73話:動揺
投稿遅れました。風邪引いてダウンしてました。大変申し訳ない。
輸送船のハンガー内で【サークル・ザンバー】の調整を少しさせて貰っていたら、すぐに湖上都市の外縁部へと到着した。
輸送船はリング状の波止場に停泊し、巨大で複雑で芸術的な外観をした中心部分から切り離された場所に降ろされることとなった。
あの内壁部分は混沌とした農業協働連合の政治と金と学問と芸術の中枢だ。
観光には結構面白いが、好き好んで関わりたいわけではない。
なので、この手のパーティ会場は湖上都市の外縁部にて行われる。
防衛上の観点だったか襲撃対策だか外交の理由だったか、理由は忘れたがそんなところ。
まぁ交通の便は非常に良くないから、ささっと入ってぱぱっと帰るにはちょうどいい位置だ。
俺なんかが代理で出席するレベルの内容なら、重要度はかなり低い。
その程度のパーティと気軽に考えて、テオドール卿にすべて任せて"見栄を張る"だけに留めよう。
ということで、【サークル・ザンバー】をパーティ会場へと搬入する作業に移行した。
テオドール卿にはアルマとヒルダが付いているということで問題はないだろう。
一応俺も外征騎士扱いだ。その許可を得て鎧機をさんざんブン回した経緯もある。
だから、要塞街の威光を示すメンバーとして参加するのは、やぶさかではない。
そう思っている間にセドリックが【エスクワイア】から通信をしてきた。
接触距離での通話だ。秘密の会話だな。
「いくぞバカガラス。機体置き場とか聞いてないだろう」
セドリックは【サークル・ザンバー】の誘導役を買って出てくれた。
エスコートありがとさん。実際覚えてないから助かるよ。
あと気を付けろよセドリック。今のワタクシはヴァレリア卿ですわよ? おほほほ。
「ああそういえばそうだったか。ヴァレリアン卿の"妹"君扱いだったか。気をつける。
しかしなんだその口調。気持ち悪いな」
うんそうだな。やべぇな口調どうしようかな。演技思い浮かばねぇ。
騎士サマの親戚っぽいゲキカワ超絶美少女令嬢モドキの口調をなんとか作り上げなきゃならん。
「ちょっと抑え気味にして、その、そのままでいいんじゃないか。
ヴァレリアン卿の妹君だろ。そして、外征騎士に任命されている実力者だ。
外見はともかく──多少粗くてもおかしくはないぞ」
少し、しどろもどろになりながらセドリックは答えた。
なんとなく、本当になんとなく俺はセドリックを煽った。
え~☆それにしてはちょっと可愛すぎない~?
セドリックさー。今日のワタシめっちゃ可愛かったと思わん???
お前さんの評価を聞きたいんだが、どう思うよ?
また嫁にしたいとか言えるラインにはなったかなぁ~~♡
俺は、ちょっとぶりっ子じみた声で悪ふざけをしてみた。
すると。
ガンッッッッ。
かなり強烈な殴打音が通信先から聞こえてきた。
そこから低い声でセドリックが言った。
「──────マジでふざけんなよ。キレるぞ」
えっ。何?
すげぇマジトーンじゃん。
よくわからないけどふざけすぎたっぽいね?
すまんごめんわるかったよ。なんでもするから機嫌直せ?
「いいんだよ! これは僕の問題なんだから! お前は好き勝手してろバカガラス!」
やけに怒りっぽかったセドリックは、俺との通信を一方的に切った。
なんなの??
*
そのまま無言でセドリックの後ろに付きつつ、都市の誘導員に指示されつつ移動した。
数分にも満たない間の操作感覚だが──
【サークル・ザンバー】は意外と悪くないな。
なんというかすべての挙動がスルスルと軽やかに動く。
ぎこちなさとは無縁の四肢の滑らかさがあり、スマートで無音の制動をしてくれる。
武装は"アレ"だが機体そのもののセッティングは極めて真っ当で洗練されている。
騎士機の調整にスナイパーネキが関われたかどうかは不明だが、彼女好みのスタンダードな挙動だ。
武器はともかく、機体そのものに対してはシンプルが好きなんだよなあの人。
そして軽い。
二基構成ジェネレータ機の癖して【グラスホッパー】と同じか、むしろそれより軽いくらいだ。
いや、【グラスホッパー】は脚力を確保するために、逆関節脚部に重量が結構あったからな。
その分、蹴りのパワーはかなりのものだったが、どうやら本当に固定武装を使うことしか出来ないらしい。
格闘戦は不得意と思っておこう。そもそもそんなことを想定した機体じゃなさそうだ。
ただ出力設定的には機動に関して不足は無い。速度載せた蹴りなら中型を蹴り飛ばせるかな。
そして、まだ感覚的な表現だが結構頑丈だな。動かしていて怖さも不安も感じない。
小型機故の循環液不足はありそうだが、余った出力で装甲を確保している気がする。
この軽さで防御力も高水準か。凄いな。
印象とは違って全体的に高水準にまとまった機体。
武装だけがマジでどうしようも無いが、近接機として割り切れば行けるか──?
