67話:戦鬼
遅れました。
「忌々しい」
ゴブリンの王が侮蔑を込めた高慢な声を投げつけてきた。
先程までの部下へ向けた罵声ではなく、溢れんばかりの殺意を言葉に乗せていた。
「わざわざ此処まで追ってきたか。貴様の所為で全て台無しだ!」
追ってきたわけじゃないんだけどな。
どちらかというとお前らが襲ってきたのが悪い。
「見よ! 我はすべて失ったぞ! これでもまだ死が! 犠牲が足らぬか!
三度に渡る狼藉! もはや許せぬ! 反逆だ! その意思に従うはこれまでよ!
貴様が司る死を、その身へと降り注ぎ、償え! 死神よ!
その肢体を嬲ってやる! 楽には殺さんぞ!」
三度?
ゴブリン王に何があったかは定かじゃないが、誰かに相当邪魔されたらしい。
俺には関係ないことだが、その怒りの矛先が俺に向けられてるのはお門違いだ。
──何か人違いをしていないか。会ったのはここが初めてだが。
「何を言う──! ──────いや、待て──貴様、何者だ!」
──ああ? 人違いをしておいて、随分と苛ついてんな。
──"カラス"と名乗っている。ただの傭兵さ。
「──馬鹿な。【御使い】が何故──」
狼狽する王の声が聞こえた。戸惑い、そして恐怖も混じっている。
しかし、王はすぐさま立ち直り、俺へと向かい直し、そして誇り高らかに宣言した。
「いや、もはや貴様らの存在に振り回されるのもこれまでだ。
我は縛られぬ。二度と惑わされぬ。すべてを喰らい。すべてを奪う。それだけよ」
──おい、ゴブリン王よ。
──今からお前をぶちのめすが、墓標になんと書けば良いのか教えてくれ。
「無礼かつ無粋だな。我に名は無い。
"王"だ。
唯一無二。比類比肩するもの無し。故に名は不要!」
残すものも無いってか。潔いな。
さ、やるか。
「ゆくぞ【御使い】──! 貴様を殺しそれを反逆の狼煙とさせてもらう──!」
だから人違いだっての。
だが、まぁいい。そっちがやる気になってくれてるなら何よりだ。
行くぞ【クロスガード】。
ここでお前を倒して後々の禍根を断つ。
戦鎧のツインアイが眩しく光り、乗機に命令を下した。
ゴブリン王との決戦が始まった。
*
三体の大鬼が大盾を構えたまま突撃してきた。
大鬼は統一された規格を一切持たないごちゃまぜの機体である。
現に、目の前に居る機体は三機ともすべて違うパーツを装備しており、シャードジェネレータを搭載しているということと、サイズが統一されている以外に共通点は無い。
ごちゃごちゃのパーツからして、戦場やスクラップからかき集めて作り出したものなのだろう。
これこそつぎはぎと呼ぶべき機体かもしれないが、野外のゴブリンが乗った雑多な機体群はすべて大鬼と呼ばれている。
大鬼は極めて単純なコンセプトの機体である。
力が強い。耐久力が高い。
そして余計なものを持たない。
それだけである。
シャードブースターはない。
肩や腕の接続装備もない。
特別なギミックもない。
つまり、下手に組まれた機体よりも遥かに厄介なAGだ。
コアフィールドの防御力を最大限に生かし、高い耐久力を維持し続け簡単には破壊出来ないだろう。
そして、今見える大鬼はすべて大盾を構えるだけで、他の武装は見えてこない。
おそらく盾の後ろに投擲武装くらいは持っているが、それだけだろう。
この中に入っている野党ゴブリンどもは、戦鬼の壁になる。そして王の命令を聞く。
それだけを考えられる知性を残している。煽るわけじゃないが、あの衝動的なゴブリン達が"判断が出来る"というのは驚異でしかない。
たとえ機体が弱くても、それだけで充分な脅威になるだろう。
高速機である【クロスガード】への攻撃として体当たりは有効だ。
どれだけ高速で機動したところで、機体サイズは誤魔化すことが出来ない。
範囲を広く取る攻撃はどうあがいたところで絶対に命中する。
そして、明らかに機体が脆く、重量が軽い外見をしている【クロスガード】にとって重量による攻撃は致命傷に直結しうる。
それを即座に判断し、大盾による体当たりを、回避を許さぬように三方向から繰り出したその手腕。
王の指揮を称賛せねばなるまい。
だが。誤算があったようだな。
