に走っているが、正面の敵を叩いてくれるならそれでいいや。
「そもそも、襲撃側には招待客を害する気概は無いよ。
窓口を自分たちの都合で差し替える愚行をしているのに、他国に喧嘩を売る度胸なんてあるわけがない」
テオドール卿は襲撃者たちを辛辣に評価しながら戦いなど無縁とばかりに優雅に歩みを進めた。
俺は、その隣で歩調を合わせながら庭へと向かった。
【エスクワイア】の姿と、あの全体的に白い美少女が乗ってきた機体の姿はない。
「セドリック卿と海賊略奪同盟のセレネ姫と共連れは既に動いているようだね。行動が早くて何よりだ」
セドリックさぁ。俺に一声掛けてくれるくらいはしてくれてもいいんじゃねぇかなぁ。
そんなんじゃモテないぞ。
ま、行動が早いことは良いことだ。
事前にある程度の状況が通達されていたらしいし、ミードが指揮を初めたあたりで行動を開始していたのだろう。タコ野郎は逃げたんかな。銃撃戦に参加してなかったが──
さて、状況を知りたいのだけど。
「そうだね、まずはこの農業協働連合の政治状況は大体知っているかな?」
だいたいは把握しているが、外交官であるテオドール卿ほどでは無いな。
このあたりで齟齬があるとマズイが、要点を聞きたい。
「総議長という立場に関しては把握しているかい?」
それなら大丈夫だ。
農業協働連合の伝統的な"置物"だろう?
「そう、コロコロと政治情勢が変わる農業協働連合の変化が少ない頭であり、窓口だよ」
テオドール卿は俺の回答に満足し、朗らかに笑った。
総議長。その役割は"対外的"には農業協働連合の支配者とされている。
政治的に不安定な時期が多い農業協働連合は、連合内でのパワーバランスが本当にコロコロと切り替わる。
しかし、そのような状況が続くことが良い意味合いを持つことはまず無い。
その隙に乗じて要塞街や海賊略奪同盟を筆頭として、他勢力に狙われるリスクを常に負っていることになる。
これを問題視した過去の農業協働連合のお偉方は、どれだけ政治情勢が荒れようとも"頭だけは変えない"ようにする結論にいつしか至ったのだった。
極めて無能で、自分では何も決められない頭を設置する。
その方針で行えばいくら下でコロコロとパワーバランスが変わろうとも、その時々の”頭”は常に同じものが掲げられていることになる。
そして、考える必要が無いのであれば──
議長席に座っているのは別に”猫”でも適当に置いておけば良い。
その意図で、主星より伝来した誰かのペットの猫が、初代総議長として就任した記録が残っている。
それが寿命で亡くなった以降、歴代の総議長は猫に似た芸術や音楽好きの享楽的な種族である猫人が主に就任していくこととなっているはずだ。
現在は外交の窓口としても使用されているため本当に無能なものが就任することはほぼ無いが、"お飾り"としての役割に徹することになっている。
「前回の内乱には問題があってね。語りたがらないが傭兵まで動員した"やんちゃ"があったらしいくてね。今回の総議長であるミード氏は、いわば先の内乱の”後始末”係として抜擢されたのさ」
ああ、傭兵まで動員した掟破りだったのか。
【バグベア】程度ではない戦力の殴り合いだと、被害と遺恨が残っちゃっただろうな。
「そして、非常に残念なことに──ミード氏は優秀だったんだよ」
あー。そりゃあ問題だ。
後始末係として抜擢されるレベルに優秀で、成果も出して、そして──
「既存の仕組みに問題があると判断されて、困って反発した保守的な勢力が今あそこで襲撃している者たちだね」
ふーん。なるほど。襲撃者の正体は分かった。
で? それが俺と、何の関係があるんだ?
「そして、ミード氏は最後に今回の防衛戦の総指揮を取られることになったのだけど──」
テオドール卿は一瞬言葉を止めて、言った。
「農場の一つ二つを失う想定だったものが、完璧に防御に成功してしまってね。
それどころか、ゴブリンの王の討伐を成し遂げてしまった所為でね──」
ふーん。
はーん???
「ゴブリン王を単独討伐出来るほどの英雄を、誘致出来る程の外交力を有すると判断されちゃったのさ。だから総議長の席から降りられなくなったらしいよ」
ゴブリン王を、単独で、討伐に、成功した────
えー。なんだよそれ。
この襲撃、俺の所為なんか??
「いや、半分程度はパフォーマンスだよ。
襲撃そのものが成功することで、実権は握って無いと連合内へと示すことが目的さ。
だから敵も味方も全員本気じゃないよ」
あー。だからこんなダラケた戦いをやってるんだな。もう半分くらいスポーツ感覚じゃねぇか。
でもなんで俺が狙われるんだよ!
「でも、ゴブリン王を討伐した君を確保出来たら、連合内に実力を示せる。
だから君はそういった意味でトロフィーと扱いされているようなものだね。酷いものだ」
テオドール卿は苦笑いをしていた。
そんなこと言われても困るなあ!
「ま、これらの物言いは完全に要塞街を舐めた行動と発言だ。
我々はこれらを看過出来ない。だから、"めちゃくちゃに暴れ回って良い"許可は取ってきたよ」
テオドール卿は爽やかな笑み浮かべながら、意地の悪いウィンクをした。
うん。振り回されてばっかりの人だと思っていたが──
この人、やっぱりスナイパーネキの旦那だわ。
「当家の【サークル・ザンバー】。多少壊しても良いから、うまく使って見せてくれ」
はー。仕方がない。やってやるよ。
おいこら襲撃者ども。
トロフィーが欲しいなら俺を倒してみろってんだ!!!