そうボケーっと機体挙動の癖を把握しながら歩いていたら、セドリックの声が聞こえた。
「到着したぞ」
どうやら到着したらしい。
まるで第七セクターの領主の館にあった庭みたいな場所だな。
あそこもギアとライトフレームが駐屯していた。
今庭に居るのは弱兵だが"ここに居るには最適"な機体である【バグベア】の軍団。
俺たち騎士機である【エスクワイア】と【サークル・ザンバー】の二機。
そして、見慣れない海賊略奪同盟っぽい機体が二機。
ふぅん。あちらからも客人を呼び寄せたのか。
そうなると結構地位が高い人物のパーティなのか?
──俺は相変わらず致命的な情報が欠けた状態でこのパーティに参加している。
主催と目的、なんだっけ。
相変わらず誰も説明してくれないんだよな。
だいたいタコ野郎かグラハムのアホが解説してくれるんだが、今回に限ってあいつら別行動だし。
まーいいや。なるようになれ。
そういえば演技どうしよ。
*
僕は先に【エスクワイア】のコックピットから庭へと降り立った。
この手の庭は外交用に近いが鎧機を配置出来る構造になっているものだ。
だから中央の道を挟んで海賊略奪同盟の機体群と向かい合うように鎧機を立たせた。
同じ客人として持ち出し釣り合うようにしなければならない。
わざわざ要塞街から鎧機を運んできたのはそれが理由なのだろう。
見栄も外交の一つなのは分かっているが──
カラスのやつはまだ機体から出てきていないらしい。何かトラブルでもあったのか?
「どうしたカ──いや、ヴァレリア卿。出ないのか?」
危ない。いや、非常に粗雑な工作行為なのだ。
調べれば容易くバレるし、最悪どうとでもなる内容ではある。
だが、僕が原因で漏らしたという場合、同僚から煽られまくることになる。
それは非常に癪に障る。なんとしても避けねばならない。
今日の動揺を悟られるな。
大丈夫、落ち着け。
ヴァレリアン卿を想像しろ。惑わされるな。
あそこに居るのはだいたい同じ戦闘能力を持つ暴力の化身だ。
才能ある一握りしか存在しない最上位騎士と同格の戦闘能力を持つ理外の存在だ。
いや本当におかしいんだが。マジでなんなんだあいつ。
出会ったときから姿が全然変わらないし──
そう色々と煩悶していると、【サークル・ザンバー】のコックピットが開き──
夜の月に照らされた淑女が、僕を見下ろしていた。
──エスコートお願いしてくださる?
愛想の無い目で、少し意地悪に微笑み、スカートを抑えながら、僕に手を取らせ、降りた。
小さい手だ。か細い。指先は細く、しなやかで、スラリとしていて──
落ち着けセドリック!!! 罠だ!!!
動揺を悟られるな!!!
耐えろ──!
僕は──この一夜を無事に乗り越えることが出来るのか──!?
*
なんだかセドリックがすごくぶすっとした悩ましい顔をしているな。
結構怒らせたかな──何に怒ったのかよく分かってねぇんだよな。
さて、今回の演技方針である。
小悪魔幼淑女!
黙ってるだけならボロが出るし、適当にしていても余計なこと言いそう。
だから、軽々しく悪態をつける演技にしちゃおうって方針です。
ふふふ、わたくしを捕まえてごらんなさい! ほほほ!
ちょっと違うな。うーん。矯正。
タコ野郎のアニメイション作品の悪役令嬢っぽく──ちょっと年齢層を下げて──
そういやタコ野郎どこに行ってるんだろうな。
会場もう入ってんのかな。あいつなんだかんだ顔広いし社長業やってるからな。
農業協働連合の商人相手にも話すことは一杯ある。
──あ、居た居た。タコ脚で走ってきてる。
つい、"おーい"って話しかけようとしたけど今はそのタイプのキャラじゃないな。
自重しよう。まぁあいつはすぐに気がつくだろう。
ぴょこぴょこ会場から歩いてきて──
──海賊略奪同盟の機体の前に立って──
──コックピットから降りてきた美少女の手を取り──
──なんかすげぇデレデレした顔をして──
──会場へと──
誰よその女ッッッッッ!
存じているかもしれませんが、何もかも分かる通り今回は全体がラブコメandギャグ回です。