"俺は既に命令を下した"。
激突。
俺は、機体の"巨腕"で盾を受け止めた。
【クロスガード】は、膂力が無く、装甲が脆く、移動が遅く、重量が軽い。
だから。それらすべてを足し算で解決する結論に至ったのだ。
再度言うが、【ブレイズ・ホイール】はバイク型特殊AGである。
そのコンセプトはギアを高速移動させ、突撃による蹂躙を行うAGでしかなかった。
しかし製造していたガトリング工房の親方は、【ブレイズ・ホイール】製造中にこう発言した。
「つまんねぇ」
突然マジで余計なことをし始めた親方を誰も止められるものは居らず、俺が残した資金を一切の躊躇無く食いつぶし、気がついたら傑作を作り上げていた。
"それ"の中央が割れ、分割。【クロスガード】の両横を覆うような形で各ハードポイントへと接続された。稼働盾は両肩部に装備され機体を守るように、前後の車輪は両足の側面に配置され機動を可能にした。
そして、割れた胴体は腕部を守るような巨腕へと変貌し、三機もの大鬼の突撃を軽々と受け止める膂力を発揮した。
簡潔に言おう。
【ブレイズ・ホイール】は変形し、【クロスガード】と合体した。
──ジェネレータ疑似三基構成機、【クロスガード・ブレイズ】!
──この馬鹿げた出力、その目で焼き付けろ!
巨腕で受け止めた大鬼のうち一機の大盾の縁を掴み、それを握力で割りながら両足のホイールを前後逆に稼働させる。
超信地旋回。
その場を動かずに急速な回転を始め、地面を砕きながらその場を一気に回転する。
大盾を掴み続けることで、相当の重量があるはずのそれを離さぬように掴み続けた大鬼を容易く"振り回し"、残りの二機をなぎ倒した。
挨拶代わりだ。受け取ってくれ、よ!
回転を続け、遠心力をコックピットで感じながら、その効果が最大になったタイミングで、大鬼を戦鬼へ投擲。
それは砲弾のように高速で投射され、戦鬼へと急速に接近した。
しかし戦鬼は気怠げに大棍棒を肩に担ぐと、そのまま"片手"で大棍棒を瞬時に振り抜いた。足元は微動だにしない。腕力だけだ。
それは飛来してきた大鬼へと正確に命中し、弾き飛ばした。
戦鬼の遥か斜め後方でぐしゃりとした音と地面に転がりつづけた音が聞こえ、動かなくなる。
「無礼極まりない。貢物にしては不作法であろう。
せめて我に頭を垂れ、跪き、敬い、そして恐れながら渡せ」
いまのは攻撃とすら、感じていなかったか。
戦鬼は、嗤っていた。
*
本能で付き従うゴブリンどもが、何故王を恐れ、敬い、従うのかと言うと単純な事実がある。
戦力評価の話を思い出す。
基準とするべきは【ハッチポッチ】だろうか。あれを10とする。
俺もドワーフどもも満足できる程度でありながら数を揃えられる優秀な機体だ。
通常のゴブリン──つまり小鬼型は2程度だと判断している。
あれは群れて、近づかれた場合脅威であるが、単体だとその程度しか戦力にならない。
大鬼はおおよそ7程度だろうか。
特化して上回っている箇所もあるが、【ハッチポッチ】と比較した場合、バランスが悪い。
正面から殴り合っても大体の場合で【ハッチポッチ】が勝利するだろう。
なぜ、こんな話を思い出したかというと、騎士サマやエリシア嬢が言っていたゴブリン王が騎乗した戦鬼の戦力評価の印象が強かったからだ。
騎士サマ曰く──
【ハッチポッチ】を10としたときに、ゴブリン王が騎乗した戦鬼は──
1000。という評価になるらしい。
騎士たちにとってゴブリンなど脅威でもなんでもない。
多少のスクラップを従えたところで傭兵たちでも対処が可能だ。
そう、それだけならば何も問題はないのだ。
問題はゴブリンどもを従える首魁。王そのものにあった。
あれだけカーゴキャリアをかき集め、騎士とギアを百機以上用意した戦争は──
たった一人のゴブリン王を殺すこと"だけ"を大目的としていた。
そして、その価値を誰も疑わない程に、ゴブリンの王はデタラメに強いのだ。
「光栄に思え、こちらから征く」
戦鬼が跳躍した。
軽くステップを踏むような挙動で、しかし地面を強烈に砕き、瞬時に空中へと身を躍らせた。
腰部にマウントされた大型ショットキャノンを取り出し、巨腕で構え射撃、撃ち落とす──!
だが、王は次の挙動を行っていた。大棍棒をこちらに投擲──!やばい。
即座に迎撃行動を中止し回避挙動に移行する判断を下した。
ホイールを動かし、更に【クロスガード】のブースターも利用し急速に機動。
背面に取り付けられたシャードブースターを利用するために前進することで回避を試みた。
すぐ後方で着弾。硬質な荒野の大地が大きく陥没し、その衝撃で岩を撒き散らし【クロスガード・ブレイズ】の装甲を叩く。なんて威力だ!
「そちらか。恐れすぎたな」
ゴブリン王が呟いた。
その直後、鈍色の線が戦場に浮かんでいるのを直視した。
いや、線ではない。あれは鎖──!
大棍棒に取り付けられていた硬質な鎖が前面に突如現れ、俺の回避方向のすべてを塞いでいた。
戦鬼が空中でその鎖を、腕力で引き寄せ、急激に"線"が襲いかかる。
横一線の攻撃──! 跳躍は不可! 回避不可能──いや!
【クロスガード・ブレイズ】の身体を思いっきり倒し、地面スレスレで機動!
前に【ハルバード】でやったことがあるが、今の脚部にはホイールが存在している。
地面にぶち当たらないようにシャードブースターで身体を維持しながら脚部ホイールを使い爆走。
コックピットの真上を鎖が猛烈な勢いで通過していき、道中にあったぶん投げて投棄された大盾が引き裂かれ"切断"されたのを見た。
単なる腕力による引き寄せだけでこの威力──!なんて馬鹿力──!
とんでもないパワーだ。さすが基礎性能特化機だ。
戦鬼は大鬼とほぼ同コンセプトの機体である。
この二種類の機体のコンセプトはジェネレータの数以外に変わりはほぼない。
ただし完成度は雲泥の差があった。
そのパーツ構成は洗練されており、四肢や関節が異様に柔軟である。
すらりとした体躯を支える関節部は、塔の植物のようなものを利用しており束になって四肢を繋げていた。その可動範囲は平均した骨格の知的生命体の軽く越え、ほぼタコ野郎の触腕の如き駆動範囲だ。
それでいて、各種スクラップの良点のみを揃えた装甲群はそれを阻害せず、膂力を全力で伝達していた。
装甲も厚いが、駆動の邪魔をしない程度の重量に抑えられている。
シャードジェネレータ二基構成機の中でも最も洗練され、かつ単純な機体と称されており、出力を機体の駆動と膂力だけに特化させた蛮勇の権化である。
ただ単純に手持の武具だけで戦い、その圧倒的なパワーだけで押しつぶす。
単純。それが王の強さを支えていた。
これが戦鬼。
これが王か。
ヒリついてきたぜ。
チャリオット型がベストだと思ってました――つまり変形して合体すれば両立出来る――!
わたしはさいこうにあたまがいい!&なにそれ知らん……
作者は登場人物に振り回されています。
王の評価がバカ高い理由は次回、あとギガース放置しちゃってるんでそれも次回に回します。




